生活をよりよくしようとする生徒を育てる問題解決的な学習の進め方を提案します!

   
   
 2 研究の実際
(2) 家庭科分野の授業において
 @ 問題解決的な学習についての工夫
 ○ 問題解決的な学習の進め方
 

学習指導要領においては、問題解決的な学習の進め方について、計画、実践、評価、改善の一連の学習過程で行うことが示されています。各段階の中でも特に実践に至るまでの「計画」の段階は、問題解決的な学習を主体的に取り組ませる上では、重視しなければいけない段階といえます。そのため、教師側の一方的な課題提示ではなく、生徒自身が課題に気付き、意欲的な課題解決につながる生徒の主体的な学びを引き出す工夫が必要であると考えます。さらに、生活をよりよくしようとする生徒を育てるためには、多角的に物事を捉え、よりよい方法を選択したり修正したりする学習過程が必要であり、荒井氏の「批判科学に基づく問題解決のステップ」は、とても参考になるものと考えます。そこで、「批判科学に基づく問題解決のステップ」に学習指導要領で示された問題解決的な学習の学習過程を組み入れて図のようにまとめてみました。その中で、特に「計画」の段階を2つに区分し、主体的な学びを引き出すための工夫として大切な課題発見の取組を「計画」の段階に明確に表記しています。
  図 問題解決的な学習の進め方

各段階での学習内容について表にまとめてみました。

段  階
学 習 内 容



「計 画」

課題
発見

意思
決定
問題に気付く
生活を見直し、問題を意識する。
現状を把握し分析する
問題を認識するための情報収集・調査と検討をする。
問題を特定する
生活における解決すべき問題を明確にする。
解決方法を考え選択肢を出す
問題を解決するために選択肢・アイディアを出す。
選択肢を多角的に検討する
問題を様々な角度から見たり、情報を相対化したり、解決策の中からベストな案を見付け出す。
「実践」
決定し実行する
最善と思われることを選択し、家庭で実践したり、地域社会に発信したりする。
「評価・ 改善」
結果を振り返る結果を振り返り、問題点を明らかにして次の実践に生かせるようにする。
 
 ○ 問題解決的な学習の取り入れ方
 
  問題解決的な学習過程を題材に入れる方法として、2つのタイプが考えられます。@題材の一部に問題解決的な学習を導入する場合、A題材全体を問題解決的な学習として位置付ける場合です。本研究では、全7時間の住生活の授業をAの学習全体を問題解決的な学習で行う取り入れ方で行います。「計画」の段階の課題発見において、基礎的な知識・技術の習得を行い、そこから問題を特定する授業展開にしています。これは、荒井氏が提案している「授業づくりの方略」のアで示している方法で、基礎と応用・活用とを問題解決的な学習でつなぐ形をとるようにしています。
 
 ○ 課題発見のための工夫
 

生徒の学びが深まるかどうかは、それが生徒自身にとって学びたい、学ぶ価値があると感じられるかどうかが大きく関わってきます。そのため、「計画」の段階の課題発見の手立ては大変重要な役割を果たします。生徒自身の日常に目を向けさせ、気になっていること、問題を意識させるような工夫が必要だと考えました。
どのような方法で問題を意識させることができるかを分類してみました。

分   類
方          法
考えを表現させる KJ法、イメージ・マップ法、ウェビング法、フィッシュボーン方式 等
体験させる
観察、実験、体験、実習、実物 等
実態をつかませる
生活実態調査、アンケート、インタビュー、統計 等
メディアから気付かせる
写真、映像、図書、TV、インターネット、新聞、広報誌、カタログ、パンフレット、広告 等


