2 研究の実際
(2) 12の基本スキル
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ウ 12の基本スキルの関連と影響についての検証(検証T) |
○ はじめに |
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平成22年度の研究で、佐賀県内の児童生徒の実態に応じたソーシャルスキル・トレーニングに関する活動プログラムを作成するため、佐賀県内の抽出した小・中・高等学校各10校において、児童生徒のソーシャルスキルに関する実態を把握するためのアンケート調査を行いました。 |
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アンケート結果を基にして、〈基本的なかかわりスキル〉(「@あいさつ」「A自己紹介」「B上手な聴き方」「C質問する」)、〈仲間関係発展・共感的スキル〉(「D仲間の誘い方」「E仲間の入り方」「Fあたたかい言葉かけ」「G気持ちをわかって働きかける」)、〈主張行動スキル〉(「Hやさしい頼み方」「I上手な断り方」「J自分を大切にする」)、〈問題解決技法〉(「Kトラブルの解決策を考える」)のそれぞれの中から1つずつ、各校種ごとに基本スキルを選択しました。 |
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【選択した基本スキル】 |
種 類 |
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基本的なかかわりスキル
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仲間関係発展・共感的スキル |
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主張行動スキル |
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問題解決技法 |
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○ 検証の内容 |
基本スキルの関連や他の基本スキルへの影響を探るために、以下の3項目についての検証を行いました。
a 基本スキルの関連
b 種類ごとに見た基本スキルの獲得状況の変化
c 獲得状況の低い基本スキルの獲得状況の変化
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○ 検証の方法 |
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平成22年度に調査した佐賀県内の児童生徒のソーシャルスキルの獲得状況から、実態に応じて選択した活動プログラムについて、小学校では6つ、中学校では4つ、高等学校では4つの活動プログラムの検証を行いました。 |
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小学校4校(4年生80名、6年生33名、計113名)・中学校3校(2年生102名)・高等学校2校(1年生36名、2年生37名、計73名)の児童生徒を対象に、ソーシャルスキル・トレーニングの授業前と定着化の取り組みの後に、「行動を振り返るアンケート」を実施し、児童生徒のソーシャルスキルの獲得状況の変化を見ました。 |
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「行動を振り返るアンケート」は、「12の基本スキル」のそれぞれの質問を3項目ずつとし、児童生徒の回答を「よくしている」「だいたいしている」「あまりしていない」「ほとんどしていない」の4件法としました。
また、質問項目ごとに |
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「よくしている」………… 4
「だいたいしている」…… 3
「あまりしていない」…… 2
「ほとんどしていない」… 1 |
として加重平均を求め、「12の基本スキル」ごとに、加重平均を合計しました(最大値12)。 |
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グラフの中に示されている数値は、学級の平均値です。ひとつの活動プログラムに取り組むごとにアンケートを実施し、学級の平均値の変化をグラフにして、ソーシャルスキルの獲得状況の変化として捉えています。 |
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○ 検証結果 |
a 基本スキルの関連 |
本研究では、「12の基本スキルの関連図」を作成しており、基本スキルを関連付けて学習することもできると考えています。ここでは(a)「D仲間の誘い方」と「E仲間の入り方」、(b)「Hやさしい頼み方」と「I上手な断り方」の2組の関連について検証しました。
ここでは、学級での回答の割合を帯グラフで、獲得状況の変化を折れ線グラフで示しています。 |
(a)「D仲間の誘い方」に取り組んだ場合の「E仲間の入り方」の変化 |
【グラフ1】 |
B小学校 |
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【グラフ2】 |
I高等学校 |
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「D仲間の誘い方」の活動プログラムに取り組んだところ、「E仲間の入り方」の獲得状況の数値が、B小では9.6→9.7と0.1、I高では、8.5→9.4と0.9上がりました。また、「1:ほとんどしていない」と回答した割合がB小では2.7%→0.0%と2.7%、I高では9.5%→2.4%と7.0%下がりました。【グラフ1】【グラフ2】
