「価値」や「自分」についてどのような発見をさせるかという授業のねらいが明らかになっても,それを考えさせるための教材がなければ授業は成立しません。副読本の資料の中にぴったりのものがあればいいのですが,そうとばかりは限りません。そこで考えられるのが教師自らによる「教材開発」です。教材を開発するのはたいへんですが,教師の思いのこもった授業は必ず子どもたちの心を動かします。ここでは「教材開発による授業づくり」の進め方とそのポイントを,「いじめの授業づくり」を例にしながら紹介していきます。

 「教材開発による授業づくり」の進め方としては,例えば次のような3つのパターンが考えられます。
T
「こんな授業がしたい!」 教材開発による授業づくりに挑戦
◇授業づくり(大まかなめあて)→素材集め→授業づくり(明確なめあてと展開)→教材開発
【Tについて】
 したいことが明確なときの「教材開発による授業づくり」の進め方です。授業づくりのスタートは,「いじめをなくす授業がしたい」「命を大切にする授業がしたい」程度の大まかなねらいで十分です。大まかなねらいではあってもしたいことを常に意識しておけば,知らず知らずのうちに素材は集まってきます。「授業づくり(明確なめあてと展開)」と「教材開発」は並行して行われるれる場合が多いです。「これは」と思う素材が手に入るまでに時間がかかりますので,すぐに授業化をすることは難しいです。
U
「この素材を使いたい!」教材開発による授業づくりに挑戦
◇素材発見→授業づくり(明確なめあてと展開)→教材開発
【Uについて】
 
自分の心に響く素材と出会ったときの「教材開発による授業づくり」の進め方です。すばらしい素材に出会うと様々なことを考えます。そこで,そのとき思いついたアイデアをメモしておくと後々授業づくりに役立ちます。計画的にすばらしい素材と出会うことはできませんが,もし出会うことができればすぐに授業化することができます。Uの進め方においても,「授業づくり(明確なめあてと展開)」と「教材開発」は並行して行われる場合が多いです。
 ただし,教師の心に響く素材はすばらしいのですが,「子どもたちの実態に合っているか?」「ねらいを達成できるか?」など,本当にそれが道徳の時間の教材として有効かどうかを冷静に判断する必要があります。
V
「これだけ素材が集まった!」 → 教材開発による授業づくりに挑戦
◇素材集め→授業づくり(明確なめあてと展開)→教材開発
【Vについて】
 たくさんの素材が集まったときの「教材開発による授業づくり」の進め方です。1つの素材だけでは授業のねらいを達成することは難しくても,いくつかの素材を組み合わせることで,ねらいを達成できるような授業づくりが可能になります。Vの進め方においても,「授業づくり(明確なめあてと展開)」と「教材開発」は並行して行われるれる場合が多いです。
 普段から素材を集めるためには,道徳の内容項目を意識しておくことと,素材の整理の仕方を工夫することが必要になってきます。この進め方においても,素材と出会ったときに思いついたアイデアなどメモしておくと後々授業づくりに役立ちます。
【「いじめの授業づくり」の進め方について】

 今回のいじめの授業づくりは「T」の進め方で行いました。「いじめはいやだ」という思いや,「いじめをなくしたい」という思いを育てる授業をしたいというところからスタートしました。
 次に「いじめとはいかなることか」などいじめに関わる理論について,考えたり調べたりしていきました。それとともに,「いじめの具体的姿」や「いじめの体験談」「いじめに関わる先行実践」などを調べていきました。
 考えたり調べたりしていくうちに大まかな授業構想が浮かんできましたので,それ実現するために今回は教材(1枚の絵)を自作することにしました。
 その後,授業構想(展開や発問)と教材づくりを並行して進めていきました。

1.「素材」を集めよう(「素材」整理のポイント) 
 身の回りにあるもの全てが,道徳においては「教材」になり得る可能性を秘めています。ですから,ちょっと気をつけてみると,あちこちで道徳の教材となり得るような「素材」を見つけることができます。そこで,ここでは見つけた素材の整理法とそのポイントについて紹介します。
(1)素材を整理するための道具 
  長く続けるためには「手間がかからない」ことが何よりも重要になってきます。手軽に素材を整理するためには,下の ような「クリアファイル」(A4サイズ30ページ程度)が便利です。
 「クリアファイル」を次のように使っています。
【使い方】
 ・見開きで1項目(低・中・高には分けない)
 ・左側…授業構想(ねらい展開など)
 ・右側…素材(出典や思いついたアイデアなど)

