学校におけるソーシャルスキル・トレーニングに関する活動プログラムを提案します!

2 研究の実際

(3) ソーシャルスキル・トレーニングに関する活動プログラム

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エ 活動プログラムの有効性についての検証(検証U)

○ はじめに

平成22年度の研究で、佐賀県内の児童生徒の実態に応じたソーシャルスキル・トレーニングに関する活動プログラムを作成するため、佐賀県内の抽出した小・中・高等学校各10校において、ソーシャルスキルに関する実態を把握するためのアンケート調査を行いました。
アンケート結果を基にして、〈基本的なかかわりスキル〉(「@あいさつ」「A自己紹介」「B上手な聴き方」「C質問する」)、〈仲間関係発展・共感的スキル〉(「D仲間の誘い方」「E仲間の入り方」「Fあたたかい言葉かけ」「G気持ちをわかって働きかける」)、〈主張行動スキル〉(「Hやさしい頼み方」「I上手な断り方」「J自分を大切にする」)、〈問題解決技法(「Kトラブルの解決策を考える」)のそれぞれの中から1つずつ、各校種ごとに基本スキルを選択しました。
【選択した基本スキル】
分類
小学校
中学校
高等学校
基本的なかかわりスキル
A自己紹介
B上手な聴き方
@あいさつ
B上手な聴き方
仲間関係発展・共感的スキル
G気持ちをわかって働きかける
G気持ちをわかって働きかける
D仲間の誘い方
主張行動スキル
Hやさしい頼み方
Hやさしい頼み方
Hやさしい頼み方
問題解決技法
Kトラブルの解決策を考える
Kトラブルの解決策を考える
Kトラブルの解決策を考える

○ 検証の内容

  ソーシャルスキル・トレーニングによって育まれる、よりよい人間関係を築く力は、コミュニケーション能力と自己肯定感の向上によって高まると考えられます。そこで、以下の3つの観点に注目し、児童生徒のよりよい人間関係を築く力の変容から、活動プログラムの有効性を探りました。
   ・「学級の雰囲気」
   ・「友達との関係」
   ・「自己存在感」 

○ 検証の方法

 活動プログラムの有効性を探るに当たり、「がばいシート※」の3つの観点「学級の雰囲気」「友達との関係」「自己存在感」に注目しました。小学校4校(4年生80名、6年生33名、計113名)、中学校3校(2年生102名)、高等学校2校(1年生36名、2年生37名、計73名)の児童生徒を対象に、ソーシャルスキル・トレーニングの活動プログラムを実施する前(6月)と、実施した後(11月)に、「がばいシート」を用いて学級集団の状態の変容を見ました。
※ 「がばいシート」
平成20年度に佐賀県教育センターが作成した、集団の状態を把握するシートです。「学級の雰囲気」「友達との関係」「自己存在感」「授業への意欲」「教師との関係」の5つの観点で、教師と児童生徒の意識の違いを比較しながら、集団や個人の状態を、客観的な視点で分析することができます。

○ 検証結果

【小学校】
「学級の雰囲気」
16.8→17.5 +0.7
「友達との関係」
17.6→18.3 +0.7
「自己存在感」 
17.5→17.7 +0.2
【中学校】
「学級の雰囲気」
15.3→15.6  +0.3
「友達との関係」
17.3→17.5 +0.2
「自己存在感」
16.6→16.9 +0.3
【高等学校】
「学級の雰囲気」 
15.3→15.9  +0.6
「友達との関係」
17.4→17.5 +0.1
「自己存在感」
15.8→16.3 +0.5
《考察》
6月と11月の比較をすると、小・中・高等学校のどの発達の段階においても、注目した3つの観点「学級の雰囲気」「友達との関係」「自己存在感」については、数値が上がりました。どの発達の段階においても、よりよい人間関係が築かれ、居心地のよい学級になったと考えられ、活動プログラムの有効性を確認することができました。特に、小学校では、「学級の雰囲気」「友達との関係」が0.7上がっており、小学校の段階で活動プログラムに取り組むと児童に定着しやすいと考えられます。
他の2つの観点「授業への意欲」「教師との関係」を見ると、「授業への意欲」が小学校では16.6→17.0と0.4、高等学校では15.2→15.7 と0.5上がりました。学級のよりよい人間関係が築かれることで、学級に安心して活動することができる居場所が生まれ、学習への動機付けにつながったと考えられます。また、「教師との関係」が中学校では15.6→15.8と0.2上がりました。大人との関わり方に戸惑いを感じる思春期の生徒たちが、活動プログラムを通して人間関係づくりのヒントを得たことも、指導する教師との信頼関係を築くきっかけの1つになったのではないかと考えます。
 

○ 授業後の児童生徒の感想

小学校6年生
中学校2年生
高等学校2年生

○ 活動プログラムを実施した先生方の感想

小学校の先生
周りの人との関わりの中で、当然だと大人が感じていることでも、子どもたちにスキルとして教えていくことが必要だと実感できた。〜すれば○○な気持ちになるなど、相手の思いが読み取りにくい子にとっては、とても大切なことだと思った。スキルで身に付けたことが、少しずつ生活の中で生かされていると見える部分もあり、有効だと思った。
授業を行ったので、スキルのポイントを全児童が共通理解した。日常生活の中でも「〜した方がいいよ。」とスキルのポイントに関わる言葉掛けをする児童も見られた。教師の意図(何をどうしてほしいのか)が伝わりやすくなった。
学級の子どもたちの人間関係がよりよいものになった。学級の雰囲気がさらによくなった。自己肯定感の低い子どもに自信やクラスでの存在感をもたせることができた。
中学校の先生
自分の行動で他人とうまくいっていないポイントに気付かせ、意識して生活できるようになった。特に、他人との関わりで「笑顔で」「目を見て」「相手に寄り添って」話をしたり、聴いたりすることは、集団の中で支持的風土をつくることになると思う。
基本スキルには難易度があると思う。教師も子どもも「@あいさつ」からスタートできればイメージしやすいかもしれない。
子どもの笑顔が見られた。生活の中で実際に起こる場面なので子どもたちがすぐに実行できる。子どもと教師の関係がよくなる。
 
高等学校の先生
高等学校ではクラスでの学級活動や道徳の時間がなく、授業は座学が中心になるので、生徒が授業以外のもの(人間関係づくりや生き方など)を求めていると分かっていても、それを取り上げる時間がなかなか取れない。活動プログラムを行うことで、そのようなことを取り上げたり、話題にできたりすることがよかった。授業ばかりで息がつまるという生徒やクラスにとっても、よい気分転換になると思う。加えて人間関係づくりによって、トラブルの予防になるのでよいと思った。
生徒自身が社会でのマナーを知りたいと思っていることに気付かされた。また、授業で扱ったポイントが身に付くと他のスキルに応用できる。授業中は目立たない生徒がソーシャルスキル・トレーニングには積極的に参加したり、大きな声で演習をしたりなど、新しい発見があり生徒理解につながった。

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