思いや意図をもって音楽表現する児童を育む歌唱の授業を提案します!!

2 研究の実際

(2)本研究における歌唱指導の考え方       

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「思いや意図をもって音楽表現する」ための授業と指導過程
  本研究では、音楽を聴き取り、感じ取りながら、思いや意図をもって音楽表現する児童を育むために、音楽を特徴付けている要素や音楽の仕組みを手掛かりとした学習活動を工夫した授業実践を行います。
  「A表現」歌唱の指導事項イの内容は次のようになっています。
 
〔第1学年及び第2学年〕
イ 歌詞の表す情景や気持ちを想像したり、楽曲の気分を感じ取ったりし、思いを
    もって
歌うこと
〔第3学年及び第4学年〕
イ 歌詞の内容、曲想にふさわしい表現を工夫し、思いや意図をもって歌うこと
〔第5学年及び第6学年〕
イ 歌詞の内容、曲想を生かした表現を工夫し、思いや意図をもって歌うこと
  「歌唱」・「器楽」・「音楽づくり」それぞれのイの項目に「思いや意図をもって」(第3学年以上)という文言が入り、主体的・創造的に音楽に関わることの大切さがこのイの項目に書かれています。
   
  音楽科の学習において、表現活動の過程では、以下のような活動があると考えられます。
 
a
音楽を特徴付けている要素及び音楽の仕組みを聴き取り、それらの働きが生み出すよさや面白さ、美しさなどを感じ取ること(以下、「聴き取り、感じ取ること」と表記)
b
表現に対する自分の明確な考えや願い、意図をもつこと(以下、「思いや意図をもつこと」と表記)
C
試行錯誤をしながら、主体的に表現の工夫に取り組むこと(以下、「表現の工夫をすること」と表記)
d
技能を高めて、音楽表現をすること(以下、「音楽表現をすること」と表記)
  これらの関連を次の図1のように考えました。図は、思いや意図をもって音楽表現を行うまでの関係を表したものです。
図1 音楽表現の各活動の関連
a 聴き取り感じ取ること
音楽を聴いて、「リズムが弾んでいるから、わくわくした感じがする」等、リズムを聴き取り、音楽のよさや面白さを感じ取ることです。
b 思いや意図をもつこと
「弾んだ感じがするから、音を短く切って歌いたい」「メロディーがだんだん上がっているから、盛り上がるようにだんだん強く歌いたい」等、表現に対する自分の明確な考えや願い、意図をもつことです。
c 表現の工夫をすること
(音を短く切って歌ってみる)(だんだん強く歌ってみる)等、試行錯誤し、歌って試す活動をしながら、音楽を形づくっている要素のかかわり合いを感じ取って、曲想にふさわしい表現を工夫することです。
d  音楽表現をすること
「わくわくした感じがするから、音を短く切ってスタッカートで歌いたい」等の思いを具現化するために、発音や発声などの表現の技能を高めて歌ったり、演奏したりして表現することです。
 〔共通事項〕 
〔共通事項〕は、すべての活動において共通に必要となります。〔共通事項〕を支えとしてabcdの各活動が行わることになります。
  表現の技能
例えば、「歌唱」の活動でいうと、表現にふさわしい呼吸や発音の仕方や、自然で無理のない、響きのある歌い方など、音楽表現を行うのに必要とされる技能のことです。
  思考・判断・表現
児童は、bの活動を行きつ戻りつする中で、思考・判断していると考えています。また、思考・判断したことを、ワークシートに書き記したり、言葉にしたりすることをここでいう表現ととらえています。
音楽表現の各活動の関連
 この図の中で、音楽科における表現活動の過程として、一般的には、abd という活動の流れが考えられます。
これは、具体的にいうと、「聴き取り、感じ取ったことを基に、思いや意図をもって、表現の工夫をし、技能を高めて音楽表現する」ということになります。

 しかし、ここで大切なことは、a「聴き取り、感じ取ること」は、c「表現の工夫をすること」やd「音楽表現をすること」にも常に関わりがあるということと、b「思いや意図をもつこと」とc「表現の工夫をすること」は一方向の流れではなく、行きつ戻りつしながら、質的に高まっていくということです。

 授業の導入において、「聴き取り、感じ取ったこと」は、「このように表現したい」という思いや意図の根拠となりますが、それだけに留まらず、表現の工夫をする中でも、試行錯誤する過程で、「この表現の工夫はどうかな?」「このように表現を工夫したら、盛り上がりが感じられた」等といったことを、常に聴き取り、感じ取りながら、自らの表現の工夫を確かめることが大切となります。児童は、実際に歌ったり演奏したりして試したことを、聴き取り、感じ取ったことを基に、さらに表現の工夫を重ねていくことになります。

