○ 学習指導案     小学校第4学年「音楽科」


1 単元名 「あまの川の歌をつくろう」 (平成20年10月17日実施,33名)
        〜3音によるわらべうた風の旋律創作〜

授業実践者:副島 和久 

2 単元とその指導について

平成20年3月に新しい学習指導要領が告示された。本題材はこの新しい学習指導要領の内容「A表現(3)音楽づくり」の指導事項に関連した内容である。「音楽づくり」は,現行の学習指導要領においても,「A表現(4)音楽をつくって表現すること」において示されている内容であるが,創作活動の充実を図り,音楽をつくる楽しさを体験させる観点から,音遊びや即興的に表現することを通して音の面白さに気付いたり,音楽づくりの様々な発想をもったりすることを重視するなどの改善を図ったものである。新学習指導要領の全面実施は平成23年度からではあるが,音楽科などの一部の教科では移行期となる平成21年度から先行実施することも可能である。このような時期にあることを踏まえ,この題材を設定するに到った。本題材の対象学級は第4学年であるが,低学年において,新学習指導要領に示されているような音楽づくりの活動を十分に行ってきていないという実態を踏まえ,移行期における授業の提案として,低学年で示されている指導事項も加味しながら,本題材を構想した。



本学級の児童は,活動的であり,音楽の授業にも楽しく取り組んでいる。事前のアンケート調査(対象児童33名)からも音楽の授業が「とても楽しい」と回答した児童が76%(25名)であり,「まあまあ楽しい」も合わせると100%となる。「音楽の授業で特に楽しい活動」については,歌唱が67%(22名),器楽が12%(4名),鑑賞が21%(7名)という結果で,音楽づくりについては0%であった。これまでの音楽科学習において,リズム模倣などの簡単な音遊びには取り組んできたが,音楽づくりの学習に取り組んだ経験はほとんどないため,音楽づくりの学習がイメージできないことがその要因であろう。しかしながら,「音楽の授業でもっとやってみたい活動」については,わずかではあるが,15%(5名)の児童が音楽づくりを挙げており,本題材をきっかけとして,音楽づくりの活動のおもしろさに気付かせることも可能ではないかと考える。低学年における音楽づくりの活動も視野に入れながら,題材を構想していく必要があると考えられる。



新学習指導要領における低学年と中学年の音楽づくりに関する指導事項は以下のようになっている。

〈低学年〉

 
声や身の回りの音の面白さに気付いて音遊びをすること。
 
音を音楽にしていくことを楽しみながら,音楽の仕組みを生かし,思いをもって簡単な音楽をつくること。
 

〈中学年〉

 
いろいろな音の響きやその組み合わせを楽しみ,様々な発想をもって即興的に表現すること。
 
音を音楽に構成する過程を大切にしながら,音楽の仕組みを生かし,思いや意図をもって音楽をつくること。
 

本題材では,上記の指導事項イに視点を置いて,我が国のわらべうたに用いられている音を用いての旋律創作に取り組ませたいと考えている。小学校学習指導要領解説音楽編(平成20年8月)によると,この活動は低学年における事例として表記されており,中学年では「我が国の音楽に使われているような五音音階などを使って簡単な旋律をつくり(以下略)」という表記がある。しかしながら,初めて旋律創作に取り組むことに配慮し,本題材では,使用する音を基本的にミ・ソ・ラの3音に限定して活動に取り組ませることとした。本題材の指導に当たっては,宮沢賢治の詩を教材に用いて,その詩にあう旋律を作曲するということを中心的な学習活動とし,前時までに,ソプラノリコーダーを用いたリズム即興演奏や3音の即興演奏,グループでのリズムを指定しての3音による作曲活動などの手続きを踏みながら,本題材の目標を達成したいと考えている。また,対象の児童は,今まで実際に音符を書くという経験が極めて乏しい実態にある。しかしながら,限られた時間の中ではあるが,その手だてを工夫して「つくった作品を記譜する」ということについても挑戦させたいと考えている。


3 題材の指導目標

宮沢賢治の「あまの川」の詩に,3音を用いて,わらべうた風の旋律を作曲できるようにする。
ソプラノリコーダーを用いてのリズム即興演奏や3音即興演奏ができるようにする。
 

4 本題材で位置付ける〔共通事項

(ア)は音楽を特徴付けている要素 (イ)は音楽の仕組み

〔共通事項〕 本題材における具体の姿
(ア) リズム 付点のリズム
旋律 わらべ歌の節回し
拍の流れ 一定の拍の中での拍に合わせた表現
(イ) 反復 曲中におけるリズムや旋律の繰り返し
変化 曲中におけるリズムや旋律の変化

