平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査Web報告書

Web報告書もくじⅢ 各教科の調査結果の分析>中学校理科

Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

  ※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

中学校理科

  観察・実験を中心とした授業の中で、指導と評価の一体化を図る理科授業

中学2年生では、評価の観点の全てにおいて、「おおむね達成」の基準を下回った。中学3年生では、「知識・理解」において、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「思考・表現」、「技能」においては、「おおむね達成」の基準を下回った。また、「活用」を問う問題においては中学2年生、中学3年生ともに課題が見られた。今後は、観察・実験の充実を図るとともに、生徒の現状を的確に把握するための評価方法や評価によって得られた情報をどのように生徒にフィードバックするかを考えながら指導を工夫していく必要がある。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○自然事象への関心・意欲・態度

 ○科学的な思考・表現

 ○観察実験の技能

 ○自然事象についての知識・理解

本調査では設定なし

「思考・表現」

「技能」

「知識・理解」

 

結果の概要
 
(ア)
教科及び設問ごと正答率
 

教科正答率

各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 

教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「知識」・「活用」問題正答率

設問ごと正答率

 
(イ)

評価の観点別正答率

①中学2年生

図1 H25年度(中学2年生理科)評価の観点別正答率

中学2年生では、全ての観点において、「おおむね達成」の基準を下回った。「思考・表現」においては、「おおむね達成」の基準を3.4ポイント下回った。胚珠の数を基にマツの種子の数を考える問題や実験結果を基に蒸散量を考える問題など、計算を伴う問題の正答率が「おおむね達成」の基準を10.0ポイント以上下回ったためと考えられる。

②中学3年生

図2 H25年度(中学3年生理科)評価の観点別正答率

中学3年生では、「知識・理解」において、「おおむね達成」の基準を2.8ポイント上回ったが、「思考・表現」、「技能」は、「おおむね達成」の基準を下回った。「技能」においては、化学反応式で表す問題や、風向、風力、天気を記号で表す問題の正答率が「おおむね達成」の基準を10.0ポイント以上下回ったためと考えられる。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

①中学2年生

図3 H25年度(中学2年生理科)内容・領域別正答率

中学2年生では、全ての内容・領域において「おおむね達成」の基準を下回った。特に「身近な物理現象」においては、「おおむね達成」の基準を5.5ポイント下回った。弾性力についての理解を問う問題や月面上でのばねの伸びを考える問題の正答率が、「おおむね達成」の基準を15.0ポイント以上下回ったためと考えられる。

②中学3年生

図4 H25年度(中学3年生理科)内容・領域別正答率

中学3年生では、「動物の生活と生物の変遷」において、「おおむね達成」の基準を5.7ポイント上回ったが、それ以外の内容・領域においては、「おおむね達成」の基準を下回った。特に「気象とその変化」においては、「おおむね達成」の基準13.1ポイント下回った。「気象とその変化」における7問の出題に対して、5問の正答率が「おおむね達成」の基準を10.0ポイント以上下回ったためと考えられる。

   
   

経年比較 

   
 

平成24年度に課題が見られた「技能」、平成23年度から平成24年度にかけて課題が見られた「思考・表現」について、中学2年生で同一学年の経年比較を行った。また、平成24年度全国調査において課題が見られた「活用」に関する問題について、中学2年生と中学3年生で同一学年の経年比較を行うこととした。

   
(ア)

「技能」の経年比較

H25中学2年生とH24中学2年生

図5 H25年度(中学2年生理科)、H24年度(中学2年生理科)「技能」に関する問題の

   正答率の経年比較

 

平成24年度は「おおむね達成」の基準を6.2ポイント下回っているのに対し、平成25年度は「おおむね達成」の基準を0.4ポイント下回った。平成24年度と比較すると、正答率は上がっているが、「おおむね達成」の基準には到達しておらず、技能の定着が図られていない状況であると考えられる。平成24年度は、作図する技能の定着に課題が見られたのに対し、平成25年度は、値を正確に読み取る技能やグラフを作成する技能の定着に課題が見られた。

   
(イ)

「思考・表現」の経年比較
H25中学2年生とH24中学2年生

6 H25年度(中学2年生理科)、H24年度(中学2年生理科)「思考・表現」に関する問題の

   正答率の経年比較

 

平成24年度は「おおむね達成」の基準を11.3ポイント上回っているのに対し、平成25年度は「おおむね達成」の基準を3.4ポイント下回った。平成24年度は、表やグラフ、資料などを基にして考えることができていたのに対し、平成25年度は、数値を操作しながら考えることに課題が見られた。

 

 

(ウ)

「活用」に関する問題の経年比較
H25中学2年生とH24中学2年生

7 H25年度(中学2年生理科)、H24年度(中学2年生理科)「活用」に関する問題の

    正答率の経年比較

 

