他者に対する広い心を育てる道徳の時間を提案します。

2 研究の実際
 
(2) 本研究における道徳の授業の考え方
 @ 複数時間扱いの学習指導を取り入れた授業の考え方
 
  複数時間扱いの学習指導の計画を作成するに当たって、各時間で取り上げる内容項目については、相互の関連が重要であると考えました。相互の関連の視点として、道徳の時間の目標に基づき、道徳的価値の自覚を深める観点から授業計画を考えました。道徳的価値の自覚については、中学校学習指導要領解説道徳編において、次の3つの事柄が押さえておくこととして示されています。
 〈道徳的価値の自覚について〉
一つは、道徳的価値についての理解である。道徳的価値が人間らしさを表わすものであるため、同時に人間理解や他者理解を深めていくようにする。
二つは、自分とのかかわりで道徳的価値がとらえられることである。そのことにあわせて自己理解を深めていくようにする。
三つは、道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題が培われることである。その中で自己や社会の未来に夢や希望がもてるようにする。
                                                                                       (引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.31)
  本研究においては、他者に対する広い心を育てるために、複数時間扱いの学習指導を取り入れた3時間の授業を行っていくこととしました。生徒の道徳的価値の自覚を深めさせるために、道徳的価値の自覚について押さえておく必要がある3つの事柄を各時間の主眼としました(図1)。
 

図1 本研究における複数時間扱いの学習指導を取り入れた授業のイメージ

 本研究の計画においては、道徳の時間の目標に基づき、道徳的価値の自覚の3つの事柄を主眼とした授業計画を考えました。
  第1次では、道徳的価値について理解をさせるために、生徒が人間理解や他者理解について、体験的活動を通して、感じたり、考えたりする場面を授業に取り入れました。人それぞれの違いを捉えやすい資料を扱うことで、いろいろなものの見方や考え方に違いがあることを互いに認めようとする態度を育てたいと考えました。
  第2次では、自分との関わりで道徳的価値を捉えさせるために、道徳的価値を自分の問題として捉えさせる場面を授業に取り入れました。生徒にとって日常生活に近い場面での個性や立場の対立を描いた資料を扱うことで、生徒自らの問題として捉えさせ、相手の立場や考えを認めようとする態度を育てたいと考えました。
  第3次では、道徳的価値を自分なりに発展させていくことへの思いや課題を培わせるために、現在の自分自身を知る場面を授業に取り入れました。実在する有名人の生き方に触れることで、生徒が自分を見つめて自分の見方や考え方を広め、相手の立場や考えを尊重しようとする態度を育てたいと考えました。
  これら3時間の授業を行うことにより、他者に対する広い心を育みたいと考えました。
 
 A 1年生の2学期に行う理由
 

中学1年生について、「中学1年生の心理」で落合は「三月下旬の小学校の卒業式から四月上旬の中学校の入学式までのわずか半月くらいで、子どもから大人へ変わることを経験するのが、中学1年生である」3)と述べています。 学校生活での大きな変化として、授業が50分になり、教科ごとに先生が代わることや、これまでの最上級生から最下級生に変わり、先輩や後輩の関係もはっきりしてくること、定期試験が行われることなどが挙げられています。このように、「中学1年生には、まさにその成り立ての1学期に、これまでに経験したことのない変化が、たてつづけに起きるのである」4)と述べており、中学1年生の1学期は環境に大きな変化があると考えます。
                                                                                                       【引用 3) 中学1年生の心理 p.13】
                                                                                                       【引用 4) 中学1年生の心理 p.14】

  また、中学校への入学における友達との関わりについては、次のように示されています。

中学校は通常、複数の小学校の卒業生により構成される。つまり、同級生の数は、小学校時代の複数倍に増えることになる。このような状況は、交友関係の劇的な変化を誘発しやすく、青年を新たな交友関係の構築へと一つの要因となる。これは、児童期的な友人関係から、青年期的な友人関係への再構築への契機ともなる。そして、遊びを中心とした関係である児童期的な友人関係から、人格的なつながりを重視した関係である青年期的な友人関係へと発達をとげていくのである。
                                                      (引用:中学1年生の心理 p.128)

