平成24・25年度 佐賀県教育センタープロジェクト研究    
  
            
 
   
  3
研究のまとめ

平成24・25年度の2年間にわたり、高等学校における生徒の誰もが学びやすい学習環境づくりの研究に取り組んできました。

1年次は、高校2年生に対する「学習に関する意識」と、教育職員に対する「発達障害の特性を有する生徒への支援の実施状況と支援への意識」について、アンケート調査をしました。本研究で行った意識調査では、生徒の学習面における苦手さは、「書くこと」と「聞くこと」などのように複数の領域にまたがっており、多様性が見られるという傾向があることや、「自分の考えを表現すること」「期限内に課題に取り組むこと」「授業での説明を聞いて理解すること」で特に苦手さを抱えていることが分かりました。また、教育職員の発達障害の特性を有する生徒の支援に対する意識の傾向として、集団の中で一斉に行うことができる支援や準備を多く必要としない支援など、取り組みやすさを求めていることが分かりました。 1年次は、それらの意識調査の結果を基に、高等学校の学習場面において、生徒にとって学びやすく、教育職員にとって取り入れやすいと思われる学習環境を整理しました。

2年次は、1年次に整理した学びやすい学習環境を取り入れた授業実践を行い、生徒の誰もが学びやすい学習環境づくりの工夫について探ってきました。そして、高等学校における、生徒の誰もが学びやすい学習環境づくりについて、授業実践ごとにポイントを整理し、まとめました。併せて手引きも作成しました。

そこで、本研究の成果及び課題と今後の展望について、以下のように考えました。

   
  (1)   研究の成果

意識調査に基づく、高等学校の学習場面における生徒の誰もが学びやすい学習環境を、具体的に提案することができた

高校生にとって学びやすい学習環境づくりを行うには、生徒の学習に関する苦手さを理解していくことと、生徒の学習場面において、それらの苦手さを踏まえた学びやすい学習環境を取り入れていくことが必要になってきます。本研究では、意識調査の結果を基にして、高等学校の実際の学習場面で活用していくことができるように、生徒の学びやすさと教育職員の取り入れやすさの視点をもって、学習環境をまとめることができました。

 
 「書くこと」「聞くこと」「読むこと」「話すこと」「見ること」「注意・集中」「道具の管理」「課題への取組」の8領域について、高等学校の具体的な学習場面における、生徒の誰もが学びやすい学習環境を具体的にまとめることができました。
 
 生徒の誰もが学びやすい学習環境を取り入れた「実際の授業場面での活用例」を紹介することができました。
     
高等学校において、学びやすい学習環境を取り入れた授業の実践を行った
 
 県内7校の高等学校(普通校4校・専門校3校)において、5教科(国語・社会・数学・理科・英語)での授業実践を行うことができました。そのうち、4校においては公開授業を行いました。県内の高等学校から参観があり、授業研究会では、多くの感想や意見を得ることができました。
 
 授業実践に際し、授業づくりの視点として、授業の導入時に生徒が「学習の見通しをもつ活動」を、そして、授業のまとめに、生徒が「学習したことを振り返る活動」を意図的に位置付けることが大切だと考えました。そして、「導入」「展開」「まとめ」の過程で様々な学習活動を行う際に、それぞれの学習活動において考えられる生徒の学習面における苦手さに応じた、生徒の誰もが学びやすい学習環境を取り入れて実践することができました。
 
 本研究の意識調査で分かった生徒の学習面における苦手さの中で、特に苦手さを抱えている「自分の考えを表現する」「授業内容を聞いて理解する」ことについて、どの授業でも、それらの苦手さに応じた学びやすい学習環境を取り入れた実践を行うことができました。
 
 授業実践を通して、授業者の意識や授業研究会での感想や意見及び授業での生徒の様子から、次のようなことが分かってきました。
 
 「学習の見通しをもつ活動」「学習したことを振り返る活動」を1単位時間の中に位置付けた授業を行うことで、生徒は、見通しをもって学習に取り組みやすくなったり、学習した内容のポイントが分かるようになったりするなど、生徒の学習意欲の向上や学習内容の定着につながると考えます。また、教師にとっても、見通しをもった授業を行うことにつながると考えます。
 
 授業の中で、発達障害の特性を踏まえた学習環境を取り入れることは、学習面における苦手さのある生徒にとって、学習が学びやすくなり、主体的な学びにつながっていくものだと考えます。 また、それらの学習環境は、生徒の誰もが学びやすいものと考えます。
 
 授業の中での学びやすい学習環境の取り入れ方について、教科や学習活動、生徒の実態等に配慮しながら工夫していくことで、生徒の学びやすさにつながると考えます。
     
高等学校における、生徒の誰もが学びやすい学習環境づくりをまとめた手引きを作成した
  
 高等学校において、学習面における苦手さがある生徒に対して、学びやすい学習環境づくりをどのように行っていくのかについての考え方や、本研究で実際に取り組んできたことを、手引きとしてまとめることができました。
   
  (2)  研究の課題
生徒の誰もが学びやすい学習環境の取り入れ方の工夫を探る
  

本研究では、発達障害の特性を踏まえた学習環境を取り入れた授業実践を行いました。授業実践を通して、研究委員の先生方から、授業に取り入れた学習環境に対して、「書く量を調節することで生徒の負担が軽減し、生徒は聞く活動に集中できていた」「視覚的な手掛かりは、内容のイメージがもちやすく、生徒の活動が主体的になる」など、生徒の学習の苦手さに対する学びやすさにつながっていくことについての感想が挙がっていました。

しかし、そのような学習環境を取り入れる際には、生徒の実態や教科の特性などに応じた工夫が必要であったり、準備の時間が普段より掛かったりするなどの、実践上の課題が見られました。今後、高等学校において、生徒の誰もが学びやすい学習環境を取り入れた授業実践が広がっていくためには、先生方がそのような学習環境を授業に取り入れやすくなるための工夫を更に探っていくことが必要であると考えます。

 
生徒の誰もが学びやすい授業づくりへの教育職員の意識の向上を図
  

今後、高等学校において、生徒が学びやすい授業の実践が積み重なっていくためには、教師が、まず、生徒が抱えている苦手さを理解して、授業の中で、教師がそれらの苦手さに対して配慮や工夫を行っていくことが必要だと考えます。そこで、発達障害の特性を踏まえた学習環境は、生徒の誰もが学びやすい支援であるという視点や、学習環境の授業への取り入れ方について、教育職員の理解が深まるような手立てを考えていく必要があります。そうすることで、生徒の誰もが学びやすい授業づくりへの教師の意識の向上を図っていくことにつながると考えます。

   
  (3)
 終わりに
  本研究の1年次の意識調査及び2年次の授業実践に際し、貴重な御意見や御感想を頂き、本研究の成果と課題を明らかにすることができました。これからは、本研究について高等学校の先生方に紹介する機会をもちながら、高等学校の先生方により役立つものにしていきたいと考えています。

本研究の取組に際し、生徒や教育職員の意識調査に御協力いただきました6校の高等学校、並びに、公開授業研究会場校の4校を含む授業実践に御協力いただきました7校の高等学校の皆様へ感謝申し上げます。

 
Copyright(C)2014 SAGA Prefectural Education Center All Rights Reserved.