子どもの今につきあおう

 この研究をすすめるにあたって行った実態調査によると、不登校(年間30日の欠席を目安とする)の中で最も多いのは、相談室や保健室に登校している子どもたちです。この子どもたちは、欠席が連続したり長期化したりする前(心のエネルギー曲線の「前兆期」)、あるいはその後(同「中期の後半」〜「復帰期」)の子どもたちととらえることができます。つまり、心のエネルギーが落ち込んでしまってはいない状態ですから、この時期に適切なかかわりをすることが、不登校の状態の深刻化を予防したり、回復を促進することにつながるのです。ところが、「相談室・保健室登校の子どもたちへのかかわり方がわからない。」という声を聞きます。

 不登校の子どもたちに共通することに、自己肯定感や対人関係能力の低さが挙げられます。つまり、自分に対する自信の低さや、他人との関係の中で自分の思いや考えを出すことに対する抵抗の大きさ等も、心のエネルギーが低下している一因と考えられるのです。そこで、相談室や保健室に登校している子どもたちの心のエネルギーをさらに高いものにしていくためには、この自己肯定感や対人関係能力を高めるような「心のエネルギーを貯える活動」を、子どもの状態に応じて取り入れることが効果的だと思います。


   ここでは、「心のエネルギーを貯える活動」として、
「自己肯定感をはぐくむ活動」  と  「対人関係能力をはぐくむ活動」
  を紹介します。

   子どもの実態や活動の場(相談室や保健室)に応じて工夫し、実践してみましょう。


 「自己肯定感をはぐくむ活動」(心のエネルギーを貯える活動)
自己肯定感をはぐくむ活動とは
 自己肯定感をはぐくむためには、「自分はここにいて安心できる(存在感)」「自分もやればできる(効力感)」「自分は役に立つ(有用感)」「自分のことが好きである、自分もいいところがある(自己好意感)」といったことを子ども自身に実感させることが大切です。

 そのために行う活動には
● その子どもの「心のエネルギーの状態」に応じた内容であること
● その活動について、子ども自身が見通しをもって取り組めること
● 活動を通して「やればできる」という成功体験を子どもが実感できること
● 子どもが他人から認められ、ほめてもらうという体験を実感できること
 といったような要素が含まれることが必要です。

 したがって、実際に活動を計画するときには
▼ 安心して活動できる場所や空間と、その活動に付き合う人がいるか
▼ 活動の過程において、その子どもに応じた支援があるか
▼ 活動の内容や流れについて、子どもに前もって説明しているか
▼ 子どもが実際にやってみて、うまくいったという成功体験をもつことができるか
▼ 他者から認められたり、励ましの言葉をもらったりする場があるか
▼ 実習活動の事前、事後を含めて自己決定や自己評価をする場面があるか
 といったような点について確認してみましょう。

 以下に、適応指導教室で行われていることを例に自己肯定感をはぐくむ活動のポイントを挙げています。相談室や保健室登校の子どもたちへの活動の参考になるものと思います。
自己肯定感をはぐくむ活動のポイント
 このような活動では、「何をするか」が問題ではなく、「どのような手立てをするか」が大切です。

●活動内容を決める視点
○時期に応じた例
  ・7月に「絵手紙実習」…『絵手紙に思いを込めて、あの人に暑中見舞いを送ろう』
  ・12月に「竹細工実習」…『竹細工で作ったミニ門松で、正月を飾ろう』

○地域性に応じた例
  ・陶器作りが盛ん…『粘土をこねて、お気に入りの器を作ろう』
  ・こんにゃく芋がとれる…『こんにゃくを作ろう』

○子どものエネルギー状態に応じた例
  ・エネルギーの高い子どもや低い子どもが混じっている
     『折り紙実習』…各自のペースに応じて制作できる物作り
  ・子どもの興味・関心のあるものから選ぶ

●実施前の留意点
・子どもの状態に応じて、活動内容や参加の仕方についての希望を聞く。
・子どもに活動の見通しをもたせるための事前のお知らせをする。欠席者にも届ける。
・支援者(活動の講師を含む)が、活動する子どもの今の状態や参加の仕方等について情報交換を行い、その活動での支援方針を決める(個別支援シートの活用)。

●実施中の留意点
・支援者が子どもの様子を見ながら、支援方針に基づいて共感的声かけやアドバイス等を行う。
・「人から認めてもらった」、「作品を作り上げることができた」という満足感や喜びを体験させる。
・「興味・関心のあるところから」や、「見学から」という参加も認める。