※中学校では該当するスキルは選択されていませんので、データを示すことはできません。 |
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(b) 「Hやさしい頼み方」に取り組んだ場合の「I上手な断り方」の変化 |
【グラフ3】 |
C小学校 |
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【グラフ4】 |
E中学校 |
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【グラフ5】 |
H高等学校 |
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「Hやさしい頼み方」に取り組んだところ、表裏をなす「I上手な断り方」の獲得状況の数値が、C小学校では9.6→9.9と0.3、E中学校では9.6→9.8と0.2、H高等学校では9.8→10.4と0.6上がりました。また、C小では、「4:よくしている」と回答した割合が9.6%→9.9%と0.3%上がりました。E中では、「4:よくしている」「3:だいたいしている」と回答した割合は下がりましたが、「1:ほとんどしていない」と回答した割合は8.3%→2.1%と6.0%下がりました。H高では、「4:よくしている」「3:だいたいしている」と回答した割合が82.0%→93.0%と11.0%上がりました。【グラフ3】【グラフ4】【グラフ5】 |
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《考察》
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全ての実施校で、「D仲間の誘い方」と「E仲間の入り方」、「Hやさしい頼み方」と「I上手な断り方」は、一方のスキルを学習すると、もう一方のスキルの獲得状況は、数値の差はあるものの、上がることが分かりました。 |
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「D仲間の誘い方」を学級で学んだことで、受け入れてもらえないかもしれないという不安が減り(仲間に入ることへの安心感が生まれ)、仲間に入りたいという気持ちを伝えやすくなったと考えられます。 |
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「Hやさしい頼み方」では、頼む相手に配慮することを学びます。人に何かを頼むときには、相手に配慮した頼み方ができるようになるので、その頼みを断る際にも、頼む相手の気持ちを考えた「J上手な断り方」ができるようになると考えられます。 |
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「D仲間の誘い方」と「E仲間の入り方」、「Hやさしい頼み方」と「I上手な断り方」については、2つの活動プログラムに続けて取り組んだり、2つの基本スキルを組み合わせて取り組んだりするなど、関連させると効果的であると考えられます。 |
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b 種類ごとに見たスキルの獲得状況の変容 |
(a) |
4種類(〈基本的なかかわりスキル〉〈仲間関係発展・共感的スキル〉〈主張行動スキル〉〈問題解決技法〉)ごとに見たスキルの獲得状況の変化
※〈基本的なかかわりスキル〉〈仲間関係発展・共感的スキル〉は「小学校の取り組み方」での種類分けですので、小学校のデータのみを示しています。 |
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〈基本的なかかわりスキル〉(「@あいさつ」「A自己紹介」「B上手な聴き方」「C質問する」)の変化 |
【グラフ6】 |
C小学校
「B上手な聴き方」に取り組んだ場合 |
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【グラフ7】 |
D小学校
「B上手な聴き方」に取り組んだ場合 |
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〈基本的なかかわりスキル〉では、4つのスキルの数値の合計を見ると、「B上手な聴き方」を実施したC小学校では39.7→41.0と1.3、D小学校では38.6→39.6と1.0、それぞれ上がりました。【グラフ6】【グラフ7】 |
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〈仲間関係発展・共感的スキル〉(「D仲間の誘い方」「E仲間の入り方」「Fあたたかい言葉かけ」「G気持ちをわかって働きかける」)の変化 |
【グラフ8】 |
B小学校
「D仲間の誘い方」に取り組んだ場合 |
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【グラフ9】 |
D小学校
「G気持ちをわかって働きかける」
に取り組んだ場合 |
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〈仲間関係発展・共感的スキル〉では、4つのスキルの数値の合計を見ると、「D仲間の誘い方」を実施したB小学校では39.2→39.4と0.2上がりました。【グラフ8】
また、「G気持ちをわかって働きかける」を実施したD小学校では、40.4→41.7と1.7上がりました。【グラフ9】 |
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〈主張行動スキル〉(「Hやさしい頼み方」「I上手な断り方」「J自分を大切にする」)の変化 |
