「意思決定を取り入れた討論型の学習」に取り組んでみませんか!

2 研究の実際                                         
(3) 社会的な問題を把握する段階の考え方
 ア 社会的な問題を把握する段階にどう取り組めばよいのか
 

「意思決定を取り入れた討論型の学習」に取り組む先生方から、「社会科で何を考えさせたらいいの?」、「どんな問題をどのように取り上げるの?」、「話合いをさせたけれど、なかなか盛り上がらなかった」などの疑問や質問等が寄せられます。「教科書を使った学習」から「意思決定を中心にした学習」へのつなぎ方に難しさを感じられるようです。この段階は単元づくりでの中核であると考えます。

そこで、意思決定を中心にした学習を図5のように3段階に分け、「社会的な問題を把握する段階」に研究内容を焦点化し言及していく必要があると考えています。


図5 意思決定を中心にした学習の段階分け(研究内容の焦点化)

 イ 社会的な問題から導き出される論題をどう設定すればよいのか
  社会的な問題を設定する際に次のような点に留意して指導内容を吟味します。 社会的な問題は、児童生徒が意思決定する対象となる社会的事象、歴史的事象のことです。しかし、事象そのものを論題にするかどうかを考える際に、指導内容とずれが生じたり、資料の準備や児童生徒が話すことができる論題設定が難しかったりします。そこで、
  • 「国家の利益の追求」と「理想の国民の生活」との対立
  • 「社会の利益」と「個人の権利」との対立
  • 「対象の範囲を広げること」と「範囲内のよさを守ること」とで判断が分かれる
  • 「ある人たちの主張と他の人たちの主張が対立している(していた)」
  など、対立点や判断の違いを視点に社会を見直してみると論題が整理されてくると考えます。
「何が問題」で「何についてどのような討論がなされるか」を考える手順について、以下の(ア)〜(ウ)のように整理しました。


(ア)  「何が問題か」…問題になる社会的事象、歴史的事象を探してみましょう。

@ 研究や論争の材料となる事件はないか

価値観の違いによって解決策や主張が分かれてしまうような社会的、歴史的事象が起こっていませんか?

地理的分野や公民的分野の学習と関連(例)

  「諫早湾の堤防を開門する判決とそれを差し止める判決が出た」
「減反政策が2018年に廃止されることになった」
「社会の変化により現行の日本国憲法の解釈に不明瞭な点が出てきた」 など

歴史的分野の学習との関連(例)

  「武士の力が大きくなる中、南北朝の争乱が起きた」
「ペリー来航、江戸幕府に開国を求めてきた」
「明治政府は国家の利益を優先した改革・政策を行った」など
A 解決すべき事柄はないか
 個人や集団が直面している判断が分かれてしまうような事柄がありませんか?

地理的分野や公民的分野の学習と関連(例)

  「ごみは燃やされたり、再利用されたりして処理されるが、なくならない」
「地域の祭りに参加する人が減ってきた」
「地域の道路に事故に遭いそうな危険なところがある」など
B 答えさせるための問いはないか
 現状や事実を理解させるために、何とか解決したいと思わせる問いはありませんか?

地理的分野や公民的分野の学習と関連(例)

  「環境や福祉、安全に配慮した自動車が作られている」
「地産地消や輸入野菜など品揃えに特徴のあるスーパーマーケットがある」
「マスコミの報道は未成年の情報は全部公開しない」など

歴史的分野の学習と関連(例)

  「狩猟・採集の生活(縄文時代)と農耕の生活(弥生時代)との違い」
「織田・豊臣・徳川の3人の武将によって戦国の世が統一された」
「元寇の後、国書を携えた使者がまた日本にやってきた」など

(イ) 「何を論題とするか」…問題になる社会的事象、歴史的事象を分析し論題を見付けましょう。
   社会的な問題と導き出される論題との関係から、論題作成パターンは以下のように3つに分けられます(表2)。

表2 社会的な問題と導き出される論題との関係

 
論題作成パターン
社会的問題の例
論題の例
@

社会的な問題そのものが論題になる

(地理的分野、公民的分野向き)

 みんなの家から出るごみは、なくならない。 ○ごみを減らす方法を考えよう。
○ごみ袋の代金を値上げすべきか。
A

社会的な問題の現状や原因の中に論題がある

(地理的分野、公民的分野向き)

