平成24年度佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

  ※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

中学校社会

  言語活動を通した「思考力・判断力・表現力」の育成

中学2年生では、「資料活用の技能・表現」の観点は、「おおむね達成」の基準を上回ったが、「社会的な思考・判断」と「社会的事象についての知識・理解」は「おおむね達成」の基準を下回った。中学3年生では、「社会的な思考・判断」と「社会的事象についての知識・理解」は「おおむね達成」を上回ったが、「資料活用の技能・表現」は「おおむね達成」を下回った。
平成23年度の調査で課題として挙げられた歴史的分野の基礎的・基本的な知識や技能・概念の習得と定着については、若干の改善は見られるものの、課題を残す結果となった。今後は身に付けた知識や資料から読み取った情報を活用し、自分の考えをまとめさせたり、思考・判断の過程や成果を自分の言葉で表現させる言語活動を充実させるための手立てが必要である。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○社会的な事象への関心・意欲・態度

 ○社会的な思考・判断

 ○資料活用の技能・表現

 ○社会的事象についての知識・理解

本調査では設定なし

「思考・判断」

「技能・表現」

「知識・理解」

 

 

結果の概要
 
(ア)
教科及び設問ごと正答率
 
教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

chu2sha

 

教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

chu3sha

中学2年生は「おおむね達成」の基準を下回り、中学3年生は「おおむね達成」の基準を上回った。

 
(イ)

評価の観点別正答率

①中学2年生

図1 H24年度(中学2年生社会)評価の観点別正答率

「技能・表現」は「おおむね達成」の基準を4.3ポイント上回ったが、「思考・判断」と「知識・理解」は「おおむね達成」の基準を下回った。「思考・判断」については、資料を読み取り、読み取った情報を基に、その解釈を書いたり、理由を説明したりする設問であったが、他の観点の設問と異なり、文章記述で解答する形式の設問であったことが、正答率が低かった要因として考えられる。

②中学3年生

図2 H24年度(中学3年生社会評価の観点別正答率 

「思考・判断」と「知識・理解」は「おおむね達成」の基準を上回ったが、「技能・表現」は「おおむね達成」の基準を6.8ポイント下回った。提示された資料に示してある情報を読み取り、説明する問題に課題が見られた。これは、問われている事柄に関係する箇所を資料から的確に読み取ることと、その読み取った内容を基に説明することに課題があったと考えられる。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

①中学2年生

図3 H24年度(中学2年生社会)内容・領域別正答率

地理的分野の「世界の地域構成」は「おおむね達成」の基準を5.3ポイント上回った。特に地球儀や地図を活用した問題では「おおむね達成」の基準を上回っている。歴史的分野では、「古代までの日本」は「おおむね達成」の基準を2.2ポイント上回ったが、時代の特色や転換の様子について考える問題においては、課題が見られた。「歴史のながれと地域の歴史」「中世の日本」では、「おおむね達成」の基準を下回った。「歴史の流れと地域の歴史」では、歴史の流れをつかむ基本となる時代区分や時代の表し方についての理解や定着が不十分だったと思われる。「中世の日本」については、鎌倉時代と室町時代の歴史的事象についての理解や定着に課題が見られた。

②中学3年生

図4 H24年度(中学3年生社会)内容・領域別正答率

地理的分野はそれぞれの内容・領域で「おおむね達成」の基準を上回った。歴史的分野の「近代の日本」では「おおむね達成」の基準を1.7ポイント上回った。明治維新に携わった人物については学習内容の定着が見られる。「近世の日本」では「おおむね達成」の基準を9.9ポイント下回った。「近世の日本」については、年表に記してある江戸中期から幕末までの「知識・理解」を問う設問において、享保の改革・寛政の改革・天保の改革の中心人物や改革の内容についての理解や、幕末の動乱期についての理解が不十分だったために、正答率が低かったと思われる。

   

経年比較 

 

中学2年生については、中学1年生時の調査が小学6年生の内容であることから、同一生徒の学習内容の変容を経年比較することはむずかしい。そこで中学2年生においては、平成23年度と平成24年度の同一学年のみの経年比較により分析をする。

中学3年生では、中学校における社会科の学習内容の定着状況と各観点別の学習状況を継続的に把握し、分析するために、平成23年度と平成24年度の同一生徒の経年比較による分析をする。

