「意思決定を取り入れた討論型の学習」に取り組んでみませんか!

2 研究の実際                                         
(4) 社会的な問題を明解にする手立てと指導のポイント
 社会的な問題を明解にするとは、社会的な問題の対立点を明確に理解することです。これにより、児童生徒が自分の考えを話したくなる、友達の考えを聞きたくなるという討論の必然性を感じるようになると考えます。このために、「ア 社会的な問題に出会わせる手立て」と「イ 討論すべき論題を見いださせる手立て」を取り入れます。
 ア 社会的な問題に出会わせる手立てと指導のポイント
(ア) 【具体的な手立てT】児童生徒の思考(疑問や葛藤など)を促す教師の発問を工夫しましょう。
 
「発問」と「質問」について 
 「発問」とは、児童生徒の思考や認識を促すものと考えます。このため、教師と児童生徒との間で、一問一答や同一の回答が返ってくることが予想される問い掛けを「質問」として区別しています。何がどのように問題なのかを思考させることを目的に「発問」を工夫し、児童生徒の反応に応じて「発問」を適切に活用することで、児童生徒が疑問を感じたり、葛藤したりして思考する姿を求めています。表3は社会的な問題に出会わせる学習(授業)の流れと発問例です。
表3 社会的な問題に出会わせる学習の流れと教師の発問例
社会的な問題に出会わせる学習の流れ
教師の発問例
根拠を引き出す問い(DEへの布石になる問い)
「どうしてよいと考えたのかもう少し話してください」
「どの資料からよいと考えたの?」
「何がよくなるの?」
「誰がよい思いをするの?」など
興味を抱かせる問い(両面を考える必要性を問う)
「気になる感想をもった友達がいるんだけど、聞いてみたい?」
「この後どうなるのか予想してごらん?」
「この写真を見付けたんだ。どんなよい点が確認できる?」
「えっ?それはよい点じゃないの?」など
調べるきっかけになる問い(両面を考える必要性を問う)
「困っている人もいるけれど無視して考えようか?」
「問題点が見付かったけれど、これはたまたまなんじゃないの?」
「どうやって調べるの?」など



確認する問い(整理を促す問い)
「どのようなよい(問題)点がありますか」
「○○さんが言いたいことは、どんなよい(問題)点ですか」 など
比較を促す問い(両面の比較を促す問い)
「よい点も問題点もあったけれど、どこが違うのかな?」
「なぜよい点と問題点があるのかな?」など
根拠を引き出す問い(@の確認も含む問い)
「どうしてよい(問題)と考えたのかもう少し話してください」
「どの資料からよい(問題)と考えたの?」
「誰がよい(困る、悲しい)思いをするの?」など
対立点を見いださせる問い

「よい(問題)点は、誰のどのようなことを大切に考えているの」
「よい点で問題点は解決できないかな」など

  (イ) 【具体的な手立てU】思考・判断・表現を支援する板書やワークシートを工夫しましょう
   社会的な問題が含まれる社会的事象や歴史的事象について、よい点と問題点の両面を調査させます。この際、両面を整理し、視覚的に比較することができるように、板書やワークシートなどを以下の2点に留意して、工夫します。
@調査した社会的事象や歴史的事象を、目的や内容、よい点、問題点などの視点に沿って表にして整理していきます。
 @ よい点と問題点が比較しやすく、社会的な価値の対立に気付かせやすくなります。

写真1 表に整理する板書例1(複数の項目を整理した表)
 
 
 A よい点と問題点と評価する根拠が短い言葉で見えるようになり、何が問題なのかが分かりやすくなります。

写真2 表に整理する板書例2(1つの項目を評価することで整理した表)
 
A板書とワークシートの様式をできる限り同じにします。

写真3 ワークシート(図7)と様式を同じにした板書例
図7 板書(写真3)と様式を同じにしたワークシート

 イ 討論すべき論題を見いださせる手立てと指導のポイント
(ア) 【具体的な手立てT】児童生徒の思考(疑問や葛藤など)を促す教師の発問を工夫しましょう
 
表4 討論すべき論題を見いださせる手立てと段階的な教師の発問例
討論すべき論題を見いださせる学習
教師の発問例
1回目の意思決定を迫る問い
「どちらが大切だと考えますか」
「どちらも大切だけど、あなたはどちらを優先すべきだと考えますか」
「どちらに賛成しますか」
「どのプランが効果がありますか」 など
論題につながる問い(1回目の意思決定後の問い)
「Aを選んだ人が○人、Bを選んだ人が○人だったよ。多数決で決めようか」
「あなたと違う考えの友達はどう考えたと思いますか」
「う〜ん分かれましたね。どちらを優先すべきなんだろうね」など
※今後の討論が勝ち負けを競うことにならないように、根拠(データや理由付け)の違いを論点にします。これが、習得した知識、概念や技能を活用する討論の内容につながると考えています。

  (イ) 【具体的な手立てU】児童生徒の発言や様子の見取りと評価を工夫しましょう
 
   @授業の初めに「本時のめあて」を示し、評価する場では、判断するめやす(判定基準)を児童生徒と共有しましょう
    本時のめあてを示し、判断するめやす(判定基準)を児童生徒と共有しておくことで、児童生徒が考えたことを表現する表現力を高めるための、技能の指導ができると考えます。
  例えば、明治政府の政策について、よい点と問題点の両面から考えよう」というめあてを示せば、児童生徒は、本時でよい点と問題点とを比較して考えるんだという学習の見通しが立ちます。また、評価する場では、「自分が大切にする立場とその根拠が○○と□□を使って書けるとよいですよ」など判断するめやすを伝えることにより、児童生徒は、根拠に「○○について考えたこと」や「□□から考えられること」を表現しようとすると考えます。
  これにより、指導と評価が一体化した授業となり、児童生徒も、本時の目的を自覚して取り組むことができると考えます。
 

写真4 振り返りのポイント(判断するめやす)
 評価規準に基づき、本時の目標(児童生徒にとってはめあて)が達成できたかを評価します。写真4のように視覚的に分かるように指し示します。児童生徒と共有するときには、「(おおむね満足できると判断するめやす)で書けたらいいね」「(十分満足できると判断するめやす)も書けるとさらに今日のがんばりが残せるよ」などと指示をしましょう。
  A本時の時点での「1回目の意思決定」をワークシート等に書かせましょう
    討論時の論点は、根拠(データや理由付け)の違いにより明らかになります。このため、本時の途中または振り返りの際に、論題に基づいて児童生徒の考えを表現させます。つまり、1回目の意思決定を迫ることになります。
  この際、根拠を問うことが大切であると考えます。これにより、児童生徒の考えを裏付けているデータや理由付けが明らかになってくることで、考えが整理され、表出(発言や発表、見せることなど)に向けて自信をもつようになると考えます。これは、討論後の2回目の意思決定と比較させることにより、考えが深まったことを児童生徒に自覚させることにも活用できると考えます。
  学ぶ価値を捉えさせる上でも表現させておきたいです。
  B児童生徒の中でも支持する価値やプラン、根拠が違うことに気付かせましょう
    1回目の意思決定を書かせた後に、児童生徒に支持する価値やプランなど自分の意思を挙手させたり、典型的な例として意図的に数名を発表させたりしましょう。ただし、この目的は、児童生徒に「私と違う考えの友達がいる」ことに気付かせ、「友達の考えを知りたい、話してみたい」と思わせることです。したがって、教師が内容について善し悪しを評価してはいけないと考えています。評価するのは、根拠の述べ方で、自分の考えをもつことができたことだと考えています。
 
 
      


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