基礎的・基本的な知識・技能の習得と数学的な思考力・判断力・表現力の育成を目指します!

3 研究のまとめ

(1)

研究を振り返って

  a 研究の成果
 (a) 数学的活動を取り入れた授業
 
   @ 授業モデル
 

数学的活動を取り入れた授業モデルを考案し、提案しました。1時間の授業を5つの段階(つかむ、見通す、練り合う、深める、まとめる)に分け、その中に、本研究において考える数学的活動を位置付け、数学的活動のねらいと指導のポイントを示しました。

   
     ア〜カの数学的活動は、基礎的・基本的な知識・技能の習得を図る学習と数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむ学習のどちらにもかかわりのある活動です。本研究では、特に、図中のア、カ、イ、ウの数学的活動を取り入れた授業を行うことで、基礎的・基本的な知識・技能の習得を図る学習ができると考えました。また、イ、ウ、エ、オの数学的活動を取り入れた授業を行うことで、数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむ学習ができると考えました。(詳細はCを参照)
 今回の授業モデルでは、ア〜カの数学的活動を内容に応じて取り入れることで、基礎的・基本的な知識・技能の習得を図り、数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむ学習を行うことができるようにしました。
 
   A 数学的活動を取り入れた授業展開案
     本研究において考える数学的活動を取り入れた授業モデルを基に、第2学年のすべての内容で授業展開案を作成しました。教科書(啓林館)に沿った授業展開案を作成していますので、日々の授業の中でそのまま利用することができるようにしています。また、これらの展開案はそれぞれの学校の生徒の実態に合わせて変更することも可能です。
 また、第2学年のすべての内容で作成しているので、数学的活動を取り入れた授業を実践する際にも、その参考とすることができるようになっています。
単元一覧から小単元をクリックすると、授業展開案が表示されます。)
 
   B 数学的活動を取り入れた詳細授業展開案(指導案)
     授業展開案を基に、「B 図形」「C 関数」「D 資料の活用」の領域及び「課題学習」の内容で、使用するワークシートを付けた詳細授業展開案を全15時間分作成しました。詳細授業展開案とは、授業展開における生徒の活動や教師の支援を詳細に示したもので、Webページのそれぞれの授業展開案からPDF化した詳細授業展開案へのリンクを設定しています。
  また、授業展開案だけでなく生徒の活動の様子等を見ることができるように動画もリンクしていますので、数学的活動を取り入れた授業の実際がどのようなものであるかをイメージすることができます。
(授業展開案の中に詳細授業展開案をリンクを設定しています。) 
 
   C  授業実践を通して
     授業モデルを基に構想した授業展開案の一部を授業実践して、検証を行いました。Webページに公開している授業展開案・詳細授業展開案はこれらの検証を踏まえて、修正を加えたものです。
 ア〜カの数学的活動を位置付けた授業を実践したことにより、次のようなことが期待できるということが分かりました(表1の○、◎)。また、そのために必要な配慮についても明らかになりました(表1の□)。
   
表1   数学的活動から期待できる効果と指導上配慮が必要な事項
 
  数学的活動 ○基礎的・基本的な知識・技能の習得を図るために期待できる効果
◎数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむために期待できる効果
□配慮が必要な事項






