【グラフ10】 |
C小学校
「Hやさしい頼み方」に取り組んだ場合 |
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【グラフ11】 |
E中学校
「Hやさしい頼み方」に取り組んだ場合 |
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【グラフ12】 |
H高等学校
「Hやさしい頼み方」に取り組んだ場合 |
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〈主張行動スキル〉では、3つのスキルの数値の合計を見ると、「Hやさしい頼み方」を実施したC小学校では29.1→29.4と0.3、E中学校では28.5→29.0と0.5、H高等学校では28.3→29.9と1.6、それぞれ上がりました。【グラフ10】【グラフ11】【グラフ12】 |
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※〈問題解決技法〉は、「Kトラブルの解決策を考える」だけなので分類内での変化は示すことができません。 |
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(b) 〈関係開始スキル〉〈関係維持スキル〉の種類ごとに見たのスキルの獲得状況の変化 |
「中・高等学校の取り組み方」では、「小学校の取り組み方」の2つの種類〈基本的なかかわりスキル〉〈仲間関係発展・共感的スキル〉が以下のように変わります。そこで、2つの種類ごとに獲得状況の変化を見ました。
〈関係開始スキル〉…「@あいさつ」「A自己紹介」「D仲間の誘い方」「E仲間の入り方」
〈関係維持スキル〉…「B上手な聴き方」「C質問する」「Fあたたかい言葉かけ」「G気持ちをわかって働きかける」 |
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〈関係開始スキル(「@あいさつ」「A自己紹介」「D仲間の誘い方」「E仲間の入り方」)〉の変化 |
【グラフ13】 |
F中学校
「@あいさつ」に取り組んだ場合 |
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【グラフ14】 |
I高等学校
「D仲間の誘い方」に取り組んだ場合 |
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「@あいさつ」に取り組んだF中学校では39.7→40.4と0.7、「D仲間の誘い方」に取り組んだI高等学校では36.6→37.6と1.0、それぞれ上がりました。【グラフ13】【グラフ14】 |
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〈関係維持スキル(「A上手な聴き方」「B質問する」「Fあたたかい言葉かけ」「G気持ちをわかって働きかける」)〉の変化 |
【グラフ15】 |
H高等学校
「B上手な聴き方」に取り組んだ場合 |
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【グラフ16】 |
G中学校
「G気持ちをわかって働きかける」
に取り組んだ場合 |
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「B上手な聴き方」に取り組んだH高等学校では、39.7→40.3と0.6上がりました。【グラフ15】
「G気持ちをわかって働きかける」に取り組んだG中学校では、36.2→36.9と0.7上がりました。【グラフ16】 |
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《考察》
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(a)の〈基本的なかかわりスキル〉〈主張行動スキル〉では、取り組んだすべての学校において、同じ種類のスキルの数値の合計が上がり、獲得状況に影響があることが分かりました。 |
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中・高等学校の取り組み方にある(b)の〈関係開始スキル〉〈関係維持スキル〉では、取り組んだすべての学校において、同じ種類のスキルの数値の合計が上がり、獲得状況に影響があることが分かりました。 |
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授業前の実態把握で、獲得状況が低いと考えられたスキルに取り組まなくても、同じ種類のできているスキルを授業に取り上げることで、児童生徒は、成功体験を重ねながらソーシャルスキルを身に付けることができると考えられます。 |
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c 獲得状況が最も低いスキルの変化 |
(a) 授業前のアンケートで獲得状況が最も低いスキルが「@あいさつ」の場合 |
【グラフ17】 |
I高等学校
「Kトラブルの解決策を考える」
に取り組んだ場合 |
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授業前のアンケートで最も低かった「@あいさつ」の数値が、 I高等学校では、「Kトラブルの解決策を考える」に取り組んだところ、9.0→9.2と0.2上がりました。【グラフ17】 |
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(b) 授業前のアンケートで獲得状況が最も低いスキルが「C質問する」の場合 |
【グラフ18】 |
A小学校
「G気持ちをわかって働きかける」
