道徳の授業実践例 (中学校第2学年で実施) | 指導案等はこちら | |||||||
主題名 | 「食べ物への感謝」 3−(2)生命の尊さ | |||||||
ねらい | 人間は他の命をいただいて生きているが,それによって自分の命があることの重みに気付かせる。 | |||||||
資料名 | 「鯨法会」 金子みすゞ | |||||||
生徒の実態と「ねらい」 | 給食では,毎日様々な工夫を凝らしたメニューが出されている。しかし,生徒たちの給食の様子を見ていると,周りを気にして食べたり,嫌いな物や食べにくい物だと残したりというような光景が見受けられる。給食があまりに身近なため,かえって給食のありがたさや調理をしてくれる人の苦労に気付かずに行動している場合もある。また,生徒の好きなメニューの一つに肉料理が挙げられるが,その動物がもっている命にまで思いをめぐらし,それに感謝していただくという意識はほとんどない。人は命のある食べ物(肉や魚)をパック詰めにして,食品販売店で購入するようになってから,動物の命を意識して食べることができなくなったとも言われている。 | |||||||
資料の 取り扱い |
本資料は,金子みすゞが,鯨を捕る漁師たちの心の奥底にある罪の意識を共有する心を書いた詩である。鯨の子が泣いている場面を想起させることにより,鯨にも人間と同じように家族や命があることを気付かせることができる資料である。また,それが分かっていながらも鯨を捕らなければ生活していくことができなかった漁師たちのつらい思いにも気付かせたい。その思いが鯨墓(鯨供養塔)であり,鯨法会として行われていたことを理解させ,漁師の生き方に共感させたい。漁師の生き方から,人間が生きていくためには,他の命をいただかなければならないことについて考えさせ,食べている命に対して感謝したいと思う心情をはぐくみたい。 本時授業で活用するパワーポイント資料はこちらから ![]() |
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授業の実際 | 段階 | 学習活動 | 主な発問と生徒の反応 | 指導上の留意点 | ||||
導 入 |
1 人間はいろいろなものを食べていることを確認する。 (PPスライド1ページ) 2 鯨文化について知る。 (PPスライド5〜14) |
○次の生物について食べる食べられるの関係を考えてみましょう。 植物プランクトン→ 動物プランクトン→いわし →イカ→鯨
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・食物連鎖の一部を取り上げ,人間はいろいろなものを食べていることを確認する。 ・時代背景や鯨漁,鯨の食文化についての資料をプロジェクタで示して説明し,鯨が当時の暮らしを豊かにしていたことを把握させる。 |
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展 開 |
3 資料を読む。
4 鯨漁をしている漁師の気持ちを考えさせる。 5 鯨法会に羽織を着て出掛けた漁師の気持ちを考える。
6 いただいた命と自分について考える。
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○資料を読んで,この詩が描く情景を思い浮かべましょう。
○大変危険を伴うにもかかわらず,どんな気持ちから鯨を捕っていたのでしょうか。 ・生活を楽にしたい ・命がけ ・お金をかせぎたい ・かわいそうだけど,生活のためには仕方ない ○漁師たちはどんな気持ちで,鯨の子の鳴き声を聞いていたでしょう。 ・つらい ・聞きたくない ・そんなに悲しまないでくれ ・とても,悪いことをした…… ○漁師たちは,鯨法会をどんな気持ちで行っていたのでしょう。 ・鯨に悪かった,すまない ・成仏してほしい ・鯨のためにお参りをしよう ・鯨の命をもらうことで,自分 たちの生活ができたのだ ・無事に鯨漁が終わってよかった
◎いただいている命と自分の命についてどんなことに気付きましたか。 ・自分の中に他の命が生きている ・もらった命なので,感謝する ・他の命の分まで,大事にする (一生懸命生きることが大切) ・ありがたい命だから,粗末にして はいけない |
