低学年の子どもに生活・学習習慣を指導するポイント もくじのページに戻る
 アンケート調査の結果やこれまでの実践を整理し,生活・学習習慣を身に付けさせていくための指導のポイントをまとめてみました。
ポイント その1   遊びの要素を取り入れよう
ポイント その2   指示は視覚化し分かりやすくしよう
ポイント その3   形から入る指導も大切
ポイント その4   繰り返しを徹底してみよう
ポイント その5   教師との1対1の関係が大切
ポイント その6   保護者との信頼関係が大切

 ポイント その1 遊びの要素を取り入れよう 上へ戻る 
 なぜ 遊びなの?
 遊びは,幼児期の子どもにとって,心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であると言われています。

 
 遊びを取り入れることによって,子どもたちを「楽しい」「快い」という気持ちにさせながら生活・学習習慣を育成するための活動を行うことができます。学習集団としても和む雰囲気が出てきます。


 先生や友達との遊びの要素を取り入れた活動を通して,心と体の緊張をほぐしたり,安定した情緒を育成したりすることができます。
 どんな場面でやったらいいの
 学校生活の一日の始めや終わりの時間(朝の会や帰りの会)など,友達や先生と一緒に心を合わせる場面で行いましょう。リズミカルなあいさつの歌や「合い言葉」に合わせて行う活動があります。


 授業の導入段階で童謡や手遊びなどの「歌」から始め,その歌に関連した学習内容へ入る方法があります。また,活動の合間に集中させたい場面で,手遊び歌やリズム打ちを使って聞くときの構えに導くことができます。


 言葉遊びを用いて,休み時間のトイレの使い方や廊下の歩き方,次の時間の道具準備を習慣付ける方法があります。


例: 登校後の過ごし方の合い言葉
@よし,(道具を入れる)
Aよし,(連絡帳を出す)
Bよし,(宿題を出す)
Cよし,(ランドセルを棚に入れる)   ゴー!」
 一言アドバイス
 子どもたちの遊びを,生活のあらゆる場面で取り入れる可能性は十分にあります。遊びの要素を工夫して取り入れ,目的とする行い(生活・学習習慣の育成)や学習場面へと導くようにしましょう。 

 ポイント その2 指示は視覚化し分かりやすくしよう 上へ戻る 
 なぜ視覚化?
 低学年期の子どもは,「情報が入る箱が1つしかない」と言われるように,一度に 複数の情報を処理することができません。たくさんの指示を出してもすべての指示を理解できなかったり,すぐに忘れてしまったりすることがよくあります。その結果,たくさんの指示を出しても1つの指示しかできなかったという具合になりがちです。


   
 その上,内容が複雑になると,言葉のみの指示や説明では理解できません。複雑な内容は,写真や絵を提示したり実演をして見せたりし,視覚的にとらえやすいようにしていくことが大切です。また,作業の手順や活動の流れを指示するときなどは,作業の途中で次の手順を忘れたときにも分かるように,図示しておくことが必要です。


 どんな場面でやったらいいの?  
 子どもが親しみをもてるようなキャラクターを作り,提示することで注目させたり話の内容に見通しをもたせたりすることができます。右のキャラクターは,実践例「整理整とん」の指導で使われている「スッキリン隊長」です。


   登校後の道具の片付け方や次の授業の学習道具の準備の仕方など手順を理解させたり,毎日行わせたい行為について説明をしたりする場面では,写真や図の使用が有効です。例えば,左の図を提示し「これと同じように次の時間の準備をしましょう」と指示をすれは,子どもは,図をまねして,準備をすることができます。定着の様子を見ながら,しばらくの間,毎時間の終わりにこの図を黒板に提示しておくとよいでしょう。
<実践例1「整理整とん」に登場するキャラクター「スッキリン隊長」>
 一言アドバイス
 指示や説明をするときは,「今から2つお話しします」などと最初に伝え,見通しをもたせて聞かせるようにしましょう。指示や説明の内容を整理し,簡潔にまとめて話すことを心掛けるようにしましょう。


 視覚的な刺激は子どもに入りやすい分,多すぎると集中できない状況を作ってしまい,指示が通らなくなります。集中させたい場面では,刺激が少ない環境を整えることが必要です。

