本調査では、「社会的な思考・判断に関する問題」と「資料活用の技能・表現に関する問題」について課題があることが分かった。社会科学習では,様々な資料を適切に収集し、活用して事象を多面的・多角的に考察し公正に判断するとともに、適切に表現する能力と態度を育てることを目標としている。また、生徒の思考・判断の過程や成果を、自分で書き記したり、他者に伝えたりするための表現力が求められている。この思考力・判断力・表現力を育むという観点から、言語活動を充実することが求められている。そこで、(ア)思考力・判断力・表現力を育む活動、(イ)言語活動の充実、(ウ)資料活用の技能の習得について取り組んでいくことが必要と考える。
(ア)思考力・判断力・表現力を育む活動
思考力・判断力・表現力は、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに,レポートの作成や論述といった知識・技能を活用する学習活動を充実させることで育まれると考えられる。また言語活動の充実を図る観点から、考察や判断の過程や成果は、レポートにまとめさせたり、自分の意見として他者に伝えさせたりする活動を取り入れることも必要である。また、思考力・判断力・表現力を育む活動については、各分野の特質に応じて、工夫や改善を図ることも必要がある。以下はその一例である。
① |
地理的分野の「世界各地の人々の生活と環境」の学習では、雨温図を用いて、気候の特色を捉えさせ、そこで生活する人々の様子や特色について考察させる活動を通して、人々の生活と環境との関連を理解できるようにする。 |
② |
歴史的分野の「中世の日本」の学習では、古代から中世への転換の様子を、古代の天皇や貴族の政治との違いに着目して考察させる学習を通して、武家政治の特色について理解できるようにする。 |
③ |
公民的分野の「国民の生活と政府の役割」では、統計資料や新聞の記事などを用いることから、租税の意義や税制度のあり方について考えさせる学習を通して、租税の意義と役割について理解できるようにする。 |
以上のような学習活動において、明確な評価規準や判定基準の基に、定期的に評価・確認し、生徒の形成的評価に結びつけることで、思考力・判断力・表現力を育成できるものと思われる。
(イ)言語活動の充実
学習指導要領には「生徒の思考力・判断力・表現力等をはぐくむ観点から、基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに、言語に対する関心や理解を深め、言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え、生徒の言語活動を充実すること」として、言語活動の重要性について述べてある。社会科における言語活動は、各分野の特性によって様々であるが、活動内容の特性から「自分の考えを書く活動」と、「発表や話し合いなどの活動」に分けられる。以下はその一例である。
① |
地理的分野の「身近な地域の調査」では、自分が住んでいる地域の特色を捉えさせるために、地形図の読図や調査結果の内容を地形図に書き込む学習に取り組ませる。 |
② |
歴史的分野の各単元のまとめとして、その時代を大観させたり、時代の変換の様子を捉えさせる学習において、学習した内容を活用して、自分の言葉で記述したものを発表したりする学習に取り組ませる。 |
③ |
公民的分野の「民主主義と民主政治」では、民主主義についての学習で習得した知識を生かして、民主主義の課題について考えたことをまとめて説明したり、論述や議論などを通して、考えを深めさせたりする。 |
また、言語活動をより充実させるための工夫点として、作成したレポートの発表会や、討論学習後に再考察した自分の考えをまとめるなど、「自分の考えを書く活動」と「発表や話し合いなどの活動」の関連を図った指導を仕組むことが考えられる。
(ウ)資料活用の技能の習得
資料活用の技能を習得することで、資料を適切に収集、選択、処理、活用できるようになる。さらに得られた情報を比較したり、関連付けたりすることにより、社会的事象について、様々な角度や立場から考察したことを基に、公正に判断をする能力や、資料に基づいて考察しようとする態度が養われるものと思われる。資料活用の技能を高めるためには、学習過程において、資料活用の場を設定し、資料を読み取るねらいや着目するポイントを明確した上で、学習活動に取り組ませる指導が求められる。資料活用の技能は「見つけ・選ぶ力」「読み取る力」「生かす力」が考えられ、学習活動の中で習得させなければならない。以下はその一例である。
① |
「見つけ・選ぶ力」・・・教科書や地図帳、インターネットを活用して課題解決に適切な資料を見つけることができる。 |
② |
「読み取る力」・・・グラフの変化の様子や地形図の土地利用の変化、写真から有用な情報を読み取ることができる。 |
③ |
「生かす力」・・・読み取った情報を基に、自分の考えをまとめてレポートにしたり、コンピュータを活用してプレゼンテーション資料を作成したり、討論の根拠として発表したりすることができる。 |
資料活用の技能の習得に関しては、初期の段階では、情報収集の手段や、読み取る技能の習得を目標として学習活動を設定する必要がある。個々の技能の定着や活用の状況を把握しながら、最終的には学習課題の内容にあった資料を的確に選択し、課題解決に有用な情報を適切に収集し、活用することができるように系統立てて指導することが必要である。 |