・資料を黒板に掲示し,読み聞かせ,情景を思い浮かべさせる。 ・「羽織・法会」の意味を説明する。 ・漁師たちが生きていくために,鯨を捕る必要があったことを確認する。 ・鯨の鳴く場面や鐘の音を想像させ,漁師の鯨を思う気持ち,しかし漁をしなけらばいけない悲しさ,罪悪感をとらえさせたい。 ・佐賀県でも鯨法会が行われていたこと,鯨供養塔があり今でも守れていることに触れる。また,羽織を着て改まった服装であることから,鯨の命をとても大切に思っていることに気付かせていく。 ・命をいただきながらも,感謝の気持ちを大切にしている漁師の生き方に共感させたい。 ・食べ物と生き物の写真を用いて, 自分も様々な生き物の命をいただいていること,命が他の命に支えられて成り立っていることを考えさせる。 ・自分の中に,他の命が取り込まれている(一緒に生きていること)ことに気付かせ,大切にしたい気持ちを高める。 |
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終 末 |
7 これまでの自分を振り返る。
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○授業を受けて感じたことや考えたことをワークシートに書きましょう。 ・命をもらっているのだから,好き嫌 いはいけないと思った ・命に感謝して,自分の命も大切に 生きていく ・いただきますと言ってはいたが, 心から感謝して言いたい |
・再度,「鯨法会」の詩を読み,余韻を残して終わる。 |
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授業を 振り返って |
○生徒の感想より ・私たちはたくさんの命を奪ってまで生活しているから,その命を無駄にしないようにしていきたい。食べる時は感謝して食べなければいけないと思いました。 ・これからは,一つ一つの命に感謝して残さず食べようと思った。 ・他の命をもらっているから、感謝して漁師の人たちは食べていたと思うけど,私たちは今当たり前だと思っているから,自分も命に感謝する気持ちが少なかったと思います。 ○授業者より 導入の食物連鎖の一部は短時間で考えることができ,鯨への興味をもたせることができた。生徒の4割程度は鯨を食べたことがあるが,鯨漁や鯨の利用法については全く知らない。資料を用いて説明し,当時,鯨が漁師の生活を支え,豊かさをもたらしていたことを把握させる必要がある。また,羽織や法会については,写真などを提示しながら,鯨のために村をあげて供養が行なわれていたこと,今日でもその気持ちが「鯨墓・供養塔」に受け継がれていることに気付かせたい。また,鯨を捕っていた漁師の心の葛藤を「子鯨の鳴くシーン」を基に十分に感じとらせる必要がある。 資料の詩は命に対する感謝の心をはぐくむために有効で,漁師の生き方に共感させることにより、ねらいとする価値に近付くことができるものであった。終末でこれまでの自分を振り返る場面では,食べ物の写真を用いて鯨から生徒が日常食べている食べ物に広げたことにより,自分たちも他の命をいただいていることや感謝することの大切さについて考えさせることができた。 ○導入の工夫について 鯨について事前に学習経験のある場合には,指導時の発問を「鯨」に対するイメージや「捕鯨」についてどう思うかを問う,一歩踏み込んだ内容にする。それにより,展開の段階で自分の気持ちの変化に気付き,思考の深まりが期待できると思われる。(スライド資料2〜4の活用) |
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参 考 | 〇 「捕鯨文化についての考え方」 鯨を捕る光景などを見て,「かわいそう」「昔の人は残酷だ」「鯨を捕るなんて…」という考えをもつ子どももいると思われます。しかし,私たち指導者が,当時の時代背景や捕鯨文化の中にある「謝食」の考え方を学び,佐賀県で栄えた捕鯨文化を誇りに思うことで,それらが子どもに伝わり,郷土の文化を誇りに思う気持ちがはぐくまれると考えます。 次のような史実にも触れて,留意して指導していくことが大切です。 「昔の人々は,鯨を決して好んで殺していたのではなく,生活のため,生きるためだったということ。捕鯨は家族を養い,地域を豊かにする。そのために,自らの命をかけて鯨に挑む人々がいたこと,そのような産業が地元佐賀県にあったこと,そして,その礎のうえに現在の私たちの生活があること…… ※1」 「江戸時代に書かれた『小川島鯨鯢合戦』という史料の中には,当時の捕鯨の是非論が書かれている。その中には,親鯨が子鯨をかばう行動など,(鯨が)人間と寸分も変わらないこと,鯨も小さな魚も1つの命に変わりないが,鯨は1つの命で多くの人間の生活を助けてくれていること,人間と同じように「鯨供養」を行っていることなどが書かれている。このような内容は他の捕鯨史料には見られず,非常に貴重なものであり,現代にもつながる重要な内容が地元小川島の捕鯨史料にあることも誇るべきことである。…… ※2」 「※1」,「※2」については, 佐賀県立名護屋城博物館 安永学芸員の手記より一部を抜粋しました。 |