社会的な見方や考え方を深める社会科学習に取り組んでみよう!

1 研究の概要                                                       

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研究テーマ
 

 

児童生徒の社会的な見方や考え方を深める社会科学習の在り方

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研究テーマ設定の理由

社会の現状及び社会科の学習に求められていること 
 

変化の激しい現代社会において、就労年齢に達しても定職に就かない若者の増加や年金の未払い率の上昇など、社会への参加意識や社会的義務を果たそうとする意識が薄れてきています。また、投票率の低迷も続き、政治に対する関心の低さなど、社会の一員としての自覚の不足や自分と社会との関係をとらえることができていないことなどが問題となっています。それは、価値多元化社会ともいわれている現代社会の中で、多くの人々が社会に対してどうかかわっていけばよいのか、そのよりどころを見いだせずに受け身や無関心になってしまっているからではないかと考えます。

このような社会を主体的に生きていくためには、様々な状況を的確に把握し、多面的、多角的に思考し、判断し、行動できるような力が必要です。中央教育審議会答申(平成20年1月)においても、「社会科、地理歴史科、公民科では、(中略)社会的な見方や考え方を成長させることを一層重視する方向で改善を図る。」と示されています。そして、それをよりよい社会の形成に参画する資質や能力につないでいくことが求められています。つまり、児童生徒が身に付けた社会的な見方や考え方を基に、社会の在り方や社会へのかかわり方などについて、自分の考えをもてるようにすることが大切です。

しかし、現代社会が直面している課題や今後、直面することが予想される課題の多くは、価値観の違いによって解決策が分かれるような、それゆえ合理的な解決が困難な課題ばかりです。このような課題に対して社会的な価値を意識した上での合理的な判断を行い、適切な社会的行為を選択していくことが、これからの時代を生きる民主的な社会の主権者に特に求められているといえるのではないでしょうか。

社会科における確かな学力
 

新学習指導要領においても、国家・社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養うことが社会科の究極的なねらいとされています。社会の一員としての自覚の不足や自分と社会との関係をとらえることができていないといった問題を解決するためには、子どもたちに、社会は自分たちの生活と切り離されたバーチャルなものではなく、自分を取り巻く現実の社会であることを気付かせ、社会は自分たちで創造していくものであるということを意識させていくことが大切です。

そのためには、「社会全体にとってよいことか」、「どのような社会が望ましいのか」といったような社会的な価値を意識させていく必要があると考えます。この社会的な価値にふれることについては、長く、社会科教育において敬遠されがちになっていました。しかし、未来に生きる子どもたちには、どのような社会が望ましいのかということを意識させ、判断させていくような学習が必要です。そこで、近年の社会科教育では意思決定力の育成に目が向けられるようになってきています。小原(1994)は、意思決定力について、「問題場面での自己の行為を科学的な事実認識と反省的に吟味された価値判断に基づいて合理的に選択・決定するために必要な能力であり、目的・目標を達成するために考えられる実行可能な全ての行動案(手段・方法)、あるいは、問題を解決するために考えられる全ての解決策の中から、より望ましいものを選択・決定することのできる能力」※1と定義しています。

これらのことから、社会科における確かな学力を、「必要な知識や技能を習得し、その知識や技能を基にして、社会的事象の特色や事象間の関連を理解し、説明するなどして、よりよい社会の在り方を考え、公正に判断することができる力」であるととらえました。本研究では、この確かな学力をはぐくむために、社会的な見方や考え方を獲得させる際に、社会の仕組みや制度などの社会的事象についての事実認識にとどまらず、社会的な価値までを意識した見方や考え方を指導することが必要であると考え、取り組みました。

※1  小原 友行  「社会科における意思決定」社会認識教育学会『社会科教育学ハンドブック』 
   1994年 明治図書 p.170

意思決定型の授業の構想
 

研究テーマ「児童生徒の社会的な見方や考え方を深める」の、「社会的な見方や考え方」とは、社会生活を営む中で社会的事象は決して単独で存在することなく、何らかの形で他の社会的事象とかかわって存在しているということを認識し、そのような見方や考え方で社会的事象にかかわることができる資質・能力であるととらえることにしました。

そこで、子どもたちに「社会的な見方や考え方」を養うために、本研究では、意思決定型の学習を取り入れることにしました。意思決定型の学習においては、行動案や解決策を検討するためには、資料の分析や話し合いによる検討などが必要です。授業の中では、「目指す社会」を意識させた上で、解決策の選択において判断を迫る授業を展開したり、解決策の是非がそれぞれどのような社会を選択したことになるのか、「目指す社会」を考えさせ、意識させたりするなどの学習活動が考えられます。

例えば、学習の中で「社会福祉に使う目的で消費税を引き上げる」という政策の検討をするとします。消費税は所得の多い少ないにかかわらず、買ったものに対して同じ割合で課税されるので、国民は、消費活動の上では、公平な立場で税を支払うことになります。税率が上がるので税負担は増えますが、安心した老後を約束されたり、健康を害したときなどの医療費などについても不安がなくなったりします。つまり、「国民全員が一律に負担をしなければならないが、いざというときに安心な社会」ということになります。更に考えを進めていくと、「お互いがお互いを支えあう社会」「共生の社会」などというように「目指す社会」が見えてきます。そして、どのような社会を目指していることになるのかを子どもたちにイメージさせることにつながっていきます。

このように、意思決定型の学習を行うことにより、子どもたちは、解決策のメリットやデメリットの吟味などにとどまらず、それらに含まれている価値を意識することになります。つまり、選択した解決策によって、自分が目指したい社会とはどのような社会なのかということまでを考えることになり、判断を迫られた問題だけではなく、社会の在り方そのものを意識することになります。このような経験を積み重ねることで、社会と自分とのかかわりを今まで以上に自覚し、よりよい社会をつくろうとする公民的資質の基礎が養われていくと考えます。

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研究の内容
 

(1)  社会的な見方や考え方を深める単元の指導過程の整理と教材開発の在り方

(2)  社会的な見方や考え方を深める意思決定型学習のテーマの整理

(3)  社会的な見方や考え方を深める指導法とワークシートの開発

(4)  社会的な見方や考え方の深まりについての評価の在り方

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最終更新日: 2010-03-11