平成24年度は「おおむね達成」の基準を1.0ポイント上回っていたのに対し、平成25年度では「おおむね達成」の基準を5.4ポイント上回った。平成24年度と同様に、日常生活の場面において、基礎的・基本的な知識・技能を活用することに課題が見られた。

   
 

H25中学3年生とH24中学3年生

8 H25年度(中学3年生理科)、H24年度(中学3年生理科)「活用」に関する問題の

    正答率の経年比較

 

平成24年度は「おおむね達成」の基準を3.1ポイント上回っているのに対し、平成25年度は「おおむね達成」の基準を9.6ポイント下回った。平成24年度は、日常生活の場面において、基礎的・基本的な知識・技能を活用することに課題が見られたのに対し、平成25年度は、日常生活の場面において、基礎的・基本的な知識・技能を活用することに加え、基礎的・基本的な知識・技能を活用して観察・実験の結果などを分析・解釈し、自分の言葉で説明することにも課題が見られた。

 
   
設問ごとに見た傾向と指導改善の手立て
   
 

平成25年度の調査で、課題が見られた「技能」、「思考・表現」、「活用」に関する問題の中で、「おおむね達成」の基準を10ポイント以上下回っていた問題について、更に分析を行った。

   
傾向1

昨年度同様、基礎的・基本的な技能の定着に課題

[中学2年生 大問3の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率55.0に対して、正答率は33.3であり、21.7ポイント下回った。誤答の原因として、最小目盛りの10分の1まで目分量で読むことができなかったことが考えられる。

○ 指導改善の手立て

メスシリンダーを使って体積を測定する際、できるだけ多くのものを測定させることで、技能の定着を図りたい。また、体積を測定させるだけでなく、測定した値を用いて課題を解決していくような活動などを取り入れることも大切であると考える。

[中学3年生 大問1の(4)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は16.9であり、33.1ポイント下回った。正答は、

となるが、「→」を「=」で表したり、「→」の左右で原子の数が異なっていたりしたなど、化学反応式の表し方の定着が十分でなかったことが考えられる。

○ 指導改善の手立て

化学反応式で表す際には、決まった表し方のルールが存在する。ルールに従った表し方を定着させるためには、授業で取り扱う化学変化の実験において、化学反応式で表す活動まで取り組ませるなど、繰り返した学習が必要であると考える。併せて、「→」の意味や原子の数を合わせる意味なども考えさせることで、定着を図っていきたい。

[中学校3年生 大問7の(2)②]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は10.5であり、39.5ポイント下回った。誤答の原因として、風力の表し方や天気を表す記号を十分に理解していなかったことが考えられる。

○ 指導改善の手立て

気象を記号を使って表す際にも決まった表し方のルールが存在する。授業のはじめに、その日の気象を記号で表す活動を取り入れるなど、できるだけ繰り返し行わせることで、定着を図っていきたい。

   
傾向2

実験結果から得られた値を基に考えることに課題

[中学2年生 大問2の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率45.0に対して、正答率は14.8であり、30.2ポイント下回った。誤答の原因として、結果が何を意味しているのか、実験結果をまとめた表からどのようなことが言えるのかを十分に分析・解釈できなかったことが考えられる。

○ 指導改善の手立て

実験結果からどのようなことが言えるのかを考えさせる活動は、考察として日々取り組ませていると考えられる。その際、実験の目的は何か、得られた結果は何を意味しているのかをなどを確認した上で、考察を行わせることが必要であると考えられる。

[中学2年生 大問7の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は35.6であり、14.4ポイント下回った。誤答の原因として、大問2の(3)と同様、距離と時間の関係を示した表を十分に分析・解釈できなかったことが考えられる。また、速さの求め方を理解していなかったことも原因として考えられる。

○ 指導改善の手立て

地震は、プレートや断層の動きなどが関係するスケールの大きな現象であるため、理科室などで地震を再現することは難しい。そのため授業では、まず地震に対するイメージをもたせることが大切だと考える。その際、動画などを活用しながら効果的に生徒のイメージづくりを支援していくなどの工夫が考えられる。地震に対するイメージをもたせた上で、地震に関する様々なデータを情報として取り扱い、データを基に地震の特徴を考えさせていくような活動が必要であると考える。

[中学3年生 大問2の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は6.9であり、33.1ポイント下回った。誤答の原因として、化合する物質の質量比は一定であるという定比例の法則に対する理解が不十分であったことが考えられる。

○ 指導改善の手立て

銅と酸素が化合するときの質量比は4:1である。授業では、完全に化合させることに注意しながら実験を行わせるが、このような実験に加え、完全に化合しない場合に質量はどうなるのか、完全に化合させた後に更に加熱を続けると質量はどうなるのかなども考えさせながら、定比例の法則に対する理解を深めさせていきたい。

   
傾向3

日常生活や社会の特定の場面において、基礎的・基本的な知識・技能を活用することに課題

[中学2年生 大問7の(4)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は29.0であり、11.0ポイント下回った。誤答の原因として、緊急地震速報が地震のどのような特徴を利用しているかを十分に理解していなかったことが考える。
○ 指導改善の手立て

