本調査では、社会的事象に関わる知識、概念を習得することと、社会的事象について資料から読み取ったことや自分で解釈したことを説明することに課題があることが分かった。学習指導要領には、主体的に生き、公共的な事柄に自ら参画していく資質や能力を育成するために、基礎的・基本的な知識、概念や技能を習得させ、思考力・判断力・表現力を確実に育む学習を重視することが必要であることが示してある。そこで、社会的事象の理解を深めさせ、思考力・判断力・表現力の育成を図るために、以下のことについて留意したい。
(ア)社会的事象の理解を深めさせるために
①習得させる知識、概念の明確化
○指導計画の中に、習得させる知識、概念を明記する。
○授業の導入段階で学習のめあてとともに、習得させる知識、概念をキーワードとして提示する。
②知識、概念を習得させる指導の工夫
○資料等の活用や作業的、体験的な学習からつかんだ事実を基に、社会的事象の関連性を考えさせたり、説明させたりする。
○コンピュータを使って調べたことや、地図、新聞、読み物、統計などの資料から読み取った情報を活用させる。
○授業の前後に小テストなどを実施し、反復的な学習を設定する。
(イ)思考力・判断力・表現力の育成を図るために
①社会的事象について説明させる活動
社会的事象の特色や意味について考えさせたことをワークシートに記述させたり、プレゼンテーション資料にまとめさせ発表させたりするなどの手立てが考えられる。
○考えられる授業展開例
・地理的分野の「世界各地の人々の生活と環境」の学習では、地図や雨温図から読み取らせた世界の気候の分布や特色と世界各地で見られる人々の生活との関連性について考えさせたことを、ワークシートに記述させる。
・歴史的分野の「古代までの日本」の学習では、正倉院にある天平文化の宝物と西アジアで発見された美術品に共通点について考えさせたことを、プレゼンテーション資料にまとめさせ発表させる。
・公民的分野の「私たちが生きる現代社会と文化」の学習では、日本の人口構成の変容と現代の社会生活の変化との関連性について考えさせたことを、レポートにまとめさせる。
②学習課題について話し合わせる活動。
授業の中で設定した学習課題に対して、自分で考えさせたことを意見交換させたり、討論させたりするなどの手立てが考えられる。
○考えられる授業展開例
・地理的分野の「日本の諸地域」の学習では、持続可能な社会の構築や環境保全への取り組みの重要性について考えさせるために、身近に起こっている環境問題を取り上げ、その解決策について協議させる。
・歴史的分野の「開国とその影響」の学習では、開国後の日本の変容や社会的な影響について考えさせるために、「日本は開国すべきかしないべきか」を論題に討論させる。
・公民的分野の「民主政治と政治参加」の学習では、選挙の意義について理解を深めさせるために、国民の政治参加に関わる問題を取り上げ、解決策を考えさせ、意見交換をさせる。
(ウ)教師意識調査の結果より
教師意識調査(27)の「社会で、生徒が資料などから読み取ったことを基にして考えたことを、話し合う(討論)活動を取り入れた授業を行っていますか。」という質問に対して、「多くの単元で行っている」と回答した教師の割合は、10.6%で、「半分程度の単元で行っている」と回答した教師の割合は11.2%で、合わせると21.8%である。これは、平成24年度の教師意識調査の同じ質問において「多くの単元で行っている」「半分程度の単元で行っている」のいずれかに回答した教師の割合の合計である19.0%を、2.8ポイント上回る結果となった。その背景には、学習指導要領の改訂によって、言語活動を授業に取り入れることで思考力・判断力・表現力の育成を図ろうとする教師の意識の高まりがあることが考えられる。今後このような授業を一層重視することは、思考力・判断力・表現力の育成の観点からも有効であると考えられる。 |