小・中学校を通した理科の授業づくりを提案します!

2 研究の実際
(1) 新学習指導要領における小学校・中学校の理科学習の方向性
 

小学校では平成23年度から、中学校では平成24年度から全面実施となる学習指導要領に基づいて、学習内容の追加、移行が行われています。また、理科に関しては、小学校、中学校とも標準授業数の増加もあります。これらについて、整理したいと思います。

  @ 小学校・中学校の学習区分・分野
 

平成21年度からの移行期間から、理科の学習の標準授業時数が下記の表のようになりました。内容の増加に伴って、授業時数が増えています。特に中学校ではそれが大きく、理科教育がますます重要視されていることがうかがえます。

  <小学校理科の授業時数>
 
 
第3学年
第4学年
第5学年
第6学年
合計
平成21年度から
90
105
105
105
405
平成20年度以前
70
90
95
95
350
  <中学校理科の授業時数>
 
 
第1学年
第2学年
第3学年
合計
平成21年度から
105
140
140
385
平成20年度以前
105
105
80
290
 

また小学校では、児童の学び方の特性や2つの分野で構成されている中学校との接続などを考慮して、従前の学習指導要領の「A生物とその環境」「B物質とエネルギー」「C地球と宇宙」の3区分から新学習指導要領では、「A物質・エネルギー」「B生命・地球」の2区分となりました。なお、中学校は、従前より「第1分野(物理・化学)」、「第2分野(生物・地学)」であり、小中が同様の区分で示されるようになりました。

  <新学習指導要領における小学校と中学校の領域構成>
 
小学校
A区分
物質・エネルギー
B区分
生命・地球
中学校
第1分野
物理領域・化学領域
第2分野
生物領域・地学領域
 

このことからも、小学校の場合、これまで以上に中学校を意識した指導が必要であり、中学校もまた、小学校における学習を踏まえて学習指導を進めることが大切になると考えます。

   
  A 小学校・中学校で育みたい問題解決の能力
 

新学習指導要領において、小学校では「問題解決の能力」として、中学校では「科学的に探究する能力」として育みたい問題解決の能力が示されています。また、次のように小学校では学年ごとに、中学校では分野ごとにそのポイントが示されています。

   
 
小学校
小学3年生
自然の事物・現象の違いに気付いたり比較したりすることができること。
小学4年生
自然の事物・現象の変化とその要因とを関係付けることができること。
小学5年生
制御する要因等を区別しながら、観察や実験などを計画的に行っていく条件制御ができること。
小学6年生
自然の事物・現象の変化やはたらきを、その要因や規則性、関係を推論しながら調べること。
中学校
中学1年生
物質やエネルギーに関する事物・現象の中に問題を見いだし、目的意識をもって観察、実験を行い、事象や結果を分析して解釈し、表現できること。
中学2年生
生物とそれを取り巻く自然の事物・現象の中に問題を見いだし、目的意識をもって観察、実験を行い、事象や結果を分析して解釈し、表現できること。
         
 

問題解決の能力は、小学校においては、その学年で中心的に育成し、段階的に積み上げていくものです。したがって、下の学年の問題解決の能力は上の学年の問題解決の能力の基盤となるものであることに留意する必要があります。さらに、小学校において育まれた問題解決の能力を踏まえて、中学校においては、より科学的に探究する能力のを育成することにつなげていくようにします。

 
 
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(2) 科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習指導の考え方
 

本研究では、科学的な思考力・表現力について、次のように捉えました。

  「科学的な思考力」は、科学的な見方や考え方ができる過程で必要とされる力だと考えます。小学校の新学習指導要領解説には、「科学とは、人間が長い時間をかけて構築してきたものであり、一つの文化として考えることができる」とあり、「科学的」とは、事象の実証性、再現性、客観性について、条件を検討することであり、問題解決の場面における活動中の児童生徒の考えを指すと考えます。

  「科学的な表現力」については、問題解決の学習活動においては、児童生徒が自分の考えを、言葉・図・グラフなどに表し、それを、より実証性、再現性、客観性をもつものとして、記述したり説明したりすることができる力と捉えます。

  しかし、分かっているつもりでも、あらためてその内容を音声言語や文字言語などの言葉に表そうとすると、なかなか難しいものです。仮に児童生徒が自然事象の規則性などを「分かった」と判断し、自分の中では解決できたと思っている場合でも、それを図や表などを使って説明したり、言葉で説明したりすると、そこに科学的な根拠が薄かったり、思い込みであったりすることに気付かされることがあります。つまり科学的な思考と表現は一体にならなければ、科学的なものの見方や考え方は高まらないと言えます。

  本研究では、この思考力と表現力をつなぐものとして、言語活動の充実とものづくりが重要と考えています。そこで、科学的な思考力・表現力の育成のために、言語活動の充実とものづくりについて研究を進めていく上でのポイントを以下の5点にまとめました。特に言語活動の充実にかかわるTからWについては、主に1単位時間の学習過程に位置付け、ものづくりにかかわるXについては、単元に取り入れて、実践に取り組むことにしました。

   
 
               科学的な思考力・表現力の育成の手立てのポイント
 


T 事象をどのようにとらえているか文字で書き表すこと

U 他者とことばで考えを交流すること

V 観察や実験の結果を適切な表やグラフにかき表すこと

W 結果と考察を書き分けること

X ものづくりを通して学びをより実感させること

   
  T 事象をどのように捉えているか文字で書き表すこと
 

ここでいう「事象」とは、目の前の自然の事物・現象だけでなく、観察や実験を行っている最中の事象の変化も含みます。「事象をどのように捉えているか」ということは、目の前で起きている事象や目の前にあるデータを読み取るということを指します。理科学習における、テキストの中のグラフや表を読み取ることも同じことを指します。

そこで、本研究の言語活動の充実において、特に重要視しているのが、自然の事物・現象の読み取りです。児童生徒が、主体的な問題解決の活動を進めるために、教師は、児童生徒がこれまでもっていた見方や考え方では説明できない事物・現象を提示するなど、児童生徒自らが自然の事物・現象に興味・関心をもち、問題を見いだす状況をつくる工夫が求められます。

  実際の授業において教師は、学習の導入で、児童生徒に事物・現象の提示(以下「事象提示」)として、映像を見せたり、演示実験をして見せたりすることが多いです。そして教師は、この事象提示から児童生徒の「あれ・どうして・なぜだろう・調べてみたい」を引き出し、学習問題へと高めていきます。
 
  しかし、そもそも自然の事物・現象をどのように読み取っているのか、もしくは読み取れているのか、これが曖昧なままだと、目的が分からず観察や実験を行ってしまったり、観察や実験の結果から結論が見いだせないなど、後の活動に影響していくのではないかと考えます。

この学習導入時における事象の読み取りについては、「(4)A理科における言語活動と問題解決の学習の流れとに対応したワークシートとそのポイント」で、詳しく説明しています。

   
  U 他者とことばで考えを交流すること
 

思考を深めるためには、個々人の考えを交流させる言語活動が欠かせないものだと考えます。一般的には、「予想」の段階や「観察・実験の活動中の気付き」「結果から考察へ向かう」などの場面で交流活動が取り入れられます。


 本研究では、学習導入時の事象の読み取り「@事象をどのようにとらえているか文字で書き表すこと」に関連させて交流活動の場を設定しました。

教師が示した事象に対して「不思議だ」と考える児童生徒もいれば、「当たり前だ」と考える児童生徒もいるでしょう。また、事象のどこを見ればよいのか戸惑う児童生徒もいるかもしれません。


そこで、教師の事象提示について個々の児童生徒に自分なりの解釈を記述させて、それを交流させます。そうすることで児童生徒は、自身の考えが明らかになり、他者の考えとの違いなども明らかになって、正しく学習問題を捉え、活動に向かうことができると考えています。

   
  V 観察や実験の結果を適切な表やグラフにかき表すこと
 

小学校の新学習指導要領解説では、言語活動の充実と中学校まで見据えた問題解決の能力について、観察・実験において結果を表やグラフに整理し、予想や仮説と関係付けながら考察を言語化し、表現することを一層重視することが述べられています。 本研究では、考察の言語化はいうまでもなく、確実に「結果を適切な表やグラフにかき表させること」が大切であると考えました。

本研究の実践から小学校6年生「水溶液の性質」を例に説明します。第7時に「塩酸にアルミニウムを溶かした水溶液を蒸発させたときに出てくる物質はアルミニウムといえるのか」を調べる学習を行いました。児童には、その物質が「もしアルミニウムなら」という視点をもたせて、水溶液を蒸発させたあとに残った物質に、アルミニウムの性質があるのかを調べる活動を行っています。児童が考える方法としては「見た目の様子から考える」「電気を通すか調べる」「もう一度塩酸に溶かしてアルミニウムと同じ溶け方をするのか調べる」などがあります。このことについて、下のAは、結果を絵図にして表しています。それに対してBは、結果を表にしています。Aのような記録ができることも表現力としてとても大切だと考えていますが、本研究ではそれをBのように表を用いるなどして整理させることをねらいました。

  irassuto1
 
調べる方法
アルミニウムの性質
アルミニウムがとけた塩酸から
取り出した白い粉のようなもの
電気を通す 電気を通す 電気を通さなかった
塩酸に入れる あわを出してとける あわを出さずにとけた
水に入れる とけない とけた
 
  W 結果と考察を書き分けること
 

考察を科学的な表現、そして論理的な表現に高めていくためには、結果と考察を書き分けられるように指導することが大切です。PISSA調査においても、「なぜそう考えたのかという理由」を問う設問で、出題者側としては結果に基づいた「考察」を求めているのに対し、日本の児童生徒は「結果」のみを記述することが多いと報告されています。

このことからも、指導者は、何が「結果」であり、何が「考察」であるのかを明確に分けて指導する必要があります。

ジャガイモにデンプンがあるのかを調べる実験を例に説明します。この実験では、ジャガイモにデンプンがあることを調べるのにヨウ素液を使用します。実験について結果と考察を分けて考えると次のようになります。