 ポイント その3 形から入る指導も大切 上へ戻る 
 なぜ,形なの?
 低学年の子どもにとって「○○なときには〜だから,このようにするのですよ」という理屈から入った指導は,必ずしも有効ではない場合があります。この時期の児童は,物事の因果関係自体,まだ理解が難しい発達段階です。言葉では分かったつもりでも,行動がついていかない場合が往々にしてあるからです。そのような場合,“形から入る指導”を考えてみてはどうでしょうか。まずその行為を覚えさせることを念頭におきます。理屈は抜きにして,「○○のときは〜するのですよ」という行為自体を先に教えるのです。もちろん,どうしてそのことが必要なのかを教えることも大切ですが,そこに支援のエネルギーを注ぐのではなく,形を教えることを中心に考えるのです。


 “形から入る指導”とは,子どもたちに強制的に教え込む,という意味ではありません。子どものために“枠組みを作る”という意味です。学校生活のいろいろな場面で生活・学習習慣を身に付けていく必要のある子どもたちにとって,こちらで枠組みをすることは,理解のしやすさにつながり望ましい行動を学びやすくなることにつながると言えます。


 どんな場面でやったらいいの?
 4月当初なるべく早い時期に取り組む方がよいと思われます。まず,望ましい行為の見本を教師がします(モデリング)。そのモデルと同じようにすることが自分のためになり,みんなのためになることを示した後,練習させます。うまくできたらほめてやり,みんなでやろうという意識付けをします。


 授業の始まりの場面で,「日直のお友達の『気を付け』の合図があったらみんなで『はい』と声を合わせながら,手を体の横にピシッと付けます。これが気を付けの姿勢です」と教えます。
 また,「机の引き出しは右と左の部屋に分けます。一方の部屋は置いておく道具(はさみ,色鉛筆,のり など)を入れ,もう一方の部屋には持って帰る物(教科書,ノート,筆箱など)を入れます。帰るときには,持って帰る物を入れる部屋の底が見えるようにしないといけません」と使い方を説明する場面があります。
 毎日の活動に応じて実行すると同時に,例えば,「気を付けの仕方」「引き出しの中身」などを教室掲示で示し,いつも意識できるようにします。 <引き出しの使い方説明図>
 一言アドバイス
 その行為を定着させるためには,一貫した指導が必要です。やったり,やらなかったりでは,定着しません。

 ポイント その4 繰り返しを徹底してみよう 上へ戻る 
 なぜ,繰り返しなの?
 低学年の子どもたちにとって,“繰り返し”の指導は,とても大切であると考えられます。子どもたちの生活自体が,日々の繰り返しという特徴があるからです。何のためにするのかが,必ずしも明確になっていないにしても,とにかくその場ではそういうふうにするのだということを,繰り返し行動させることが,習慣化への糸口になります。


 子どもたちは,学習したことをすぐにそのまま身に付けることはできません。一歩ずつ,階段を上るようにして身に付けていきます。初めて知ったこと,従来はできなかったことを身に付けていくわけですから,繰り返し経験することが大切です。そのうえで,どうしてそうすることが必要なのかを理解し,理由と行為とが結び付いたときに定着していくものと思われます。
 どんな場面でやったらいいの?
 「このような場面では,○○のようにする」と最初にクラスで決めたら,あらゆる場面で同じように取り組みます。例えば,「話の聞き方」であれば,授業中,朝の会,帰りの会,集会・・・など話を聞く場面では同じように取り組む必要があります。


 「○○週間」という取り組みを学級活動で話し合って,指導項目の重点化を図る方法があります。


 本読みカードや「よいこのくらし」など毎日自分で行う自己評価カードについて,教師と本人と保護者で取り組む意義を確認し,約束を決めて取り組む方法もあります。


 一言アドバイス
 ある程度習慣化が見られるまでは,繰り返してその行為を奨励しますが,パターン化で飽きてしまわないように,バージョンアップを図ったりレベルを上げたりして工夫をしましょう。
例: 引き出しの整とんから「引き出しコンテストをしよう」
忘れ物チェックカードから「忘れ物ゼロ大作戦」など


 子どもたちの行為が定着していく大きな要素に,教師からのフィードバックがありますが,児童のとった行為についての適切なフィードバックが,子どもたちの意欲へとつながり,確実な定着へと向かうと思われます。
「自分で」「自分から」を促す教師の言葉掛け