に取り組んだ場合 |
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【グラフ19】 |
A小学校
「Kトラブルの解決策を考える」
に取り組んだ場合 |
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【グラフ20】 |
E中学校
「Hやさしい頼み方」に取り組んだ場合 |
【グラフ21】 |
G中学校
「G気持ちをわかって働きかける」
に取り組んだ場合 |
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【グラフ22】 |
H高等学校
「B上手な聴き方」に取り組んだ場合 |
【グラフ23】 |
H高等学校
「Hやさしい頼み方」に取り組んだ場合 |
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授業前のアンケートで最も低かった「C質問する」の数値が、
A小学校では「G気持ちをわかって働きかける」に取り組んだところ、8.5→9.5と1.0、「Kトラブルの解決策を考える」に取り組んだところ9.5→9.7と0.2上がりました。【グラフ18】【グラフ19】
E中学校では「Hやさしい頼み方」に取り組んだところ8.5→9.2と0.7上がりました。【グラフ20】
G中学校では「G気持ちをわかって働きかける」に取り組んだところ、8.2→8.7と0.5上がりました。【グラフ21】
H高等学校では「B上手な聴き方」に取り組んだところ8.8→9.1と0.3、「Hやさしい頼み方」に取り組んだところ8.7→9.6と0.9上がりました。【グラフ22】【グラフ23】 |
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(c) 授業前のアンケートで獲得状況が最も低いスキルが「E仲間の入り方」の場合 |
【グラフ24】 |
G中学校
「Kトラブルの解決策を考える」
に取り組んだ場合 |
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【グラフ25】 |
I高等学校
「D仲間の誘い方」に取り組んだ場合 |
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授業前のアンケートで最も低かった「E仲間の入り方」の数値が、 G中学校では、「Kトラブルの解決策を考える」に取り組んだところ、7.6→8.0と0.4上がりました。【グラフ24】
I高等学校では、「D仲間の誘い方」に取り組んだところ8.5→9.4と0.9上がりました。【グラフ25】 |
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(d) 授業前のアンケートで獲得状況が最も低いスキルが「J自分を大切にする」の場合 |
【グラフ26】 |
D小学校
「B上手な聴き方」に取り組んだ場合 |
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授業前のアンケートで最も低かった「J自分を大切にする」の数値が、 D小学校では、「B上手な聴き方」に取り組んだところ、9.2→9.7と0.5上がりました。【グラフ26】 |
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(e) 授業前のアンケートで獲得状況が最も低いスキルが「Kトラブルの解決策を考える」の場合 |
【グラフ27】 |
C小学校
「Hやさしい頼み方」に取り組んだ場合 |
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【グラフ28】 |
D小学校
「G気持ちをわかって働きかける」
に取り組んだ場合 |
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授業前のアンケートで最も低かった「Kトラブルの解決策を考える」の数値が、 C小学校では、「Hやさしい頼み方」に取り組んだところ、8.9→9.0と0.1上がりました。【グラフ27】
D小学校では、「G気持ちをわかって働きかける」に取り組んだところ、9.2→9.3と0.1上がりました。【グラフ28】 |
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《考察》
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(a)(b)(c)(d)(e)の結果より、授業前のアンケートで学級の実態として、最も獲得状況の低かった基本スキルに最初に取り組まなくても、他の基本スキルからアプローチすることで獲得状況が上がり、授業で取り組むことができるようになることが考えられます。 |
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1つの基本スキルに取り組むことで、他の複数のスキルの数値が上がることも分かりました。非言語のポイント(相手との距離、表情、声、動作など)は、すべての基本スキルに共通するので、1つの基本スキルの学習により、児童生徒はポイントを応用していることが考えられます。 |
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検証授業で取り上げた基本スキルの獲得状況の数値が下がることがありましたが、それは、授業の中で、基本スキルのポイントを明確に示したことで、スキルについての理解が深まり、「行動を振り返るアンケート」に回答するときの自己評価が厳しくなったのではないかと考えられます。 |
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