単元構想 授業の実際 まとめ TOP
研究の全体構想について
 
 意欲的に自分の意見や考えを相手に伝えようとする力,また,相手の考えを理解した上で更に自分の考えをまとめて表現する力・・・このような力をはぐくむために,自分の考えや意見を伝え合う言語活動を中心にすえた選択授業の単元をデザインしました。

 ではなぜ,考えや気持ちを伝え合うことが大切なのでしょう・・・?
 最近の傾向として,自分の言いたいことをうまく伝えることができなかったり,人の話を聞いてうまく理解できなかったりする子どもたちが増えてきているようです。その原因のひとつを,人と人が言葉を介してコミュニケーションしなくても生活にあまり不自由しなかったり,自分の気持ちをきちんと伝える過程を省いても日々の生活が成り立ったりすることに求めることができるでしょう。その結果,実際に言葉を介して物事を伝える過程において,説明不足になったり,論理性が欠如していたりして,相手にうまく本意を伝えることができず,結局,誤解が生じる,人間関係が気まずくなるなどの問題が生じてきます。 

 そこで,本研究では,英語を使って自分の考えや気持ちを滑らかにつないで書き述べる過程や,論理的に表現する過程を通して,自分の考えや気持ちを意欲的に,分かりやすく相手に伝えたり,相手の言いたいことを的確に把握したりする力を育てたいと考えました。 
   
  単元の目標
    単元の流れの中にメッセージの授受の場面を組み込んで次の力を付けていくことを目指し
   ます。
   @ 意欲的に自分の考えや気持ちを伝えようとする力  
                               〈コミュニケーションに対する興味・関心・態度〉
   A つながりよく文章を構成し,書き表す力                     〈表現の能力〉
   B 内容を相手に伝えることを意識した音読の力                  〈表現の能力〉
   C 相手が述べることを聞いたり読んだりして即時的に内容を把握する力   〈理解の能力〉
  
  単元デザインの際のポイント
     本研究では,単元デザインの際,以下の3点にポイントをおきました。
   @ コミュニケーションに対する興味・関心・態度をはぐくむために,自分の意見を伝えたくな
    ったり,いろいろなことを考える必然性があったりするトピックを選びます。ここでは,生徒
    たちにとって大変身近な話題である「Having A Cell Phone」を取り扱いました。
   A トピックについての考えや気持ちを整理し,つながりのよい文章を書くために,mapping
    を取り入れます。また,mapping用紙で,トピックに関する専門用語の確認もします。
   B 表現の能力をはぐくむために,ひとつのトピックについて意見をまとめて書き表す過程を
    視点を変えながら複数回繰返しました。視点を変えるための言語活動としてrole playを取り
    入れました。

  トピックの選定について
トピックの選定
その@
 積極的に自分の考えや気持ちを伝えたい,という意欲を喚起するために,自分の考えを述べたくなるトピックを選定しましょう。トピック選びの際は次のような点を考慮します。
 @ 自分にとって身近である
 A いろいろなことについて考えることができる
 B トピック自体が興味深い

トピックの選定
そのA
  書くことによる表現の能力を身に付けるには,英作文を書く機会を数多くもつことが大切です。しかし,いきなり「書きましょう」と言われても,何について書いたらよいのか分からず,生徒たちは困ってしまいます。そこで,さまざまなトピックや活動例の中から,発達段階に応じて取り組ませやすいトピックと活動を組み合わせましょう。

【1年生〜2年生】
 *speechやskitの原稿をいたり,手紙を書いたりといった,考えや気持ちを相手に伝えることに主眼を置いた活動に取り組む場合
  @ 自分や周囲の人などについて説明するような話題
      (例) 自己紹介,友達紹介,家族の紹介,先生の紹介,ペットの紹介,学校の紹介 など
  A ひとつのトピックについて説明するような話題
      (例) 好きな季節,好きなスポーツ,好きな音楽 など
 *日記を書く など
 
【2年生〜3年生】
 *role playやdebate,four cornersのようにいろいろな考えや意見を生み出しやすい言語活動の中で書くことに取り組む場合
  @ 自分と周囲の関係に目を向けることができるような話題
      (例) 給食or弁当,制服or私服,春or秋 など
  A 自分と社会の関係に目を向けることができるような話題
      (例) U5MR,環境問題,食糧問題,戦争と平和 など

  mappingについて
    自分の考えや気持ちをつながりよく書き表すには,まず考えや気持ちを整理するメモを作成
   するとうまくいきます。本研究では,トニー・ブザンが提唱するmind mapを簡素にしたmapping
   を用いて,まず考えや気持ちを整理し,次にmappingの内容を文章化することにしました。
【mappingから文章化まで】 
@ ワークシートの中心に書いた話題から放射線状にツリーを派生させ,思いついた言葉を次々とバルーンに書き入れてつないでいきます。
            
