低学年における生活・学習習慣の指導の充実に向けて
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 子どもの学力や社会性,道徳性と生活・学習習慣との関連が改めて注目されるようになり,低学年指導の重要な課題の一つとなっています。


 本研究委員会では,生活・学習習慣の指導の充実に向けて,指導やしつけにかかわる小学校の低学年担当教諭(以下,小学校の教師と表記)や幼稚園・保育園の教諭及び保育士(以下,幼稚園の教師と表記),小学校低学年の保護者(以下,小学校の保護者と表記),幼稚園・保育園年長児の保護者(以下,幼稚園の保護者と表記)を対象に,生活・学習習慣に関する意識調査を行いました。


 アンケート調査の結果から見えてきたことやこれまでの指導の経験を基に,生活・学習習慣を育成していく上で大切にしていかなければならないことを以下にまとめました。


詳しいアンケート調査の結果はこちら
 他律的な行為から自律的な行為、そして習慣化へ
 生活や学習をしていく上で望ましい行為が習慣として身に付くまでには,他律的な行為から自律的な行為,そして習慣化という段階があります。発達段階から見ると,低学年の子どもたちは,他律的な行為から少しずつ,自律的な行為へと移行する時期だととらえることができます。例えば,低学年の子どもに見られる親に褒められるからする,しかられるからしないという行動は,他律的な行為と言えます。


 入学直後の子どもたちは,小学校という新しい環境で生活するために,覚えなくてはならないルールがたくさんあります。私たち教師は,教えなければならないことがたくさんあり,つい,行動の規制に偏った指導になってしまいがちです。しかし,命令や禁止だけの指導や場当たり的な指導では,子どもの行為も,その場だけの他律的な行為になってしまいます。


 指導に当たっては,スキルや適切な行為を教える外面的な指導だけでなく,その行為の意味や理由などを,伝えたり考えさせたりする内面的な指導を繰り返し行うことが大切です。そして,子どもが自ら,自分の行為の点検や確認ができることを目指した指導を心掛けることが大切です。


 右のグラフは,「自分のことだけでなく,周囲のことを考えて行動する」という指導項目に対する教師の意識調査の結果です。5割以上の小学校の教師が,「困難」「どちらかといえば困難」と感じています。他の項目と比べても指導の困難さを感じている教師の割合が高かった項目です。


 「自分のことだけでなく,周囲のことを考えて行動する」ためには,スキルや適切な行為を教えるだけでなく,内面的な心情や判断する力を育てていく必要があります。その場その場での適時の指導と,道徳の時間や特別活動の時間などを活用した定時の指導を組み合わせ,繰り返し行うことが重要になります。


指導の困難さに関する意識調査の結果
 なぜ,身に付けさせていくのかを明確にする
 子どもは,自分の思いや願いを実現させながら成長していきます。しかし,それは,「自分さえよければ」という考えではなく,他者とのかかわり中で実現させていかなくてはなりません。子どもたちに生活・学習習慣を身に付けさせていく大きな理由は、次の2つの力を育てていくことだと考えます。


一人でできる力 自分の責任や義務、役割をきちんと果たす力
みんなと一緒にできる力 みんなのもの,みんなの場所だから迷惑をかけないという公の感覚やみんなと同じという連帯感
 低学年の子どもには、まず、一人でできる力を育っていくことが大切です。一人でできる力がついてくれば、他者と協調できるようになり、みんなと一緒にできる力も育ってきます。指導をする際に、子どもたちにもこの2つの力を意識させていくことが内面化につながると思います。
引用文献 「こころの支援の上手な先生」 光武 充雄 著 より
 指導は子どもができることからスタートする    〜子どもの育ちの連続性を考慮した指導
 幼稚園や保育園から小学校へ入学した子どもたちは,大きな期待と不安を感じています。広い教室や長い廊下,たくさんの先生や上級生など,今までとは違う生活環境にとまどいを感じる子どもも少なくありません。また,40分〜45分単位の時間割による学校生活のリズムや,机に着いての学習スタイルに慣れない子どももいます。小学校生活の入門期である1年生においては、子どもが感じている,幼稚園・保育園と小学校との段差を考慮した指導が必要です。