  住生活での実践例では、次のような方法を行うことにしました。

分 類
方法
目   的
内       容
考えを表現させる ウェビング法 安全で快適な住まいについて考える 「安全な住まい」「快適な住まい」から連想する言葉をつないで考えていく。
体験させる
実験
生活騒音 洗たく機の音、廊下を走る音のCDを騒音計で計測する。
防音の効果的な方法 目覚まし時計を段ボールの箱に入れたり、厚い布で覆ったりすることで、遮音と吸音を学ぶ。
体験
幼児体験 チャイルドビジョン(幼児視界体験メガネ)を付けて見え方を体験する。
高齢者体験 高齢者疑似体験グッズを付けたり、ICTを活用したりして見え方を体験する。
実物
災害への備え 家具の地震対策グッズを紹介する。
実態をつかませる
統計
地震被害の予想 南海トラフ地震の被害想定を確認する。
地域の洪水の危険 佐賀市洪水ハザードマップを配布し、中学校や自宅への被害想定を確認する。
地域の地震の危険 県内及び周辺の活断層図と川久保断層系の地震による予想震度分布図を示し、中学校付近の被害想定を確認する。
メディアから気付かせる
写真
地震被害 東日本大震災の被害の様子から地震について考える。
図書
家庭内の事故 絵本「ヒヤリハットさんちへいってみよう!」(出典:株式会社ミサワホーム総合研究所)を活用し、家庭内の事故について考える。
TV
住空間、
室内の空気調節
TVアニメの家を活用して、住空間と室内空気調節について考える。
 
 ○ 「問い」の工夫
 
   問題解決的な学習の学習過程において、課題を解決するときには、課題解決の根拠となる価値判断の基準が重要となります。そのため、荒井氏が提唱している『批判的リテラシーを育む「問い」の役割と3つの「行為」』を基に、第3の「解放的な問い」を意識して授業を進めていくことにしました。生徒が個々の課題に直面したときのよりどころとなる価値観を育成することを考え、次のような「問い」を行うようにしました。
1・2時間目 「安全な住まい」と「快適な住まい」と判断した項目は何ですか。
3・4時間目 あなたの家を安全で快適な住まい方にするためにはどのようなところに課題がありますか。
5・6時間目 あなたの家での課題を緊急度の観点と改善策の取り組みやすさの観点で判断すると、どうなりますか。
7時間目 あなたの家での課題や改善策は、地球環境の保全についても考えることができていますか。
 
 A 話合い活動についての工夫
 
 問題解決的な学習の過程において、話合い活動を取り入れることは、物事を多角的に捉えることにつながると考えます。本研究では、毎時間、話合い活動を取り入れながら、特に「計画」と「評価・改善」の段階での効果をねらっています。グループを考えるための視点を次に示します。
 ○ グループの大きさ
 
 グループの大きさについては、「グループ活動の効果を阻むもの」として不適切なグループサイズが挙げられているように、適切な人数を考える必要があります。グループの大きさは、下の図のように構成人数によって特徴があるため、状況に応じてどの程度の人数が適当か判断していくようにします。例えば、話合い活動の時間枠が短い場合は、少人数の2、3人で組ませたり、話合いのスキルが未熟な生徒が多い場合は、個人の役割責任が軽くなる7・8人で組ませたりします。本研究では、多角的な考えをもたせるため「1人数による学習資源の量」と、グループの様子が把握しやすくするため「6活動状況の把握」に配慮し、5、6人で組ませて実施するようにしました。
 
 図 グループの大きさと特徴

 

 

 

 

 


『【改訂新版】学習の輪−学び合いの協同教育入門−』 ジョンソン,D.W.他 pp.33-35を参考に作成
 
 ○ グループの編成方法
 

グループのメンバーの資質(学力面、性格面、その他の特性等)については、グループの中の異質性が高い方が、より精緻な思考、より頻繁な説明のやり取り、より広い視野に立った議論が期待でき、理解の深さや推論の質、長期間にわたる正確な記憶保持においても優れているといわれています。「グループ活動の効果を阻むもの」としても異種混成が不十分であることが挙げられていることから、本研究では、座席でランダムに編成をしました。また、「グループ活動の効果を阻むもの」としてグループが未成熟であることが挙げられていることから、住生活の学習を通して同じグループで行い、生徒同士のつながりを深め、グループが成長していくことができるようにしました。

 
 ○ 教室の座席配置
 
  座席は、学習環境づくりとして大切で、学習集団としての一体感がもてる配置を工夫すべきだと考えます。話合いを効果的に行うためにはメンバー間の距離も大切で、できるだけ対面して、膝と膝を付き合わせて座らせるようにします。グループとグループ間の距離は、互いの学習を妨げることのないようにできるだけ離し、どのグループにも机間指導がスムーズにできるように配置する工夫が必要です。本研究では、一斉指導の場合は、全体の協同を促すことのできるコの字型隊形で行います。話合い活動の場合は、グループ全員の顔が見えるようにH型隊形で行います。グループでの発表会の場合は、発表者を見やすくするためT型隊形で行います。

コの字型隊形(一斉指導)
 
H型隊形(話合い活動)
 
T型隊形(グループ発表会)
 
 
   
   
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