平成24・25年度 佐賀県教育センタープロジェクト研究 

 
   
       研究の実際
    (4)    学びやすい学習環境づくり
    ア 発達障害のある生徒などを取り巻く現状
 

発達障害のある生徒などの指導について、高等学校学習指導要領解説総則編には、「障害のある生徒などに対しては、一人一人の能力や適性等の伸長を図るため、その実態に即して、各教科・科目等の選択やその内容の取扱い等に必要な配慮を加え、個々の生徒の実態に即した指導内容・指導方法を検討し、適切な指導を行う必要がある」と示されています。さらに、個々の生徒の障害の状態等に応じた指導内容・指導方法の工夫については、例えば、「読み書きや計算に困難がある学習障害(LD)の生徒に対して、国語科における書き取りや数学科における計算の指導、外国語科における読み書きの指導など、教師の適切な配慮により対応することが必要である。さらに、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症の生徒に対して、話して伝えるだけでなく、メモや絵などを付加する指導などの配慮も必要である」など、具体的な対応事例が示され、教職員の共通理解の基にきめ細かな指導を行うことが求められています。

その一方で、生徒が抱える学習面における苦手さには多様性があり、その多様性に対して指導方法を模索しているといった高等学校の課題も見られます。高等学校学習指導要領解説総則編には、「ほとんどの中学校卒業者が高等学校へ進学している状況において、一人一人の生徒のもつ特性等は極めて多様になっている」「高等学校段階においては、生徒の特性、進路等が非常に多様化しており、生徒一人一人を尊重し、個性を生かす教育の充実を図るためには、指導方法や指導体制を工夫改善・・・・」 など、生徒の学習面における苦手さの多様性の実態とその多様性に対する支援の必要性を挙げています。

   
    イ  佐賀県の高等学校生徒及び教育職員の意識調査の実態(平成24年7月実施)
 
(ア)

意識調査の結果から考えられた高校2年生の学習に関する意識の実態

                                  (高校生の学習に関する意識調査の考察)

   

生徒の学習に関する意識調査の結果から、県内の高校2年生が抱える学習面における苦手さは、次のような傾向があることが分かりました。

 
 「読むこと」と「書くこと」、「聞くこと」と「話すこと」等、複数の苦手さを抱えており、その組合せは多岐にわたっている
      意識調査の結果から、生徒の学習面における苦手さには、多様性があることがうかがえました。このことから、集団に対して一斉に授業を行う際には、このような生徒の苦手さの多様性に配慮した支援が必要となると考えられます。
 
 次の3つの項目について、「特に苦手である」と感じている傾向がある。
 
○ 自分の考えを表現すること
       自分の考えを人前で話したり、作文や小論文で文章化したりすることに苦手さを感じていることが分かりました。これは、自分の考えを表現する際に、「何を書いたらいいのか分からない」「どう話したらいいのか、言葉が浮かばない」「まとまりよく話せない」などの理由が考えられます。また、人前で話すこと自体に抵抗を感じているという理由も挙げられました。アンケート調査でも、「クラスの皆の前で話すことが苦手である」の質問項目で多くの生徒が、「はい」「どちらかというとはい」と回答していました。その一方で、「少人数グループの中では、自分の考えを話すことができる」という質問項目で、「はい」「どちらかというとはい」と答えた生徒は多く、話す対象の人数も関係していると考えられます。このことから、自己表現をすることの苦手さに対して、自分の考えを言葉として表現しやすくするための支援と人前で話すことへの抵抗を和らげていく支援の両面から考えていく必要があると考えます。
 
○ 課題遂行すること
       これは、課題を期限内に終わらせることに時間が掛かってしまうことや課題の出来栄えが気になりすぎることから、課題を遂行することの苦手さにつながっていることが考えられます。生徒が課題に対して、計画的に見通しをもって取り組むことができるような支援を行うことが必要であると考えます。
 
○ 授業での説明を聞いて覚えること
       どのような授業においても、教師の説明や指示があって、その説明や指示を聞いてから、生徒は活動に取り組みます。アンケート調査では、教師が説明するスピードが速かったり、内容が難しかったりするという理由から、耳から聞いた内容を理解したり覚えておいたりすることに苦手さを抱えていることが分かりました。このことから、生徒は、教師の説明や指示の内容の理解が不十分なまま活動に取り組んでいることが考えられます。また、教師に指示された通りの活動が進まない場合、生徒の学習意欲を低下させていることも考えられます。教師が説明や指示をするときには、生徒が説明や指示の内容を理解しやすい支援を行うことが必要だと考えます。
     
 
(イ)

意識調査の結果から考えられた教育職員の支援の実施に対する意識の実態

                                 (教育職員の支援に関する意識調査の考察)

 

生徒の学習に関する意識調査を実施した県内の高校2年生の支援にかかわる教育職員に対して、発達障害の特性を有する生徒への支援の実施状況と支援の実施に対する意識調査を行いました。その結果から、県内の高等学校の教育職員の支援の意識の現状として、次のような傾向があることが分かりました。

 集団の中で一斉に行える支援や準備を多く必要としない支援(「話をするときは、繰り返して話す」「見やすいチョークの色で板書する」「レーザーポインターや指示棒を利用して、黒板に注意を向けやすいようにする」など)は、実際の学校生活の中で、「現在実施している」支援であり、また、「今後実施できそうである」という実施への意識が高い支援である。
  一方、個別への対応や個別への準備を必要とする支援(「字を書いたり、計算したりするときに、マス目のあるノートや用紙を選択する」「目盛りが読み取りやすい定規を準備する」など)については、十分に実施できずにいる。
    これらのことから、高等学校において生徒の誰もが学びやすい学習環境づくりを行うためには、集団の中で一斉に行える支援や準備を多く必要としない支援といった、教師が行いやすいと考えられる支援を中心にして学習場面に取り入れていくという視点も必要だと考えます。
   
  ウ  高等学校における授業づくりの考え方
   

高等学校学習指導要領解説総則編において、「各教科・科目等の指導に当たっては、生徒が学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりする活動を計画的に取り入れるようにすることが必要である」とあり、具体的には、例えば、授業の冒頭に当該授業での学習の見通しを生徒に理解させたり、授業の最後に生徒が当該授業で学習した内容を振り返る機会を設けたりするといった取組の充実等が挙げられています。そして、その効果について、「生徒の学習意欲が向上するとともに、生徒が学習している事項について、事前に見通しを立てたり、事後に振り返ったりすることで学習内容の確実な定着が図られ、思考力・判断力・表現力等の育成にも資するものと考える」と示されており、授業における見通しを立てたり、振り返ったりする学習活動が重視されていると考えられます。

       
     
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