 
【問題】ジャガイモにデンプンはあるのか
  ↓
【実験】切り口にヨウ素液をかけてみる
  ↓
結果
青むらさき色に変化した
  ↓
考察
ジャガイモにはデンプンがある     と言える
         なぜなら・・・ 
   
 

つまり、結果とは「○○をしたら○○になった。」という、ある操作に対してそれが目に見える変化の様子であったり、数値的なものであったりします。ジャガイモのデンプン反応の実験の場合、結果は「青むらさき色になった」という事実を指します。続けて、考察とは、○○という結果から分かることは、○○ということである。その理由は○○だからである。」のように、結果を受けて解釈するものだと考えます。

本研究では、結果を表やグラフに整理させるようにしていますが、この場合、整理させた表やグラフは結果に含まれると考えています。また考察についても「つまり」や「なぜなら」など結果を踏まえて表現させ、論理的な考察に向かわせるような接続詞や話型などを取り入れるようにしました。

加えて本研究において、児童生徒に考察をさせるときに、実験結果からいえることを、導入の事象提示に立ち戻らせ、「再説明」させるような工夫をしています。これにより、児童生徒が問題把握から結果までの学習全体を振り返るような考察をすることで、より科学的な思考力・表現力の育成が図られるのではないかと考えています。

   
  X ものづくりを通して学びをより実感させること
 

中学校の新学習指導要領では、ものづくりは、科学的な原理や法則について実感を伴った理解を促すものとして効果的であり、学習内容と日常生活や社会との関連を図る上でも有効であることが述べられています。
 本研究においても、単元で学んだことを実感させるものづくりを取り入れて、児童生徒が、より理解を深めたり生活との関連に気付いたりすることができるようにしました。

例えば、小学3年の「電気」や「磁石」の単元の指導内容には、単元の終末におもちゃづくりの場が設定されています。教科書にもその例示がされ、実際に取り組まれているところですが、準備する材料の関係や指導時数などの関係から、課題も多いようです。

本研究では、児童生徒にものづくりを着実に体験させることが大切であると考え、教科書の事例を基本とするなど、課題となる点も考慮して実践を行いました。

 
 
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(3) 科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習の進め方
 
  @ 2区分の学びの特性に見る小・中学校のつながり
 

新学習指導要領において、小学校の理科が「A物質・エネルギー」と「B生命・地球」に整理されました。この2区分では、それぞれ特徴的な学び方があると考えられます。表1に概略をまとめてみました。

 
                          表1 小学校理科の2区分の学びの特性
 
<A区分の学び>
<B区分の学び>
電気、磁石、水溶液など実験を中心に学ぶ学び方
○再現性が高く、何度も繰り返すことができる
○数多くの状況をつくることができる
○要因を抽出して変数として制御できる
○時間や空間を制御できる
○理論や事象の規則性を実験的に確かめることができる
○屋内実験的活動
植物、生物、太陽や月など観察を中心に学ぶ学び方
○原則的には再現性がない
○数多くの状況をつくることが難しい
○さまざまな要因が絡み合う状況を受け取り吟味していく
○時間や空間を制御しにくい
○事象に対し、観察的で、視点や観点を重視する
○屋外観察・調査的活動
 

A区分は、電気や磁石、水溶液といったものを学習の対象とするものが多く、自ら問題解決のための状況を、時間や空間に左右されずつくることができます。また一人一実験というように、学級の児童生徒全員が同じ状況をつくり上げることも可能です。したがって、学習の場も理科室などで実験的な活動として行うことが多くなると思います。

これに対して、B区分は、植物の成長であったり、季節の生き物、太陽や月の動きなどのように、対象物が限られていたり、自由に手にとったりできないようなものが多いです。事象の再現性に関しても、非常に長時間であったり、壮大なスケールなものであったりするなど原則的には再現性がないものです。そのため、様々な要因が絡み合う中で自らが状況に入り、対象の比較や時間による様子の変化などの観点や、植物の葉や茎についてなど、視点をもって観察することが求められます。それは、理科室のみならず、屋外や場合によっては課外の観察活動が必要になることも多いです。

このように、A区分は実験型の学び方が中心となり、B区分は観察型の学び方が中心になると考えられます。

小学校の2区分を中心に述べましたが、中学校(「第1分野 物理・化学」「第2分野 生物・地学)の場合も、おおよそ同様のことがいえると思います。このことから新学習指導要領により、小学校と中学校において、A区分と1分野、B区分と2分野の学びの特性に考慮した接続が図られたと考えてよいと思います。

   
  A 言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指した学習の進め方
 

本研究において、言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指した授業実践として、小学校「A物質・エネルギー」、中学校「1分野 物理 化学」について行うようにしました。
  さらに「科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習指導の考え方」で示した5つのポイントの中の
T 事象をどのように捉えているか文字で書き表すこと
U 他者とことばで考えを交流すること
V 観察や実験の結果を適切な表やグラフにかき表すこと
W 結果と考察を書き分けること
について、それぞれの手立てを講じていくとき、その学習の進め方を明らかにして取り組む必要があると考えました。

そこで本研究では
1 事象提示を見る
2 事象を説明する
3 学習問題を立てる
4 計画を立てる
5 実験を行う
6 結果を交流する
7 結果から言えることをまとめる
の7つで構成される学習過程を考えました。
   なお、これは学習指導案を作成する際も同じ項立てで示し、学習を進めていくようにしています。

 
    <学習の進め方(教師用)(1単位時間)>                        <学習の進め方(児童生徒用)>
  教師用学習過程説明児童用学習過程説明
 
<学習の進め方>教師用・児童用のダウンロードはこちらから→印刷用ダウンロード【PDF】
「印刷用ダウンロード」または画像を直接クリックすると上の2つの画像がPDF出力されます。児童用はノートに貼ったり、拡大して教室に掲示したりするなどして御活用ください。
  B 学んだことを実感させるものづくり
   上に示すような言語活動の充実を図る学習を繰り返しながら、小単元や大単元の終末にものづくりを行っていくようにします。
 ここでいうものづくりとは、何か「もの」を作る製作活動のみならず、学んだことが身近に存在し、生活に生かされていることを実感できるような体験活動を指しています。まずは教科書の事例などを参考に、確実に取り扱っていくことが大切だと考えています。
 

 

 
 
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(4) 科学的な思考力・表現力の育成を目指す理科学習指導のポイント
  @ 理科における言語活動を促す学習導入時の事象提示のポイント
 

本研究における言語活動の充実に関わり、児童生徒が知識や体験、思考を言語化する場面として、学習導入時の事象提示の仕方が大きなポイントであると考えます。

多くの場合、学習の導入場面で、教師はその時間に学習する内容に関する自然の事物・現象(以下事象)について、事象提示を行います。そうして児童生徒に、「あれ・どうして・なぜだろう」などの疑問をもたせ、解決すべき問題として、学習問題へと高めていきます。しかし、同じ現象を見ても、児童生徒の解釈がすべて同じとは限りません。

そこで本研究では、この「なぜ」「どうして」という児童生徒の考えを言葉として記述させることから始めるようにしました。さらに、事象提示を「比較」の視点をもって、事象Aと事象Bの2つの事象を見せることを基本にし、児童生徒が比較することを通して、より問題となる点に着眼するような工夫を行いました。事象Aと事象Bを比較させる視点としては、次のようなものがあると考え、表2のように整理しました。

   
 

                     <比較の視点>

 


(ア) 素朴概念(イメージ)と科学的な概念を比較させる事象提示

(イ) 操作を加える事象と加えない事象を比較させる事象提示

(ウ) 既習事項と未習事項を比較させる事象提示

(エ) 異なる物質に同じ操作を加えて比較させる事象提示


 

※ 事象Aと事象Bは、2つの事柄を示すという意味であり、特に順序性や、それぞれの内容(考え方)を固定するものではありません。

                    表2 事象提示の仕方のポイント及びその例
 
比較の視点
考え方
事象提示の例期待される効果
実践例
(ア)
素朴概念(イメージ)と科学的な概念を比較させる事象提示
多くの事象提示は、児童生徒がもつ素朴概念(イメージ)に対して科学的な概念に基づく現象を見せることで、児童生徒に「不思議だ、どうしてだろう」というような疑問を引き出します。
これを事象提示の基本(ア)として考えます。

つまり、児童生徒がもつ素朴概念と科学的概念を比較させていると考えます。
本研究においても、この(ア)が基本となり、事象Aと事象Bを比較させる視点の(イ)(ウ)(エ)を組み合わせて考えるようにしていきます。
事象提示の例
小学4年の単元「ものの温度と体積」
温度の変化によって、空気の体積が変化することを学習する場合
事象Aとして(児童生徒がもつ素朴概念)
事象Bとして、石けん膜を張った試験管を温めているところを提示(科学的概念に基づく事象)

期待される効果

この場合、事象Aとしての事象提示は行いません。児童がもつ素朴概念としては、「空気が温度によって膨らむとは知らない(思っていない)」ことが考えられ、事象Bに対して、驚きと興味をもつが考えられます。
(イ)
操作を加える事象と加えない事象を比較させる事象提示
事象の変化の前後の違いや事象に操作を加えていること(変化の要因)に着目させたい場合の事象提示です。

事象提示に使う実験器具は、同じものを2つ準備します。そして、 必ず児童生徒に、何も操作を加えなければ事象に変化はないことを確認します。その上で、操作を加えたものと何が違うのか、どのような操作を加えると事象が変化するのか等、比較を通して考えさせます。
操作を加える事象と加えない事象を比較させることで、五感を通して情報を収集し、原因として考えられる要因について、自分の考えを言葉で表現しやすくなると考えています。
事象提示の例
小学4年生の単元「ものの温度と体積」
温度の変化によって、空気の体積が変化するということを学習する場合
事象Aとして、石けん膜を張った試験管を提示(操作を加えない事象)
事象Bとして、石けん膜を張った試験管を温めているところを提示(操作を加える事象)