中学2年生では「思考・判断」の正答率は、「おおむね達成」の到達基準37.0と比べると低かった。中学3年生では「技能・表現」の正答率は、「おおむね達成」の到達基準51.0と比べると低かった。そこで(ア)では中学2年生で正答率が低かった「思考・判断」の観点について、(イ)では中学3年生の正答率が低かった「技能・表現」の観点について分析していくこととする。また、2年生において、正答率が低かった「歴史的分野」の「思考・判断」についてもそれぞれ分析していくこととする。

   
(ア)

中学2年生の「思考・判断」についての経年比較(同一学年)
①評価の観点別正答率

図5 H23・H24年度(中学2年生社会)「思考・判断」の 正答率の経年比較

平成23年度の調査結果との比較では、平成24年度の正答率が平成23年度の正答率を12.5ポイント下回った。また、「おおむね達成」の基準値に違いはあるが、平成23年度は「おおむね達成」の基準値を2.1ポイント上回り、平成24年度の調査では「おおむね達成」の基準を4.9ポイント下回っている。平成24年度は前年度に比べて、内容に関する資料が多くなり、その中から読み取った事柄をそれぞれ関連付けて考えることを求める設問が増え、なおかつ文章記述の形式で解答する設問が多かったことが、平成23年度よりも正答率が下回った原因ではないかと考えられる。

次に、内容・領域別正答率の低かった「歴史的分野」の「思考・判断」の正答率について経年比較を行う。

②「歴史的分野」の「思考・判断」についての経年比較

図6 H23・H24年度(中学2年生社会)「歴史的分野」の「思考・判断」の正答率の経年比較

平成23年度、平成24年度ともに「おおむね達成」の基準を下回っている。中学2年生では、ここ数年、「歴史的分野」について特に「思考・判断」の観点について正答率が伸び悩んでおり、その中でも時代の特色や流れを、既習の知識や資料を読み取った情報を基に、説明する設問に課題が見られた。

 
③問題形式別正答率

図7 H23・H24年度(中学2年生社会)の「記述式」の正答率の経年変化

中学2年生において、記述式の正答率は、平成23年度は「おおむね達成」の基準を1.5ポイント上回ったが、平成24年度は「おおむね達成」の基準と等しく38.3ポイントであった。正答率を平成23年度と比較すると、6.3ポイント下回った。文章記述で解答する形式において、考察したことや解釈したことを自分の言葉で記述する力に課題があると思われる。

図5、図6、図7より、中学2年生では、既習の知識や資料から読み取った情報を基に考察した上で、判断する「思考・判断」の観点や、「歴史的分野」の内容・領域において、自分の考えや解釈を文章記述で解答する設問形式について、課題が見られる傾向が、ここ数年続いている。

   
(イ)

















中学3年生の「技能・表現」についての経年比較(同一生徒)

①評価の観点別正答率

図9 H23年度(中学2年生社会)、H24年度(中学3年生社会)「技能・表現」

の正答率の経年比較

②評価観点別到達度分布正答率

図10 H23年度(中学2年生社会)、H24年度(中学3年生社会)「技能・表現」の評価観点別到達度分布の正答率の経年比較

 正答率について平成23年度の調査結果と比較すると、図9から平成24年度の正答率が11.4ポイント下回っている。平成23年度は「おおむね達成」の基準を3.1ポイント上回ったことに対して、平成24年度は「おおむね達成」の基準を6.8ポイント下回る結果となった。また、図10から、平成23年度は「十分達成」の割合が36.7ポイントである一方で、「要努力」の割合が49.7ポイントであった。平成24年度においても、23年度と同様の状況が見られる。特にグラフなどの資料から変化の様子を数量的に捉えたり、複数の資料を比較して違いや変容の様子を説明する設問に課題が見られた。

   
設問ごとに見た傾向と指導法改善の手立て

 

上記の「ア結果の概要」と「イ経年比較」から、中学2年生では「歴史的分野」の内容・領域において、「思考・判断」の観点に課題が見られた。また問題形式別では「記述式」で答える問題。中学3年生では「技能・表現」の観点に課題があることが分かった。そこで、中学2年生については「歴史的事象の意味や意義を、既習の知識や資料を基に解釈し、説明する問題」について、中学3年生は「社会的事象の意味や特色を、資料から読み取る問題」について分析することとする。

