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社会的な見方や考え方を深める社会科学習に取り組んでみよう!

3 研究のまとめ                                                     

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研究の考察
 本研究では、理論研究を基に13の授業実践を行い、児童生徒の社会的な見方や考え方を深める指導の在り方を探ってきました。その中で、小学校3年生の「学校のまわりはどんなようすだろう〜循誘公民館の利用者がふえるアイデアを考えよう〜」と中学校1年生地理分野の「身近な地域を調べよう〜綾部神社を世界文化遺産リストに推薦すべき?!〜」を中心に、研究の考察を行いました。
 この2つの実践は、学年は違いますが、地域学習という点で共通していることから、今年度、実践に取り組みました。さらに、どちらも地域の課題を解決するための意思決定型の学習を取り入れました。そこで、児童生徒の社会的な見方や考え方の深まりを見ていくために、発言や記述内容を基に、「立場」や「観点」の広がり、「社会全体」、「これからの社会像」などを踏まえた考えをもてるようになったかを検証しました。
@実践の考察
ア 小学校3年生の実践【B:問題発見型】
 
単元名 「学校のまわりはどんなようすだろう〜循誘公民館の利用者がふえるアイデアを考えよう〜」
                                                         (H21.6月実施)

本単元においては、循誘公民館の利用の実態や館長さんの願いを基に、利用者がふえるためのプランを作り、2つのプランに絞り込ませました。まず、利用者を増やし、地域の人々が仲良くなる町にするために、Aプラン「公民館祭りをする」とBプラン「サークル活動を増やす」のどちらがより効果的か意思決定をさせました。そして、意見交換前の意思決定1と意見交換後の意思決定2の理由を「立場」と「観点」から整理し、その変容から社会的な見方や考え方の深まりを見ていくことにしました。

【抽出児C児の変容 ※意思決定1も2もAプランを選択】

  

抽出児C児は立場が「みんな」から「家族」「友だち」と具体化し(波線部)、「きずな」という人と人のつながりという観点(二重線部)が付け加えられるなど、社会的な見方や考え方の深まりが見られました。
  これは、本時において、プランを選択させる前に「目指す社会像(目指す循誘の町)」を意識させたことで、プランが実現したときにどのような社会になるかを具体的に考えることにつながったためと考えます。

学級全体の変容を表した下のグラフからは、立場や観点について記述した児童が増え、児童の社会的な見方や考え方が深まっていることが分かります。また、半数の児童の記述の中には、「これから循誘の町が子どもからお年よりまでが仲良くなり笑顔で暮らせるようになるといいな」という願いや「これから自分も公民館の行事に参加してみたい」という意欲を感じさせるものが見られました。「目指す社会像」を意識させ、社会的な見方や考え方を深めていったことが、自分たちの住む域を見直したり地域にかかわっていこうとする意欲や態度をもたせたりすることにもつながっていったものと考えます。
          

イ 中学校1年生(地理的分野)の実践【B:問題発見型】

単元名 「身近な地域を調べよう〜綾部神社を世界文化遺産リストに推薦すべき?!〜」

(H21.9月実施)

本単元においては、町の人口減という問題に対して、「綾部神社を世界文化遺産リストに推薦すべきかどうか」について、意思決定させました。そして、意見交換前の意思決定1と意見交換後の意思決定2の理由を「相手の立場との比較や立場を踏まえた内容」と「社会全体やこれから(未来)について考えた内容」から整理し、その変容から社会的な見方や考え方の深まりを見ていくことにしました。

  【抽出児D児の変容 ※意思決定1も2も世界遺産リスト推薦に賛成を選択】     
   
 抽出児D児は、意見交換の内容を基に、「町がにぎやかになり楽しくなる」という町の人口の問題を意識した内容(波線部)に理由が深まっていました。また、「観光客が増えることで逆に傷つけられるのでは」という反対側の主張を踏まえて、他の世界遺産の事例を基に賛成する理由(二重線部)を付け加えることもできていました。
  これは、一つは前時の学習で学習課題に対するメリット・デメリットについて全員で意見を出し合い、共通理解できたこと、もう一つは本時の学習の中で反論・再反論の場面を経験したことが理由だと考えられます。

学級全体の変容を表した下のグラフからは、「相手の立場との比較や立場を踏まえた内容」と「社会全体やこれから(未来)について考えた内容」について記述した生徒が増えたことにより、社会的な見方や考え方が深まったことが分かります。特に、社会的な価値を意識させるという点においては、「社会全体やこれから(未来)について考えた内容」について記述した生徒の割合がより高くなったことを考えると、生徒が目指す社会像をとらえることができたと考えます。また、この単元は、新しい学習指導要領において、社会参画につなげる重要な内容として位置付けられています。そういった点からも、この学習の有効性が確かめられたと考えます。
           

A小学校と中学校の実践の比較
ア 単元づくりの面から
  小学校の実践では、児童にとって身近な公民館を取り上げ、他地区の公民館と比べさせながら人々が集まるためのプランを作成、検討させることで、今後の地域の在り方を考えさせています。それに対し、中学校の実践では、地元の神社の価値に気付かせ、世界遺産リストに推薦するべきかどうかを検討させることで、 今後の地域の在り方を考えさせています。
  つまり、「身近なところから地域を見つめさせた小学校」と「より広い視野から地域を見つめさせた中学校」との違いが見えてきます。広い視野から見つめさせれば、習得する知識や概念も増え、かかわる立場の人も社会的な価値も増えてくることが考えられます。

このように、 小学校と中学校で同じような内容を扱う場合においては、知識や概念の量や質が違うことを踏まえることが大切です。また、児童生徒の発達の段階を考えながら、どの視点から地域や社会を見つめさせるか、歴史学習でいえば、どの時点からその歴史的な事実を見つめさせるかということについても単元を構想する際に工夫していく必要があると考えます。 

