「意思決定を取り入れた討論型の学習」に取り組んでみませんか!

              
実践事例7 小学校第6学年 「新しい国づくりは、どう進められたの」
 
単元について
 学習指導要領の内容(1)キ「黒船の来港、明治維新、文明開化などについて調べ、廃藩置県や四民平等などの諸改革を行い、欧米の文化を取り入れつつ近代化を進めたことが分かること」及び「ク「大日本帝国憲法の発布、日清・日露戦争、条約改正、科学の発展などについて調べ、我が国の国力が充実し国際的地位が向上したことが分かること」を受けて設定している。
   明治期に入り、新政府は西洋の文化や制度を取り入れることで近代化を図った。その結果、清やロシアに戦争で勝つほどまでに国力を充実させ、欧米諸国に認められ、条約を改正するに至った。しかし、日本が近代化した背景では、不利益を被ったり、犠牲となったりする人々がいたことも事実である。したがって、国家の立場からだけではなく、様々な人々の立場を基に、新政府による政策がどのような影響をもたらしたのかを考えさせることで、多面的な見方や考え方を養うのに適した単元であると考える
 児童の多くが歴史に興味をもっており、歴史上の人物や出来事を基に話し合うことを好む。しかし、友達が主張する考えに対して、内容を受け止め、反応することができる児童は少ない。これは、児童が話し合う目的を把握できておらず、友達の主張が論点に沿っているのか理解できないまま、取り組んでいたことが考えられる。したがって、児童のこれまでの学習経験から、社会的な問題を見出すことに困惑することが予想される。
 指導に当たっては、まず、明治政府による国づくりの目標を明確にし、学習問題「大政奉還後、日本の政治や人々の暮らしは、どう変わっていったのだろう」を設定する。次に、明治政府による国づくりの方針として発布された五箇条の御誓文を基に、明治政府がとった中央集権化、富国強兵策について、廃藩置県や徴兵令など具体的な改革や政策ごとに調べさせ、日本が近代化していき、国際的な地位を向上させることができたことに気付かせる。さらに、明治政府の改革や政策の結果について、「よかった点」と「問題点」の両面を対比させ、その理由や対象を問うことで、「国の利益」と「国民の生活」を見出させ、対立していることに気付かせる。最後に、どちらを優先すべきだったかについて討論を行い、意思決定をさせる。これらの活動を通して、多面的な見方や考え方を育てたい。また、これが現在の日本の政策を考える視点となり、社会参画への基礎や国を愛する心情を培っていきたい。
単元の目標
 黒船の来航から条約改正にかけて、日本が欧米の文化を取り入れつつ近代化を進め、国力が充実し国際的地位が向上したことについて、ペリーや明治天皇などの人物の働きや歴史的事象との関連を年表や絵図、文章資料などを活用して具体的に調べ、現在の自分たちの生活や国家・社会の発展の基盤になっていることが分かり、現在や未来の発展へ生かすことを考えるようにする。
単元の評価規準
社会的事象への
関心・意欲・態度
社会的な
思考・判断・表現
観察・資料活用の
技能
社会的事象についての
知識・理解
黒船の来航から条約改正にかけて、日本が欧米の文化を取り入れつつ近代化を進め、国力が充実し国際的地位が向上したことに関心をもち、具体的な政策や人物の働きなどを意欲的に調べている。
明治政府の目指した国づくりと影響を受けた国民の生活とを比較したり、総合的考えたりして、過去の出来事を現在や未来の発展に生かすことを考えようとしている。
黒船の来航から条約改正にかけて、日本が欧米の文化を取り入れつつ近代化を進め、国力が充実し国際的地位が向上したことについて、それらに関わる事象や人物の働きなどを関連付けて適切に表現している。
明治政府の目指した国づくりと影響を受けた国民の生活とを比較したり、総合的に考えたりして、過去の出来事を現在や未来の発展に生かすことを考え適切に表現している。
年表や絵図、文章資料などを活用して、黒船の来航から条約改正にかけて、日本が欧米の文化を取り入れつつ近代化を進め、国力が充実し国際的地位が向上したことについて必要な情報を集め、読み取っている。
文化財、地図や年表、その他の資料を活用して、日本の近代化に関わる政策や人物の働きについて必要な情報を集めて読み取ったりまとめたりしている。
廃藩置県や市民平等などの諸改革を行い、欧米の文化を取り入れつつ近代化を進めたことで日本の国力が充実し国際的地位が向上したことを理解している。
黒船来航により、日本が開国し、明治政府が近代化を進めたことやその結果、国際的地位が向上したことが、現在の自分たちの生活や国家・社会の発展の基盤になっていることを理解している。
単元の指導計画(全11時間)
過程
主な学習活動
教師の指導・支援
時配