   
傾向1

歴史的事象の意味や意義を、既習の知識や資料を基に解釈し、説明することに課題がある。

[中学2年生 大問4(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は22.4であり、17.6ポイント下回った。この問題は古墳の分布を示した地図と倭王武の手紙から大和政権の勢力拡大の様子を説明する問題である。

古墳が古代の権力者の墓であり、権力の大きさは大きさや数、分布によって示されることを学習している。この問題では「倭王武の手紙」から大和政権が徐々に他の国を支配下に置いていったことや、古墳の分布図から、大和地方を中心に勢力範囲が広がっていったことを捉えられなかったことや、それらを関連付けて解釈できなかったことがと理由として考えられる。

○ 指導改善の手立て

 古墳や古墳の埋葬品から、古墳が何かをとらえさせる。その上で「古墳はどのように分布しているだろうか?」、「倭王武はどのように周辺の国を支配していったか?」をテーマに資料から調べさせ、大和政権の勢力の広がりについてまとめさせることで、弥生時代から古墳時代の国の統一の様子が捉えやすくなるものと思われる。

 

[中学2年生 大問4(5)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は27.8であり、12.2ポイント下回った。この問題や平安時代に国風文化が栄えた理由を、隋・唐と日本の交流の様子を示した年表と菅原道真の意見から説明する問題である。古代からの東アジアと日本との文化的な交流は、日本の発展に大きく影響をもたらしていることを学習している。この問題では、遣唐使の廃止を年表から捉えられなかったことや、菅原道真の手紙から遣唐使が廃止に至った理由を関連付けることができなかったことが理由として考えられる。

○ 指導改善の手立て

国風文化が栄えたことは、我が国の文化史の大きな転換期になった。そこで、平安時代前後の文化遺産を比較させることにより、国風文化の特色を捉えさせる。まず菅原道真の手紙やこの時代の年表から、唐が衰退していることや、遣唐使が廃止になったことを読み取らせ、次に二つの事象を関連付けさせることで、国風文化が栄えた歴史的背景を捉えさせることができる。

   
傾向2

社会的事象の意味や特色を、資料から読み取ることに課題がある。

[中学3年生 大問1(4)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して、正答率は22.1であり、17.9ポイント下回った。この問題はグラフを比較することにより、北半球と南半球の季節が逆になることを読み取る問題である。グラフから、月ごとの降水量や平均気温の変化について、比較することによって、その違いを的確に捉えることができなかったと思われる。

○ 指導改善の手立て

世界各地の気候は、気温や降水量、その他の自然条件などにより分類される。雨温図を活用すると、世界各地の気候の特色を捉えやすくなり、分類も容易になる。その上で効果的なのは、グラフから読み取ったことを説明することである。さらに人々の生活と関連付けたり、他の気候区との違いを説明したりすることで、さらに理解が深まると思われる。

[中学3年生 大問2(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率55.0に対して、正答率は14.8であり、40.2ポイント下回った。この問題は花子さんが資源やエネルギーについて学習したことをまとめた「エネルギー新聞」の資料「石油の主な生産地域と移動の様子」から、日本の石油輸入先となっている地域を読み取る問題である。石油の移動の方向と量を矢印の向きや太さで示してあることが、読み取れなかったためであると思われる。


○ 指導改善の手立て

日本は石油をはじめとする地下資源のほとんどを輸入に頼っているエネルギー消費大国である。その地下資源をどこから、どのように供給しているかを理解させる方法として、資料のような統計地図を用いることが考えられる。その際には、「地下資源をもたない日本が、大量の地下資源をどのように供給しているか?」など、学習課題を設定した上で、資料を提示し、何について示されているかを捉えさせ、読解のポイントを明確にすることで、より着実な資料の読み取りができると考えられる。また、読み取ったことをグループ内で発表させ、共有することで、より理解が深まるものと思われる。

   
これからの指導に向けて
 

本調査では、「社会的な思考・判断に関する問題」と「資料活用の技能・表現に関する問題」について課題があることが分かった。社会科学習では,様々な資料を適切に収集し、活用して事象を多面的・多角的に考察し公正に判断するとともに、適切に表現する能力と態度を育てることを目標としている。また、生徒の思考・判断の過程や成果を、自分で書き記したり、他者に伝えたりするための表現力が求められている。この思考力・判断力・表現力を育むという観点から、言語活動を充実することが求められている。そこで、(ア)思考力・判断力・表現力を育む活動、(イ)言語活動の充実、(ウ)資料活用の技能の習得について取り組んでいくことが必要と考える。