 ポイント その5 教師との1対1の関係が大切  上へ戻る 
 なぜ,1対1なの?
 低学年の子どもは,学校生活の中で一番多く接する学級担任との関係において,安定した情緒の基で自己を十分に発揮しようとします。教師との1対1という絶大な信頼関係の基に,快適な学校生活を営むことが求められます。また,低学年の子どもは,学校生活において人への信頼感と自己の主体性を形成することが発達上の課題とされています。自分の行動を一番に認めて努力を評価してくれる大人は,学校生活においてはやはり教師です。教師との相互関係をもつことにより,一層発達が促されます。


 「先生は,○○と思ったよ」など先生自身が自分のI(アイ)メッセージとして,子どもたちに自分の言葉で考えや思いを伝えることが信頼関係を築くうえでも重要です。
 どんな場面でやったらいいの?
 連絡ノートを書くときに,その子どもに愛情やユーモアのあるメッセージをできるだけたくさん書いていくようにしましょう。家の人が「これ,先生の何のマーク?」など子どもに聞き返すことを仕組んでいき,子どもと教師との信頼関係があることを保護者にも理解していただきましょう。


 教室を出て帰るときに,子どもたちは一列に並んで先生と「ハイタッチ」や「握手」などをして,1対1で触れ合う機会をできるだけ多く作りましょう。

 
 子どもの正面にいつも立つばかりではなく,横に並んで同じ目の高さで話をしたり,声を掛けたりすることで子どもに安心感を与えることができます。


 「元気のいい声がよく返ってくる,○○さんですね」とその子の名前とよさや長所を合わせた言い方で,授業中や休み時間などを過ごしてみましょう。


 帰りの会などで,「先生のとっておきの話」という題名でスピーチを行い,教師の趣味や特技など普段と違った内容の話や体験話を子どもたちに語ってみましょう。


<タンバリンでハイタッチ>
 日記指導は,一人一人の子どもとのコミュニケーションを図るよい機会です。コメントを通して,その子を励ましたり誉めたりしましょう。また,担任オリジナルのマークやちょっとしたシールを添えてやることも良いでしょう。
 一言アドバイス
 単なるほめ言葉で終わるより,I(アイ)メッセージとして伝えてほめましょう。

 ポイント その6 保護者との信頼関係が大切
 なぜ,保護者なの?
 生活・学習習慣の育成にかかわる子どもの行いは,家庭生活とも密着しており,行いに関する目的と保護者の役割について理解と協力が重要になります。


 保護者からの苦情や要望に対して,「誠実さ」と対応する「スピード」の速さは信頼度を高めます。苦情や要望も学級や子どものためと考えて割り切り,経験を積ませてもらっていると考え,プラス思考で対応することが大切です。
 どんな場面でやったらいいの?
 連絡帳などで毎日の子どもの様子を伝えたり,生活面での協力をお願いしたりしたいとき,できるだけ多く子どものよさを伝えましょう。


 連絡帳での対応は,以下のような3点で実践しましょう。


@  まず,お礼を書く。
A  苦情や要望の内容によっては,直接お会いして話したいと書く。
B  学校生活で頑張っていることや友達関係で気遣っていることなど,その子のよさを具体的に書く。


 保護者から苦情や要望があったとき,困っているのは子どもなのか,あるいは保護者であるのかを判断し,苦情や要望の内容を整理し,問題を受け止めながら承認するよう努めましょう。


 我が子に対して無関心な保護者への対応として,悪いことがあったときだけに限らず,日ごろからよいこともできるだけ多く伝え,何気ない会話からその子どものよさが分かったことやその日の様子などを連絡帳や電話で伝えることを心掛けましょう。


 参観日を利用して家庭での実践につながるような内容(食育,歯磨き,読書推進など)を授業で取り上げ,保護者の理解と協力を呼び掛けましょう。


 学級通信や学年便りなどで,学級全体の様子と一人一人の子どもの様子が具体的に分かる内容や指導の方針などを分かりやすく伝える工夫をしてみましょう。


 一言アドバイス
 担任は学級集団から一人一人の子どもを見ますが,保護者は我が子から学級集団を見るという方向性の違いがあることを踏まえ,相手の立場を理解し,こちらの立場も理解してもらえるように努めましょう

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