(2)素材を整理するときのポイント
ア.「1素材1枚」にする
・どんなに小さい素材でも,1素材ごとにA4サイズの紙にコピーしたり貼ったりします。
・同じサイズの紙に貼ることで整理がしやすいです。
・1素材1枚にしておくと選んだり並べ替えをしたりしやすいので,授業づくりのときに便利です。
・空いているスペースや裏側には,素材活用のアイデアをメモしておきます
イ.「項目別」に整理する
・学年は関係無しに,どの項目も見開き1ページとします。
・道徳の素材は学年部をまたがって使うことが可能なので,学年ごとに分けない方がいいでしょう。
・低・中・高と分けないことで整理が手軽にできます。
ウ.見開きで「左側に授業構想」「右側に素材」とする
見開きの左側に,授業構想を書く紙を入れます。これには,思いついたときにねらいとする内容や授業展開のアイデアなどを書くようにします。そして,その右側に素材を入れます。見開きにすることで,集まった素材を見ながら授業構想を練ることができます。また,構想した授業を行うためにはどのような素材が必要なのか,どのような素材が不足しているのかなどが分かります。
エ.「ファイルに収納できない素材」について
・ビデオや絵本など…概要を書いたメモを入れておきます。
・実物…写真に撮りそれを紙に貼って入れておきます。
 
いじめの授業における素材例
○いじめの定義について ○いじめの具体的な姿について ○いじめの体験談について
2.「先行実践」を集めよう(見つけ方と整理の仕方)
 野口悠紀雄氏は,発想をするための原則の1つとして次のことを挙げています。
○発想は既存のアイディアの組み換えで生じる。模倣なくして創造なし。 (『「超」発想法』講談社)
 いきなり独創的な授業づくりをするのはたいへんです。そこで,まずはたくさんの先行実践を集めそれを追試したり修正したりすることから始めます。野口氏の考えによれば,知識が多いほど良い発想が生まれる可能性が高いということになります。つまり,たくさんの実践を知っているほどより質の高い授業づくりができるはずです。そこで,ここでは先行実践の見つけ方とその整理の仕方について紹介します。
(1)「教材開発による先行実践」の見つけ方
 先行実践は,大きく分けて「書籍」と「インターネット」の2つから見つけることができます。例えば,次のようなものから道徳の教材開発による先行実践を見つけることができます。
 ア.書籍
 月刊誌『道徳教育』(明治図書)
 『とっておきの道徳授業T・U・V』(日本標準:佐藤 幸司編著)
 『心を育てる「道徳」の教材開発』(明治図書:佐藤 幸司著)
 『「力のある資料」で心に響く道徳授業を創る!』(明治図書:TOSS道徳教育研究会編)
 『子どもが本気になる道徳授業 1〜10』(明治図書:深澤 久編)
 『有田学級の「道徳」の授業』(明治図書:有田 和正著)
 イ.インターネット
 「坂本哲彦 道徳・総合の授業づくり」(http://sakamoto.cside.com/
 「道徳教育改革集団Webページ」(http://www8.wind.ne.jp/marudo/
 「TOSSランド」(http://www.tos-land.net/index2.php
 「道徳自作資料の部屋」(http://www.synapse.ne.jp/~ooe/
(2)先行実践を整理するときのポイント
 ア.先行実践を整理するための道具
 素材集め同様,先行実践の収集においても,長く続けるには「手間がかからない」ということが何よりも重要になってきます。手軽に先行実践を整理するには,下の写真のような「封筒ファイル」(角形2号:A4サイズ)が便利です。
 イ.封筒ファイルの作り方と使い方 
学年部ごとに道徳の全項目分用意します。 (低学年…15中学年…18高学年…22)
封筒には,どちらかの端に「学年部」「内容項目の番号」 「項目の内容」を書いておきます。こうしておくと,下の 写真のように机などから見つけ出すときに便利です。 また,『小学校指導要領解説(道徳編)』の「内容」の説明を貼っておくと,先行実践の分類をする際に便利です。
封筒ファイルは,下の写真のように引き出しや本棚などいつも目にするところにまとめて置いておきます。
先行実践を見つけたら,すぐに印刷(コピー)し封筒ファイルに入れます。そのときには「書名」「出版社名」「著者名」「実践者名」等を記入しておきます。
どの学年部の実践か分からないときは,とりあえず中学年に入れておきます。
2つの内容項目にかかわりがあるものは,コピーをして2つの袋に入れておくと使いやすいです。
分類不能な実践を入れるための袋も,学年部ごとに「その他」等の名前を付けて用意しておきます。
袋が一杯になったらファイルなどに綴じます。
 ウ.情報の整理の仕方
 情報を整理する上でのいちばんのポイントは,「捨てる」ことです。必要だと思って袋ファイルに入れた先行実践も,冷静に見ると使えないものも出てきます。ですから,有効ではないと判断した実践や,ある期間使わなかった実践については,ためらわず捨てることが肝心です。
◆袋ファイル
◆「袋ファイル」使用例
【いじめの授業についての先行実践例】
 ア.書籍
 『「いじめ」に負けない子を育てる』(明治図書:TOSS道徳教育研究会編)
 『「いじめ撲滅」の授業』(明治図書:内海 敏行著)
 『「いじめ」の授業−道徳自作資料集−』(明治図書:大江 浩光著)
 『いじめを防ぐ道徳授業へのシナリオ小学校編』(明治図書:金井 肇,押谷 由夫,馬渕 金男 編著)
 『とっておきの道徳授業T』(日本標準:佐藤 幸司編著)
 『硬派 教育力の復権と強化』(明治図書:野口 芳宏著)
 イ.インターネット
 「TOSSランド」(http://www.tos-land.net/index2.php
 「いじめを考えさせる道徳授業」(http://www.din.or.jp/~waiwai/ijime.htm
 『「いじめ」の授業』(http://www.synapse.ne.jp/~ooe/ijimenojyugyou1.htm
 「道徳教育改革集団Webページ」(http://www8.wind.ne.jp/marudo/
 
