平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査Web報告書

Web報告書もくじⅤ  まとめ

 

Ⅴ まとめ ~「2つの課題」の改善へ向けて~

学習指導要領における「言語活動の充実」について
 


今、私たちが生きる社会は、数年先のことが予測できないほど変化のうねりに富み、そしてその変化のスピードは急速に進んでいる。その変化への対応を迫られる次世代の子どもたちに求められる能力や資質。それは、幅広い知識と柔軟な思考力に基づいて判断することや、他者と切磋琢磨しつつ異なる文化や歴史に立脚する人々との共存を図ることなどであり、変化に対応する能力や資質がこれまで以上に一層求められている。そして、これらを如何に具現化するかということから、平成19年に学校教育法の改正という形で法律上、次のように規定された。



学校教育法第30条の第2項
前項の場合においては、生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。



 

この第2項に含まれる、いわゆる学力の重要な「3つの要素」及び学習指導要領の改訂の7つの基本的な考え方を踏まえ、充実すべき重要事項の1つとして「言語活動の充実」が示された。この「言語活動の充実」とは、各教科等において思考力、判断力、表現力等を育む観点から、基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに、言語環境を整え、言語活動の充実を図ることに配慮することとされている。


文部科学省は、学校への周知徹底を計るべく、学習指導要領解説書及び言語活動の充実に関する指導事例集を刊行し、解説や具体を例示することで学校現場への浸透を図っている。この2つの中で「言語活動の充実」として、国語科においては、「話すこと・聞くこと」、「書くこと」、「読むこと」のそれぞれに記録、要約、説明、論述といった言語活動を例示し、言語に関する能力を育成する中核的教科としての役割を明らかにしている。また、国語科以外の各教科等においても、教科等の特質に応じた言語活動の充実について、それぞれの教科で実施する学習活動の中で、具体的にどのように言語活動を充実させるかということを示している。

平成20年に公示された学習指導要領は、その内容の一部(算数・数学及び理科)は授業時数の増加の前倒しも含め、平成21年度に先行して実施された。


その翌年実施された平成22年度全国学力・学習状況調査では、その結果として、概要の中で「資料や情報に基づいて自分の考えや感想を明確に記述すること、日常的な事象について、筋道を立てて考え、数学的に表現することなど、思考力・判断力・表現力等といった『活用』に関する記述式問題を中心に課題が見られた。さらに、『知識』に関する問題においても引き続き課題が見られるなど、知識を活用する力を育成することと合わせ、基礎的・基本的な知識・技能も定着させることが重要である」※1と示された。 この状況については、平成22年度に実施した佐賀県小・中学校学習状況調査の結果においても同様のことが明らかとなっている。


学習指導要領の一部が先行実施されたものの、そのねらいであった思考力・判断力・表現力等を育むには至っていないと示されたその翌年、平成23年度に小学校、更に、平成24年度に中学校が現行の学習指導要領に完全実施となった。

 

「2つの課題」
 

平成25年度の全国学力・学習状況調査(以下、全国調査)は、小学校及び中学校における学習指導要領の完全実施後、初の悉皆調査であった。佐賀県では、これを活用した佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査(以下、県調査)を実施した。


県調査の各教科の調査結果において、平成24年度の全国調査(抽出調査)結果で国立教育政策研究所が示した2つの課題が、平成25年度においてもほとんどの教科で未だ解決されていない状況であるということが明らかとなった。

「要努力」に位置する児童生徒の増加という課題


この2つの課題のうち、1つ目は成績下位層の生徒の割合が多いということである。これは全国に比べ佐賀県の場合は、より顕著であり、「平成25年度 全国学力・学習状況調査【 都道府県別 】集計結果」佐賀県版資料※2で示されている正答数分布グラフにおいて、小学校、中学校共に全国の公立学校の分布状況と比べ、成績下位層の割合が高いという状況であった。また「平成24年度 全国学力・学習状況調査【 都道府県別 】集計結果」佐賀県版資料※3においても同様の結果であったことから、2年連続の課題となっていることが分かる。

