平成24・25年度 佐賀県教育センタープロジェクト研究 
 
                                                                                               
   
  2 研究の実際
(2)
  高校生と発達障害
 発達段階としての高校生の時期について
    アメリカの発達心理学者エリクソンは、発達段階論で、高校生の時期を青年期にあるとしています。 青年期は、自分がどのような人間かということを確立することが課題となり、同一性(identity)の確立を目指して試行錯誤しながら、少しずつ自分の生き方、価値観、人生観、職業を決定し、自分自身を社会の中に位置付けていく時期だと述べています。
  さらに、児童青年精神科医の佐々木は、青年期を、自分らしさが気になり始めて、自分を他人と比べたり、男女の違いを意識したり、同一性(identity)が確立されたりする時期だと述べています。
  このように、高校生の時期は、生徒が自分とは何者かを考え始めるようになり、自分らしさを探すため自分を他人と比べる時期でもあり、自分と他人のささいな違いを気にしていろいろ思い悩む時期だと言えます。
   
イ 発達障害の特性について



平成16年に制定された発達障害者支援法では、「発達障害は、自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であって、その症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。 これらの障害の特性については、下記で説明します。
  発達障害は、小さい頃の親のしつけや育て方が直接の原因でもなく、本人の努力不足が直接の原因でもありません。そして、子どもを取り巻く周りの人の対応や成長に伴うものなど、環境の違いによって状態が著しく変化することがあり、これらの状態が、重なり合っていることもあります。また、一人一人異なった状態が見られます。

 (ア)
自閉症
 

自閉症には、知的発達の遅れを伴う場合と知的発達の遅れを伴わない場合があります。どちらにも共通していることとしては、「他人との社会的関係の形成の困難さ」「言語の発達の遅れ」「想像力の弱さから興味や関心が狭く特定のものにこだわること」が挙げられます。自閉症の中で知的発達の遅れを伴わない場合には、「高機能自閉症」といわれることがあり、また、知的発達の遅れを伴わず、言葉の発達の遅れを伴わない際には「アスペルガー症候群」といわれています。自閉症の特徴は、大きく、以下の3点です。

1点目は、「社会性」の特性です。例えば、暗黙のルールが分からずに、静かにしなければいけない場所で大声を出してしまったり、買い物の際にレジの列に並ばないといけないのに横入りしてしまったりするという様子として表れます。

2点目は、「コミュニケーション能力」の特性です。例えば、相手の気持ちが分からずに、自分の興味・関心があることを一方的に話し続けたり、表情やしぐさなど、言葉以外を使ったコミュニケーションを理解することも使うことも苦手で、言葉を字義通り理解してしまったりするという様子として表れます。

3点目は、「想像力」の特性です。例えば、初めて体験することにすぐには対応できない、予定外の出来事があると不安になる、場面の変化に応じて気持ちを切り替えることが苦手である等、目に見えないものや抽象的なことを理解して応用したり予測したり仮定したりすることが苦手であるという様子として表れます。

上記に挙げた例は、あくまで特性の一部であり、一人一人の特性が様々な様子として表れることがあります。

 (イ) 学習障害(LD)




学習障害(LD)は、知的発達に遅れはなく、認知能力に偏りがあり、学習内容に対する理解や定着の困難さとして表れることがあります。例えば、音声は聞こえているが、意味のある音として、また、言葉として捉えられていなかったり、文脈全体の意味を理解していなかったりすることによって、説明や指示の理解が困難な状態になることがあります。
  「話すこと」においては、適当な言葉が見付けられなかったり、発音しにくい音や言葉があったり、文を組み立てることができなかったりすることにより、自分の考えや思いを他人に伝えることが困難な状態になることがあります。
  「読むこと」では、形や位置を識別して、記憶することができなかったり、文字と音を適切に結び付けられなかったりすることによって、文章を理解し内容を整理して把握することが困難な状態になることがあります。
  「書くこと」では、文字情報を分析する視覚認知において課題があることにより文字や文章を書くことや計算すること、形を整えることが困難な状態になることがあります。
  「計算すること」では、「数」が「量」や「順序」を表していることを理解する力や計算すべき数や繰り上がりを記憶する力などに苦手さがあるために、繰り上がりの計算ができない、数を論理的に操作できない等の困難な状態になることがあります。
  「物事を予想したり推論したりすること」では、視覚・空間認知の困難さ、抽象的・論理的思考力の不足、視覚と運動を関係付けコントロールできないことによって、図形の理解が苦手だったり、模写ができない、時間・場所の認識が弱い等の困難な状態になることがあります。
  ここで挙げた例も学習障害の一部であり、一部だけが苦手さとして表れることもありますが、複数の苦手さとして表れることもあります。

 (ウ)
注意欠陥多動性障害(ADHD)


  注意欠陥多動性障害(ADHD)は、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものです。不注意・多動性・衝動性という3つの特徴が見られます。
  「不注意」の側面としては、注意を適切に分配できなかったり、様々な外的な刺激に注意が向きやすかったりすることがあります。例えば、黒板やその周りに貼ってあるものやささいな物音や出来事によって、注意がすぐに散漫になってしまいます。そのため、注意が戻ったときには授業が進んでしまっている状況になり、分からなくなる場合があります。
  「多動性」の側面としては、じっとしていなければならない状況で、過度に落ち着きがない状態です。例えば、授業中じっとしていることが難しく、身体を動かしたり、私語が禁じられている場面でも、近くの同級生に思いついたことを話したりすることがあります。
  「衝動性」の側面としては、人との会話中に、話題に関係ないことであっても頭に浮かぶと、すぐにそのことについて話し出すなど、会話がスムーズにつながらずに、対人関係を困難なものにさせることがあります。授業中では、教育職員の質問が終わらないうちに出し抜けに答えたり、分からないことがあるとすぐに質問したりすることがあります。
  このような行動の多くは年齢とともに改善していきますが、教育職員や保護者からの叱責を受けてばかりいたり、同級生とのトラブルが頻発したりすると、自己肯定感が低下するとともに、言動がより乱暴になっていくことがあります。
   
ウ 高校生の発達障害
 

発達障害のある高校生は、その特性から学習面や生活面に様々な苦手さを抱えています。また、自分らしさが気になり始めて自分を他人と比べたり、男女の違いを意識をしたり、自分とは何者かを考え始めたりするようになります。アイデンティティが確立されるこのような時期に、発達障害のある高校生にとって、学習面や生活面の苦手さに対する教師の理解と支援がなされなければ、様々な場面において、生徒はうまくいきにくい状況に陥ることが考えられます。指示された通りの行動ができなかったり、学習内容の理解が進まなかったりするなどの失敗体験を積み重ねてしまうことで、生徒の自尊心が傷つき、自己肯定感が低下することにつながってきます。そして、そのことで、生徒が本来抱えている苦手さとは別の二次障害として、長期欠席や問題行動、学力不振につながることも考えられます。

発達障害の特性を有する生徒がアイデンティティを確立していく時期だからこそ、高等学校において、生徒の自己肯定感を高めるために、生徒が「できた」と感じることができる成功体験につながるような環境を整えていくことが必要だと考えます。このように、高等学校においては、生徒が抱える苦手さに対する教師の理解と具体的な支援が求められていると考えます。

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