期待される効果

この2つの事象を比較させることで、児童は、事象Bにおいて、石けん膜が膨らむ様子を見て、「湯につけるとはどういうことなのか」「湯でないと変化は起きないのか」「石けん膜が膨らむのに温度が関係しているのか」など、様々なことについて、その時点における自分なりの解釈をします。このように思考の整理をさせると、言葉で表現することが容易になると考えられます。
中学1年
  物質の状態変化
小学4年
  とじこめた空気や水
 
 
 
(ウ)
既習事項と未習事項を比較させる事象提示
既習事項とは、前時以前のすべての事項を指します。事象Aでは既習事項を想起させ、それを基に事象Bをどのように考えるかという事象提示です。

既習事項を丁寧に提示することで、そのあと問題となる点に着眼しやすくなり、自分なりの解釈が言葉で表現しやすくなると考えています。
事象提示の例
小学6年生の単元「水溶液の性質」
アルミニウムを溶かした塩酸を熱して出てきた物質を調べて、溶けたアルミニウムは別の物質に変わっているということを学習する場合
事象Aとして、食塩水を熱して食塩の粒が析出する様子を提示(既習事項)
事象Bとして、アルミニウムが溶けている塩酸を熱して白い粒が析出する様子を提示(未習事項)

期待される効果

この2つの事象を比較させることで、児童は「食塩水を熱して出てきたものは食塩である。」ならば「アルミニウムが溶けている塩酸を熱して出てきた白い粒はアルミニウムであると考えられるのではないか」など予想することが考えられ、このあとの学習において、予想や仮説を含んだ説明が行いやすくなると考えられます。
小学6年
  水溶液の性質
小学6年
  てこのはたらき
小学5年
  電磁石の性質
小学5年
  電磁石の性質
小学5年
  電磁石の性質
小学5年
  ふりこの動き
小学3年
  風やゴムのはたらき
 
(エ)
異なる物質に同じ操作を加えて比較させる事象提示
一見したところ同じように見える物質Aと物質Bに対して、同じ操作を加えます。そのときの現象の違いから、変化の要因に気付かせたり、事象Aを基に、より事象Bの物質の性質に着目させたりする事象提示です。

複数考えられる変化の要因を1つに絞って児童生徒にとらえやすくさせたり、本来とらえさせたい点をより際立たせたりするのに有効だと考えています。
事象提示の例
小学6年生の単元「水溶液の性質」
水溶液の中には気体が溶けているものがあることを学習する場合
事象Aとして、ペットボトルに入れた水を湯につけたときの様子を提示
事象Bとして、ペットボトルに入れた炭酸水を湯につけたときの様子を提示
事象Aは水であり、事象Bは炭酸水であることを知らせます。

期待される効果

事象Aの水は特に変化がないのに対し、事象Bの炭酸水は泡が出始めます。水では起きなかった現象が、炭酸水では起きることから、児童は「水が沸騰するときの泡とはちがう、あの泡の正体は何だろうか」や「溶けていた気体が出てきたのだろうか」、「気体が水に溶けるとはどういうことなのか」など疑問を言葉にし、目的意識をもった探究活動へと向かいやすくなると考えられます。
中学2年
  電流と磁界
中学2年
  物質の成り立ち
中学2年
  物質の成り立ち
中学1年
  物質の状態変化
中学1年
  物質の状態変化
小学6年
  水溶液の性質
小学6年
  水溶液の性質
小学5年
  電磁石の性質
 
 
     以上のように本研究では、学習導入時の事象提示の視点(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)を基に、教師がこれらを単独または組み合わせて事象提示を工夫していくことで、児童生徒に知識や体験、思考を言語化させやすくなると考えています。
 
 
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  A 理科における言語活動と問題解決の学習の流れとに対応させたワークシートとそのポイント
     本研究では、言語活動の充実により科学的な思考力・表現力を育成するためのワークシートの開発を行いました。
理科の学習では、問題解決学習を、1単位時間あるいは2単位時間で、1つの単元を通してスパイラル的に行うことができます。つまり、先に示した「言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指した学習の進め方」の学習の流れを繰り返し行うことで、児童生徒にも一連の問題解決の過程がつかませやすいと考えています。

   そこで、使用するワークシートも本研究における一連の問題解決と対応させるような構成が望ましいと考えました。次にワークシートの基本構成を示し、学習指導のポイントと合わせて使い方のポイントについて説明を述べていきます。
 
 

<ワークシートの基本構成>

 
ワークシート例
ワークシート構成
A 
「事象の説明」
B 「解決のキーワード」
C
 「学習問題」
D 
「実験方法」
E
 「注意事項」
F
 「実験の結果」
G
 「結果から言えること」
 
joseito

自作ワークシート用として、本研究で使用したワークシートの項目のみ示したシートをこちらからダウンロードできます。

小学校

ワード版ワークシート Word版

一太郎版ワークシート 一太郎版
 
 
中学校
  ワード版ワークシートWord版
  
一太郎版ワークシート 一太郎版

※ワークシートの文言は、学年に合わせて多少変更しています。
  A 「あなたが考える説明を書きましょう」
     教師が事象提示を行い、児童生徒にその事象を読み取らせ、自分なりの説明を記述させる欄です。
 
ワークシートA  
記入のさせ方
小学6年「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
 
ポイント

 

目の前の事象を児童生徒なりの考えで、筋道が通るように説明させてみることが大切です。

     文字に書き表すことで、児童生徒は現在の自分の考えを明らかにできます。また、自分なりに事象の説明をさせることで、事象に対する仮説や予想をもつことにつながると考えています。

   書くことに戸惑っている児童生徒には、無理に書かせようとはせず、うまく表現できないときは、「なんとなく分かるけど書けない」「説明できない」など記入させ、空欄のままにしておくことは避けるようにするのがポイントです。

   児童生徒が、1単位時間の終末において、この欄と「G 結果から言えること」とを対応させて見ることで、自身の学びの成果が感じられるようにするためです。書かせたあと、児童生徒で考えを交流させます。
   
  B 「解決のキーワード」
    「A 自分なりの事象の読み取り」について他者と考えを交流させ、問題を解決するために、着目すべき点をキーワードとして書き出させる欄です。
 
ワークシートB
記入のさせ方 小学6年「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
 
ポイント

 

見いださせる「キーワード」は学習内容にかかわる「空気」「温度」など事象の変化の要因です。

    学習内容に関わる要因を見いださせることは、理科学習で重要なことです。事象提示の中から「何が関係しているのか」ということを適切に捉えさせないと、児童生徒は、何を調べるために観察や実験を行うのかが、不明瞭になります。解決に向けたキーワードを見いだす交流活動を行わせることで、自分の考えがもてない(あるいは言葉で説明ができない)児童生徒も、他者の考えを参考に自分の考えをもたせることができると考えます。また、捉えるべき要因と違う要因をとらえてしまっている児童生徒も、キーワードを見いだす交流活動で修正されると考えます。

  例えば、小学4年の「ものの温度と体積」で、児童に石けん膜を張った試験管を温めて石けん膜がふくらむ事象を提示したとします。ある児童の場合、「中の空気が温められてふくらんだから」と考え、キーワードは「空気」、「温度」、「ふくらむ」などが見いだされます。また、ある児童の場合、「中の空気が温められて上に上がろうとしたから」と考えます。この場合、キーワードは「空気」、「温度」、「上がる」などが見出されます。さらに、両者の考えが対峙したとき、「石けん膜がふくらむのは、空気がふくらむことに関係しているのか、それとも空気が上昇していることに関係しているからなのか」などが問題として出てくることが予想されます。

  教師は、児童生徒同士の事象の読み取りとキーワードについて、学級全体で整理するようにします。
   
  C 「今日の学習問題」
    本時で解決すべき学習問題を書かせる欄です。
 
ワークシートC   記入のさせ方 小学6年「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
 
ポイント

 

「キーワード」を用いて、学習問題を立てさせることです。

    学年が上がるごとに、まずは児童生徒自身に書かせることが望ましいと考えます。解決のキーワードが学習問題に使われるようにするとよいでしょう。

  教師は、本時の学習問題として適切になるように児童生徒とやりとりを行いながら、学級全体としての学習問題に整理して掲げるようにします。

  教師が、児童生徒の意見を整理して板書した表現と、児童生徒自身が立てた学習問題との表現が違ったときは、まずは児童生徒に自分が立てた学習問題と、板書された学習問題との意味が同じかどうか判断させるのがよいでしょう。児童生徒が意味は変わらないと判断した場合は、自身が立てた学習問題の表現のままにしておくようにし、大きく意味が違うと判断した場合は、自分が書いた表現を消さずに、欄の空いているところに書き込むなどして、修正させるようにしていきます。
   
  D 「実験方法」
    実験計画を立てさせたり、実験方法について話し合わせたりする欄です。
 
ワークシートD   記入のさせ方 小学6年「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
 
ポイント

 

単なる実験手順ではなく、実験の目的と意味を考えさせることです。

    例示の3年生のワークシートでは、実験の方法や手順についてあらかじめ示していますが、学年や児童生徒の実態に応じて児童生徒自身で書き込めるようにするとよいです。

  特に小学5年生以上において、「植物の発芽、成長、結実」や「振り子の運動」など、変化させる要因と変化させない要因を区別しながら、観察、実験などを計画的に行っていく条件制御の能力の育成が重要視されるような実験については、この項に重点をおいて学習指導をするようにします。
   
  E 「注意事項」
    本時の観察や実験に際して、予測される危険行為や留意事項などを示すところです。
 
ワークシートE   記入のさせ方 小学6年「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
 
ポイント

 

危険な行為に対する注意や実験のコツなど示します。

     事故につながるような行為や観察や実験で気を付ける事項を示します。

   特に、薬品を取り扱ったり、加熱機器を取り扱ったりする実験では、「薬品を触った手で目をこすらない」ことや「ぬれぞうきんを準備しておく」ことなど、具体的に示すようにするとよいでしょう。
   
