小学校生活科におけるこれからの「学び」について提案します

 

3 研究のまとめ

 (1) 研究の成果
   本研究では、「気付き」を中心に文献研究や先行研究を基に理論研究をし、2つの授業実践を行い、気付きの質を高める学習指導の在り方を探ってきました。その中でも「表現する活動」と「伝え合う活動」を位置付けた授業モデルと「表現する活動」と「伝え合う活動」を促す学習カード(ワークシート・振り返りカード等)」について有効性を検証しました。
  ア 「表現する活動」と「伝え合う活動」の位置付け方や内容の工夫について
   単元の学習における授業モデルについて、単元の学習過程に応じて「表現する活動」と「伝え合う活動」の効果的な位置付け方と内容があることが分かりました。詳しくは次のようなことです。
 
 導入段階では、思いや願いをもつ過程において対象への気付きを「表現する活動」と「伝え合う活動」を位置付け、気付きの質を高めることができ、意欲の喚起や、対象へのかかわり方について考えることにつながる。
 実践1では、意欲の喚起と思いや願いもつことを意図して、対象に働きかける場面を導入段階に位置付けた。その際、個々の気付きを「表現する活動」により、自分の思いや願いが明確になり、展開段階での活動への意欲と見通しをもつことができた。
 また、 「伝え合う活動」を位置付けたことにより、自分では気付かなかったことを知ることができ、児童相互の気付きの視点が広がり、展開での活動の広がりや深まりにつながった。
 
 展開段階では、実践1と実践2ともに対象に繰り返しかかわる場面を設定し、その場面ごとに気付きを「表現する活動」と「伝え合う活動」を位置付けた。(展開1と展開2) そのことにより、対象への気付きから自分自身への気付きへと高まっていく様子が見られる。
 実践1も実践2も、気付きを表し、お互いの気付きを伝え合うことで、お互いのよさを知り、さらに目に見える形で伝えてもらったことで自分自身への気付きが見られ、気付きの質が高まっていった。
 終末段階では、実践1実践2とも、単元を通した振り返りの場面で「表現する活動」を行ったが、自分自身の活動を振り返って考えたことを表現することにより自分のよさや特徴、成長などに気付くことができた。
 実践1では、ワークシートの綴り等を基に自分の活動を振り返る活動を設定することにより単元の初めや途中の自分と、今の自分の姿を比較し考え表現し、自分自身の気付きへと高めることができた。
 実践2では、賞状を作成し、お互いのよさを「伝え合う活動」を設定したことにより、より自分自身のよさや特徴、成長などの気付きへと高めることができ、今後の学習や生活への意欲をもつことができた。
   
   1単位時間における授業モデルとしては、気付きを表現し伝え合い、さらに表現するという流れを考えました。特に1単位時間の後半に位置付けたほうがよいことが分かりました。細かく見ていくと次のようなことが分かりました。
 
 気付いたことを表現するには、直接対象に働きかける活動が必要で、そうすると対象に働きける活動の後に、気付き等を表現する位置付けとなる。また、45分を1単位時間とする場合は、表現し伝え合い、さらに「表現する活動」を仕組むことは厳しく、気付きを表現することにとどめておく場合もある。そのような場合の「伝え合う活動」は、掲示し常時活動として「伝え合う活動」を位置付けたり、「伝え合う活動」を中心とした学習の時間を設ける必要がある。
 90分を1単位時間とした場合は、その中で表現し伝え合い、再び表現するという授業モデルの流れを位置付けることが可能である。
  イ 「表現する活動」と「伝え合う活動」を促す学習カード(ワークシート・振り返りカード等)について
   「表現する活動」や「伝え合う活動」に有効な学習カードについて次のようなことが分かりました。
 
 「表現する活動」と「伝え合う活動」を1単位時間に位置付けた場合、そのワークシートの中に、気付きを表現する部分と気付きを伝え合う部分、さらに伝え合うことで新たに気付いたことや知ったことなどを書き込む部分を設けるとよい。(ワークシート)
 
 視点を与えるという意味で、教師側から選択肢を提示し、選ばせるような部分を設けることで、より効率よく、気付きについて引き出すことができる。何を書くのか明確であり、児童にとっても記入しやすい。(振り返りカード)
 
 対象に働きかける活動が充実している場合は、絵と文による表現を意図したワークシートや振り返りカードがよい。絵を描くことでその時の様子を思い出し、文章で説明しながら整理することができる。
 
 付せんや小さなカード(実践2における「おきゃくさまカード」)を用意することで、児童は、表現したり伝え合ったりすることへの抵抗感を和らげることができる。そして、それらも、個人や班のワークシートに貼って残すことにより、明確に振り返ることができ、自分や自分たちの班のよさや特徴、成長などに気付くことができる手立てとして有効である。
 
 ワークシートを綴り、それを活用させることによって、自分自身について振り返り、見つめるきっかけとなり、自分自身への気付きを高めることができる。
   
 (2) 今後の課題
   授業実践を通して、次のような課題も見えてきました。
 
 気付きの質を高めるための、「伝え合う活動」の方法の工夫や改善が必要である。
  付せんや小さなカードは、表現することについては効果的であった。このカードを糸口に、詳しいことを質問したり、さらに気付いたことを付せんやカードを用いて返信するなどの工夫により、「伝え合う活動」が充実したものになるのではないかと考える。
 また、個人と個人、グループと個人などで気付き等を「伝え合う活動」から、個人の気付きやグループ内での気付きを全体の場に広げる「伝え合う活動」の取り組みについても考えていく必要がある。
 今回の実践では、自分自身への気付きの高まりが一つの成果としてあげられるが、働きかける対象そのものへの気付きについての高まりが弱い部分があった。働きかける対象への気付きの質を高める「表現する活動」や「伝え合う活動」についてももう一歩踏み込んで考えていく必要がある。
 
 展開段階においては、対象への気付きを促すためには、十分な活動の時間(対象に働きかける時間)の確保が必要である。
  対象にかかわり、気付きを表現し、それを伝え合い、さらに表現するという活動の時間を考えると1時間(45分)では、十分とはいえず、2時間(90分)の1単位時間の場面で、「表現する活動」と「伝え合う活動」を組み合わせたほうがよいと考える。単元の進め方とともに時間の割り振りを考えていく必要がある。
 
 学習カード(ワークシート・振り返りカード)の種類や内容の更なる精選も必要である。
  授業実践では項目が多く、かくのに時間がかかったワークシートもあり、もっと絞り込んだ学習カードの作成を考えていく必要がある。教師側としては1枚に多くの情報があったほうが、児童の意欲や思考、気付きなどをとらえやすいが、かき表す児童側の負担にもなるので、対象への働きかけを確保しつつも「表現する活動」や「伝え合う活動」の充実も図ることができる学習カードの作成について考えていく必要がある。
 
 質的に高まった気付きを次の活動へつなげる指導の在り方、児童自身が見通しをもって対象への働きかけ方について考え活動を連続していく学習指導の在り方について今後、考えていく必要がある。
   
   このようなことを踏まえ、気付きの質を高めるには、充実した活動や体験と教師の適切な支援が大切であることから、今後は、充実した活動や体験を促す素材や単元開発、単元の指導の在り方、そして、児童の思いや願い、思考や気付きを引き出す教師の支援の在り方について考えていきたいと思います。
 また、今回は第2学年での実践を基に研究を進めましたが、第1学年における生活科学習の在り方についても、今後、研究を進めていきたいと考えます。
   

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最終更新日:2011-03-30