平成24・25年度 佐賀県教育センタープロジェクト研究 
 
 
   
       研究の実際
   (5)
  生徒の誰もが学びやすい学習環境を取り入れた授業づくり
  〈授業づくりの視点〉
 

高等学校学習指導要領解説総則編において、「各教科・科目等の指導に当たっては、生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取り入れるようにすることが必要である」と示されています。この趣旨を受けて、本研究では、高等学校において、生徒の誰もが学びやすい授業づくりに取り組むために、次のような2つの視点を基に考えました。

   
   ※次の【視点1】【視点2】についての説明の中で、「過程」「段階」という言葉を使っています。「過程」とは、1単位時間の授業の道筋である「導入」-「展開」-「まとめ」の学習の流れを 示しています。また、「段階」とは、 過程を区切った「導入」「展開」「まとめ」のそれぞれを示しています。
   
 

【視点1】  1単位時間の授業の中で、「学習の見通しをもつ活動」及び「学習したことを振り返る活動
       を
行う
時間
設定する

   1単位時間の授業の中で、「導入」-「展開」-「まとめ」の過程を位置付けて、導入の段階で「学習の見通しをもつ活動」を、また、まとめの段階で「学習したことを振り返る活動」を行いました。さらに、それぞれの段階において、次のような留意点を意識しながら、様々な学習活動を行いました。
     
 
過 程 及び 段 階
留 意 点

① 導入

   学習の見通しをもつ活動を行う

どの教科であっても、授業の導入における配慮は、とても重要です。とりわけ、発達障害の特性を有する生徒にとっては、授業の見通しを最初に示されることは、授業の展開が予測でき、安心して授業に参加できることにつながります。また、授業の最初の3分程度を使って、前回の振り返りを行うことも、前回の授業内容から今回の授業内容へつながり、スムーズに授業に臨むきっかけになります。

 展開

教師の説明を聞く場面、板書を書き写したり計算問題を解いたりする作業的な場面、推論したり考えたり自分の意見を発表したりする場面を、バランスよく組み合わせるなどの工夫が大切です。また、それぞれの活動に生徒が意欲をもって取り組むことができるように、活動の量や活動形態の工夫を行うことも大切だと考えます。

③ まとめ

   学習したことを振り返る活動を行う

  

授業の終わりに、授業の振り返りを行うことが大切です。例えば、授業の最後の5分程度を、その日の授業の振り返りに充てることは、生徒の学習内容を整理し、断片的な記憶の関係付けを支援する効果があり、授業内容の理解・定着につなぐことができると考えます。また、次回の学習内容を示すことで、発達障害の特性を有する生徒の心構えにつなげることができると考えます。

 
 

大阪府教育委員会編著  『高校で学ぶ発達障害のある生徒のための 共感から始まる「わかる」授業づくり』
                   
2012年8月 ジアース教育新社 p.15

 
     
 

【視点2】  それぞれの段階の中で行う様々な学習活動に対して、学びやすい学習環境を取り入れ

   「導入」「展開」「まとめ」のそれぞれの段階において行う様々な学習活動に対して、生徒の誰もが学びやすい学習環境を取り入れました。その際に、教師が意図した学習活動についての生徒の苦手さを想定し、その苦手さを踏まえた学びやすい学習環境を取り入れるようにしました。  
      
    ここで、本研究で行った授業実践において、「導入」と「まとめ」の段階で、具体的にどのような学習環境を取り入れて、「学習の見通しをもつ活動」及び「学習したことを振り返る活動」を行っていったのかについて、その様子を紹介します。詳しい内容については、「2 研究の実際 (7)学びやすい学習環境を取り入れた授業の実際」の各校の授業実践の中で紹介しています。なお、「展開」の段階では、それぞれの学習活動に対して、学びやすい学習環境を取り入れていく必要があります。

ここでは、「学習の見通しをもつ活動」及び「学習したことを振り返る活動」の取組に対する実践について紹介します。

 
     
  「導入」の段階 (学習の見通しをもつ活動を行う)  
 

考えられる生徒の

学習の苦手さ

・言葉による指示や説明を正しく聞いて、イメージをもつことが苦手な生徒

・口頭による説明を聞いて、本時の学や内容を覚えておくことが苦手な生徒

・学習の見通しをもつことが苦手な生徒

 
 

 
 
 

授業実践で活用された生徒が学びやすい学習環境例

(画像上をクリックすると詳しい説明が分かります)

前時の学習内容や以前に学習した内容を想起する活動

 【前時のワークシートを

電子黒板で提示】

【以前の学習内容を

図に表す】

【前時の学習内容を

図式化して提示】

本時の学習内容や学習の流れを確認する活動

【学習の流れを板書する】

【学習の流れを板書し、

済んだ箇所に線を引く】

【学習している箇所に

マグネットを付ける】

 
     
  「まとめ」の段階 (学習したことを振り返る活動を行う)  
 

考えられる生徒の

学習の苦手さ

・文章理解が苦手な生徒

・学習のポイントがどこかを見分けることが苦手な生徒

言葉による説明を正しく聞いて、イメージをもつことが苦手な生徒

 
                                    
 
 

授業実践で取り入れた生徒が学びやすい学習環境例

(画像上をクリックすると詳しい説明が分かります)

 本時の学習内容を振り返り、ポイントや重要語句などを確認する活動

 【板書を基に学習の流れに

沿って振り返る】

【板書の中の、色チョークで

 示した語句を振り返る】

【本時の実験の現象を

 図で表して振り返る】

 
     
     
  〈生徒が学びやすい授業づくりの視点を取り入れた授業案の工夫〉
   本研究では、授業実践に際して、生徒が学びやすい授業づくりの視点を取り入れた授業案を作成するに当たり、次のような工夫をしました。(授業案の形式の紹介)  

「配慮と工夫」という項目を設けて、その項目の中に、「導入」-「展開」-「まとめ」の過程を位置付けて、それぞれの段階の中で取り入れられた学習環境と取り入れる意図について示すようにしました。そして、「導入」の段階では、生徒が見通しをもちやすくなる学習環境について、そして、「まとめ」の段階では、生徒が学習したことを振り返りやすくなる学習環境について示すようにしました。 

   また、「展開」の段階では、それぞれの学習活動に対して取り入れた学びやすい学習環境を示すようにしました。  
     
   本研究で作成した「授業案」は、通常の学習指導案と異なり一般的ではありませんが、高等学校の先生方が、特別支援教育の視点で授業づくりを進められる際に、参考にできるのではないかと考えています。  
     
    このように、生徒が「学習の見通しをもつ活動」と「学習したことを振り返る活動」を1単位時間の授業の中に設定し、さらに、学びやすい学習環境を取り入れることで、生徒は学習したことが理解しやすくなったり、授業に対して見通しをもちやすくなったりすると考えられます。そして、このような視点をもって授業づくりを行うことが、生徒の誰もが学びやすい学習環境づくりにつながると考えられます。  
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