 地域の祭りが盛り上がらない。 ○参加者を増やす方法を考えよう。
○祭りに参加できる地域の範囲を広げるべきか。
B

歴史上のある時点での判断を論題とする場合

(歴史的分野向き)

 明治政府は国家の発展を優先した改革・政策を行った。 ○あなたが、大久保利通に意見できるとしたら、富国強兵策に賛成するか。
○明治政府の新しい国づくりはよかったのだろうか。


(ウ)  論題を設定する際は、以下の2点に留意しましょう。

@ 「この問題はこれからどうなる(このままだと…。)」

地理的分野、公民的分野において考えておくと、私たちの生活への影響や関係が見付かり、解決に向けた討論への切実感をもたせるキーワードとなります。

歴史的分野においては、「これが違う選択がなされていたら、どうなっていたのかな」と置き換えて考えてみましょう。

A 「この問題に対して、どうするべきか」

  主に地理的分野、公民的分野については、現在問題になっている事象を取り扱うことができます。したがって、論題も「○○について考えよう」や「○○を解決するプランを提案しよう」のように検討したり、提案したりする論題が設定できます。

また、歴史的分野においては、いつの時点での意思決定を迫るのかによって問い方が変わってきます。事象が起こった歴史上のある時点に身を置いて考えさせれば、「あなたは、遣唐使に選ばれました。天皇に意見できるとしたら唐へ行くことに賛成しますか」や「あなたは、武士です。南朝と北朝のどちらに味方しますか」などの論題になります。
  一方で、「現在のわたし」という立ち位置で、歴史を評価する考えさせ方があります。「明治政府の改革は、成功だったのだろうか」や「日露戦争はやるべきだったのか」などになります。事象が起こった歴史上のある時点での判断について現在と比較しながら考えさせる方法です。
  つまり、学習者である児童生徒が身を置く立場や状況によって、論題が変わってきます。


 ウ 実際の学習(授業)の流れをどう考えればよいのか
  社会的な問題から導き出される論題を設定できたら、学習(授業)の流れを考えてみましょう。

児童生徒が問題だと認識する要素は、以下の4点が考えられます。

  • 問題に気付いたとき…「おかしいな?どうしてだろう?」
  • 困難な状況に陥ったとき…「なんでうまくいかないの?」
  • 現状とあるべき姿とのずれを認識したとき…「このままだと困るぞ。」
  • 何とか解決したいという意欲が湧いたとき…「解決したい。」 

また、これに伴って情報を収集、分析する必要があります。情報の収集、分析の要素は以下の4点が考えられます。

  • 知っている情報の整理…「振り返ってみよう。」
  • 必要な情報の収集…「他に情報はないかな。」
  • 収集した情報の分析…「調べたことを整理してみよう。」
  • 問題点の明確化…「問題点はここだね!」 
神奈川県立総合教育センター 『「問題解決能力」育成のためのガイドブック』 平成20年3月 より改編

これらの要素を勘案し、社会的な問題を把握する段階に組み入れることで、問題を明解にし、意思決定を中心にした学習へ誘う手立てを考えました。これにより、児童生徒が自分の考えをもち、意欲的に討論活動に参加すると考えます。ひいては、討論活動を通して児童生徒の思考力・判断力・表現力を育成することができると考えます。

そこで、社会的な問題を把握する段階の具体的な学習活動の流れを図6のように考えました。そして、問題を明解にする手立てについて具体的に考えました。

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図6 社会的な問題を把握する段階の具体的な学習活動の流れ
よい点と問題点の捉えさせ方について

よい点は、指導内容により、よい影響、利益を生む、○○が向上する、効果があるなど様々な見方により、言い方が変わることが考えられます。「メリット」という便利な言葉がありますが、児童生徒の発達段階に応じて分かりやすく使い分けてください。
  また、問題点も同様で、「デメリット」に言い換える方法があります。留意したいのは、社会的な価値の裏返しだと考え、「悪い」という言葉を使うことです。一概に悪いわけではないこともありますので指導内容を吟味し、児童生徒が分かる言葉に置き換えてください。

この学習活動の流れには、児童生徒の発達段階に応じて、1〜3単位時間を必要とします。この学習に慣れてきた中学生においては、課外の課題で調査させたり、既習事項を復習させたりすることで、1単位時間の前半で取り扱うことも可能です。

 
      


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