  F 「実験の結果」
     実験の結果を表またはグラフに整理させるところです。
 
ワークシートF   記入のさせ方 小学6年「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
 
ポイント

 

結果を書き込む表やグラフを示すことで、観察・実験の活動イメージをより明らかにさせることです。

    本研究においては、実験の結果は表またはグラフに整理することを基本としました。

  例示のような表を示すことで、児童生徒に実験の目的や手順について、より明確に観点や視点をもたせることができると考えています。また、同じことを何度も繰り返すことができるような実験の場合は、基本的に最低3回行わせることが指導のポイントです。

  学習内容や実験素材などによっては、一人で何度も行うことができない実験もあります。このような場合も、個人で1回の実験の結果も4人グループならば、4回の実験を行った結果として取り扱うように指導します。同様に、グループで1つの実験を行って出されるような結果も、学級で10グループあれば、10回の実験を行った結果として考えることができます。
このような考えをもって、観察・実験に取り組ませることで、児童生徒は、より自分が行う観察や実験の重要性を感じながら活動を行うと考えます。
  中学校では、表やグラフの枠から自分で考えさせるために、結果の欄は、方眼紙にして自由に整理できるようにしておくとよいと考えられます。
   
  G 「結果から言えること」(最初の考えをパワーアップ)
    いわゆる考察を記述させる欄です。
 
ワークシートG   記入のさせ方 小学6年「水溶液の性質」のアルミニウムを溶かした塩酸の学習を例に説明します。
 
ポイント

 

単に「ものの性質やきまり」ではなく、事象や観察・実験の結果と関係付けた考察をさせることです。

    本研究においては、言語活動の充実を図ることを通して、科学的な思考力・表現力を育成するための手立てとして、結果と考察を書き分けさせることを重要視しています。

  このことを踏まえて、ワークシートの「G 結果から言えること」の項では、記述欄に「・・・ということがわかった。なぜなら・・・からである。」のように、接続詞や話型の一部を記して、児童生徒が結果の部分と考察の部分を明確に分けて書くことができるように工夫しました。また、この項を記述させる際は、学習の導入場面で提示された事象に立ち戻って、その事象を再度、説明するように指示して記述させることが大切です。

  例えば、前述の「B 解決のキーワード」で例に挙げた「石けん膜がふくらむのは、空気がふくらむことに関係しているのか」、それとも「空気が上昇していることに関係しているのか」という問題について考えます。様々な実験を行った結果、児童は「温められた空気はふくらむ性質がありそうだ」ということに気付きます。
  ここで、単に結果から言えることとして児童に記述させると、「温められた空気はふくらむ」とまとめるでしょう。空気の性質のきまりとしてはこれで十分だと言えますが、より事象と空気の性質を関係付けたものにするために児童に、「もう一度最初に提示された『石けん膜を張った試験管を温めると石けん膜がふくらむ』という事象を説明をするとしたらどのように説明しますか」という投げ掛けをすることが大切だと思われます。
  そうすることで、児童は「石けん膜を張った試験管を温めると石けん膜がふくらむのは、中の空気が温められてふくらむからである。なぜなら・・・。」というように、結果と考察を分けて説明ができます。

  このようにしていくことで、児童生徒は、具体的な事象と空気の性質とを結び付けて、科学的な概念を獲得していけるようになると考えています。さらに、「学習の最初はうまく説明できなかったことが、学習の終末では説明できるようになった」と、児童生徒の科学的な思考力・表現力の高まりとともに、自己の成長を感じることができると考えています。
   
  B 学んだことを実感させるものづくりのポイント
 
ポイント

 

学習した「ものの性質」を生かすこと、実生活の中でその「ものの性質」が生かされていることを意識させることです。

 

右の写真は5年生「電磁石の性質」におけるものづくりの様子です。電磁石を釣り竿にして、魚には鉄製クリップや磁石を貼り付けてあります。電磁石の性質を生かして、釣るときは電流を流し、釣った魚を手元にもってきたときに電流を止めて魚を落として自分のかごに入れます。魚に磁石を貼り付けておくことで、釣り竿の電磁石の極によっては電池の極を逆にする必要があります。さらにこの実践は、低学年と一緒に遊ぶことを目的に行われました。
 このように、学んだことを実感させるものづくりでは、ものの性質をいかにうまく生かすことができるかということがポイントになります。教師も単元計画を立てるときに、単元の中で行うものづくりが学級または学校全体の中で生かされるようなことを視野に入れておくとよいでしょう。また、身の回りの道具にものの性質が使われている事象に気付かせることが大切です。

電磁石ものづくり
『電磁石で魚釣り』
5年生「電磁石の性質」
 
 
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(5) 観点別評価について
 
@ 新学習指導要領における小学校,中学校の観点別評価について
     小学校では平成23年度から新学習指導要領が全面実施となりました。中学校では平成24年度から全面実施となります。本研究では、新学習指導要領の趣旨を反映した学習評価の考え方について、小学校,中学校の評価の観点について整理をしました。
 
佐賀県教育センター「新学習指導要領における学習評価の進め方(手引き)」へリンク
  <小学校>
  理科の教科の目標
 
自然に親しみ、見通しをもって観察、実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに、自然の事物・現象についての実感を伴った理解を図り、科学的な見方や考え方を養う。
  評価の観点及びその趣旨
 
自然事象への
関心・意欲・態度
科学的な思考・表現
観察・実験の技能
自然事象についての
知識・理解
自然に親しみ、意欲をもって自然の事物・現象を調べる活動を行い、自然を愛するとともに生活に生かそうとする。 自然の事物・現象から問題を見いだし、見通しをもって事象を比較したり、関係付けたり、条件に着目したり、推論したりして調べることによって得られた結果を考察し表現して、問題を解決している。 自然の事物・現象を観察し、実験を計画的に実施し、器具や機器などを目的に応じて工夫して扱うとともに、それらの過程や結果を的確に記録している。 自然の事物・現象の性質や規則性、相互の関係などについて実感を伴って理解している。
 

「自然事象への関心・意欲・態度」の観点については、従前のものから引き継がれています。

 
「科学的な思考・表現」の観点は、従前の「科学的な思考」から「科学的な思考・表現」に表記が変わりました。また、文末の表現がこれまでの「〜する」から「〜している」に変わり、着実に児童の現状を把握するという意図が示されています。知識・技能を活用して課題を解決することに必要な思考力・判断力・表現力等を子どもが獲得しているかどうかを評価します。

「観察・実験の技能・表現」の観点は、思考・判断したことを言語表現することと区別するために「観察・実験の技能」となりました。新学習指導要領では「基礎的・基本的な知識及び技能の着実な習得」とあるように、「知識」と並んで習得の対象とされ、「技能」は「知識・理解」とは別に、独立して評価することになります。 さらに、文末の表現がこれまでの「〜する」から「〜している」に変わり、着実に児童の現状を把握するという意図が示されています。

「自然事象についての知識・理解」の観点は、 文末表現が従前の「〜理解し、それらについての考えをもっている」から「理解している」へとなり、「実感を伴って」理解しているかどうかを評価することになります。

   
  <中学校>
  理科の教科の目標
 
自然の事物・現象に進んでかかわり、目的意識をもって観察、実験などを行い、科学的に探究する能力の基礎と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め、科学的な見方や考え方を養う。
  評価の観点及びその趣旨
 

自然事象への

関心・意欲・態度

科学的な思考・表現
観察・実験の技能
自然事象についての
知識・理解
自然の事物・現象に進んで関わり、それらを科学的に探究するとともに、事象を人間生活との関わりでみようとする。 自然の事物・現象の中に問題を見いだし、目的意識をもって観察、実験などを行い、事象や結果を分析して解釈し、表現している。 観察、実験を行い、基本操作を習得するとともに、それらの過程や結果を的確に記録、整理し、自然の事物・現象を科学的に探究する技能の基礎を身に付けている。 自然の事物・現象について、基本的な概念や原理、法則を理解し、知識を身に付けている。
 

「自然事象への関心・意欲・態度」については基本的には変わっていませんが、中学校理科の目標に「進んでかかわり」という言葉が入ったため、それに対応して「進んでかかわり」と表記されました。さらに「科学的」に探究することが求められています。

「科学的な思考・表現」の観点のうち「表現」については,基礎的・基本的な知識・技能を活用しつつ,理科の内容に即して考えたり、判断したりしたことを、児童生徒の説明・論述・討論などの言語活動等を通じて評価することを意味しています。つまり「表現」とは、これまでの「技能・表現」で評価されていた「表現」ではなく、思考した過程や結果を、言語活動等を通じて、生徒がどのように表出しているかを評価する内容となっています。

「観察・実験の技能」の観点では、これまでの「観察・実験の技能・表現」が対象としていた内容を引き継いでいます。前述の小学校と同様の考え方です。

「自然事象についての知識・理解」については、変更点はありませんが、小学校と違い、「理解し,知識を身に付けている」と表現されています。このことは、中学校から高等学校へと段階が上がるにしたがって、体系化された知識が入ってきます。そこで、単純に「理解」だけではなく、体系化された知識についても「知識を身に付ける」という意味で、このような表現となっています。

 
 
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  A 理科学習における観点別学習評価の位置付け
    理科の一連の問題解決(1単位時間あるいは単元を通して)の学習において、「自然事象への関心・意欲・態度」「科学的な思考・表現」「観察・実験の技能」「自然事象についての知識・理解」の4つの評価観点があります。それぞれの評価規準作成の際は、一般的な問題解決の学習の流れの中に、おおよそ下の図のように位置付けて考えていくとよいと思われます。なお、問題解決の学習の流れと観点別学習状況の色分けは、それぞれ対応していることを表しています。
   ※ ここで示している問題解決の学習の流れは佐賀県教育センター「学習評価の進め方(手引き)」に記載されているものです。
 