3.「授業の構想」を考えよう(授業づくりのポイント)

(1)授業の「ねらい」を決める
〔授業の「ねらい」を決めるまでの流れ〕
ア.「価値」について考える
 授業づくりを行う前に「価値」について考えることが大切です。まず,教師自身が自分の頭で「価値」について考えます。その後,「価値」について文献などを使って調べ自分の考えを修正していきます。
 「価値」に対する考えを深めるためのポイントは,次のようなことです。
◆「価値」とはいかなることか
◆なぜ「価値」が○○(大切,問題)か
◆「価値」の具体的な姿とはどのようなものか
◆「価値」の具体的な姿を○○(実現,阻止)できないのはなぜか
◆「価値」の具体的な姿を○○(実現,阻止)するために必要な心の力は何か
イ.「価値」についての子どもの実態を調べる
 教師の「価値」に対する考えが深まったら,次に子どもたちの実態を調べます。「価値」や「価値に関わる自分」について調査をすることで,子どもたちにとって「見えていること」「見えていないこと」や「しようとしていること」「しようとはしていないこと」や「できていること」「できていないこと」などが分かります。
ウ.授業の「ねらい」を決定する
 「価値」について考え「子どもの実態」について調べていくことで,授業で目指す子どもの姿が明らかになります。それが授業の「ねらい」となります。
(2)授業の「全体像」を考える
授業の「ねらい」が決まったら,次は授業の全体像を考えていきます。例えば次のようなことです。
 ・何を発見させるか(「価値」について「自分」について)
 ・どんな教材が必要か
 ・どんな構成(授業展開)にするか
 ・どんな発問を使うか
 ・何時間計画にするか など

