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理論編

楽しみながらできる音読の工夫


 生徒に基本語彙や構文を定着させるための方法として,授業の中に生徒を飽きさせないバリエーションのある音読活動を取り入れることを考えた。
 國弘正雄は「中学・高校の教科書の英文は必須事項が網羅されており,音読において最高の教材である。英文を覚えてしまうくらいまで繰り返し音読すれば高度な技術を展開する土台になる」と述べ,音読を通じて英語のルールを体に覚え込ませ,内在化させることで使える技能に変わることを提唱している。國弘氏の提唱する学習法で英語を習得した方は多いように聞く。
 しかし,確かな英語学習の動機をもった人には効果があっても,平均的な高校生に,ただひたすら繰り返し英文を音読して英文を覚えなさいと指示しても,単調な活動の繰り返しに退屈し,効果は上がらないだろう。そこで,次のような生徒が楽しみながら,退屈せずに取り組めるバリエーションのある音読活動について検討した。

様々な音読活動
音読 ねらい
Chorus Reading 教師の模範音読により音の確認をしながら読む。一人で読まされることに抵抗感をもつ生徒でも,皆でやるので引っ張られて読むようになる。
Buzz Reading それぞれのペースで練習し自分の読めないところを把握することができる。また,自分なりの読み方を工夫することもできる。
Backward Reading 例えば,This shop is closed on Sundays.という文であれば、@on Sundays/Ais closed on Sundays/BThis shop is closed on Sundays.のように,テキストは見ないで教師に続けてリピートする。語尾の語句は何回も繰り返すので最後まできちんと言えるようになる。
Slash Reading 発話の単位は意味的にまとまりのある単語のひとかたまり(チャンク)である。英語を使えるようになるためには,頻度の高いフレーズをチャンクとして蓄積することが大切である。このために意味のひとかたまりをスラッシュで区切り,チャンクを意識して読ませる。
Interpreter Reading 教師が日本語の意味のかたまりを言い,生徒は該当する箇所の英語を読む。本文を見てもいいが,見ないで言えた場合,自分が通訳者になったような気持ちや実際にコミュニケーション活動をしているような感覚になり,意欲や学習効果を高めることが期待される。ペアで取り組ませることもできる。
Read & Look up 教師の「Read」の指示で,スラッシュの区切りまで黙読し,「Look up」の指示で顔を上げて声に出す。短期記憶にとどめたものを口に出すことで定着度を高めることができる。全体で行うことも,個人のペースで行うことも,また,ペアで行うこともできる。
音読筆写 音読しながら,ノートに書き写す活動である。視覚,聴覚,手の感覚,英語を声に出す際の口の筋肉の動きなど,身体の感覚を総動員して英文を身体に覚え込ませ定着を高めることができる。
Look up & Write Read & Look upのライティング版であるとともに音読筆写の発展型でもある。スラッシュで区切られたところまで黙読し,本文を見ないで,口頭で言いながらノートに書く活動。チャンクを意識させ,1語1語書き写すことから脱却させることができる。音読活動に書く活動を結び付けるものとしても最適である。
Shadowing CDから聞こえた音声を少し(0.5秒程度)遅れて,なぞるように追い掛けて再生する。集中力が必要であり,リスニングとスピーキング両方を伸ばすことができる。ペアで行えば,雑音の中で相手の英語を聞かなければならないので更なる集中力が必要となる。また,読み手側はCDのように相手にはっきりと分かるように大きく明瞭に英文を読む必要がある。
Reading with Expression 十分に内容理解し,音読に熟達したときに取り組める読み方。声の大きさ,速さ,イントネーション,音の明瞭さなどに注意して聞き手を意識して読むProductiveな読み方である。
音読活動では左に英語(意味のまとまりごとにスラッシュを入れたもの),右に対象部分の日本語を書いたワークシートを用いると効果的である。


Story Reproductionのよさ


 音読により取り入れた語彙,文法,構文などの知識は,実際に使用することにより,使える知識としての定着が高まると思われる。また,英文を書く機会が少なすぎるという点を解消するためにも,本研究ではStory Reproductionを取り入れてみた。
 Story Reproductionとは,教科書で読んだ英文の概要や要点を教科書やノートを見ないで自分の英語で再生させる活動で,口頭で行う場合と書いて行う場合がある。Story Reproductionは基本事項を定着させるためばかりではなく,書くべき内容を自分の判断で取捨選択し,既習事項等の自分のもつ英語力を総動員して書いていくことになるので,格好のライティングの練習になると考える。国公立大学の2次試験等において,長文を読み英語で要約する問題が出題される場合もあるが,Story Reproductionを普段の授業に取り入れることにより,そのような問題にも十分対応する力を付けることができるであろう。
 生徒にStory Reproductionに抵抗なく取り組ませるためには,
@十分な本文の内容理解と音読練習を行うこと 
A的確なヒントを提示すること
の2点に留意しなければならない。Aについては,安心して活動に取り組ませるためのヒントの提示方法として,4コマ程度のコマ絵を見せて,それぞれの場面について英語で表現させる方法,キーワードをヒントとして与える方法,英問英答を行い,その答をつなげていく等のやり方が考えられる。今回は,汎用性という点を考え,キーワードを与えてのStory Reproductionに取り組むことにした。キーワードは品詞別に並べることも考えたが,生徒がストーリーの流れを思い出しやすいようにするために,名詞と動詞を中心に本文に出てくる順番に並べた。提示するキーワードの数はそれぞれの学校の生徒の実態に応じて決めることができる。また,生徒に指示する際,ワークシートのキーワードを参考にして,自分が読んだ英文がどんな話だったのか友人に英語で伝えることを想定して書くように指示した。
 また,自由英作文を定期的に課す際はトピック選びが大変であるが,Story Reproductionは教科書で読んだ英文の概要や要点を書く活動なので,書くべき事柄が明確であり取り組みやすい。


1つのパートに1.5時間かけることの意義

 本研究では,教科書の1パートを終わるために1.5時間をかけた。高校における英語の授業では,“One Part One Hour”という言葉もあるように,1時間の授業で1つのパートを終わるのが平均的なものである。しかし,このスピードで授業を進めるとすれば,文法,構文,内容理解など教師側からの説明が中心となり,生徒側の活動する時間はごく限られたものとなる。その結果,多くの生徒にとっては習得すべき内容が,十分に定着していない段階で,新たな内容が提示され,生徒は消化不良をおこしている場合が多いように感じる。
 1つのパートを指導するのに1.5時間費やすことのメリットは,内容理解の後に,読んだり,書いたりするための十分な生徒の活動時間を確保できることである。十分な活動時間を確保することが,学習事項の定着を高め,基礎学力の向上につながると考える。
 また,授業中に何度も音読したり,概要を書く活動を行うことにより,更なる内容理解を深めたり,語句や構文等の定着度を高めたりすることができるので,全パート終了後の内容理解や文法事項の復習などにはそれほど時間をかけずにすむと考える。
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