 また、表現の技能を高める過程においても、その結果として声色や楽器の音色がよくなったことや、より豊かな表現になったことを児童自身が聴き取り、感じ取ることがなされなければ、教師主導の技術指導に陥ってしまう恐れがあります。表現の技能を高めることによって、音色がよくなったり、豊かな表現になったりしたことを、児童自身が聴き取り、感じ取ることによって、さらに技能を高めたいという意欲をもって、技能の向上に取り組むことになると考えます。

 さらに、「思いや意図をもつこと」は、「表現の工夫をすること」の原動力として、当然必要なことでありますが、それと同時に、「表現の工夫をすること」を通して、初めにもっていた思いや意図がより明確になったり、具体的になったりすることを考えると、この2つは、常に双方向的な関係にあるということがいえます。

 このように、a「聴き取り、感じ取ること」、b「思いや意図をもつこと」、c「表現の工夫をすること」の活動は、互いに関連があり、双方向性をもって行われていると考えられます。また、技能を高めて、d「音楽表現をすること」の過程においても、a「聴き取り、感じ取ること」を初めとして、bc、の活動が深く関わっていると考えています。
そして、これらの活動の要となるのが〔共通事項〕です。

A 「音楽を特徴付けている要素や仕組みを手掛かりとした学習活動の工夫」について
   本研究では、音楽を聴き取り、感じ取りながら、思いや意図をもって音楽表現する児童を育むために、〔共通事項〕に挙げられている音楽を特徴付けている要素や音楽の仕組みを手掛かりとした学習活動を工夫した授業実践を行います。そのために、次のような手立てを考えました。
   
音楽とのかかわらせ方
題材の設定
   表現活動では、児童が音楽を特徴付けている要素や仕組みを手掛かりとして思いや意図をもって音楽表現することができるようになるような題材を設定する必要があります。題材を設定するにあたっては、「主題による題材構成」の考え方により、音楽を特徴付けている要素や仕組みを中心として構成したり、音楽活動を中心として構成したりすることが有効であると考えます。

 本研究では、「A表現」歌唱の指導事項イの「歌詞の内容、曲想を生かした表現を工夫し、思いや意図をもって歌うこと」(5・6年)を指導のねらいとして、〔共通事項〕との関連を図りながら指導を進めていきます。歌唱の活動において、聴き取り、感じ取ったことを基に、お互いの思いや意図を交流させて表現の工夫に取り組むことができるような授業をしたいと考え、「思いや意図をもって合唱しよう」という題材を設定しました。児童には、「思いや意図をもって」表現することのよさや楽しさを伝えるように工夫しました。

教材選択
   題材のねらいに沿った教材を選択することは大切なことです。そのために、教師は教材となる楽曲を十分に分析し、児童が音楽を特徴付けている要素や仕組みに着目して音楽を聴き取り、感じ取ることができるような教材を準備する必要があります。その他にも、歌詞の内容や曲想が分かりやすいことや作詞者や作曲者の思いや意図に共感できる内容であること、対象学年児童の表現の技能に見合った楽曲であることなど、配慮すべき点は多くありますが、それらの配慮を施すためには、教師の十分な教材研究が大切です。

 本研究では、研究協力校の音楽科担当教諭とも十分に相談し、事前アンケート(平成22年9月実施)の結果なども踏まえて、「この星に生まれて」を教材として選択しました。本教材では、「旋律」「強弱」「反復」などの〔共通事項〕に着目させて、表現の工夫に取り組ませることをねらいとしました。また、中間部の二部合唱の部分では、高学年で取り扱う「音楽の縦と横の関係」に着目させることができることもこの教材を選択した理由です。

学習過程
   児童が思いや意図をもって音楽表現するためには、「知覚・感受したことをもとに思考・判断し、表現する」といった一連の学習過程が大切です。このことを踏まえ、本研究では、題材を「音楽と出会う」場面(第1次)、「表現を工夫する」場面(第2次)、「音楽を味わう」場面(第3次)と設定し、学習を進めることにしました。

 「音楽と出会う」場面(第1次)とは、児童が教材曲である楽曲と出会う場面であり、新しい曲と出会い、学習の見通しをもってこれからの学習活動への関心・意欲を高める大切な場面です。この場面では、楽曲を特徴付けている〔共通事項〕に着目させて、その音楽のよさや面白さなどを感じ取らせることがポイントとなります。