●実施後の留意点
・活動終了後、できるだけ間をおかずに「振り返りシート」で自己評価を行い、活動を振り返って、自分自身で「できたこと」を確認させる。
・「振り返りシート」には、例えば「活動中の本人の様子(写真等)」を載せたり、「私の充実度」などを記入するようにして、自分自身を振り返りやすい工夫をする。


 「対人関係能力をはぐくむ活動」(心のエネルギーを貯える活動)
対人関係能力をはぐくむ活動とは
 対人関係能力が落ちている時には、自分から人とのかかわりを持つという場面を避けるようになり、集団の中に入っていくことには大きな抵抗があります。また、人とかかわることができても、自分の思いや感情、考えなどを言葉でうまく表現したり、伝えたりすることは、とても難しいでしょう。このように対人関係能力が落ちている不登校の子どもに対して、はじめから集団の中に誘ったり、自分の気持ちを言葉で表現させようとしても、なかなか心を開いてくれません。

 保健室や相談室の子どもたちは、この対人関係能力が少しついてきている子どもたちです。そこで、子どもの心のエネルギーに応じて、はじめは支援者との1対1によるかかわりから、だんだんと小集団による活動に参加させることがよいでしょう。また、活動の内容も、ことばを使わなくても「絵」で表現したり、身体を動かしたりという「非言語的なかかわり」からはじめ、少しずつことばによる表現も取り入れていくというような工夫を考えましょう。

 大事なことは、「人とかかわることの心地よさ」を味わわせることです。その中で子どもは「人と上手く付き合っていく自分」をイメージし、自分から他者とのかかわりを求めるようになると思います。


対人関係能力をはぐくむ活動を取り入れるポイント
●人数(グループサイズ)を増やしていく
@相談室や保健室に通っていても、一人で過ごすことが多い子どもには、まず教師が1対1でゆっくりとかかわる方が抵抗が小さい。
A教師もかかわりながら、相談室や保健室登校の子ども、あるいは特に親しい友だちとの1対1(話しやすい者同士の2人組)でのかかわりを計画してみる。
B親しい友だちとの交流を続けながら、相談室や保健室登校の子ども、あるいは比較的親しい友だち同士の3〜8人くらいまでのグループでのかかわりを始めてみる。
C子どもの状態に応じて、級友との活動を取り入れてみる。この時、教室に入ることに抵抗を感じるようであれば教室外で行う。
D集団にはいることに抵抗が無くなってきたら、教室内での活動に誘ってみる。

●言語的な要素を持つ活動の取り入れ方
@どのグループサイズでも、かかわり始めは、非言語的なもの(絵画や身体を動かす)を取り入れる。
A年齢や発達段階と合わせて、子どもの言語能力等によって、言語的要素を考慮(話したがらない子には非言語的なもの、言語的なもの等)する。
Bかかわる人たちとの関係性が深まれば、自分の思いを話せるものを取り入れる。
C人前で話すことには抵抗を感じる子どもには、2人組、少人数グループ(3〜8人)、学級集団という具合に徐々にグループサイズを大きくしていく。

 エクササイズ表
 対人関係能力をはぐくむための活動を、「一緒に活動する人数」と、「言語的要素の割合(言語的か、非言語的か)」を考慮しながら考えたものが「エクササイズ表」です。
 具体的な活動としては、主に構成的グループエンカウンター(SGE)のエクササイズを参考に作成しています。
 SGEに関しての著書は多く、教室等でもよく実践されています。しかし、対人関係能力が落ちている相談室や保健室登校の子どもに対して実施する時には、子どもの心のエネルギーに応じて、人数や内容を組み立てることが大切です。

表【言語−非言語とグループサイズから見たエクササイズの選び方】

 下表は、構成的グループエンカウンター(SGE)のエクササイズを参考に作成しています。また、非言語的なものとして、「スクイグル」「コラージュ」といった活動も取り入れています。
 グループの人数は「少」は「2人組」、「3〜8人のグループ」、「多」は「学級集団」をイメージしています。


参考文献「エンカウンターで学級が変わる。小学校編パート1、ショートエクササイズ集」國分康孝監修 図書文化
2005 佐賀県教育センター


【エクササイズの選び方例】

 ※言語−非言語とグループサイズから見たエクササイズの選び方(小学校)の具体例(PDFファイル)

 ※言語−非言語とグループサイズから見たエクササイズの選び方(中学校)の具体例(PDFファイル)


 ※言語−非言語とエクササイズの難易度から見たエクササイズの選び方の具体例(PDFファイル)
   言語的要素の割合とエクササイズの難易度から配列したものです。


 ※子どもの状態に応じたエクササイズの選び方(PDFファイル)
子どもの相談室・保健室登校の状態とかかわる人やグループの大きさから見たエクササイズ示したものです。