5 題材で使用する主な教材について

「あまの川」 宮沢賢治
この詩は宮沢賢治の詩であり,雑誌「愛国婦人」の大正十年九月号に,〈応募童謡〉として掲載されている。童話の作中歌として書かれたものと推定されており,童話「二十六夜」や「銀河鉄道の夜」の草稿の削除箇所などに出てきている。この童謡は唯一宮沢賢治の生前に発表されたものである。この詩は,のちにフランス文学者で詩人,童話作家の天沢退次郎(あまざわ たいじろう)が編集した「あまの川 宮沢賢治童謡集」(2001年 筑摩書房)の中に取り上げられているものである。夜空に輝く天の川の様子を歌った詩であり,比較的平易な言葉で書かれており,わらべうた風の旋律をつけるのにも適した内容や言い回しと思われる。「小砂利」や「すなご」などの言葉については,事前に説明を加え,空を見上げたときの天の川の様子を児童がイメージできるように指導したい。また,作曲をすることを考えて,一部分を繰り返すなど,実際の詩を一部改変していることを付け加えておく。


あまの川   宮沢賢治    ※(  )内の部分については授業者の意図で繰り返している部分である。


 あまのがわ / (あまのがわ) / 岸の小砂利(こじゃり)も見いえるぞ。 / 底のすなごも見いえるぞ。 
 いつまで見ても, / (いつまで見ても,) / 見えないものは,水ばかり。

 

6 題材の計画 (全5時間)  本時は4/5  1・2・3/5 の授業の実際についてはこちら

学習内容及び学習活動 時間
教師の指導・支援






ソプラノリコーダーでリズム即興演奏と3音即興演奏に取り組む。
基本的な音符の知識を確認する。
・教師による演奏の模倣奏から始める。
・自由な雰囲気の中で,自分が感じたままに演奏してよいことを伝える。









「あまの川」の詩を朗読する。
あらかじめ示した条件の中で「あまの川」の詩の指定した部分にグループで作曲する。


・はじめに「あまの川」の詩を音読し,詩の内容や言葉がもっているリズム感をつかませる。
・リズムや使用する音(ミ・ソ・ラの3音)を指定し,学習シートに書き込むようにして作曲に取り組ませる。







「あまの川」の詩の指定した部分に個人で作曲する。

本時

・前時までの学習を振り返らせる。
・「あまの川」の指定した部分に個人で作曲させる。
・作品をグループ内で紹介する。
「あまの川の歌」の発表会をする。
・自分たちがつくった「あまの川の歌」を紹介し合う場を設定し,友だちの作品にもふれさせ,そのよさや工夫点に気付かせる。
・よさや工夫点から反復・変化のおもしろさに気付かせる。

7 題材の評価計画(全5時間)

  音楽に対する関心・意欲・態度 音楽的な感受や表現の工夫 表現の技能 鑑賞の能力

題材の

評価規準

作曲に興味をもって,旋律創作や即興演奏に楽しく取り組んでいる

言葉のもつリズムやわらべうた風の旋律を感じ取り,音のつなげ方を工夫している 思いや意図をもってまとまりのある音楽をつくることができる  
学習活動における具体的な評価規準【評価方法】
1・2
リズム即興演奏や3音即興演奏に楽しく取り組んでいる【活動の観察・学習シート】 わらべうた風の旋律を感じ取ってミ・ソ・ラの3音による即興演奏をしている【活動の観察】 自由にリズム即興演奏や3音即興演奏ができる【発表・活動の観察】
指示された音符を楽譜に記すことができる。
【活動の観察・学習シート】
 
グループでの作曲活動に興味をもって取り組んでいる。【活動の観察・学習シート】 わらべうた風の旋律と「あまの川」の詩の内容や言葉のリズムを感じ取って作曲している。【活動の観察・学習シート】 ミ・ソ・ラの3音を使って決められた条件の中で作曲することができる。【活動の観察・学習シート】  
個人での作曲活動やグループでの紹介タイムに興味をもって取り組んでいる【活動の観察・学習シート】

わらべうた風の旋律と「あまの川」の詩の内容や言葉のリズムを感じ取って作曲している【発表・活動の観察】 ミ・ソ・ラの3音を使って決められた条件の中で作曲することができる【活動の観察・学習シート】  
作品の発表会に意欲的に取り組んでいる【発表・活動の観察】 他者の作品を聴き,その作品のよさをコメントすることができる【学習シート】 完成させた作品をみんなと合わせて歌うことができる【活動の観察】  

 

 

8 本時の学習指導 (4/5)  場所:音楽室 時間:2校時

 (1) 指導目標

○ 「あまの川」の詩に,指定された3音を用いて,わらべうた風の旋律を作曲できるようにする

  (2) 具体の評価規準

個人での作曲活動やグループでの紹介タイムに興味をもって取り組んでいる
音楽への関心・意欲・態度)

わらべうた風の旋律と「あまの川」の詩の内容や言葉のリズムを感じ取って作曲している 
音楽的な感受や表現の工夫)


ミ・ソ・ラの3音を使って決められた条件の中で作曲することができる
(表現の技能
  (3) 展 開
児童の学習活動
教師の指導・支援 (□評価規準と方法)

ソプラノリコーダーでリズム即興演奏や3音即興演奏に取り組む。 






自由な雰囲気の中で,コール・アンド・レスポンスによる即興演奏を楽しませる。
難しいリズムや音程があった場合は,必要に応じて教師が演奏して,リズム呼称法や階名唱で確認する。
前時の学習を振り返る。