 「表現を工夫する」場面(第2次)とは、表現の工夫をする場面であり、思いや意図を実現させるために、友達と関わり合いながら思考・判断して表現の工夫をする場面です。この場面では、表現の工夫をする際の推進力としての思いや意図をもたせることや、表現の工夫に取り組ませることを通して、思いや意図をより確かなものにすることができるようにすることがポイントです。

 「音楽を味わう」場面(第3次)とは、学習のまとめとして、これまでの学習を基に音楽表現に取り組み、教材曲である楽曲を味わう場面です。この場面では、表現の技能を高め、表現の工夫に取り組んだことを、音楽表現を通して具体化させ、教材曲の音楽的な魅力を味わわせることがポイントとなります。

 これら3つの場面による学習過程を大切にした題材を構想することで、思いや意図をもって音楽表現する児童を育むことができると考えています。

教材となる楽曲との出会い
   児童が意欲的に、思いや意図をもって音楽表現することができるようにするためには、児童と楽曲との出会わせ方が大切になると思います。
「音楽と出会う」場面(第1次)においては、音楽を聴き取り、感じ取ることを大切にし、楽曲を特徴付けている要素や仕組みに気付かせ、楽曲のよさや面白さなどを感じ取らせることが必要です。

 本研究では、教材曲「この星に生まれて」の範唱CDを聴かせ、旋律や和声の美しさに気付かせたり、歌詞の内容などから、作詞者や作曲者の思いや意図を説明したりして、児童に興味をもたせ、楽曲自身へのあこがれの気持ちをもたせることにします。
 さらに、主旋律や副次的な旋律を教えるときにも、旋律やリズム、強弱について自然と身に付けることができるような働きかけが大切になってきます。一緒に楽譜を見ながら、歌って聴かせたり、一緒に歌ったりして音楽を特徴付けている要素や仕組みに気付かせておきます。

表現の工夫
   「表現を工夫する」場面(第2次)において、表現の工夫に取り組ませる際は、教材曲の中で取り組ませる部分を教師が十分に吟味する必要があります。教材曲の長さにもよりますが、曲全体を通して工夫することに取り組ませるよりは、音楽を特徴付けている要素や音楽の仕組みに着目しやすく、多様な表現が可能であるような箇所をあらかじめ教師が選定して、取り組ませる方が効果的であり、限られた時間の中で児童も達成感を味わうことができると思います。どのように表現の工夫をしたかということも大切ですが、その工夫に到るまでの過程や表現の工夫に取り組んだという経験にも目を向ける必要があります。
 また、小学生に取り組ませるには長いと思われる曲の場合は、曲に応じていくつかの部分に分けて学習することも効果的です。例えば、本研究で扱う教材「この星に生まれて」では、全体を、A(始めから17小節3拍目まで)、B(17小節4拍目から25小節目まで)、C(26小節から最後まで) の3つの部分に分けて、学習に取り組ませることとしました。それぞれの部分の中で表現の工夫に取り組みやすい箇所をあらかじめ想定しておき、その部分を中心に表現の工夫に取り組ませることで、題材のねらいをより効果的に実現できると考えたからです。
 この教材において着目させたい〔共通事項〕について考えると、Aの部分→Cの部分→Bの部分の順に学習を進めるのが適当であると考えました。
 さらに、表現の工夫に取り組むような学習経験が浅い学級の場合は、どのように表現を工夫すればよいのかということを丁寧に教え、「表現の工夫をすることが面白い、楽しい」といったような実感をもたせることが大切です。

 本研究においては、Aの部分の学習で、はじめは教師と一緒に話し合いながら、学級全員で表現の工夫に取り組むことができるようにします。その中で、児童は、「表現の工夫」とは、どのようなことかを学びます。次に、Cの部分で、表現の工夫の進め方を丁寧に指導しながら、グループで表現の工夫に取り組ませます。児童は、グループでの話し合いの進め方や、歌って試す活動の大切さについて学びます。最後に、Bの部分で、グループ活動を通して、自分たちだけで表現の工夫に取り組むことができるようにしました。このように段階を追った学習を進めることで、児童は表現の工夫をすることについて学び、その面白さや楽しさに気付くことができると考えています。

「音楽遊び」
   音楽を聴き取り、感じ取ることができるような音楽とのかかわらせ方として、〔共通事項〕に着目することができるような「音楽遊び」を取り入れることが有効と考えています。
「音楽遊び」に関する多くの著書を出版している八木正一氏は、音楽の時間に簡単な「音楽遊び」や「音楽ゲーム」を取り入れることによって、音楽の基礎的な能力を身に付けさせることができることを述べており、音楽の仕組みやきまりを教える〔共通事項〕についての指導のコツを盛り込んだ「音楽遊び」を数多く紹介しています。