評価規準を設定するにあたっては、国立教育政策研究所から公開されている「評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料」に示されている評価規準の設定例を参考にして、A・B区分、教材等の特徴に即して、その記述を具体化したり、必要に応じて、いくつかの設定例を参考にしたりすることにより、各学校で実施される授業に即した評価規準を設定します。
 
 
 
<観点別学習評価位置付け表>のダウンロードは画像をクリック又はこちらから→印刷用ダウンロード【PDF】
   
     本研究の実践から小学校5年生「電磁石の性質」を例に図で説明します。この単元では、電磁石について、極や強さに関する特性を学習します。単元の評価規準の設定において、上記の表に対応させて次のように考えました。
 
 
 
 
 

※ この実践では、それぞれの評価観点で評価規準を2つずつ設定していますが、必ずしも2つとは限りません。

 
 
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(6) 科学的な思考と表現をつなげる指導と評価のポイント
 

本研究では、科学的な思考と表現をつなげるワークシートの使用による言語活動の充実を通して、科学的な思考力・表現力の育成を図ることをねらっています。 科学的な思考力・表現力の育成のためには、適切な学習指導と学習評価が一体になることが求められます。本研究のワークシートは、児童生徒に使用させることに合わせて観点別評価に対応させて見ることができます。     本研究の実践小学校5年生「電磁石の性質(電流の大きさと電磁石の強さ)」を例に説明を述べていきます。

 
電磁石の性質(電流の大きさと電磁石の強さ)ワークシートはこちらをクリック
     このワークシートは、電流の大きさと電磁石の強さの関係について調べさせるときに使用したものです。学習の導入の事象提示では、電磁石A(乾電池1個使用)と電磁石B(乾電池2個使用)を用いて、それぞれに鉄くぎを付けてみせることを行っています。先の評価の位置付け表とワークシートを対応させると次のようになります。
 
 
  ※自然事象への関心・意欲・態度は単元を通して総合的に評価します。
 
 科学的な思考・表現@    
 

科学的な思考・表現@については、「予想,仮説」「解決の方法の見通し」が評価のポイントとなります。したがって、ワークシートでは、「あなたが考える説明を書きましょう」、「解決のキーワード」、C 「今日の学習問題」、D 「実験方法」が評価の対象の項目として考えられます。

特にAの欄では、事象を自分なりに説明するため、その説明に予想や仮説が含まれた思考が表現されたものになると考えます。Bの欄では、事象の変化に何が関係しているのか、事象と変化を関係付けて要因を見いだす思考が必要となります。それが表現できているかどうかを評価します。Cの欄では、これから何を調べていくのか、学習問題として書き表していきます。学習問題が適切に立てられ、それが表現できているかを評価します。Dの欄の実験方法では、この学習の場合、5年生で重点的に育む資質能力である条件制御の力について、「変える条件」「変えない条件」が適切に考えられているかどうかなど、単元を通して総合的に科学的な思考・表現の評価として見ていくとよいでしょう。

 
ポイント    AからDのどの欄も、まずは児童生徒自身の力で記述させることが大切です。また自分の考えで記述したものと板書を写したものなどは、区別できるような指導の工夫が必要です。例えば、自分自身の力で記述したものではないものは、「ペンの色を変える」「(板書を写した場合など)括弧書きにする」などが考えられます。
   
   
 
 観察・実験の技能@    
     観察・実験の技能@については、「計画的な実施」「目的に応じた器具の取り扱い」が評価のポイントになります。これについては、ワークシートの記述とともに、実際の児童生徒の活動の様子を評価していきます。観察や実験の最中、E「注意事項」にあるような行為を行っていないかなど注意深く児童生徒の様子を観察していくことが求められます。
   
 
 観察・実験の技能A    
     観察・実験の技能Aについては、「結果の正確な記録」が評価のポイントになります。観察や実験を行った結果が適切に記入されているか、求められている回数の実験が行われているか、必要な単位など正しく記述できているかなどを評価していきます。
 
ポイント   観察・実験の技能の評価は、児童生徒の活動中、机間指導などで見取っていくことが大切です。また指導者は、児童生徒の活動の中で、適切な支援を行って、観察・実験の技能を身に付けさせるようにしていくことが大切です。
   
   
 
 科学的な思考・表現A    
 

科学的な思考・表現Aについては、「得られた結果を予想や仮説と照らし合わせ、事象や観察・実験の結果と関係付けた考察をしているか」が評価のポイントとなります。ワークシートでは、A 「あなたが考える説明を書きましょう」と、G 「結果から言えること(最初の考えをパワーアップ)」とを総合的に見たものを評価の対象の項目として考えます。

本研究では、児童生徒が結果と考察とを明確に分けて書くことができるようにしています。また、この欄を記述させる際は、学習の導入場面で提示された事象に立ち戻って、その事象を再度説明できるか指示をして記述させるようにしています。したがって、Aで記述した思考とその表現が、Gの記述でどのようになっているのか、思考の変容や、思考の深まりについて、児童生徒の科学的な思考・表現の伸長を評価していくようにします。

 
ポイント   考察を記述させる際は、児童生徒の実験の結果が結論の根拠となるような書き方をさせることが大切です。「(結果)ということは(結論)」や「(結論)なぜなら(結果)」のように、話型を与えることも有効だと考えます。
   
   
 
  自然事象についての知識・理解    
     自然事象についての知識・理解については、G「結果から言えること(最初の考えをパワーアップ)」の欄が評価の対象となります。結論(自然のきまり)として記述されているか、結論(自然のきまり)を踏まえて最初の事象が説明できているかなどを評価していくようにします。
 
ポイント   Gの欄についても、AからDの欄同様、児童生徒の力で記述されたものなのか、教師が板書などでまとめたものを書き写しているものなのか区別できるようにしておくとよいでしょう。
 
 
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(7) 実践事例一覧
 
     平成22年度・平成23年度の二か年で、本研究委員会において、以下の単元において研究仮説に基づく授業実践を行いました。(単元名は大日本図書発行「たのしい理科」「中学校理科」による)
 
実践の詳細は、単元または実践内容をクリック
 
@ 小学校第3学年 『風やゴムのはたらき
3年−@「風の強さと風の力で動く車の距離
 
たんぽぽロケット(ゴム)」【PDF】
A 小学校第4学年 『とじこめた空気や水をおしてみよう
4年−@「空気を固い筒に閉じ込めて性質をさぐる
 
ふん水づくり・飛び出すふくろ」【動画】
B 小学校第5学年 『電磁石の性質
5年−@「電磁石の強さと電流の関係
  5年−A「電磁石の強さとコイルの巻き数の関係
  5年−B「電磁石の極
 
強力電磁石」【PDF】
魚釣り」【PDF】
  ふりこの動き  
5年−C「ふりこの長さ
 
念力振り子(共振)」 【PDF】
メトロノーム」【PDF】
イルカのジャンプ」【PDF】
C 小学校第6学年 『水溶液の性質
6年−@「アルミニウムを溶かした塩酸から析出させたもの
  6年−A「気体が溶けている水溶液
 
ムラサキキャベツ試薬」【動画】
  てこのはたらき  
6年−Bてこがつり合うきまり
 
不思議ペンスタンド」【PDF】
モビール」【PDF】
D 中学校第1学年 『物質の状態変化
1年−@「ロウの状態変化
  1年−A「エタノールの状態変化
  1年−Bエタノールと水の混合液の分離
E 中学校第2学年 『電流と磁界
2年−@「電流が磁界の中で受ける力の向き
 
レールを走る棒」【PDF】
  物質の成り立ち
2年−A炭酸水素ナトリウムの分解
  2年−B水の電気分解
 
カルメ焼き」【PDF】
 
 
 
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(8) 研究の考察
 

 科学的な思考力・表現力の育成を目指した理科学習指導の在り方をテーマに、言語活動を充実させた学習指導とものづくりを位置付けた学習指導の工夫について研究を進めてきました。

研究1年次は言語活動の充実について、理論研究を元に授業実践を重ね、学習モデルの確立とその具体的な手立てについて探りました。小学校と中学校のスムーズな接続を念頭に、研究1年次の授業実践を通して、小中理科の学習に共通に通用する学習モデルが明らかになってきました。研究1年次は、実践として小学校の方が多く、授業検証も小学校のみで行っていたため、研究2年次は中学校の授業実践事例の充実を図るために、中学校の実践授業を増やし、その有効性について検証を行いました。

   
  @ 小学5年の実践
  単元名「電磁石の性質」全9時間 本時5/9(児童数37名、平成22年10月実施)
     1単位時間における抽出児の授業の様子と学級全体の児童の様子を基に研究の考察を行いました。
  本時の目標
  ○ コイルの巻き数を変えたときに引きつける釘の数を調べる活動を通して、コイルの巻き数によって電磁石の強さが変わることを理解することができる。
   
 
  児童は、前時までに100回巻きのコイルを自作し、コイルに電流を流すと電磁石になること、電磁石の力を強くするには、流す電流の量を増やせばよいことを学習しています。本時では、コイルの巻き数に着目させ、コイルの巻き数によって、磁石の強さはどのように変わるのかを学習しました。
  研究の考察に当たっては、C児(抽出児)と学級全体について、授業中の児童の様子の観察と授業後の児童に実施した振り返りアンケート及び聞き取り調査を基に行いました。

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導入の事象提示
  C児のプロフィール
 
・理科学習に興味・関心が高い。
・学習中の教師の発問に対してのつぶやきや実験中の内容に関わるつぶやきが多い。
・つぶやきを自分の考えとして整理し、文章(記述)で表現することは苦手。
   
  【比較を通した事象提示と事象を読み取ることについて】
     事象を比較させる視点としては、既習事項と未習事項を比較させる事象提示を行いました。事象Aとして100回巻きの電磁石、事象Bとして、150回巻きの電磁石を提示し、児童には巻き数の違いがあることは告げないようにして事象提示を行いました。
   どちらも乾電池を1つ使っていることは、児童に分かるように見せています。教師が電磁石をクリップに付ける実験を2回行い、2回ともBのコイルの方が、クリップがたくさん付いた様子が分かりました。児童からは、「同じコイルじゃないないようだ。」「Bのほうがコイルが太いみたい。」など、巻き数に着目しているようなつぶやきが聞かれました。
   ここで、教師は「このAの電磁石とBの電磁石に付いたクリップの数が違うことを自分なりに説明しましょう。」と投げ掛け、説明のために児童に話型を次のように板書に示しました。
 