成り立つ事柄を予想する活動
これから取り組もうとする課題を、これまでに習得した知識・技能を使いながら、数理的に予想することによって、それら知識・技能のさらなる定着が図られます。
予想する際には、単なる当てずっぽうではなく、今まで学習してきた数理的な考えを基に予想させる必要があります。
自分が行った活動を振り返る活動
日常に戻す活動を通して、学習した知識・技能が日常の中でどのような事象に結び付いているのかを知ることとなり、知識・技能が本当の意味での「わかる」「できる」につながります。
数学のよさを実感させるようにすることが大切です。
観察・操作などの具体的な活動
予想したことを確かめる活動を通して、これまで学習してきた知識や技能を活用していることを実感させることができます。
具体的な活動を行う際に、どの既習の内容が活用できるか考え、判断し、課題解決に向け、取り組ませることができます。
事象を観察して法則を見付けたり、具体的な操作や実験を試みたりして数学的活動の楽しさを味わわせるように心掛ける必要があります。
自分の考えを人に伝える活動・人の考えを理解する活動
今まで学習してきた知識・技能を使いながら、自分が考えたことを分かりやすく説明させることで知識・技能のより確かな定着が図られます。
自らが思考・判断したことを人に伝えることを通して、改めて再考する機会を得ることができます。
他者の考えにふれることで、いろいろな数学的な見方や考え方を知ることができます。
事前に、すべての生徒に自分なりの考え方をもたせることができるような指導が必要です。
人の考えを理解しようとする場面では、適宜、質問をしたり、確認をしたりすることを促していく必要があります。
自分の考えを伝えたり、他者の考えを理解した後に、もう一度自分自身の考えを見直したり、深めたりすることができる時間を確保する必要があります。
目の前の課題から、物事の本質を見抜こうとする活動
目の前の具体的な事象を数理的に考察し、その本質を考えることで、思考力・判断力・表現力をはぐくむことにつながります。
日常生活や社会における問題を理想化したり単純化したりすることによって、数学の世界で処理した結果を、日常生活や社会に戻し考えさせるようにすることが大切です。
発展的に考える活動
学習したことを基により発展的に考えることで、思考力・判断力をはぐくむことにつながります。
解決した課題の条件を変えて考えたり、疑問点から新たな課題を設定して考えたりするように働きかけることが大切です。
     さらに、それぞれの数学的活動を意図的につなげていくことによって、次のように相乗的に効果が得られることも分かりました。
 
○ 1時間の授業の目標を設定した上で、課題についての「成り立つ事柄を予想する活動」を行わせることで、生徒の課題に対する関心を高め、その後の「観察、操作などの具体的な活動」や「自分の考えを人に伝える活動・人の考えを理解する活動」の際に、目的意識をもって取り組ませることにもよい効果がありました。

○ 「自分が行った活動を振り返る活動」を行うことで、1時間の授業のポイントを振り返らせることができ、また、この活動は、学習したことが日常の中でどのような現象となって現われているかということなどを考える機会ともなり、数学の意義や有用性に気付かせる契機となりました。

○ 「観察、操作などの具体的な活動」を通して、自分の考えを確かなものとさせた上で、「自分の考えを人に伝える活動・人の考えを理解する活動」を行わせることで、伝えたいことが明確になり、自分の考えをより分かりやすく伝えようという意識や、他者の考えを基に自分の考えをより深めてみようという意識につながりました。

共通して言えることは、数学的活動を取り入れるということが、授業の中に、生徒の主体的な活動の場を位置付け、生徒自らが知的好奇心を巡らせながら活動する場を保証することとなり、数学に対する意欲面での高まりが大いに期待できるということです。意欲の高まりは、当然のことながら、基礎的・基本的な知識・技能の習得にも、数学的な思考力・判断力・表現力の育成にも、有効にはたらくと考えます。
  また、生徒が主体的に活動する場面では、常に一斉指導をしている場合に比べて、教師にもゆとりがあり、生徒の学習活動を細やかに観察することによって、指導と評価に一体化が図られることにもつながります。

     
   (b) 単元別学習プリント(「知識・技能の習得を図る問題」と「数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむ問題」)
 
   第2学年の内容で単元ごとに、基礎的・基本的な知識・技能の習得を図ることができる学習教材と数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむことができる学習プリントを作成しました。その内容は、過去の全国学力・学習状況調査の問題とそれらを参考に教育センターで作成した練習問題から成っています。問題は単元ごとにまとめています。また、各単元とも「基礎的・基本的な知識・技能の習得」用の問題と「数学的な思考力・判断力・表現力の育成」用の問題に分けて、まとめているので、教師のねらいや生徒の実態に応じて使いやすい形になっています。
  また、解答も準備していますので、授業場面だけではなく、日々の課題や長期休業中の課題、インフルエンザなどによる休校措置の場合の家庭学習用の教材などに利用することもできます。
  さらに、教師用の手引き(指導に当たって)も準備していますので、それぞれの問題の出題意図や必要な力をはぐくむために必要な指導方法などもわかるようになっています。
   