 そこで、本研究では、本題材で取り扱う〔共通事項〕と関連付けて、「音楽と出会う」場面(第1次)において、毎時間のはじめの5分間で「音楽遊び」の活動に取り組むこととしました。本題材で取り組んだ「音楽遊び」については、はじめの5分「音楽遊び」を参照してください。
   
お互いの思いや意図を交流させることができるような学習形態の工夫
パート練習における配慮点
   合唱の授業では、各パートの旋律を正しい音程とリズムで歌うことができるようにするためにパート練習を位置付けることが多く行われています。パート練習は児童の主体性を喚起しながら、効率的に学習を進めるためには大変有効な方法であると考えます。しかしながら、パート練習が歌詞や旋律を覚えるための、単なる「練習」にとどまらないように、教師は工夫をする必要があります。例えば、繰り返し歌わせるだけではなく、その中で児童が旋律の特徴などに気付くことができるような発問をすることや、他の声部との関わりを意識させながら、パート練習に取り組ませることなど、この後の学習活動につながるような手立てを取りながら、パート練習に取り組ませることが大切であると考えます。

 本研究では、本題材の「音楽と出会う」場面(第1次)において、全体で歌詞唱したあと、二部合唱の@パート(上の旋律)とAパート(下の旋律)に分かれてパート練習に取り組みました。パート練習では、正しい音程やリズムで歌うことができるようになることは当然ですが、それだけではなく、児童が主体的に取り組み、協力して活動を進めることができるように配慮し、パート練習の中で、音楽を特徴付けている要素や仕組みについても気付かせることができるような指導をすることにしました。

グループ活動の導入
   合唱の授業では、前述したパート練習以外の多くの時間は学級全体に対する教師の一斉指導で進められることが多いと考えられます。教師の意識や指導力によっては、一斉指導の中でも児童の思いや意図を引き出しながら、それを実現していくような授業は可能であると思います。しかしながら、児童自身に主体的に取り組ませるための学習形態として、グループ活動が有効ではないかと考えています。グループは合唱曲のそれぞれのパートを担当する児童数名ずつで編成します。人数は、児童が安心して歌うことができるためには、多い方がよいのですが、グループでの話し合い活動などに取り組ませることを考えると、多すぎては活動がうまく進まないと思います。

 本研究では、二部合唱に取り組ませるので、@パート(上の旋律)とAパート(下の旋律)の人数がそれぞれ4人程度になるように考え、学級(児童数33名)を4つのグループに編成しました。児童はパートごとの練習と学級全体での合唱以外に、このグループでグループ合唱に取り組みました。本題材の「表現を工夫する」場面(第2次)においても、ここで編成したグループ単位で、表現の工夫に取り組みました。
児童の発達の段階や実態にもよりますが、常に一斉指導だけではなく、児童の主体性を喚起し、多様な表現の工夫を導き出すためには、このようなグループ活動を位置付けることが有効であると思います。

個人活動の位置付け
   「表現を工夫する」場面(第2次)において、友達と関わり合いながら主体的に活動することができるようにするためには、個人活動において、まず自分なりの考えをはっきりと確認させることが大切です。付せんやワークシートなどを使って、きちんと書き記させることが、考えを具体化させるためには有効であると思います。しかし、この段階では、すべての児童が明確に思いや意図をもっていたり、具体的に表現の工夫を考えていたりするということは考えにくいことですので、「自分なりの・・・」ということが大切であると思います。個人活動の次に、グループ活動を位置付け、グル―プの友達とお互いの思いを交流させて活動し、さらに全体での話し合いを進めます。大切なことは、この後にもう一度、個人活動を位置付けるということです。グループや学級全体でいろいろな友達の思いや意図に触れ、いろいろな表現の工夫を知った上で、改めて、自分はどのような思いや意図をもって、どのように表現を工夫したいのかということをワークシートなどに記述することになります。この記述は、本時間の記録に残す評価として生かすことができると考えます。

 本研究では、この考え方に沿って、個人活動を位置付け、付せんやワークシートに自分の考えを記録させることに取り組みました。「表現を工夫する」場面(第2次)の学習形態を大まかに整理すると、個人→グループ→全体→個人 となります。
   