 右のグラフは,「時間を守る」「正しい姿勢で学習する」という指導項目に対する教師の意識調査の結果です。小学校の教師の「(指導に)重点を置きたい」という数値が,幼稚園の教師の数値を上回っています。このように,就学前と入学後では,教師の指導に対する意識に違いがあることが分かります。この意識の違いも,幼稚園・保育園と小学校の段差を高くする要因の一つになっているのかも知れません。 
 児童理解に基づいた指導
 就学前教育と小学校教育の段差が高すぎると,子どもたちに過度の負担や不安を与えてしまいます。「小学校へ入学したのだから,○○しなければならないんですよ」「今年の1年生は○○もできない…」と,一方的に押しつけたり,子どもを否定的にとらえたりしして指導すると,つい威圧的な指導になってしまいます。また,このような指導では,「自分で」「自分から」という部分は、育ちにくいことが多いようです。


 
他の項目のアンケート結果はこちら
 まずは、今できることから指導をスタートさせることが大切だと思います。子どもを肯定的に理解し,できることを強化していくことが必要です。ちょっとがんばればできる目標を設定し、そして、できたときの心地よい気持ちを体感させ、価値付け、次のステップへの意欲をもたせる指導を心掛けていきたいものです。


 本研究委員会では,低学年の子どもに身に付けさせたい生活・学習習慣を洗い出し,学校で直接・間接的に指導できるものを一覧にまとめました。 指導項目一覧はこちら 下の表のように,1つの項目の中に,具体的な内容が複数あるものについては,段階を意識しながらまとめました。このように,身に付けさせたい行為をスモールステップに分けておくことで、実態にあった具体的な指導をすることが可能になります。


聞く
・先生や友達の話を最後まで聞く
・私語をせずに聞く
・話す人を見て聞く
・うなずきながら聞く
・自分の考えと同じか違うかを考えながら聞く
・聞いて,分からないことがあったら尋ねる
入学当初・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2年生・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 子どもが安心して生活できる学級づくり    〜 一貫した厳しさと優しさのある指導 〜
 本研究委員会では,意識調査の結果を統計的に処理し,学校生活の中で低学年の子どもに身に付けさせていきたい生活・学習習慣を以下の4つに大きく分けてみました。


@ 身辺自立に関すること
A 食べることに関すること
B 対人関係に関すること
C 学習に関すること


 アンケート調査の結果から,身辺自立に関する習慣については,主な指導やしつけの場を「家庭」と考える教師や保護者が多数見られました。しかし,対人関係や学習に関する習慣については,主な指導やしつけを学校に期待している保護者が多いことが分かりました。 少子化や帰宅後の遊び時間の減少など,子どもを取り巻く環境の変化を考えると,学校は,大切な集団生活の場であり,学校生活は,望ましい習慣を身に付けるよい機会と考えることができます。
小学校の保護者が考えるしつけや指導の場に関する意識調査の結果


 子どもたちにとって,学校生活の土台となるのが学級での生活です。特に低学年の子どもたちは,多くの時間を学級担任や学級の友達と過ごします。子どもが安心して自分らしさを発揮できる学級,互いのよさを認め合い,共に学ぼうとする学級をつくっていくことが,よりよい生活・学習習慣を定着させていくことにもつながります。


 右のグラフは,意識調査の結果から,「友達と話したり遊んだりする」「日常の出来事などについて先生と話す」について,小学校の教師と幼稚園の教師が,どの程度指導の重点を置きたいと考えているのかを比較したものです。友人関係については,両者とも約6割が「重点を置きたい」と考えています。一方,教師との会話については,「重点を置きたい」と考える小学校の教師が,幼稚園の教師に比べるとやや低い割合になっています。


 低学年の子どもが学級の中で安心して生活できるようにするためには,まず,教師との二者間の関係をつくっていくことから始めていくことです。教師が一人一人の子どもを認め,励ましていきながら,子ども同士の関係を広げ,認め合いや学び合いのある学級の雰囲気をつくっていきたいものです。


 また,教師の一貫した指導を心掛けることです。より良い行為を身に付けさせていくためには,教師の指導に「いやみのないしつこさ」が必要です。教師のかかわり方が子どもの自己規律に大きく影響していきます。一貫性をもってしかったり、ほめたりしながら子どもに行為に対するフィードバックをしていくことがとても大切になってきます。


 
 また、教師自身がルールやマナーを徹底して守り、モデルを示していくことは言うまでもありません。

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