A 文章化したいバルーンを選んで,文章化したい順番に番号を書きます。
または
A 文章化したいバルーンがつながっている枝を選んで,付け加えたり整理したりした上で,文章化したい順番にバルーンに番号を書きます。
           
B バルーンの中の言葉を,辞書などを使って英語に直します。

【教師の援助のポイント】
1 mappingについて 
  最初はmappingに時間がかかりますが,回数を重ねるごとに上手になり,短時間で多くの情報を整理することができるようになります。
  生徒のmappingの中には,ひとつの枝の中のバルーンと次のバルーンの内容が滑らかにつながっていないことがあります。その際は,その生徒の書きたい内容を聞きながらバルーンが滑らかにつながるように助言し,書き足すように促しましょう。生徒が書く英文の量が増え,また,内容も筋道が立ち,論理的になるので,メッセージの受け手にとって内容が伝わりやすくなります。
  mappingを使って表現活動に取り組むよう習慣付けると,mappingをメモとして活用しながら スピーチをすることができるようになります。

2 専門的な語句の指導(辞書指導)について
  トピックによっては,中学校の教科書では学習しない専門的な語句や表現を使用しなければならないことがあります。そこで,mapping用紙のバルーンの中の言葉を英語に直しながら,そのトピック特有の表現に慣れていくこととします。
  英語に直すときが,辞書指導のチャンスです。まず,和英辞典を引き,使用語句の確認をします。辞書に掲載されている例文を参考にしながら,類語の中から最もしっくりくる表現を選びます。次に,使用したい語句を英和辞典で確認します。例文を参考にしながら,その表現が十分に意味を伝えるものかどうか,確認します。

3 教師による加筆修正とfeedbackについて
  
 「どうしても伝えたい!主張したい!」という気持ちが生徒たちの内面に芽生えてくると,mappingのバルーンの中の言葉をつないで,猛烈に文章を書き始める生徒が出てきます。授業中に学習した単語や表現を使うだけでなく,辞書を使ったり,自分なりに工夫したりし始めます。時には,日本語英語的な発想の文章や,文法的な間違いを含む文章等が見られるときがあります。
 ここで大切になるのがfeedbackです。生徒たちが一生懸命に書いた文章を,naturalでsimple,easyな英語の表現に修正し,なおかつそれを身に付けさせるためには,次の手順がポイントになります。
  @ 生徒が英作文をする。(原稿を書く)
             
  A 間違っている所や,paraphraseした方がよい所,文脈に応じた最も適切な
   言葉の選択等に関して,ALTが添削する。

             
  B ALTが添削したものをJTEが読み,生徒が理解できるレベルにparaphrase
   されているか,また,使用語彙は適切かを確認する。

             
  C 生徒は,ALTが添削した英作文(原稿)を,清書する。

  スピーチやディベート,スキット,ロールプレイなど,様々な表現活動がありますが,どれも人前で発表する際には,音読の練習を重ねます。自分の書いた原稿を使って発表する際,生徒たちの心の中にはこだわりと愛着が生まれ,何度も繰返して練習をすることでしょう。そのときこそ,naturalな英語をinputする好機です。生徒作品をしっかりと読み,より分かりやすい表現に加筆修正ができているか,十分に検討してfeedbackしましょう。

  考えや気持ちを書き表す活動の繰り返しとrole playについて  
    本単元では,1つのトピックについて考えや気持ちを書き表す活動を3回計画しました。
   活動が進むにつれて,英作文の分量が増えたり,語句の意味を詳細に解説しなくても
   互いの言いたいことが理解できるようになることを期待しています。
My Opinion
(個人活動)
 生徒は,まず,トピックに対する自分の考えや気持ちを整理するために,mappingをします。次に,mappingを基に文章に書き表します。このトピックで使用する専門的な語句は,この段階で把握します。生徒のmappingや文章の中で使用されている専門用語や独特の言い回しのうちparaphraseできないものは,この段階で学級全体におろし,共通理解を図ります。
Role Play
(ペア活動)
  1つのトピックに対しての複数の見方・考え方について知り,視点を変えて物事を見つめる手立てとして,role playを取り入れ,次の手順で考えや気持ちを再度書き表しました。
 @ 生徒たちはペアになり,教師が予め準備した複数のroleからくじ引き
  で自分たちの立場を決めます。

             

 
A くじで引いた立場になって,ペアでmappingをします。「My Opinion」で,自分の
   意見を既にもっていることから,充実したmappingが期待できます。

             

 
B mappingのバルーンを英訳します。既に専門用語などの知識をもっているので
   効率よくできます。

After the Role
(個人活動)
 活動の最後に,自分のrole以外の考えや気持ちを聞いたり把握したりした上で,自分の本当の気持ちはどう変わったか,また,変わらなかったかについて書き表します。友達の意見を参考にしながら,自分の意見を分かりやすく短時間のうちに書き表すことが目標です。