【いじめの授業づくりの例】
(1)授業の「ねらい」を決める
ア.「価値」について考える
 ・「いじめ」とはいかなることか(いじめの定義)
 ・なぜ「いじめ」は問題なのか(いじめの授業の必要性)
 ・「いじめ」はなぜ起こるのか(原因や背景)
 ・「いじめ」とはどのような行為を指すのか(いじめの具体的姿)
イ.「価値」についての子どもの実態を調べる
 ・「いじめはいやだ」「いじめをなくしたい」という思いが弱い。
 ・いじめの行為を知らない(知らず知らずにしていることを発見できない)。
 ・いじめ側がどのような人か知らない。(「傍観者」「観衆」はいじめ側だとは思っていない)
 ・いじめられる側のつらさ悲しさが十分には分かっていない。
 ・いじめる側の不幸が分からない。
 ・「いじめ」についてのこれまでの自分の実態が分からない。
 ・「いじめ」に対してできることが分からない。
ウ.授業の「ねらい」を決定する
「いじめ」についての見方・考え方を広げたり深めたりさせることで,「いじめはいやだ」という道徳的心情を育てる。
「いじめ」についてこれまでの「自分」を振り返らせそこから目指す「自分」を考えさせていくことで,「いじめをなくしたい」という道徳的実践意欲と態度を育てる。
(2)授業の「全体像」を考える
○発見させる内容
(価値についての発見)
・「いじめとはいかなることか(姿・言葉)」について
・「いじめる側にはいるのはどのような人か」について
・「いじめで不幸せになる人はだれか」について
(自分についての発見)
・「自分の中にある『いじめる資質』『いじめられる資質』」について
・「いじめに対してのこれまでの自分」について
・「いじめに対してのこれからの自分」について
○中心となる教材
・いじめの姿が数多く入った1枚の絵
○授業構成(2時間計画)
1.資料の中から,「いじめを感じる場面」を発見する。
2.資料から「いじめの言葉」について考える。
3.いじめによって「不幸せ」になる人について考える。
4.「いじめ」で「不幸せ」になった人の話を聞く。
5.感想を書く。
1.前時に解決しなかった問題について考える。
2.自分の中にある「いじめ」の資質と,現在の「いじめ」の特徴に気づく。
3.「いじめ」に対する「これまでの自分」と「これからの自分」について考える。
4.「いじめ」から立ち直った人の話を聞く。
5.感想を書く。
4.「教材開発」に挑戦しよう(教材開発のポイント)
(1)教材の条件と教材化の種類
ア.道徳の教材の条件
『小学校学習指導要領解説(道徳編)』には,道徳の資料の要件として次のようなことが挙げられています。
 ア 児童の感性に訴え感動性の豊かな資料
 イ 人間の弱さやもろさに向き合い生きる喜びや勇気を与えられる資料
 ウ 生や死の問題人間としてよりよく生きることの意味などを深く考えさせられる資料
 エ 体験活動や日常生活等を振り返り道徳的価値の意義や大切さを考えさせられる資料
 オ 多様で発展的な学習活動を可能にする資料
イ.教材化の種類
道徳の授業に活用できる教材化の種類としては次のようなものが考えられます。
 ・読み物
 ・紙芝居
 ・ビデオ・DVD
 ・CD
 ・絵・写真
 ・実物
 ・人(ゲストティーチャー) など 
(2)教材開発の進め方
ア.教材を作る
 素材の特性や教材化の種類の特性を生かしながら,教材開発を行います。教材開発はそれだけ単独に行うのではなく,「3」の「授業の構想づくり」と並行して行われる場合が多いです。素材を教材化する方法としては,次のようなものが考えられます。
 ○素材をそのまま教材として使う
 ○素材を加工して教材として使う
  ・修正する
  ・編集する
  ・部分的に隠す(切り取る)
  ・パソコンに取り込み,効果を加える(拡大フェードインフェードアウト吹き出し等)
 ○素材をヒントに教材を自作する
  ・絵を描く
  ・写真を撮る
  ・お話を書く
  ・ビデオを作る
  ・実物を作る 等
イ.教材の生かし方を考える
 教材のよさを引き出すためには,以下のような工夫が必要になってきます。
  ・教材の提示の工夫
  ・教材の活用のさせ方の工夫
  ・教材を生かす発問の工夫など
【いじめの授業における教材開発の例】
○「1枚の絵」を教材として使うことのよさ
 ◇子ども達の興味・関心が高い
   →学習への意欲を高めやすい
 ◇内容理解がさせやすい
 ◇情報量が多い
   →多様な展開を考えることができる
   →考え方の違いを引き出しやすい
   →資料と生活とを結びつけやすい(自分と重ねやすい)
 ◇発想を広げやすい
   →絵からは見えないものについても考えることができる
○教材を生かす提示や活用の工夫
○教材を生かす発問の工夫
 ※授業実践例の中で説明をしています。
○出来上がった教材
 今回の授業においては,素材をヒントに次のような教材を自作しました。