  b 課題と今後の展望
 
  (a)  本研究では、主に第2学年の内容についての授業展開案や詳細授業展開案を作成し、提案してきました。今後は、第2学年での提案との系統性を図りながら、第1学年や第3学年の内容についても、数学的活動を取り入れた授業展開案や詳細授業展開案を作成していく必要があると思います。新学習指導要領の全面実施に向けて、これから求められている数学科教育へのスムーズな移行に役立つコンテンツを充実させていきたいと考えます。
  (b)  基礎的・基本的な知識・技能の習得を図ることができる学習プリントと数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむことができる学習プリントについても、第2学年の内容については、学校における年間を通した利用が可能なものを作成し、提案することができました。
  今後の展望としては、新学習指導要領に対応した3学年分の学習プリントを作成していくことと、これらのプリントを活用した指導のアイディアを提案していくことによって、授業において習得が図られた基礎的・基本的な知識・技能をより確かなものとし、数学的な思考力・判断力・表現力のさらなる育成に資するものとしていくことと考えています。
  (c)  本研究の成果を、年間を通してWeb発信するとともに、教育センターの講座や教育実践交流会、学校へ出向いての研修援助等で活用を図ってきました。しかしながら、県全体で見ると、まだまだ十分な活用が図られているとは言い難い状況にあると考えます。
  今後は、研究の推進とともに、これら研究の成果を様々な機会を得て、広報していく必要があると思います。新学習指導要領における数学科の目標が実現できるように、本研究で提案している数学的活動を取り入れた授業の意義や指導の実際について、教育センターの講座等を通して、多くの先生方に理解を求めていくとともに、新たな広報の手立てなどを工夫していく必要があると思います。
   

(2)

新年度(平成22年度)からの数学科授業について

 

新学習指導要領の中学校数学科の目標に「数学的活動を通して」と「表現する能力」が加えられた点、目標の文章の文言が、「数学のよさを実感」と「それらを活用し考えたり判断したりしようとする態度を育てる」が改められた点を考え、授業を行っていかなければいけません。
  実際に、これまでも数学的活動を取り入れた授業は行われていました。その上で、今回の改訂において、「数学的活動がなぜ加わったのか」「新学習指導要領がどのように変わったのか」という点を十分に理解し、これまでの自分の授業を振り返る必要があります。改めて、数学的活動を取り入れた授業の必要性を理解して、教師が意識的に数学的活動を取り入れることで、授業の目的が明確化されると思います。1時間の授業や単元の目的が明確になることで、生徒も授業に対して目的意識をもって主体的に取り組むことができるようになります。
  例えば、「観察、操作などの具体的な活動」を取り入れた授業を行う際も、生徒の感想が「今日は実験があったので楽しかった」で終わることのないように、「数学的活動を取り入れたことで、生徒にどのような知的成長がもたらされるか」といったような質的側面に目を向け、「観察、操作などの具体的な活動」を行わせることが大切です。その他の数学的活動についても同様のことが言えます。
  そこで、今回提案した授業モデル授業展開案を参考に、生徒の実態等に応じて内容を検討し、数学的活動を取り入れた授業を実践してもらいたいと思います。まずは、実践していくことが大切です。
  また、本研究で作成した単元別学習プリントを単元末の問題演習や長期休業中の課題などに有効に活用してもらいたいと思います。教師のねらいや生徒の実態に合わせて、これらのプリントを活用していただくことによって、基礎的・基本的な知識・技能の習得が図られ、数学的な思考力・判断力・表現力をはぐくむことにもつながると思います。教師による授業の充実を図るとともに、生徒の家庭学習にも目を向けることが大切です。

   

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最終更新日: 2010-03-23