積極的傾聴で,カウンセリングを進め,自分の思いを落ち着いて話せるようになってきた。しかし,自己肯定感は低く,「自分はワルだから」と繰り返す。自分に対しても他者に対しても,批判的な発言が目立った。
  大人への不信感が強く,1対1でのかかわりには,抵抗があるようだった。常に高いトーンで,まくしたてるように話すことで,自己防衛しているように思えた。
 話の内容は,そのほとんどが,自分の「悪さ」を前面に出した,「強がり」のように思えた。
 

◎ 考察

 子どもとの信頼関係づくりを重視し,ブリーフセラピーを取り入れるまでに,かなり時間をかけたケースである。カウンセリングを重ねるごとに子どもに落ち着きが見られるようになり,自分の気持ちや,周りの人について話せるようになってきた。自分がやってきた反社会的な行動を声高に話すことは,信頼関係がない大人に対する防衛であったのかもしれない。
 この事例を通して,行動の裏にある子どもの気持ちに寄り添いながら,信頼関係を築いていくことの大切さを痛感した。ブリーフセラピーの考え方を生かすには,子どもとの信頼関係が不可欠である。

★ 学校内カウンセリングは,すでに子どもと信頼関係のできた教師が行えることが,大きなメリットである。 

◎ 実践 3 ゴールの設定

◎ 実践 1 例外探し

 自分にできることを、自分で決めることができた。やってみようという気持ちが感じられた。この相談面接では,これまでよく聞かれていた自分の「悪さ」についての話題は出なかった。

 家族への不満や友人の裏切りについて,険しい表情で語っていたが,犬の話題が出ると,笑顔になる。後日の相談面接でも,犬の話題を中心に置きながら,家族について聞いていった

C:  ゆうべ,むかつくことがあった。もう,キレた。あいつぜったい許さない。俺,キレたら,相手のこと絶対許さない。いくら謝っても無理。俺は昔からそう。みんなからも,恐れられてるし! 
T: ほほう。一回も許したことがないんだ。一回もないんだね。
C: うん。ない。・・・・・あっ。一回だけある!そういえば,○年生のとき・・・・・・(そのときの友人とのトラブルの説明)・・・・・
でね,そいつがさ,すぐに「ごめんね!」って謝ったんだよね。そしたら,なぜか俺,「もういいよ。」って言っちゃった。相手は,俺が「もういいよ。」って言ったから,超びっくりしてた。キレると思ってたんだよね。
 
T: そうか!許したことあったんだ!・・そのとき,どんな気持ちだった? 
C: うーん。もういいやって感じ。 
T: 「もういいや。」って,嫌な気持ち?それとも別の気持ち? 
C: あー・嫌じゃない。まあまあな気持ちだな。そいつとは,また普通にしゃべれるようになったし。 
C…子ども  T…教師
★ かかわりがちょっと難しい子どもへのブリーフセラピー
1
不登校:周囲への不信感が強く,自分を素直に表現できない。攻撃的な言動が目立つ。

◎ 子どもの様子とねらい

T: (犬の世話をさぼっていることについての話題から)  あなたのかわりにだれが世話するの? 
C: お母さん。
T: お母さん,そんなときどうしてる? 
C: お母さんは何にも言わない。 
T: そんなとき,あなたはどんな気持ちになるのかなあ?
C: なんとなく嫌な気持ちになる。文句言われた方がましかも…。
T: 嫌な気持ちを解消するのに,何かできることない?
C: そりゃあ,ちゃんと世話することしかない。
T: どんなことができそうかな?
C: 俺,朝も昼間も寝ているし,えさは無理。夕方起きてから,散歩に行くことならできるかなあ。

 その後も,仲たがいをした相手と和解できたことを思い出しながら話す。「絶対許さない」とすごいけんまくだったが,やりとりの中で,たくさんの例外が見付かり,自分の中の「悪くないところ」について,自分の言葉で話すことができた。
 

◎ 実践 2  リソース探し

そこで

 そこで,まずは,遊びを通したかかわりで,信頼関係を作ることをねらった。次第に気持ちがほぐれていき,言葉や声のトーンに落ち着きが感じられるようになった。また,笑顔も多く見られるようになる。
C:  家の中に信頼できる人がいない。 
T: 家の外には?
C: △△(友人の名前)には,悩みを言うこともある。でも,裏切られたこともある。本当に信頼してるわけじゃない。 
T: 悩みを話せなくても,一緒にいてほっとする人は? 
C: ああー。親戚の□□兄ちゃん。超おもしろい人。犬の話で盛り上がる。 
T: そういう人がいてくれるのは嬉しいね。そのお兄さんもあなたも,犬が好きなの? 
C: うん。俺,飼ってる。言うこと聞かないから,よくしかるけどね。,犬を触ってたら落ち着く気がする。 
T: 犬を触ってたら落ち着くんだね。家の中に,大事な存在がいるんだね。
 「例外探し」をきっかけに,「悪い」と思っている自分にも,「悪くないところ」が存在することを確認させ,自己肯定感の高まりをねらう。
 「リソース探し」で,自分自身の好きなことや,やりたいこと,信頼している人の存在などを出すことで,自信や周囲への信頼を回復するきっかけとする。
 「ゴールの設定」で,具体的な行動目標を一緒に考える。