中学校第2学年の実践 筆者の論理の展開をとらえて吟味する
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単元名 筆者の書き方を評価しよう |
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教材名 |
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考えるイルカ |
出 典 |
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『「新しい国語 2』 東京書籍 |
筆 者 |
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村山 司 |
補助教材 |
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渡辺 実 「人間は言葉を使う」
(「人間とチンパンジー 2」昭和58年度 小学校3年上教科書 光村図書) |
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西田 利貞 「チンパンジーと道具」
(「人間とチンパンジー 1」昭和58年度 小学校3年上教科書 光村図書) |
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文章の内容だけでなく,内容を支える書き方にも注目し,評価の視点をもって読ませることを目指します。様々な言語活動を取り入れ,筆者の論理の展開を確かにとらえながら吟味させたいと考えました。 |
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単元観 |
(1)生徒の実態 |
(2)教材の特性 |
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説明的文章に対する学習意欲が十分でなかったり,内容の正確な理解や構成の把握が困難であったりする生徒が多い。 |
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発表,話し合い,まとまった長さの文章を書くことへの抵抗がある。 |
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難語句に対する抵抗が強く,それが文章を読み進める際の障害となりやすい。 |
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文章の内容を理解することが学習のゴールであるという意識があり,読んだ文章を吟味せずに受け入れる傾向がある。 |
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イルカについての常識と,賢さについての常識とを覆す筆者の意見が述べられていて生徒の興味を引く。 |
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訓練や実験の様子を順序よく説明するなど,書き方の工夫が見られる。事実(訓練,実験)と意見(実験等についての考察)とが段落分けされ,文末表現もはっきりと分かれているため読み分けやすい。 |
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結論をすぐには出さず,常識とされていることと合致する内容から書き始め,文章後半でその常識を覆すなど,読者を引き付ける工夫が見られる。 |
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長い文章の幾つかの部分を抜粋して再構成したものであるためか,説明が十分でなかったり,構成が不自然だったりするという“破れ目”がある。それにより生じた分かりにくさについて考えさせることで,文章のすべては受け入れられないという生徒の反応が期待できる。 |
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筆者の強い主張,強い個性が表れていて,生徒の興味を引く。個性の強さゆえに共感ばかりではない生徒の反応が期待できる。 |
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(3) 主な「言語活動」とその指導 |
動作化 |
イルカのトレーナーの役や筆者の役になりながら,実験を再現したり説明したりすることによって,文章に立ち返らせ内容を正確にとらえさせる。
実験の様子を動作化するためには,文章の中の接続詞や指示語に注意しながら,実験の手順を正確に読み取る必要がある。文字の上だけで理解させるよりも,実際に動作をしてみることによって,内容の理解も確かになり,正確に理解するための手掛かりとなった文章の書き方にも注目させることができる。
また,言葉だけでうまく説明できる力を付けていくことは必要だが,この単元では,筆者の書き方を確かめることが主眼であることから,動作化が有効であると考える。 |
カード操作 |
・ 導入段階で“イルカは賢い動物か”について,一般常識を話し合わせる場面
・ 訓練と実験の様子を再現する場面
の2つで,カードを使いながら話し合いを行う。
カードを使うことで,
@ |
話し合いが具体的になり,イルカについてイメージしたり,訓練・実験の様子を再現したりしやすくなり,自分の考えや文章の内容を確かめさせることができる。 |
A |
カードを動かすために,文章をよく読んだり,自分の考えを話したりする必要性をもたせることができる。 |
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図式化 |
文章を図式化することにより,文章の構造,筆者の論理の展開を視覚的にとらえさせる。
本教材は,冒頭の問題提起と,文章末尾付近に書かれた結論に挟まれる形で,実験の様子,実験の結果,及びそれについての考察が配置されている。読者を結論に導いていくために,筆者はどのように実験結果を活用し,分析していったかを,図式化することによって俯瞰(ふかん)することができる。文章の長さに抵抗感があり,広い範囲から言葉を拾えない学習者にも全体を把握することが容易になると考える。 |
短文作り |
内容理解の際に核となる語句に注目させ,内容理解と同時に語句の理解を図った。学習者の身近な事例を使って短文作りをさせることで,より確かな理解を目指した。 |
比べ読み |
筆者の論理がどのように展開したか(実験結果をどのように使おうとしたか,どのように結論に結び付けていったか)を確かめるために,似たような実験結果を使いながらも違う結論を述べている文章と比較させる。このことによって実験結果の分析,推論に注目させることができ,実験結果から立論への流れを吟味する視点をもたせる。 |
サブタイトルを付ける |