このように中学1年生の1学期は中学校という環境の変化だけでなく、友人関係についても、遊びを中心とした関係から人格的なつながりを重視する関係へと変化が見られるようになります。さらに、身体的にも、精神的にも成長が著しいため、ものの見方や考え方に違いが表れてくると考えます。そのため、中学校の環境に慣れてくるにしたがって、ささいな事においても自分の考えや立場に固執し、自分とは異なるものの見方や考え方を受け入れきれずに友達との摩擦を引き起こし、友人関係で悩む生徒も少なくないと考えます。そこで、生徒同士の人間関係に変化が見られるようになる1年生の2学期に、他者に対する広い心を育てる授業を行うことが必要であると考えました。

 
 B 他者に対する広い心を育てる授業の工夫
  学習指導の工夫については、中学校学習指導要領解説道徳編では、道徳の時間がねらいの根底にある道徳的価値について、生徒が内面的な自覚を深めることの必要性が述べられています。そのための展開の工夫の1つとして、次のことが示されています。
  〈生徒が主体的に人間としての生き方を追求し、思考を深める工夫〉
  生徒が主体的に人間としての生き方を追求し、思考を深めるためには、生徒が道徳的価値を自分のこととしてとらえ、その価値とのかかわりで深く自己を見つめるようにすることが大切である。例えば二人一組の対話や小集団による話合い、自分の考えをまとめて書く活動などを取り入れ、授業形態に工夫を加え、生徒が生き生きと活動し主体的に考え、さらにその考えを深められるようにする場面を設定することが、道徳の時間の指導を高めることにつながる。

                                                   (引用:中学校学習指導要領解説道徳編 p.90)

  このように、生徒の道徳的価値を深めるためには、生徒同士の小集団による話合いや自分の考えをまとめて書く活動を取り入れることが効果的であると考えました。
 
ア 話合いについて

 

道徳の時間において、話合いを取り入れることは、 ねらいとする道徳的価値について、生徒が他の生徒の意見に触れ、自分の意見と比べる中で自らの考えを明確にしたり、広げたり、深めたりすることができる有効な手段であると考えます。

そこで、本研究においては、主な発問でグループでの話合いの場面を設定し、自分の意見を述べさせたり、他の生徒の考えに触れさせたりすることにより、自分の考えを広げ、深めさせます。

グループでの話合いを効果的に行うために次のことに配慮しました。

(ア) グループの人数を原則4人とする

     グループでの話合いは、自分の意見を述べるとともに、他の生徒の考えに触れ、自分の考えを深めることを目的

     としています。そのため、人数が少なすぎると多様な考えに触れることができず、多すぎると生徒自身の話合いへ

     の参加の意識が薄れると考え、グループの人数を4人としました。

(イ) グループの中での役割分担を固定化しない

     グループの中で役割については、3時間全てにおいて、司会係や発表係をそれぞれ違う生徒にすることを生徒に
        伝え、分担させました。いろいろな役割を経験することで、相手の立場に立って考えることにつながったり、グルー
        プでの話合いに自分のこととして取り組めたりすると考えました。

(ウ) グループで考えを1つにまとめずに、意見を交流させる
       他者に対する広い心を育てていくためには、いろいろなものの見方や考え方が存在することに思いを巡らせるこ
        とが大切であると考えます。そのために、一人一人の考えに違いがあることに気付き、互いの考えを尊重できるよ
        うにしたいと考え、グループで考えを1つにまとめずに、意見を出し合わせることにしました。自分の意見を出すとき
    には、理由を言わせることで自分の考えが明確になります。また、疑問に思ったことを質問させることで、他の生徒
    の考えをしっかり理解できるようにしました。

 
イ 書く活動について

道徳の時間において、書く活動を取り入れることは、生徒自身が考えを深めたり、整理したりする機会として、生徒が道徳的価値を深めるための重要な活動であると考えます。書く活動においては、自分の考えを書くことで、発表の有無に関わらず一人一人が授業に参加することができます。また自分の考えを書くために、自己と対話を行い、書いたものを見直すことで自分の考えを深めることができます。さらに、自分の考えをまとめたワークシートを基にグループで話し合うことができます。

そこで、主な発問の段階と終末に書く活動を取り入れました。特に深く考えさせたい主な発問においては、話合いの場面を設定し、他の生徒の考えを受け止めさせるために、ワークシートに他の生徒の考えを書かせました。他の生徒の考えを聞き、書くことにより、自分の考えとの違いが明らかになると考えました。そのために、ワークシートには自分の考えだけでなく、他の生徒の考えを書く欄を設けました。

 
 

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