★ かかわりがちょっと難しい子どもへのブリーフセラピー
1
 集団不適応:周囲への不満を頻繁に訴える。偏ったものの見方をしがち

 例外探しをいくつか試み,「ない」との即答が続いた後のやりとりである。趣味である読書を切り口に,やっと例外が見付かった。子どもの好きなこと,得意なこと,興味関心の対象を把握しておくことは,学校内カウンセリングの効果を高めるのに必要な条件であると言える。だからこそ,それを把握しやすい担任等,身近な教師が学校内カウンセリングを行うことに大きな意味がある。

◎ 実践 1  例外探し

◎ 子どもの様子とねらい

 数回にわたり,積極的傾聴中心のカウンセリングを行い,気持ちの安定が見られるようになる。
 しかし,ものごとを否定的にとらえる傾向は変わらず,次第に自ちょう的な発言が目立つようになる。
 不満やストレスがかなり積み重なっていたため,まずは積極的傾聴を中心としたカウンセリングを行い,子どもへの思いを出させることに重点を置く。
  家族・先生・友達のこと,また,それらの人とのかかわりといった,自分を取り巻く周りの状況を,すべて否定的にとらえる。
 そのため,ストレスを抱え込み,集団への不適応を起こしかけている。
C:  家の中がおもしろくない。親から細かく注意されて,むしゃくしゃする。そんなときはぶつぶつ家族の悪口を独り言で言う。そしたら,また注意される。何もやる気になれなくて,ただ,部屋でいすに座って,ぼーっとしてるしかない。親も兄弟も大嫌い。 
T: あなたがリラックスできるときって,どんなとき?
C: うーん…好きな音楽聴いてるときかなあ。 
T: どんな音楽? 
C: ○○の歌。聴いてて,すかっとする。曲も詩もいい。(その後,好きな音楽や,その他の興味のあることなどについて話す。) 
T: 自分なりのリラックス方法をもってるんだね。あっ。それって,今度家の中で嫌なことがあったときに使えそうかな? 
C: うん。いいかもしれない。そうだ。口うるさい親の声が聞こえないように,ヘッドホンでボリュームマックスで聴いてやろう。 
C…子ども  T…教師

そこで

本人は,学校へ行っていることを,特別なことだとは意識していなかった。しかし,このやりとりの途中から,表情が変わり,声が明るくなった。

C:  家族も学校も最悪…(いつものように,家族や学校など,周囲への不満を並べ立てる)
T: 最悪じゃないことは何かある?
C: ない。全くないですね。とにかく,家族はばらばら。学校は最悪。 
T: 家族や学校以外も最悪?たとえば,自分の好きなこととか,趣味とか,そういうもの最悪? 
C: うーん。本…読みたい本があったんです。でも,それを読むと,友達にばかにされるから読まないつもりだった。でも,別の友達が,それ持ってたことが発覚したんですよね。 
T: あなたが読みたい本を,友達も読んでたんだね。共通点が見付かったわけだ。それで? 
C: その子に本を借りて読みました。買わずに済んだし,一石二鳥です。 
T: 快く貸してくれたのね。いい友達もってるね。それは,学校での出来事?
C: はい。

◎ 実践 3 コーピングクエスチョン  称賛

・   ブリーフセラピーの「例外探し」,「リソース探し」を入れていき,自己肯定感を高めることをねらう。
 「例外探し」で,子どもの一方的なものの見方を変えることを試みる。
 出てきた例外から,「リソース探し」を繰り返し,子ども自身や周囲の人,周囲の状況などによさを見いだせるようにする。
 「コーピングクエスチョン」「称賛」により,不満を抱えながらも,現状を維持し、やるべきことに取り組んでいる自分に気付かせることをねらう。
 自己肯定感が高まったところで,「ミラクルクエスチョン」を入れ,具体的な解決イメージをもたせる。

一方的な話し方が,回を重ねる毎に,少しずつ改善された。以前は,次々と不満を言うことが多かった。しかも,間を空けず,こちらの相づちも終わらないうちに,どんどん言葉が出てくる状態だった。
 しかし,ブリーフセラピーの技法を生かしたこちらからの問いかけに,じっくりと考え込む場面が見られるようになった。よく考えて言葉を返すようになったことの表れだと思われる。
 この変化は,今後取り入れるミラクルクエスチョンをより効果的にするための土台ができたものと考えられる。

◎ 考察

 家族への不満を一方的に並べ立てていたたが,好きな音楽の話をしているうちに,家族の話題は出なくなる。家族間の問題を第三者が介入して改善することは難しい。しかし,困ったときの対処法を共に考えることで,気持ちが楽になったようだった。
 最後には,「試してみた結果を,今度話すときに教えるね。」と,笑顔で言った。

C:  このところ,また学校が…(学校の不満)
T: 不満な点が多いんだね。それなのに,よく学校に行くことができているね。すごいよ。
C: 仕方なく行ってるってのが本音です。 
T: それでも,行けてるわけでしょ。よくがんばってるよね。どんなふうにがんばってるの? 
C: がんばってるって言うか,うーん。基本的に,病気でない限り登校します。そうだなあ。休んだら,その分勉強遅れるし,そうなったら取り戻すの大変だしって思いつつ…
T: 自分のやるべきことに,一生懸命取り組んでるんだね。 
C: まあ。そうかな。周りはそんなふうには見てないと思うけど… 
T: あら,私は,あなたをそんなふうに見てますよ。

◎ 実践 2  リソース探し