(ア)思考力・判断力・表現力を育む活動

思考力・判断力・表現力は、基礎的・基本的な知識・技能の習得とともに,レポートの作成や論述といった知識・技能を活用する学習活動を充実させることで育まれると考えられる。また言語活動の充実を図る観点から、考察や判断の過程や成果は、レポートにまとめさせたり、自分の意見として他者に伝えさせたりする活動を取り入れることも必要である。また、思考力・判断力・表現力を育む活動については、各分野の特質に応じて、工夫や改善を図ることも必要がある。以下はその一例である。

地理的分野の「世界各地の人々の生活と環境」の学習では、雨温図を用いて、気候の特色を捉えさせ、そこで生活する人々の様子や特色について考察させる活動を通して、人々の生活と環境との関連を理解できるようにする。
歴史的分野の「中世の日本」の学習では、古代から中世への転換の様子を、古代の天皇や貴族の政治との違いに着目して考察させる学習を通して、武家政治の特色について理解できるようにする。
公民的分野の「国民の生活と政府の役割」では、統計資料や新聞の記事などを用いることから、租税の意義や税制度のあり方について考えさせる学習を通して、租税の意義と役割について理解できるようにする。

以上のような学習活動において、明確な評価規準や判定基準の基に、定期的に評価・確認し、生徒の形成的評価に結びつけることで、思考力・判断力・表現力を育成できるものと思われる。

(イ)言語活動の充実

学習指導要領には「生徒の思考力・判断力・表現力等をはぐくむ観点から、基礎的・基本的な知識及び技能の活用を図る学習活動を重視するとともに、言語に対する関心や理解を深め、言語に関する能力の育成を図る上で必要な言語環境を整え、生徒の言語活動を充実すること」として、言語活動の重要性について述べてある。社会科における言語活動は、各分野の特性によって様々であるが、活動内容の特性から「自分の考えを書く活動」と、「発表や話し合いなどの活動」に分けられる。以下はその一例である。

地理的分野の「身近な地域の調査」では、自分が住んでいる地域の特色を捉えさせるために、地形図の読図や調査結果の内容を地形図に書き込む学習に取り組ませる。

歴史的分野の各単元のまとめとして、その時代を大観させたり、時代の変換の様子を捉えさせる学習において、学習した内容を活用して、自分の言葉で記述したものを発表したりする学習に取り組ませる。

公民的分野の「民主主義と民主政治」では、民主主義についての学習で習得した知識を生かして、民主主義の課題について考えたことをまとめて説明したり、論述や議論などを通して、考えを深めさせたりする。

また、言語活動をより充実させるための工夫点として、作成したレポートの発表会や、討論学習後に再考察した自分の考えをまとめるなど、「自分の考えを書く活動」と「発表や話し合いなどの活動」の関連を図った指導を仕組むことが考えられる。

(ウ)資料活用の技能の習得

資料活用の技能を習得することで、資料を適切に収集、選択、処理、活用できるようになる。さらに得られた情報を比較したり、関連付けたりすることにより、社会的事象について、様々な角度や立場から考察したことを基に、公正に判断をする能力や、資料に基づいて考察しようとする態度が養われるものと思われる。資料活用の技能を高めるためには、学習過程において、資料活用の場を設定し、資料を読み取るねらいや着目するポイントを明確した上で、学習活動に取り組ませる指導が求められる。資料活用の技能は「見つけ・選ぶ力」「読み取る力」「生かす力」が考えられ、学習活動の中で習得させなければならない。以下はその一例である。

「見つけ・選ぶ力」・・・教科書や地図帳、インターネットを活用して課題解決に適切な資料を見つけることができる。
「読み取る力」・・・グラフの変化の様子や地形図の土地利用の変化、写真から有用な情報を読み取ることができる。
「生かす力」・・・読み取った情報を基に、自分の考えをまとめてレポートにしたり、コンピュータを活用してプレゼンテーション資料を作成したり、討論の根拠として発表したりすることができる。

資料活用の技能の習得に関しては、初期の段階では、情報収集の手段や、読み取る技能の習得を目標として学習活動を設定する必要がある。個々の技能の定着や活用の状況を把握しながら、最終的には学習課題の内容にあった資料を的確に選択し、課題解決に有用な情報を適切に収集し、活用することができるように系統立てて指導することが必要である。

   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日: 2012-10-15