第1章基礎・基本を確実に身に付ける理科学習
1小・中学校理科学習における基礎・基本

 小・中学校理科学習での基礎・基本とは何でしょうか。基礎的な知識を得ることや観察・実験の操作方法の習得でしょうか。これも大切なことですが,中学校学習指導要領解説に「科学の基礎的な知識を得ることは大切であるが,単に知識を記憶するという学習では科学的事象への関心や探究の意欲は育てられない。既有の知識とそこでの学習で得た知識とを組み合わせて,ものごとを総合的に見たり考える習慣を身に付けさせることが理科の学習の大きな目標である」とあるように,知識の記憶だけでなく,日常生活の中で,科学的な見方や考え方ができるようにならなければなりません。学習指導要領の目標によると,小学校理科では「自然を愛する心情」「見通しをもった観察・実験」「問題解決能力」「自然の事物・現象についての理解」,中学校では「自然に対する関心」「目的意識をもった観察・実験」「科学的に調べる能力と態度」「自然の事物・現象についての理解」とあります。このように知識・理解も大切ですが,それと同じように,自然への接し方や観察・実験の在り方,探究の仕方そのものを基礎・基本ととらえなければならないと言えます。

 図1に示すように「自然を愛する心情」「自然に対する関心」を合わせて,『自然事象への関心・意欲・態度』,「見通しや目的意識をもった観察・実験」と「問題解決能力」「科学的に調べる能力と態度」を『観察・実験の技能・表現』と『科学的な思考』,「自然の事物・現象についての理解」を『自然事象に対する知識・理解』と考えることができます。これらすべてを基礎・基本としてとらえることが大切です。



図1 小・中学校理科学習の基礎・基本

 理科の学習は,直接自然事象に触れるなどの体験により自然事象に興味・関心をもち,次に,自然の中に問題を見いだし,見通しや目的意識をもった観察・実験を行い,結果を考察するという過程が大切です。このような過程の中で科学的な思考が育ち,自然事象についての知識・理解が深まります。自然事象への関心・意欲・態度,科学的な思考,自然事象についての知識・理解が育成されることが,理科の目標である科学的な見方や考え方を育てることになります。したがって,図1に示した基礎・基本はすべてが大切であり,学習過程の各段階でこのことを意識した授業を行うことにより基礎・基本の定着を図ることができます。


学習状況調査から見える理科学習の問題点

 平成14年度佐賀県小・中学校学習状況調査の結果によると,理科学習の問題点として次の点が上げられます。






 小・中学校ともに,実験器具の習得が十分でないばかりか,実験方法を考えたり,実験結果を考察したりする,いわゆる「科学的な思考」を苦手としていることが分かります。

 また,「科学的な思考」は小・中学校共通した問題点であることからも,小・中学校の連携を図りながら発達段階に応じた指導を工夫していく必要があると思います。

 小・中学校理科で高めていきたい「科学的な思考」
 科学的な思考をさせていくにはどんな力が必要なのでしょうか?小・中学校の理科学習において高めていきたい力(科学的な思考力)を学年別(小学校中学年,高学年,中学校)に分類すると次のようになります。
これはあくまでも目安として見てください。大事なことは,理科授業において「この時間は,○○力を高めよう」と指導目標にしたり,学習につまずいている子に「この子には○○力を高めるアドバイスをしよう」と目的をもって助言をしたりすることです。

「科学的な思考」を高めていくためには
(1)基本的な「探究のプロセス」を身に付けさせましょう
理科学習における基本的な探究のプロセスは次のようになります。

 ここの「探究のプロセス」の各段階において,科学的な思考が必要となります。例えば,問題意識をもつ段階では,新しい事象と既有経験の類似点,相違点などから問題を見いだしたり,見通し・目的意識をもつ段階では要因を見付ける力や要因を関連付ける力を使って予想を立てたりします。結果の考察の段階では,結果を総合化したり,論理的に思考したりしながら原理・法則性を理解していきます。この「探究のプロセス」を理科授業で繰り返していくことで,子どもたちは,各段階でどのような思考をすればよいかを学び,問題解決の方法も身に付けていくことにつながっていきます。特に,小学校の高学年においては,中学校理科への橋渡しとして,ぜひとも意識して指導していきたいところです。

 ただし,領域や内容によっては,このプロセスを柔軟に取り入れていくことが必要なのは言うまでもありません。


(2)「見通しや目的意識」をもたせよう
 探究のプロセスにおいて,見通しや目的意識をもたせることは,問題解決の原動力となり,学ぶ必然性や主体的な学習を生むことにつながる重要な段階だと言えます。

 観察・実験の見通しや目的意識をもたせるには,原因の予想とその予想を確かめる観察・実験の計画・検討,観察・実験結果の予想を行わせるとよいでしょう。つまり,子どもに観察・実験を行わせる前に「何を調べるために行うのか」「どのような方法で調べるのか」「結果はどうなるのか」を考えさせることです。

しかし,考える時間を確保するだけで,一人一人に「見通しや目的意識」をもたせることはできません。関連のある生活経験や既習事項を想起させたり,考えるヒントとなる事象や素材を提示したりすることなどが有効です。また,子どもに既習事項がなく生活経験もほとんどない場合は問題となる事象を見せるだけでなく,実際に体験させてみるなど五感を使わせることも効果があります。さらに,小学校高学年からは,定性的な観察・実験に終わらせないよう,学年に応じた指導を行い,条件を制御した観察・実験になるようにしましょう。

このような活動を通して,子どもたちは,要因を見付ける力,要因を関連付ける力,創意工夫する力,条件(変数)を制御する力,変数を定量化する力,数量的にとらえる力,およその量を見積もる力,比較対照する力等を使った科学的な思考をしていくことになります。


(3)自分の考えを自分のことばや絵・図などで表現させよう
 探究プロセスの各段階での考えを自分のことばや絵・図で説明させることで,様々な科学的な思考を行います。表現させる自分の考えの内容としては次のようなものが考えられます。ただし,小学校中学年の子どもは,「やってから考える」帰納的な思考を得意としますので,教師の適切な配慮が必要となってきます。


(4)イメージをもたせよう
 子どもたちは目に見えないものを自分なりに想像し,概念を形成しながら学習しています。学習中,うまくイメージできないために理解が困難になってくる場合をよく見受けます。そのような場合,友達のイメージと比較させたり,教師がモデルを提示したりすることが必要です。また,領域・内容によっては五感を通した学習が困難なものがあります。人体の学習や天文の学習などのように観察・実験で得たデータだけでなく,図書やインターネットなどの資料も活用しながら進めていく学習もあります。このような内容は特に,モデルを使うことなどでイメージをもたせていく過程で科学的な思考をさせていくことが大事です

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