Aのコイルは(                )付いたクリップは少ない。
Bのコイルは(                )付いたクリップは多い。
     Aのコイル、Bのコイル共にまず見た目で分かる現象については板書に示し、(  )の中に考えられる理由を書き込むようにさせました。
   C児は「Aのコイルは(エナメル線を少なく巻いているから)付いたクリップは少ない。Bのコイルは(エナメル線をたくさん巻いているから)付いたクリップは多い」とワークシートに記述することができました。他の児童もほぼ同様なことを記述することができていましたが、中には「乾電池がなくなっていたから」や「導線の長さが違うから」と、コイルの巻き数以外に着目している児童もいました。
   同じ条件の下で事象提示を行っても、それをどう受け取っているのかは、児童によって様々であることが分かります。
  C児の事象の説明
 
Aのコイルは(エナメル線を少なく巻いているから)付いたクリップは少ない。
Bのコイルは(エナメル線をたくさん巻いているから)付いたクリップは多い。
     授業後の聞き取り調査で、普段書くことに抵抗を感じているC児に自分の考えを書くことができたことについて尋ねたところ、「見たことをいつも同じような文章で書けばよいから」という回答でした。学習の進め方をパターン化させていることと、事象説明に話型を与えたことで、抵抗なく記述できたと考えられます。Aのコイルに付いたクリップは少なく、Bのコイルに付いたクリップが多いことは、現象としては全員が分かります。
   C児の「見たことを」という回答には、事象提示から得られる現象を比較することで、「巻き数に違いがあるようだ」という視覚的に情報を受け取り、解釈の根拠として、予想や仮説を含んだ表現につながったものと考えられます。
   
  【読み取った事象を説明し合うことについて】
     自分なりの事象の説明を記述させた後、それを話し合う活動を行いました。
児童の中には、Aのコイルが、その見た目とクリップが付いた数から自作した同じ100回巻きのコイルと判断し、Bを100回巻きより多いコイルと表現する児童もいました。C児のように「巻き数が多い、少ない」と表現していた児童も、話し合いを経て、Aは100回巻きのコイルであろうと考えるようになってきました。最初の自分の事象の読み取りで、乾電池や導線の長さに着目していた児童も、この話し合いを行ったことで自分が気付かなかったコイルの巻き数についても要因として考えられることに気付くことにつながり、考えを変えている様子が見られました。
   また、最初の事象について、考えを文章化できなかった児童も、この話し合いを行いながら文章化していくことができていました。


  事後のアンケートで、児童に話し合いをもったことで、自分の最初の事象の説明に対して自信がどのように変わったのか尋ねたところ、81%(30名)が「話し合いをしたことで自信がもてた」と回答していました。C児は、「自信は変わらなかった」と回答していました。自信は変わらなかったと回答したC児については、後日聞き取り調査を行いました。同様の質問をしたところ、C児は、「最初から自信があったから変わらなかったと答えた」と説明を行いました。手立てを取り入れる以前は、自分の考えを表現することに躊躇している様子が見られました。手立てを取り入れた学習を繰り返したことで、自分なりの説明が表現できたことで、自信がもて、学習への意欲も高まっているように思われました。
   
  【実験結果を表やグラフに表すことについて】
 
   言語活動の充実により科学的な思考力・表現力の育成を目指す本研究で、観察や実験の結果を表やグラフに表させることは、ポイントの一つとしているところです。

   本時では、コイルの巻き数と電磁石の強さの関係を調べさせる際に、クリップの数という具体性の高いものに着目させることにより、児童が探究心を、より高めて取り組むことができるようにしました。そのために、巻き数が30回、50回、100回、150回の4種類のコイルを準備し、それぞれに付いたクリップの数を調べて表にしたあと、さらにグラフにまとめさせるようにしました。
結果をグラフに表させたことで、コイルの巻き数が増えるほど、電磁石の力が強くなることを視覚的にとらえることができたと考えられます。

   C児は、調べた結果を表にすることはできていました。しかし、グラフにすることには戸惑っていました。教師の机間指導で、折れ線グラフの書き表し方(横軸と縦軸の関係)の理解が不十分であることが分かりました。
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結果を表とグラフに表す
   C児は時間内にはグラフを書き上げるまでには至りませんでしたが、結果の交流でグループの友だちが折れ線グラフを使って巻き数とクリップの数の関係を説明するのをうなずきながら聞いていた様子から、折れ線グラフに表すことのよさを感じ取ったのではないかと考えます。

   なお、授業後のワークシートから、結果を正しく表とグラフに表すことができた児童は81%(30名)、表のみに表すことができた児童は16%(6名)、表・グラフともに表すことができなかった児童は3%(1名)という結果でした。グラフに表すことができなかった児童7名はいずれも実験活動は行っていました。しかしC児同様、表やグラフにすることのよさやかき方を今後指導していく必要があると考えられました。
   
  【最初の事象提示に返り再説明をさせる考察について】
     本時では、考察を「結果から言えること」としてまとめさせました。
前時までの学習指導で「○○は○○であることが分かった。だから○○ということが言える。」という定型文を意識させました。教師は「最初のAのコイルとBのコイルに付くクリップの数が違うことの理由が分かったか」について投げ掛けたところほとんどの児童が「分かった」と回答していました。それから最初の事象を意識させながら結果から言えることを記述させました。

   実験結果を踏まえた考察(結果から言えること)を記述できた児童は78%(29名)、実験結果を踏まえた考察が不十分な児童は22%(8名)でした(表1)。考察が不十分な児童について、導入段階において事象の読み取りの様子を見てみると8名中6名が、最初の事象をうまく読み取れていなかったり、記述が不十分であったりしていました。
   このことからも最初の事象の読み取りが、その後の一連の問題解決の活動や学習の考察に影響していることが考えられます。
   
   
  A 小学6年の実践
  単元名「水溶液の性質」全13時間 (児童数24名、平成22年10月実施)
     単元の2時目、7時目の児童のワークシートの考察欄の記述を基に研究の考察を行いました。
  単元の目標
  ○ いろいろな水溶液について、その性質や金属を変化させるようすを調べ、水溶液の性質やはたらきについての考えをもつようにする。
   
    本単元は、水溶液は酸性・中性・アルカリ性の性質に分けられることや水溶液には塩酸などのように金属を溶かすものがあること及び炭酸水などのように気体が溶けたものがあることを学習します。この実践では、全13時間のうち3時目以降にこの研究で開発したワークシートを使用し授業を行っています。そこで研究におけるワークシートを使っていない2時目と、研究におけるワークシートを使用した7時目のワークシートの児童の考察欄の記述についての比較から考察を加えることにします。
  2時目の学習内容
    リトマス紙を使い、水溶液の酸性・中性・アルカリ性を調べる。 (研究におけるワークシート未使用)
  7時目の学習内容
    アルミニウムが溶けた塩酸を熱して析出したものがアルミニウムであるかを調べる。 (研究におけるワークシート使用)
   
  【抽出児に見る考察の変容】
   D児の2時目と7時目の考察の変容
 
2時目

7時目

見た目は全部水みたいだけど、色がかわる性質があるものがあることが分かった。 白い砂のようなものは、アルミニウムではない。アルミニウムは電気を通すが、白い砂(のようなもの)は通さない。塩酸に入れてもあわを出して溶けない。
     D児は、2時目のリトマス紙を使って液性を調べる学習においては、ねらいに沿った考察が不十分であることが分かります。
   リトマス紙の色の変化と液性とを漠然ととらえており、リトマス紙の色の変化と液性を正しく関係付けてまとめているとは言えません。それに対し、7時目のアルミニウムが溶けた塩酸から取り出された白い粉について調べることについては、D児はまず「アルミニウムではない」と結論付けています。その後、アルミニウムにあるはずの性質が析出物には見られないということを根拠として記述することができています。
   児童には、考察の記述をさせるときに、「『分かったこと』なぜなら『理由』」という話型を板書で示しました。D児は、「なぜなら」という言葉は使っていませんでしたが、結論と理由に分けて記述できていました。
   
  E児の2時目と7時目の考察の変容
 
2時目
7時目
Aは塩酸、Bは水酸化ナトリウム(の水溶液)、Cは食塩水ということをリトマス試験紙で分かった。 アルミニウムを溶かした塩酸を蒸発させた粉はアルミニウムではない。それは電気を通さず塩酸に入れてもあわが出なかったから。
     E児の2時目の考察では、どれが何の水溶液か結論付けたことだけが記述されています。E児の場合もリトマス紙の色の変化と液性を関係付けてまとめているとは言えません。
   それに対し、7時目では、まず「アルミニウムではない」と結論付けています。その後、アルミニウムにあるはずの性質が析出物には見られないという結果を根拠として記述することができています。D児と同様に、話型を板書に示したことで、「なぜなら」という言葉は使ってはいませんでしたが、結論と理由に分けて記述できていました。
   教師は、学級全体の児童に、「最初に、先生が見せた実験(事象提示)をもう一度説明してみよう」という投げ掛けを行っています。E児は、それを受けて「アルミニウムを溶かした塩酸を蒸発させた粉は」と、白い粉が、どのような過程でできたものなのかが分かる、具体的な事象から
書き出していました。これによりE児は、アルミニウムが溶けた塩酸を熱すると白い粉が残るという具体的な事象と、その白い粉はアルミニウムではないということとを関係付けてとらえることができたと考えます。
   
  【学級全体に見る考察の変容】
     ワークシートを使用していない2時目とワークシートを使用した7時目の実践について児童の考察の比較を行い、表2に整理しました。
                      表2 児童のワークシートの考察欄の記述分類 
 