県調査においてもこの課題は明らかになっており、平成24年度の県調査から設定している修正エーベル法を用いた到達基準を基に、平成24年度と平成25年度の県調査の各教科を比較すると、小学校で10教科中7教科、中学校では16教科中11教科において、要努力の範囲に属する児童生徒の割合が増加していることが分かった。つまり、各学年の多くの教科において、何らかのつまづきが見られる児童生徒がここ数年増加する傾向にあるということである。
 

「解釈・考察し、説明すること」や自分の考えや意図を記述することに関する課題

先に述べた2つの課題のうち、2つ目は、「解釈・考察し、説明すること」や自分の考えや意図を記述することに関する課題である。各教科の正答率と意識調査のクロス集計の結果を見ても、自分の考えや意図を記述する設問に対し、解答していない児童生徒の正答率が低いことが分かる。これも小学校及び中学校共通の課題である。これは平成25年度だけでなく、平成24年度に行われた県調査においても「条件に合わせながら自分の考えを記述することなど、説明や表現、応用や活用については、全教科に共通した課題」であり、改善できていない。

 
「2つの課題」の改善に向けて
 

児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育む観点から、学習指導要領に示された「言語活動の充実」であるが、平成24年度の県調査並びに全国調査で課題とされた「2つの課題」は、平成25年度の調査においてもいまだ解決されたとは言いがたい状況だと考えられる。

1つ目の課題として前述した「『要努力』に位置する児童生徒の増加という課題」についてであるが、到達基準で示す「要努力」に位置する児童生徒の状況は、楽観視できるものではない。教科の特性上、前年度の学習内容を踏まえた上で理解できる知識や内容なども多い。次年度に課題を繰り越すことなく、その学年で取り扱う内容はその年度のうちに定着を図る手立てを取ってほしい。もし、前学年の内容の定着が図られていない児童生徒がいる場合は、個別に対応するなどできるだけ早期に対策を行う必要がある。

また、2つ目の課題として示した「『解釈・考察し、説明すること』や自分の考えや意図を記述することに関する課題」についてであるが、これについては、学年や教科によってその原因や状況が異なる可能性がある。記述式の設問において、解答を書いていない状況であったとしても、この「解答しなかった理由」は、大きく次の3つのケースが考えられる。

 ① 解答しようと努力したが、問題が難しくて解答できなった。

 ② 解答を文章で書く設問であったため、解答しようと思わなかった。

 ③ 解答する時間が足りなかった。

また、上記①のように「問題が難しい」ということで結果的に解答しなかった場合、次の4つのケースが理由として考えられる。

 ① 問題文に書かれている意味が分からなかったので解答しなかった。

 ② 問題文の意味は分かったが、何を書いてよいか分からなかったので解答しなかった。

 ③ 問題文の意味は分かり、何を書いてよいかは分かったが、考えがまとまらなかったので解答しなかった。

 ④ 何を書いてよいかということの考えはまとまったが、解答に自信がなかったので解答しなかった。

記述式の設問において、何も書いていないことを単純に無解答と捉えるにとどめるのではなく、上記の理由を念頭に指導に当たることが重要である。

 

最後に、報告書で示したデータ等は集団の状況を表しているものである。そして、その集団の要素は一人一人の児童生徒である。解決の手立てについては、授業における一斉指導等、集団に対して行えるものもあれば、個別指導でしか行えないものあるだろう。

それぞれの教科の特性や、校種、各学校の状況などが異なることから、速効性のある効果的な解決策というものは見いだすことは難しい。しかし、この状況を放置してよいということにはならない。PDCAサイクルに基づいて、できる限り早く各学校で詳細な分析を行い、児童生徒一人一人に関する状況把握と、それを基にした教科や学級における個別対応、補充的学習などを通して、早急に対応してほしい。


《引用文献》
※1
平成22年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント

http://www.nier.go.jp/10chousakekkahoukoku/10_point.pdf

※2 平成25年度 全国学力・学習状況調査【 都道府県別 】集計結果 佐賀県版

http://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/data/area/41_saga/index.html

※3 平成24年度 全国学力・学習状況調査【 都道府県別 】集計結果 佐賀県版

http://www.nier.go.jp/12chousakekkahoukoku/todoufuken_shuukeikekka/41_saga.htm

《参考文献》

言語活動の充実に関する基本的な考え方

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/gengo/1306118.htm



最終更新日:2013-10-21