あらかじめ,今までの学習の流れを黒板に掲示しておく。
本時の活動について知る。

本時の学習目標
ミ・ソ・ラの3音を使って,「あまの川の歌」をつくろう(続き)

本時の活動のねらいを板書し,おおまかな流れを確認する。
「あまの川」の前時に作曲した部分を歌う。

前時にグループで作曲した部分の中からいくつかの作品を実際に全員で歌わせる。
「あまの川」の詩に作曲する際の留意点を理解する。  前時にグループで作曲した部分について振り返り,その続きを個人で取り組むということを確認する。
音高については,ソプラノリコーダーで確認しながら進めるように指示する。
「あまの川」の詩の5段目に作曲をする。 グループごとに準備した学習シートに書き込むように指示をする。
  活動がうまくいっていない児童用に,あらかじめリズムを指定したシート(おたすけカード)を準備しておく。
@
個人で作曲に取り組む。  作曲に興味をもって楽しく活動に取り組んでいる。[規準ア]【活動の観察】
A
個人で取り組んだ作品を持ち寄ってグループ内で紹介しあう。(紹介タイム) 言葉のリズムとミ・ソ・ラのつながりを考えて,作曲している。[規準イ]【活動の観察】
B
時間内に完成できなかった児童は,グループ内で友だちの助けを借りて作品を完成させる。 旋律ができたら,グループで実際に歌ったり,リコーダーで演奏したりしてみることを促す。

完成した「あまの川」の歌の発表を聴く。

活動が進んでいる児童の中から数名の作品について,完成した作品を紹介する。紹介する際は,教師がサポートする。
    発表した作品について,「音楽的なよさ」と「アドバイス」という視点でコメントをし,活動の意欲につなげる。
次時の見通しをもつ 次時は,本時でつくった作品を再度見なおして,歌う練習をして,「あまの川」の歌の発表会をすることを伝える。
 
 

作品を完成させることができる。[規準ウ]【学習シート】
資料等 学習指導案【PDF】 事前アンケート【PDF】 事前アンケートの結果【PDF】 
  音符を書いてみよう【PDF】 音楽づくりシート ミソラバージョン【PDF】 音楽づくりシート ラソミバージョン【PDF】
  歌詞カード【PDF】 つくるときの手順【PDF】   おたすけカード【PDF】
   本時の板書【Jpeg】    

9 児童の様子

本題材の導入の段階では,音楽づくりに取り組むことに対して,興味はもっているものの難しいのではないかという印象を強く感じている児童が多いように思えた。本時の導入においても,個人で活動に取り組むことに不安を抱えている児童が多く見られたが,音楽づくりの手順を確認し,その手順を踏ませることや,活動がうまくいっていない児童には「おたすけカード」などを用いて,支援を試みたこともあり,終末の自己評価では,多くの児童がうまくできたと感じていたようである。

記譜については,リズム呼称法を用いたことにより,四分音符,八分音符,付点のリズムを音符に置き換えることは比較的多くの児童ができるようになった。しかしながら,休符を感じ取ることが難しく,小節の最後の拍が休符である場合などに見落としがちであった。

児童が本時で取り組んだ成果については以下の音楽づくりシートを参考にしてほしい。
  A児の作品 : ラとソを用い,八分音符を基調として,シンプルに仕上げている。 
  B児の作品 : 八分音符を基調として,仕上げている。最後にシンコペーションを用いている。
  C児の作品 : 2段目のリズムを模倣して,休符からはじめている。
  D児の作品 : 付点のリズムを基調として,仕上げている。
  E児の作品 : はじめに「おたすけカード」を利用してから,完成させた作品である。

10 授業を終えて (指導者の考察)

「音楽づくり」の分野を取り上げての授業実践は,従前までも例が少なく,学校現場にとっても難しい活動ととらえられている向きがある。本授業はそのことを踏まえての提案的な授業であった。第4学年での授業実践であったが,それまでの3年間において,音楽づくりの活動に取り組むために必要な力を計画的に身に付けてきているわけではなかったので,その点で配慮すべきことが多かった。音楽づくりの活動に児童が取り組むために必要な音楽的な力について考える契機となる授業であったと思う。

児童がつくった旋律を楽譜に記すことができるようにするということについては,授業研究会においても,さまざまな意見をいただいたが,前述した音楽づくりに取り組むために必要な力と同様に,小学校音楽科の6か年でどのような力をどの発達段階で付けることが必要であるかということを考える機会となったと思う。
児童の能力差や音楽づくりの経験が少ないことを十分に考慮し,グループによる音楽づくりの場面と個人での音楽づくりの場面を段階的に取り入れた。グループによる音楽づくりの場面においては,グループで音楽づくりに取り組む際の手立ての工夫についてもっと考えるべきであったと思う。個人での音楽づくりについては,本時の導入においては,多くの児童が活動に不安を感じていたが,授業後の振り返りの場面では,ほとんどの児童が,自分の満足のいく音楽づくりの活動ができたと評価しており,本題材をとおしての音楽づくりに取り組ませるための手立てについては,概ねうまくいったのではないかと考えている。