 
2時目(23名)
7時目(25名)
根拠を挙げて説明し、具体的に記述ができている。
45.3%(10名)
84.0%(21名)
結論を導いた根拠が記述されていない、または足りない。
8.7%(2名)
12.0%(3名)
実験結果を文章化するに終わり、考察が述べられていない。
34.8%(8名)
0.0%(0名)
学習のねらいに沿った内容の考察ができていない。
13.0%(3名)
4.0%(1名)
    以上のように、根拠を挙げて説明し、具体的な記述ができている児童は、第2時では、学級の半数以下であったのに対して、第7時では、8割以上の児童ができるようになっていました。

  このことから、結果と考察を明確に分けて記述するように指導したり、考察を単に自然のきまりとしてまとめさせるのではなく、導入の事象を再度説明させるような考察を意識させたことで、実験で分かったことや考えたことをもれなく記述することができるようになってきていると考えられます。
   
 
B 中学1年の実践
単元名「物質の状態変化」全6時間(生徒数31名、平成23年9月実施)
1単位時間における生徒のワークシートの考察欄の記述を基に研究の考察を行いました。
単元の目標
〇 物質の状態変化についての観察、実験を行い、状態変化によって物質の体積は変化するが質量は変化しないことを見いだすことができる。
〇 物質の状態が変化するときの温度の測定を行い、物質は融点や沸点を境に状態が変化することや沸点の違いによって混合物から物質の分離ができることを見いだすことができる。
生徒Fのプロフィール
・理科学習に興味・関心は中程度である。
・観察や実験に意欲的に取り組む。
・実験の結果を基に考えたりまとめたりすることは苦手。
比較を通した事象提示と事象を読み取ることについて
 事象を比較させる視点としては、操作を加える事象と加えない事象を比較させる事象提示を行いました。事象Aとして液体の水の入ったペットボトルA、事象Bとして冷凍庫で冷やして氷にしたペットボトルBを提示しました。

 ペットボトルAとBの外見上の違いについて質問したところ、「ペットボトルBの方が膨らんでいる」等の発言が多く聞かれました。どちらのペットボトル飲料も同じものであり、入っている水の量はAもBも同じ500mlであったことを告げたところ、「なぜ膨らんでいるの?」等、凝固による水の体積変化に対して、興味・関心を示している生徒が多くみられました。
 
  そこで、「ペットボトルAよりペットボトルBが膨らんでいるということは、質量も重くなったのかな?」と問い掛け、自分の考えを理由までワークシートに記入させました。
 生徒Fは「ペットボトルBの方が重くなっていると思う。その理由は、ペットボトルBの方が太っているから。」と記入していました。授業後の聞き取り調査で、生徒Fは、ペットボトルの中の水の体積と質量との関係を、人の体型と体重との関係と関連付けて理解し説明しようとしていることが分かりました。
 
  生徒F以外については、「ペットボトルBの方が重くなる」と記入した生徒は約50%(15名)、「質量は変わらない」と記入した生徒も約50%(15名)でした。「ペットボトルBの方が軽くなる」と記入した生徒はいませんでした。
【読み取った事象を説明し合うことについて】

自分なりの事象の説明を記述させた後、記述した内容について話し合う活動を行いました。
「ペットボトルBの方が重くなる」と記述した生徒のほとんどは、生徒Fと同様に、体積の増加と質量の増加に関連があることを理由に挙げて説明していました。しかし、「質量は変わらない」と記述した生徒は、ペットボトルのキャップを一度も開けていないことを理由に挙げて説明していました。話し合いの後半に、ある生徒が「ペットボトルBの氷はとけるとまた元に戻るよ。」と指摘したところ、次第に学級全体が「質量は変わらない」という考えにまとまっていきました。

  この話し合い活動を通して、最初は自分の考えをもつことができなかった生徒や、理由を文章として表現することができなかった生徒も、次第に自分の考えを理由まで含めて文章で表現することができるようになりました。

  事後のアンケートで、生徒に話し合い活動を通して自分の最初の事象の説明に対しての自信がどのように変わったのか尋ねたところ、81%(25名)が「話し合いをしたことで自信をもつことができた」と回答していました。生徒Fも、「自信をもつことができた」と回答していました。自分なりの考えと理由を表現できたことで、自信がもてたり学習への意欲が高まったりしているように思われました。

【学習問題を立てることについて】
 ほとんどの生徒が、話し合い活動を通して、ペットボトルAもBも質量が変わらないこと、つまり液体の水が固体に変化したとき体積は大きくなるが質量は変わらないと考えました。生徒Fは話し合い活動では自分の考えを表現できていませんでしたが、ペットボトルAとBの質量が変わらないという話し合いのあとの演示実験を通して考えをもつことができるようになりました。
 
  ここで、教師が生徒に「水以外の物質も液体から固体へ変化したときに体積は増えて質量は変わらないのだろうか?」と質問をしたところ、「そう思う」と答えた生徒と「そうは思わない」と答えた生徒が、学級に半数ずついました。そこで、学習問題を「体積」「質量」のキーワードを使って記述させました。ペットボトルAとBを使った比較を通した事象提示を行っていたため、ほとんどの生徒が今日の学習問題を立てることができました。生徒Fも初めは何も記述しないなど戸惑っていましたが、キーワードを書いてそれをつないで文章にするよう助言したところ、学習問題を立てることができました。

  事後のアンケートで、今日の学習問題を設定する際に役に立ったことを尋ねたところ、81%(25名)が「比較を通した事象提示」、生徒Fを含む16%(5名)が「キーワード」と回答していました。このことから、比較を通した事象提示とキーワードが生徒の学習問題の設定に有効であったことと考えられます。
【最初の事象提示に返り再説明をさせる考察について】
 実験結果を踏まえた考察(結果から言えること)を記述できた生徒は75%(23名)、実験結果を踏まえた考察が不十分な児童は13%(4名)でした(表1)。考察が不十分な生徒について、導入段階において事象の読み取りの様子を見てみると4名中3名が、最初の事象をうまく読み取れていなかったり、記述が不十分であったりたりしていました。

  このことからも最初の事象の読み取りが、その後の一連の問題解決の活動や学習の考察に影響していることが考えられます。
 
    
 
 
C 中学1年の実践
単元名「物質の状態変化」全6時間(生徒数6名、平成23年10月実施)
1単位時間における生徒のワークシートの考察欄の記述を基に研究の考察を行いました。
単元の目標
○ 水とエタノールの混合液からエタノールを分離する実験を通して、2種類の液体の混合液を加熱して出てきた気体を液体にして集めると、沸点の違いを利用して混合物から物質を分離することができることを理解する。
 
 学習指導要領では、中学校1年生において育みたい「科学的に探究する能力」は、「物質やエネルギーに関する事象・現象の中に問題を見いだし、目的意識をもって観察、実験を行い、事象や結果を分析して解釈し、表現できること」と示されています。そこで、6時間目の学習の結果について、この点に着目して生徒の思考の変化について分析を行いました。

  本単元では、観察・実験を通して、物質が状態変化をするときの体積は変化するが質量は変化しないということを学びます。また、それぞれの物質が状態変化するときの温度は決まっており、融点や沸点を境に状態変化が起こることや沸点の違いによって混合物から物質を分離することができることを学びます。
 
生徒Gのプロフィール
・理科学習に興味・関心は低い。
・観察や実験には積極的である。
・実験の結果を基に考えたりまとめたりすることは苦手。
生徒Hのプロフィール
・理科学習に興味・関心は高い。
・観察や実験には消極的である。
・実験の結果を基に考えたりまとめたりすることは苦手。
生徒Iのプロフィール
・理科学習に興味・関心は高い。
・観察や実験には積極的である。
・実験の結果を基に考えたりまとめたりすることは得意。
 
比較を通した事象提示と事象を読み取ることについて
 Aにはエタノール、Bにはエタノールと水の混合液を用いました。それぞれを脱脂綿にしみこませ火を付けると、どちらの脱脂綿も燃えることが確かめられました。その後、AもBもそれぞれ試験管に入れて湯煎にて加熱しました。加熱した後、試験管から取り出して、脱脂綿につけて火をつけてみました。Aの脱脂綿は燃えましたが、Bの脱脂綿は燃えませんでした。

  A(エタノール)とB(エタノールと水の混合液)の加熱後に火を付けたときの様子の違いについて、生徒に説明を書かせるようにしました。生徒G、H、Iは、下のようにワークシートに自分の考えを表現しました。
抽出生徒のA(エタノール)とB(エタノールと水の混合液)の事象の説明の記述
 
加熱後のA(エタノール)
加熱後のB(エタノールと水の混合液)
生徒
G
最初(加熱前)と同じように後(加熱後)のも燃えた。 最初(加熱前)は少しだけ燃えたけど、後(加熱後)のは燃えなかった。最初は少しだけエタノールがまだあったけど、加熱してなくなった?
生徒
H
加熱前、加熱後とも燃えた。エタノールは引火しやすいか。加熱して気体になってもエタノールは残っていた (加熱前)燃えたがすぐ消えた。(加熱後)燃えなかった。エタノールのおかげで燃えたが、水も混ざっていたので消えた。加熱後は水もエタノールも同じに減った?エタノールが多く減った?
生徒
  I
あたためた後とあたためる前はほとんど同じように燃えた。 あっためる前は少し燃えたけど、あっためたらぜんぜん燃えなかった。エタノールだけ蒸発したから、水だけが残って燃えなかった。
 加熱後のB(エタノールと水の混合液)に火がつかなかったことを、生徒Fは加熱したことでエタノールがなくなったのではないかと考えていることがうかがえます。生徒Hは、「加熱後は水もエタノールも同じに減った?エタノールが多く減った?」と加熱による蒸発に着目して説明をしていることが分かります。生徒Iは、エタノールと水の沸点の違いに気付き、先にエタノールが蒸発したのではないかと考えていることが分かります。