緊急地震速報は、地震によって生じるP波とS波の速度が異なるという特徴を利用したものである。緊急地震速報などのように、学習内容と日常生活、科学技術とのつながりを考えさせる際は、学習した内容のどの部分がどのように生かされているのかを考えさせながら指導していくことが大切であると考える。

[中学3年生 大問8の(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は24.9であり、15.1ポイント下回った。誤答の原因として、与えられた資料の中にある図や文章から必要な情報を取り出し、適切に関連付けることができなかったことが考えられる。
○ 指導改善の手立て

生徒が考えていることを文章で書かせたり、口頭で説明させたりすることが大切であると考える。このような活動に取り組むことで、生徒の考えが整理され、次の考えへと進むことができると考える。生徒に考えさせたことを表現させる活動の充実を図る必要があると考える。

   

 

これからの指導に向けて
   
 

今回の調査では、中学2年生、中学3年生共に、「思考・表現」、「技能」、「活用」を問う問題において課題が見られた。これらにおいては、平成24年度でも課題が見られため、指導に当たっては、平成24年度に各学校で工夫した指導を継続して行うことが必要であると考える。

また、理科の授業では、観察・実験を行わせることが多い。そのため、観察・実験の指導を工夫することが、今回の調査で見られた課題を改善することにつながると考える。その際、生徒の現状を的確に把握しフィードバックするなど、指導と評価の一体化を図ることも大切である。

これらのことを踏まえ、特に次の3つのことを大切にしながら、これからの指導に取り組むことが重要であると考える。

(ア) 観察・実験の中で取り組ませる言語活動を工夫する

話を聞いたり、教科書を読んだりして、生徒が「分かった」と言っても、説明させてみるとできない場合がある。このような「分かったつもり」でいる生徒を、「分かった」という段階まで高めるためには、言語活動を充実させることが大切であると考える。例えば、観察・実験結果を基に生徒が考えたことを記述させたり、発表で説明させたりすることで、生徒は自分が考えを整理することができると考える。また、生徒が表現したものは、生徒の活動を評価し、フィードバックするための重要な手掛かりを与えてくれると考える。特に生徒が記述したものは、形として残るため、その後の具体的な指導も行いやすいと考える。

○教師意識調査の結果より

教師意識調査(15)「レポートや作文など書いて表現する活動を取り入れた授業を行っていますか」という設問に対し、「多くの単元で行っている」「半分程度の単元で行っている」と回答した中学校理科の教師の割合が20.4%となっており、書いて表現する活動が十分に行われていない現状が考えられる。そのため、「書く活動をどのように取り入れるか」という視点をもちながら言語活動を工夫していく必要もあると考える。

言語活動に取り組ませる際には、言語活動を通して、どのような思考力、判断力、表現力を高めたいのか、生徒のどのような現状を把握したいのかを明確にした上で取り組ませていきたい。

(イ) 知的好奇心を喚起するような学習問題、教材、指導方法を工夫する

担当する学年や学級に「要努力」の生徒がいた場合、このような生徒は、自分の学習が思うように進まないため、学習に対する意欲はそれほど高くないと考えられる。「要努力」の生徒には、まず理科の不思議さ、おもしろさなどを体感させることを通して、学習に対し前向きに取り組もうとする態度を育てていきたい。授業の導入で生徒が「あれっ?」、「どうして?」と思うような演示実験を取り入れたり、日常生活の中から学習問題を設定したり、ICT機器などを活用したりしながら、生徒の知的好奇心を喚起していきたい。

(ウ) 生徒へのフィードバックを考えながら適切な評価を実施し、指導と評価の一体化を図る

授業を進める中で、生徒の現状を的確に把握することが必要である。そのためには、日々の授業の中で、生徒の現状を把握するための評価方法を工夫することが必要であると考える。特に基礎的・基本的な知識・技能については、思考する基盤となるため、定着については、取り扱うごとに評価を行っていきたい。その際、評価によって把握した生徒の現状を、どのように生徒に伝え、フィードバックし、その後の指導に生かしていくのかを考えることが大切である。授業中における生徒の現状把握を丁寧に行い、「できた」、「できていない」ということを生徒に伝えるだけでなく、どこが不十分なのか、どのようにすれば克服できるのかなど、きめ細かい指導を心掛けることが大切であると考える。また、一定期間後にも評価を行い、確実に定着しているかどうかを把握し、その現状に応じて指導を加えていくことも大切である。

上記(ア)、(イ)の工夫については、理科授業改善サポートチームの活動として、佐賀県教育センターホームページに掲載しているので参考にしてほしい。

[理科授業改善サポートチームURL]

https://www.saga-ed.jp/chouken/rikasaport/risapotop.html

   
   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日:2013-10-21