読む力を育てる国語科指導Q&A
Q1 読解力は低下しているのですか?
佐賀県学習状況調査の結果から,「読むこと」の領域で通過率が低い状態が続いています。PISA調査の結果からも全国的に読解力の低下が話題になっています。

ただし,PISA調査で言う「読解力」は,「自らの目標を達成し,自らの知識と可能性を発達させ,効果的に社会に参加するために,書かれたテキストを理解し,利用し,熟考する能力」と定義されています。内容を正確に理解する力だけではなく,「解釈」や「熟考・評価」というような,理解した内容を活用する力が求められています。

Q2 「詳細な読解」は必要ないのでしょうか?
「文学的文章の詳細な読解に偏りがちであった」ことが問題なのであって,「詳細な読解」は必要ない,ということではありません。学習者が自ら「詳細な読解」に向かうことはむしろ歓迎されるべきです。言葉にこだわった読み方を身に付けさせ,文章を読み流したり,漠然とイメージだけで読んだりしないようにさせることも必要です。

本研究は,言葉の一つ一つにしっかりと向かい合わせる,いわゆる“精読”を中心としたものですが,“多読”への道すじも忘れないようにしたいものです。細かく文章を読む時間と同時に,のびのびと,ある程度のスピードをもって文章を読み進めていく時間も保証されなくてはいけません。

教材と関連のある図書を紹介するなどの読書生活へといざなう道すじ,朝読書の時間を設けたり,図書館教育と連動させるなどの読書生活を日常に広げていく道すじを考えていくことも必要です。

Q3 言語活動とは何ですか?
言語活動とは本来「話す」「聞く」「書く」「読む」の4つの活動を指します。学習指導要領の言語活動例もこれに準じています。(→Q4参照)
この言語活動を効果的に取り入れることにより国語の力を伸ばすことができます。

国語科で育てる学力は,生活に「生きて働く」言語能力であり,生活を向上させる言語を学ぶ力である。意図的に設けられた「見る,聞く,話す,読む,書く」言語活動の過程において育つ。

浜本純逸 「国語教育・国語科教育」
田近洵一・井上尚美 編著  『国語教育指導用語辞典』  2004年 教育出版株式会社 p.257

Q4 言語活動例とは何ですか?
「指導内容と言語活動との密接な関連を図り」,学習者の「主体的な学習活動を促しながら学習の効果を上げるため」に示されたのが言語活動例です。

学習指導要領には様々な言語活動例が示されています。

指導要領言語活動例の一覧

学習指導要領 小学校  中学校  高等学校
 
Q5 言語活動例の具体化とは何ですか?
言語活動例はその名の通り「例」です。指導事項の分析とともに,より具体的で多様な言語活動を考えていく必要があります。

例えば,小学校第5・6学年に「読書発表会を行うこと」とあります。
「読書発表会」とはどのような会にできるのでしょうか。様々な文章を分担して読んでの報告会でしょうか。1つの文章をみんなで読んで話し合うのでしょうか。本を紹介するブックトークの発表会でしょうか。また,会はどのように進めるのでしょうか。質問に答える時間を設けるのでしょうか。司会を決めて話合いを行うのでしょうか。会のあと,自分が読みたい本を紹介された中から選ぶのでしょうか。自分の感想を友だちの意見を聞いて見直し,レポートのようにまとめるのでしょうか。

このように1つの言語活動例を取ってみても様々な具体化の姿が考えられそうです。

Q6   限られた授業時数の中で言語活動例の具体化ができるのでしょうか?
教科書の消化が気になるところですが,教科書はあくまで一つの教材です。年間計画を意識して,付けるべき力が偏らないようにすれば,補助教材を使ったり,教材の順番を入れ替えたりしても差し支えありません。

それよりも,「読むこと」の力を付けなければならない時間に,学習者はしっかり文章に向きあっているのかを考えてみてください。教師の解説を聞いている時間が多すぎはしませんか?