  生徒達は、この後、自分の考えをお互いに説明し合って、「物質の沸点の違いによって混合物から物質は分離できるのか」という問題をつかむことができていました。
 
  生徒は、右に示されたような実験を行いました。
  水とエタノールの混合液を加熱して蒸発して出てきた液体を、「ア 初めに出てきた液体」「イ 次に出てきた液体」、「ウ 最後に出てきた液体」の3つに分けて取り出していきました。
 ア、イ、ウの3つの液体について、においをかいでみたり、手に付けたときの感じをワークシートに記録しました。ア、イ、ウの順番でエタノールのにおいや手に付けたときの感じから、エタノールの性質がなくなっていることから、水とエタノールの混合液を加熱すると、先に沸点が低いエタノールが取り出せることを捉えることができていました。
 
【最初の事象提示に返り再説明をさせる考察について】
 実験の後、結果から言えることとして、最初の事象提示を再説明させました。生徒F、生徒G、生徒Hは次のように記述していました。
抽出生徒の考察の記述
 
加熱後のA(エタノール)
加熱後のB(エタノールと水の混合液)
生徒G エタノールだけが燃えたのは、まだエタノールが残っていたから。 エタノールの方が沸点が低かったから、先に気体になり、あとには水が残って燃えなかった。
生徒H 加熱してエタノールが蒸発してもまだエタノールは残っていたから。 加熱前に少し燃えたのはエタノールが混ざっていたから。加熱後に燃えなかったのは、エタノールだけが沸点に達して水だけになったから
生徒I 他の物質が混じっていない純度100パーセントのエタノールだから、どんなに加熱してもエタノールだけだからよく燃える。 沸点が78℃のエタノールが先に蒸発して、その後に100℃の水が蒸発する。沸点が低いものが先になくなってしまうから、最後には水が残ったので燃えなかった。
 
 生徒Fは、少々戸惑っていたものの、沸点の違いによる気化の順番の違いや混合液の状態を押さえて説明することができていました。
 生徒Hは、事象を説明する段階ではBについて、「水もエタノールも同じに減った?」「エタノールが多く減った?」という説明を行っていましたが、結果を分析して解釈することで、現象についての原因をきちんと捉え説明することができていました。
 生徒Iは、先行知識や発想が豊かですが、自分の興味によって実験のポイントが左右されてしまうこともあります。しかし、本時の学習では課題に沿った説明ができていました。また、物事を難しく考えすぎて、自分の考えを文字で書くことに戸惑う様子もありましたが、初めの事象提示の読み取りが記入できたことで自信がもて、実験にも積極的に取り組めていました。その結果、最後の考察まで気を抜くことなく自分の考えを書くことができていました。
 
 事象提示から入る一連の学習の流れ{学習問題の設定→実験→結果確認→考察(最初の事象の再説明)}を取り入れることで、生徒の理解を深めることができていました。事象の再説明では、どの生徒も結果を分析して考えられることを自分の言葉で説明することができていました。分かったようであっても、いざ言葉で表現させてみるとうまくまとめられないことが多かったのですが、本時は、十分に表現することができていたと考えます。さらに、日頃書くことを苦手としている生徒Iにおいても、空欄をつくらず自分の言葉で表現することができたのは、目的意識をもった実験につながっていたからだと考えられます。この授業の流れのパターンを生徒の中にもたせることで、より事象についての考察や学習問題の設定の仕方、説明の仕方が向上できるものと考えます。
 
 
D 中学2年の実践
単元名「物質の成り立ち」全12時間(生徒数31名、平成23年11月実施)
1単位時間及び1時目と3時目の生徒のワークシートの記述を基に研究の考察を行いました。
単元の目標
○ 物質を分解する実験を行い、分解して生成した物質から元の物質の成分が推定できることを見いだすことができる。
 
比較を通した事象提示と事象を読み取ることについて
 Aには小麦粉を水に溶いたもの、Bには小麦粉を水に溶いたものに炭酸水素ナトリウムを加えたものを用意しました。生徒には、AとBどちらも小麦粉を水に溶かしたものであると告げ、Bに炭酸水素ナトリウムが加えてあることは知らせていません。

  事象提示では、このAとBを写真のようにして加熱する事象を生徒に見せました。Aは加熱により少々泡立つ程度であるのに対し、Bは加熱するにつれて、だんだん膨らんでいく様子が見られました。 ここであらためて、教師は、AとBのどちらかに炭酸水素ナトリウムを加えてあることを告げました。
  2つの事象を比較する際に、AとBのどちらに炭酸水素ナトリウムが入っているのかを明らかにしない状態で事象提示を行ったことは、生徒がより思考する機会を与えることになりました。 ほとんどの生徒は、「炭酸水素ナトリウムを入れたからBが膨らんだ」と考えていました。しかし、「Aが膨らまなかったのは炭酸水素ナトリウムを入れたからである」と考えた生徒もいました。
【読み取った事象を説明し合うことについて】
 Bに炭酸水素ナトリウムが入っていると考えた生徒の多くは、膨らんだ原因を、「炭酸水素ナトリウムが入っているから」と説明していました。しかし中には、「泡がでたから」などと、膨らんだ様子から気体の発生に目を向けたり、「Bはまんじゅうのにおいがした。だから膨らんだ。」と日常生活における体験と結び付けたりする生徒がいました。 また、ごく少数ですが、Aに炭酸水素ナトリウムが入っていると考えた生徒は「炭酸水素ナトリウムが膨らむのをおさえた」と説明していました。 しかし、ほとんどの生徒の炭酸水素ナトリウムによって膨らんだという考えに触れ、皆が言うように、「Bに炭酸水素ナトリウムが入っていたと仮定すると」と、より一層の解決意欲をもつことができました。このように、生徒同士を交流させることにより異なる考え方に触れ、A・Bの事象から炭酸水素ナトリウムの性質に対する疑問をもたせることができました。

  生徒は、キーワードとして、「炭酸水素ナトリウム」「加熱」「気体」という言葉を挙げました。これらのキーワードを基に、生徒に学習問題を設定させたところ、「炭酸水素ナトリウムを加熱すると、どんな物質(気体)がでてくるのだろうか?」という学習問題を設定することができました。どんな気体が発生するかを予想させたところ、炭酸水素ナトリウムという物質名から、「水素」「酸素」「炭酸」と答える生徒が多く、「二酸化炭素」と答える生徒もいました。ここでは、教師から「まずは二酸化炭素から確かめてみよう」とアドバイスし、石灰水を用いた計画を立てさせることにしました。
 
  このように、比較による事象提示と交流活動を導入の段階に位置付けたことにより、生徒は学習問題をスムーズに導き出すことができました。
 
  生徒は、右のような実験を行いました。
  炭酸水素ナトリウムを加熱して発生した気体を試験管Bの石灰水に通します。すると試験管Bの石灰水は白く濁っていき、発生した気体は二酸化炭素であることが分かりました。初めの事象提示において、生徒に事象をどのように考えるのかということについて自分の考えを表現させたことで、より目的意識をもって活動を行うことができました。

さらに、炭酸水素ナトリウムを加熱した試験管Aの先に付いた液体について、塩化コバルト紙で調べて、液体が水であることが分かりました。
  これらの結果から、炭酸水素ナトリウムを加熱すると、水と二酸化炭素が発生することが分かりました。

【最初の事象提示に返り、再説明をさせる考察について】
  最初の事象提示の説明では、ほとんどの生徒は、「Bが膨らんだのは、炭酸水素ナトリウムを入れたから」と、加熱による炭酸水素ナトリウムの物質の変化には触れない記述していました。しかし、実験を行った後の、事象提示の再説明では、学習して得た知識を活用して「Bは、炭酸水素ナトリウムが加熱されて、水と二酸化炭素が発生し、二酸化炭素によって膨らんだ」という説明ができていました。また、授業の導入段階とまとめの段階における自分の考えの変容について、ワークシートを振り返ることにより容易に自分の学習の成果が確認できたため、生徒は達成感をもって授業を終えることができました。
 
【抽出生徒に見る考察の変容】
 本実践では、全12時間においてこの研究で開発したワークシートを使用し、授業を行いました。そこで、ワークシートを使い始めた1時目と、3時目のワークシートの生徒Jの考察欄の記述についての比較から考察を加えました。
 
1時目の学習内容
  酸化銀を加熱すると銀と酸素に分解する実験を通して、分解して生成した物質から元の物質の成分が推定できることを見いだす。
3時目の学習内容
  炭酸水素ナトリウムを分解する実験を行い、分解して生成した物質から元の物質の成分が推定できることを見いだす。
 
生徒Jのプロフィール
・理科学習に興味・関心は低い方である。
・観察や実験にあまり意欲的には取り組まない。
・実験の結果を基に考えたりまとめたりすることできるは苦手である。
 
1時目(酸化銀の加熱による分解)
3時目(炭酸水素ナトリウムの加熱による分解)
線香の火がポンといったから酸素。
銀色だったから銀。
ふくらんだ方の生地(水と小麦粉)はプツプツしていた。プツプツは二酸化炭素だ。だから、生地はふくらんだと思う。
 
  1時目は、「線香の火がポンといったから酸素」「銀色だったから銀」というように、実験の結果だけの記述しか見られませんでした。また、考察に関する記述も見られませんでした。1時間目の授業終了後の生徒Jへの聞き取り調査でも、実験の結果を述べるだけで、酸化銀の成分が銀と酸素であることを説明することはできませんでした。
  しかし、ワークシートを使い始めた3時間目は、実験の結果である二酸化炭素の発生と、生地(水と小麦の)が膨らんだ事象とを関連付けた記述が見られるようになりました。また、二酸化炭素の発生を「プツプツ」と自分なりの言葉で表現しようとするなど、意欲面の向上も見られるようになりました。

  3時間目の授業終了後の生徒Jへの聞き取り調査では、「1時間目は何が結果で何が考察なのか区別できなかったけれども、ワークシートを使い続けるにつれて、結果を基に自分の考えを表現することができるようになってきたように思う」と答えていました。
 
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