音楽を特徴付けている要素や仕組みに着目させるような教材・教具等の工夫
〔共通事項〕カードの作成
   新学習指導要領では、新たに〔共通事項〕が示されました。しかし、〔共通事項〕として示された音楽を特徴付けている要素や仕組みの多くは、これまでの授業においても、指導がなされてきていたと考えます。しかしながら、それらの〔共通事項〕を教師自身が明確に意識していたわけではなく、児童にも適切に指導していなかったということに課題があったのではないかと考えています。
 そこで、1つのアイデアとして、これらの〔共通事項〕に挙げられている音楽を特徴付けている要素や仕組みの言葉をカードにすることを考えました。そのカードを教室前方の黒板の端などに常に掲示しておき、必要に応じて取り出しながら、指導を行うのです。例えば、本題材の指導において、「Dreams come true togetherの部分の音がだんだん高くなっていたのが盛り上がる感じになっていると思いました。」という児童の発言に対して、教師は、「旋律」のカードを示しながら、「○○さんは、旋律ということに着目して音楽を聴き取り、感じ取ったんだね。」と整理してあげ、必要に応じて、旋律の上行や下行などを指導することなどが考えられます。

 本研究でも、これらのカードを使った指導を進めました。これらのカードを効果的に使うためには、教師自身も教材曲などの教材研究を十分に行い、児童が聴き取り、感じ取ったことと関連付けながら、タイミングよく提示することが大切になるということが分かりました。
 また、〔共通事項〕に関する記号や音楽にかかわる用語についてもカードを作成し、音楽室での掲示や授業での活用を工夫することで、学習事項の定着にもつながると考えています。

拡大歌詞と拡大楽譜の活用
   指導を進める上で、拡大された歌詞や楽譜が示されていることは大変有効です。その際に、歌詞の内容を理解し、イメージを膨らませたりするためには、歌詞のみを拡大したものが有効です。歌詞を朗読する場合などは、歌詞のみのものと楽譜中にひらがなで記されている歌詞を読み比べながら進めることが大切です。また、これまでの歌唱指導においては、聴唱によるものが多く、児童が楽譜を意識することは少なかったのではないかと考えます。そのことを踏まえ、拡大歌詞とともに、拡大楽譜を示して指導することが大切であると考えます。適宜、階名唱を取り入れるなどして、楽譜にも意識をもたせ、聴き取り感じ取ったことと楽譜から得た情報を関連付けながら、思いや意図につなげ、表現の工夫に取り組ませることがこれからの指導においては大切になると考えます。

 本研究でも、拡大歌詞や拡大楽譜を使った指導を進めました。拡大楽譜は、歌詞を朗読したり、歌詞の内容からイメージを膨らませたりするために使いました。楽譜中の歌詞は、ひらがなで書かれているので、言葉のまとまりや意味が分かりにくいことがあります。そこで、漢字も含まれた縦書きの詞として大きく表し、黒板に掲示して、線を引いたり、書き込みをしたりしながら授業を進めていきました。
 拡大楽譜は、主に楽譜を意識させたいときに使用しました。授業では、全体的な楽曲の特徴に気付かせたり、旋律の特徴や強弱、2つの声部の関係など、〔共通事項〕について聴き取り、感じ取ったことを確かめたりする際に有効でした。また、必要に応じて、拡大楽譜に書き込みをしたり、付せんを貼ったりして、授業の記録として残しておくことも有効でした。
 グループ活動においても、各グループに拡大楽譜を配布し、楽譜を見ながら、お互いの思いや意図を交流し、表現の工夫に取り組ませました。個人で考えた思いや意図、表現の工夫などを付せんに記し、楽譜に貼付することや、グループの考えをまとめて、拡大楽譜に書き込むことを通して、グループ活動も大変活性化しました。

ワークシートの工夫
   ワークシートは、児童の学習の履歴を記録として残させるために必要です。また、すべての児童の学習を適切に評価するためには、工夫されたワークシートにおける児童の記述などが評価情報として有効であるということはいうまでもありません。これからの音楽科学習において、効果的なワークシートの活用がポイントとなると思います。

 本研究では、毎時間につき、A4判1枚のワークシートを準備しました。 教材曲の楽譜は、児童が書き込みできるように十分な余白のある楽譜を掲載しました。表現の工夫やその理由を書き込むのに使いました。また、ワークシートには、本時の学習目標や内容を記し、今日の学習の振り返りができるような欄も準備しました。毎時間の自己評価を通して、教師は個々の児童の学習状況を把握する手掛かりとしました。


   以上のようなことから、今回は、題材「思いや意図をもって合唱しよう」で、教育芸術社の6年教科書より「この星に生まれて」を教材に選び、「音楽を特徴付けている要素や仕組みを手掛かりとした学習活動」を工夫して、授業実践することにしました。
   
 

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最終更新日:2011-03-30