 文学的な文章指導における,通読,初発の感想のまとめ,場面分け,主題の追求,といったパターン化した指導展開の繰り返しからは,感動体験を求めての積極的な読みの姿勢は生まれない。説明的な文章の指導における,語句調べ,段落分け,段落相互の関係の把握,要旨のまとめ,といった指導展開の繰り返しからは,自らの課題の解決に向けての積極的な読みの姿勢は生まれない。
 読解指導改善の第一歩は,日々の授業において,いかにして読みへの新鮮な意欲を喚起するか,という点に置きたい。
 
尾木 和英 「読みの指導の活性化を目指す言語活動の開発」
尾木 和英 編集・監修 『月刊国語教育2005年5月号別冊 生徒を引きつける言語活動開発マニュアル』 東京法令出版 p.65


学習者主体の言語活動を行うことで,時には読み誤りもあるでしょうが,その中で子どもは力を付けていきます。

すべての学習者に1単位時間のみで力を付けようとすると,どうしても「限られた授業時間だから…」という窮屈な指導になってしまいがちです。学習者の言語生活を広く見通し,計画的に進めることで,無理のない指導が可能になるでしょう。

単元周辺の計画

Q7 どんな言語活動を行えばよいのでしょうか?
学習者の実態,指導目標,教材の特質,から考えます。
まず,学習者の実態を把握するとともに,指導目標を明確にしましょう。指導目標に照らして学習者の現在の能力はどうか,学習経験はどうか,興味・関心はどうかなどについて学習者の実態を確認します。

指導目標は学習指導要領の内容(指導事項)の中のどの部分に当たるのか,一つの事項の中でもどのような位置付けのものなのかを確かめます。

その際,年間指導計画の中の位置付けを確認すると指導目標をとらえやすいでしょう。(年間計画作成の際に言語活動をある程度組み込んでおくと効率的です。)

学習者の実態から考えた必要な言語活動について,不足がないように,また,反対に無駄な重複がないように,計画を立てると,効果的な学習を仕組むことができます。

教材の特質については,学習者の実態と照らし合わせながら考えましょう。学習者にとってどのような魅力(意欲面でも,能力・技能面でも)があるのか,どのような困難が予想されるのか。それによって準備すべき補助教材にはどのようなものが必要となるかも明らかになってくるでしょう。

Q8   学習者主体の授業とは,学習者が自由に読んでいい授業なのですか? 
学習者主体の言語活動は,正確な理解がないまま勝手な読みをさせるものではありません。学ぼうという意欲をもち,教師とともに学習をつくっていく中で目指すべき力がしっかりと付く授業,それこそが学習者主体の授業です。その基盤をつくり,指導・支援していくのはあくまでも教師です。教師がしっかりと計画を立て,準備をし,充実した支援がある中でこそ,本当の学習者主体の授業が生まれます。

Q9 国語が目指す楽しい授業とは?
学習者が楽しく学習がするのはとても大切なことです。学習者が我を忘れて熱中し,読み浸る時間としたいものです。

読書離れが問題となっているとおり,「読むこと」に対する学習者の意欲は近年激減しているようです。読む楽しさを実感させることは,読むことの意味を実感させるということからも大変重要なのです。

しかし,楽しかったけれどもどんな読む力が付いたのか分からないようでは授業とは言えません。学習者に実感させたい本当の楽しさとは,学習者を引きつけるような楽しさだけではなく,学習者自身に力が付いたという達成感による楽しさではないでしょうか。
力を付けてこそ本当の楽しさが生まれるはずです。

Q10 言語活動を取り入れた授業での留意点は何ですか?
効果的な言語活動のための十分な計画,準備はもちろん必要ですが,特に不十分になりがちなのが活動中の指導です。学習者が活発に活動する中で,教師は要所要所をしっかり押さえ,確実に力が付くように指導・支援することが不可欠です。「活動あって学びなし」に陥らないように,学習者の動きを把握し,指導目標を達成できるようにしましょう。

1単位時間の授業だけではなく,授業の前後(今までの学習者の学習履歴→本単元→今後どのような学習につながっていくか),授業の周辺にある学習者の言語生活(朝の会・帰りの会,図書館等の言語環境、ほかの教科・領域との関連など)にも目を向けていく必要があります。

単元周辺の計画