イ 指導法の面から 
 今回の実践において、小学校3年生では「どちらのプランを優先すべきか」ということが、中学1年生では「すべきかどうか」 ということが意見交換の中心となりましたので、一概に比較することはできませんが、ワークシートを見ると違いが見えてきます。
  どちらも、児童生徒の思考を助けるような構成であることは共通していますが、書き始めや終わりの 書き方、結論と理由を書く場所をある程度児童に提示している小学校に対して、中学校では生徒の主体性を重視しています。
  新学習指導要領においても、言語活動の充実が述べられており、これから更に論理的な思考を促す場の設定やワークシートの工夫が大切になってきます。しかし、そのためには、小中7年間を見通した社会科の計画的な指導や学年や学級の実態に応じた細やかな手立てを行っていく必要 があると考えます。

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研究の成果
 平成20、21年度の2年間にわたり本研究に取り組んできました。
  1年次では、主に社会的な見方や考え方の理論について研究を進め、意思決定型の学習を取り入れた授業実践に取り組みました。その中での主な成果としては、児童生徒が社会的な価値を意識して、社会的事象の特色や事象間の関連を説明する姿が見られるようになったことです。
  2年次では1年次の理論研究を基に、授業実践を通して、児童生徒の発達の段階や単元の特徴を考慮した教材開発を行うとともに、資料活用や意見交換場面での指導法の研究を進め、その手順やポイントを提案することができました。これらの成果として以下のことが挙げられます。

 資料活用や意見交換の場面で、目指す社会の在り方を考えさせることによって、様々な立場や社会的な価値、自分とは違う考えをもつ人が大切にしていることなどを意識しながら、社会的事象を見たり自分の考えをもったりすることができるようになり、児童生徒の社会的な見方や考え方に深まりが見られるようになった
実践を通して、社会的な見方や考え方を深めるために有効な意思決定型の学習の指導過程を4つに分類し、その特徴についてまとめることができた。また、児童生徒の発達の段階や単元内容に応じた授業展開について整理し、単元の開 発を行うことができた。
実践を通して、社会的な見方や考え方を深めるために、論理的な思考を促したり自分の考えをもたせたりするためのワークシートの開発を行うことができた。
学習問題に対する児童生徒の考えや変容を見ていく際のポイントを整理できた。また、そのために意思決定型の学習を取り入れた単元構成や授業展開の有効性が明らかになった。
社会的な価値や目指す社会像を意識させたことによって、児童生徒は社会が抱えている問題を解決していく必要性を感じ、これからの社会の在り方や自分の社会へのかかわり方について考えるようになった。ま た、小学校から中学校までの7年間における社会科学習の意義を実感させることができた。
授業をする教師自身も、児童生徒が生き生きと学習に取り組む姿を見て、社会的な見方や考え方を深め させることが、学習意欲につながることを感じることができた。

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研究の課題と今後の展望
本研究においては、社会的な見方や考え方を深めさせるために、意思決定型の学習に取り組んできました。 しかし、児童生徒の生活とのかかわりが薄い単元や地形の特色の知識や技能の習得などに重きをおいた単元、歴史を取り扱う単元など、 取り組みにくい単元があることが明らかになりました。特に、歴史学習については、小学校と中学校で学習内容が重なる部分があるので、さらに研究を進めたいと考えます。
自分の考えをもてるようにするためには、それを支える根拠が大切です。そのためには、資料を読み取ったり整理したりしながら、自分の言葉で説明できる力を育成する指導の在り方を探っていく必要があると 考えます。社会科においても、言語活動の充実が求められています。社会的な見方や考え方の育成と 「言語活動」とをどうかかわらせて、授業の改善をしていくかについても研究を進めたいと考えます。
新学習指導要領の改訂によって、新たに取り上げられたり改善を図られたりした学習内容があるので、 そういった内容についての単元開発を進めたいと考えます。
小中7年間を通して身に付けさせたい「社会的な見方や考え方」を明確にし、その系統性を明らかにする 必要があると考えます。それによって、評価の在り方がより明確になっていくと考えます。
本研究の大きな特徴として、小学校と中学校が一緒に研究に取り組んだことが挙げられます。児童生徒の実態やそれぞれの学習内容、社会科学習指導についての考え方などを知ることができ、意見交換を行ったこと自体が大きな成果ともいえます。これからは、更に小中の連携を密にして、7年間を見据えた社会科教育の在り方について考えていく必要性を感じました。

 

(4)

引用文献・参考文献
<引用文献>
 
・小原 友行 「社会科における意思決定」社会認識教育学会編『社会科教育学ハンドブック』 2008年 明治図書 p.170
<参考文献>
 
・岩田 一彦
・松尾 正幸/佐長 健司編著
・佐長 健司






・原田 智仁  

・佐賀県中学校教育研究会
  社会科部会  
『社会科固有の授業理論』 2001年 明治図書
『ディベートによる社会科の授業づくり』 1995年 明治図書
「社会科授業における価値判断指導の検討」全国社会科教育 学会『社会科研究』 第65号 2006年11月
「社会科討論授業のための学習指導案の内容と作成方法」社会 系教科教育学会編『社会系教科教育学研究』 第11号 1999年
「政治的市民の育成を目的とする社会科の授業構成―中等後期 単元『論争問題としての憲法』の場合―」『佐賀大学文化教育学部 研究論文集』 第9号 第1号 2004年
『社会科教育へのアプローチ』 2002年 現代教育社 
『平成19年度佐賀県中学校社会科研究会研究会報<第40号>』  

 


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最終更新日: 2010-03-09