ペリー来航後、江戸幕府が取った対応を調べ、どのようにして幕府の力が衰え、大政奉還に至ったかを考える。

○明治政府にとっての新しい国づくりの課題を予想する。
幕府に対する不満や倒幕への流れを捉えさせるために、幕末に活躍した人物の業績を調べさせ、不満を視点に関連付けながら考えさせる。
○幕府への不満や不平等な条約の内容から日本にとって不利益となるものを読み取らせる。この際、児童が予想した新しい国づくりの課題や疑問に思ったことを基に、学習問題を設定する。
 大政奉還後、日本の政治や人々の暮らしは、どのように変わっていくのだろう。
                                          
《学習問題T》
調

五箇条の御誓文の内容から、新しい国づくりの方針を調べる。


○明治政府が行った主な改革や政策について調べ、政治や社会の仕組みをどのように変えていったのか考える。
江戸幕府への不満や不平等な条約と関連付け、新しい国づくりの方針を理解させるために、五箇条の御誓文を児童の予想と照らし合わせながら読み取らせる。
○具体的な改革や政策の目的と内容を関連付けて考えさせるために、内容、理由、結果を視点に調べさせる。
○調べさせた改革や政策を、目的に応じて中央集権化と富国強兵に分けて示し、これらが欧米諸国に早く追い付こうとしていたことを考えさせる。
四民平等について、江戸時代の様子と比較しながら調べる。

○蝦夷地や琉球の様子について調べる。
江戸時代の身分制度と対比させることで、人々のくらしの変化や、差別が残っていたことに気付かせる。
○中央集権化により、蝦夷地から北海道へ、琉球藩から沖縄県へと改称され、政府の統治下となったことを捉えさせる。
○文明開化によって、人々の生活は、どのように変わったのか調べる。 ○人々の生活の変化に気付かせるために、江戸時代後半と明治時代の初めとを町の様子や学校の様子の絵を対比させ、服装や建物などの視点を基に調べさせる。
○新政府の政治に不満をもつ人々は、どのような活動をしたのか調べる。





○大日本帝国憲法は、どのような特色をもつ憲法か調べる。
○演説会の様子を描いた絵から当時の状況を読み取らせ、政府に不満をもつ人々がいたことに気付かせる。
○板垣退助や大隈重信、西郷隆盛、伊藤博文の働きについて、内容と理由を視点に調べさせ、関連付けることで、人々の不満が国会開設や憲法発布へつながったことを理解させる。
○主な条文を立場を視点に読み取らせることで、天皇に主権があり、議会や国民の権利は弱いことを捉えさせる。
○日清・日露の戦争が起こったことを知り、原因と内容、結果について調べる ○日清・日露戦争の風刺画や絵などを基に、戦争が起こった状況や原因を調べさせる。また、文書資料を基に結果として日本が勝利したことが、欧米諸国に日本の国力を認めさせることになったことに関連付けて読み取らせる。
○賠償金の使い道のグラフを読み取らせることで、日本の軍備が更に拡張されたこと、これにより人々の不満が出たことに気付かせる。
○遣欧使節団や陸奥宗光、小村寿太郎などの業績から条約改正の流れとその背景を調べる。


○日露戦争後の韓国に対する日本の動きを調べる



○工業の発達とその問題点について調べる。
○ノルマントン号事件の風刺画や内容から不平等な条約の内容を想起させることで、条約を改正しようと努力した人々の働きに着目し、調べさせる。
○朝鮮を植民地にしたことで、日本に軍事的な力を付けたことを誇示できた反面、朝鮮民族としての誇りを傷つけたこと、朝鮮や中国の人達への差別の意識が現在も残っていることに触れておく。
○工場数の増加のグラフから日清戦争後に急激に工業が発達したことを読み取らせる。一方で、公害の学習を想起させたり、労働時間を読み取らせたりすることで、弊害についても触れておく。
○北里柴三郎や野口英世などの業績と医学の発展について調べる。

○教育勅語によって、教育がどうなっていったのか調べる。
○科学の発展とともに、医学や文学などが発展したことに触れ、現在の文化や教育とのつながりを意識させる。
○個人よりも国を大切にする国家主義の教育が強まったことを捉えさせる。






明治政府による政策を振り返る。


○明治政府が行った主な政策のよかった点や問題点を考える。
○論題に対して、自分なりの考えをもつ。
                     (意思決定1)
明治政府が行った改革や政策を総合的に考えさせるために、目的や内容などを表にまとめさせながら確認させる。
○「徴兵令」、「地租改正」、「殖産興業」、「学制」について、様々な立場や視点に立って、よかった点や問題点を考えさせる。これにより、「国の利益」を優先した一方で、「国民の生活」に不満が募ったことに気付かせ、この対立点から論題を設定する。

論題 明治政府は国の利益と国民の生活のどちらを優先すべきだったのか。
                                           《学習問題U》

明治政府による政策について評価し、討論をする。

○討論した内容を加味して最終的な意思決定をする。
                     (意思決定2)
○論題について、自分の考えの根拠を基に討論させることで、考えの違いや根拠の違いから明治政府の改革や政策について深く考えさせる。
○考えの深まりには、根拠が増えることや変わることがあることを伝え、討論して学べたことを価値付ける。
○現在の社会にも同じ様な価値の対立があることに気付かせ、社会への課題意識をもたせる。
 
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