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中学校第2学年の実践 単元名「情報に対応する力を身に付けよう」
 中学校においては、「批判力」につながる「分析」の考え方を題材として扱っている教材を使用し、具体的な事例を通して、「関係性のパターン」を学ばせました。この教材で学んだ「関係性のパターン」を他の新聞記事の分析に利用することで、「書く活動」を通した実践的な側面の育成を図るとともに、「批判的精神」の現代社会における重要性を生徒に印象付けるような指導を意識しました。
     教材名 「社会調査」のうそ
     出 典 『新編 新しい国語2』 東京書籍
     筆 者 谷岡 一郎
     資 料 朝日新聞 2007年7月13日
朝日新聞 2007年7月20日
スポーツ報知 2007年10月25日
本時 学習指導案 ワークシート

単元観




■朝読書は定着しているが、ケータイ小説などを好む生徒が多く、説明的文章を読むことに興味を持っている生徒は少ない。
■事前のアンケートでは、全体の約3分の2の生徒が、説明的文章を読むことを苦手だと感じている。
■様々な場面において少人数やグループで話し合うことを授業に取り入れ、話し合いの成果を発表する学習活動をこれまでも行ってきている。


■本教材の原典の目指すねらいは、玉石混淆の社会調査の中から、本当に価値のあるものを見出すためのリサーチ・リテラシーを身に付けることである。
■社会調査の「ズレ」を知ることで、様々な社会調査の中から本当に価値あるものを見出すための力を身に付けることの重要性を主張している。


■身近な話題を例として取り上げ、受け身の立場で情報を得るのではなく、情報を批判的に見る視点をもたせる。
■情報を批判的に見つめ、価値を見極めさせるために、身近な社会調査を分析する活動を取り入れる。
■分析の視点を基にマトリクスに書く活動を取り入れ、分析することへの抵抗を無くすとともに、思考を整理させる。
■グループ活動を取り入れ、お互いの考えを交流させることで自らの気付きや考えを深めさせる。

単元の指導目標
社会調査を分析し、情報についての考えを深め、自分の意見をもたせる。

評価規準
国語への関心・意欲・態度 社会調査に興味をもち、意欲的に学習に取り組もうとしている。
読む能力 社会調査における「ズレ」を分析し、筆者の主張を理解している。
筆者の主張に触れ、今後、情報とどう接していくかを考えている。

単元計画(全4時間)
学習内容および学習活動 教師の指導・支援 指導案
●情報を得るとき、自分がどのような立場であるかを意識する。
                     【資料】
●社会調査に「ズレ」があることをとらえた上で、学習の見通しをもつ。
●受け身の立場で情報を得ていることに気付かせるために、新聞などから身近な話題を取り上げる。

●単元のめあてを知らせ、学習のゴールを示す。
●社会調査で起こりがちな「ズレ」の原因を知る。
●教材文の社会調査を分析し、「ズレ」を縮小するための改善案を考える。
           【ワークシート1】記入例
●「相関関係」と「因果関係」について、教材文中の図を使って説明する。
●分析の視点を示す。
 ・調査の目的
 ・調査の対象
 ・調査の内容
●社会調査の分析結果と改善案を発表する。
●筆者の主張を読み取る。
●分析において最も重要な柱となる視点も挙げさせる。
●社会調査などから情報を得る際、必要な能力として筆者が挙げているものを整理させる。

●他の社会調査について分析する。
           【ワークシート2】記入例
●情報を伝える側の情報操作について考える。
●今後、情報にどう接していくかを考える。
              【ワークシート3】
●他の社会調査を分析させることで、筆者の主張の確かさを確認させる。
●違う視点で情報の見直しをさせ、学習としての広がりもたせる。
●社会調査の分析を基に、考えを構築させる。

実践における成果と課題
 今回の実践の成果は,
@分析の視点をもって社会調査を実際に分析することで、文字情報を読み解くポイントを理解させることができた。
 ◎生徒の感想としては、「分析は難しいと思いこんでいたが、視点を基にやっていくと分かりやすく、確かにおかしいな、ずれているなと感じた。」「分析の視点を基に見ると、たくさんの社会調査にズレがあることが分かった。」「授業の中で情報を分析することで、意外と世の中に出回っている情報は正しくないものが多いと思った。ほかの情報も分析してみたいと思った。」などがあった。分析の視点を基にマトリクスに書き込むという活動を取り入れることで、文章を分析しながら読むことに慣れていない生徒にとって、内容把握の手助けとなるとともに、意欲にもつなげることができたようである。
A自ら社会調査を分析することで、情報に接する時に批判的に見ることの大切さを実感させることができた。
 また、情報化社会に生活する中で、主体的に情報に接していく態度を身に付けていこうという意識をもたせることができた。

 ◎生徒の感想としては、「情報に流されないようにしようと思った。」「自分で分析してみるまで、自分は情報をすべて信じきっていたけど、これからはズレがあると思って情報に接するようにしようと思った。」「その情報の善し悪し、本当かどうか疑うことの大切さを感じた。」「情報の真偽を自分で見極められるようになりたいと思う。」「自分から情報に目を向け、世の中のことをしっかり判断できるようになりたいと思う。」などがあった。日ごろ、文章として書かれたものは教科書本文も含めて批判的に見ることがほとんど無かった生徒が、自ら社会調査を分析することで筆者の主張の確かさを確認することができた。また、最後に情報に接する際の視点を書くことで読み取ったことを自分の中で価値付けることができたようである。
B分析をグループで行い、自分の考えを他者に説明したり、他者の考えと比較したりすることで、自分の考えを深めさせることができた。
 ◎生徒の感想としては、「自分では分かっていたつもりでも、人に説明することは難しいと思った。でも、説明することで自分自身もより理解できたと思う。」「グループの人の意見を聞いて、そういう考え方もあるのかと思った。理由をはっきりと説明してくれるとより分かりやすかった。」などがあった。グループによる話し合い活動はこれまでも活発であったが、自分の考えを他者に説明することで、自らの考えを整理したり明確にしたりすることに役立てることができたようである。

  今回の研究において次のような課題が見えてきた。
@情報の分析に関しては、他教科、特に社会科領域の資料活用の技能と連動した指導の在り方や方法を検討することで、情報を批判的に見る力を育成することができるのではないかと思う。
A音声言語を分析する指導法の在り方についての研究の必要性を感じた。
B私たちは日常生活において、文字、音声、映像という情報に囲まれている。総合的な情報の分析力と批判力の育成という広範囲な問題をどう解決していくのかが今後の課題だと考える。
 
 また、文章を分析的に読み解いていくことや文章を批判的に見る視点をもたせるためには、継続的・系統的な学習が大切である。年間計画の中での位置付けや、発達段階に応じた指導の在り方の検討が必要だと考える。