初読後と単元の過程の数箇所とで,内容を端的に表すようなサブタイトルを一文の形で考えさせてワークシートに書かせる。
内容を1文の形でまとめることは一種の要約をすることでもある。生徒に自分のサブタイトルの変化を意識させることによって,学習の深まりを自覚させたい。また,どのようなサブタイトルを付けたかによって教師は生徒の内容の理解の度合いを把握することができる。 |
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指導目標 |
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筆者の表現意図を考えながら論理の展開の仕方を吟味させる。 |
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評価規準 |
国語への関心・意欲・態度 |
ア |
説明的文章を読むことへの意欲をもち,論理の展開の仕方を考えながら文章を読んだり,評価するために読んだりしようとしている。 |
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読む能力 |
イ |
論理の展開の仕方をとらえてその良さを見付けている。【C 読むこと イ】
☆ 今回学習する“論理の展開の仕方の良さ”とは,
@ 判断や結論に根拠がある。
A 考えの筋道に飛躍や無理がない。
・ 順序よく説明されている。
・ 根拠から推論,更に結論への筋道に無理がない。 |
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言語についての知識・理解・技能 |
ウ |
抽象的な概念を表す語句について理解し,論理の展開に必要な語句についての考えを深めている。【言語事項(1) ウ】 |
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単元計画(全6時間) |
時 |
主な言語活動 |
主 な 学 習 活 動 |
1 |
カード操作
サブタイトル |
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イルカについて知っていることを発表する。 |
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これまでの説明的文章の学習を振り返る。 |
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全文を通読し,初読の感想を発表しあい,学習の見通しをもつ。
【学習計画ワークシート】。 |
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← 題名から内容を予想し,イルカや「賢さ」について考える。 |
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2 |
動作化
図式化
短文作り |
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訓練・実験の様子について,文章を振り返りながら再現する。 |
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「三段論法」等の語句を理解する。【ワークシート】 |
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@ 訓練・実験の様子を読み取る。
A 訓練や実験の中での語句の意味を考える。 |
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3 |
図式化 |
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筆者がなぜこのような実験をしたのか考える。 |
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実験の結果はどのような意味をもつのかについて筆者の考えをとらえる。
【ワークシート】 |
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4 |
比べ読み |
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補助教材@「人間は言葉を使う」を読み,あらましを考える。 |
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結論部分を補助教材と同じように差し替えることの是非を考える。 |
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5 |
比べ読み
サブタイトル |
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違う意見を筆者が述べるとするなら,論理の展開がどう変化するかを考える。 |
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筆者の論理の展開を吟味する。
* 書き方の評価についての生徒の主な意見 |
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学習のまとめをし,国語学習の三要素を意識する。
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6 |
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単元周辺の計画 |
教材の内容に関して |
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学級文庫 |
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関連図書を学級文庫に配置。 |
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図書コーナー |
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司書教諭と連携して,学校図書館に関連図書のコーナーを設ける。 |
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本の紹介 |
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関連図書の紹介を行う。(教師や生徒によるブックトーク,本の紹介の掲示)
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【* 関連図書の例】
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単元 情報を読み取ろう
「脳のはたらきを目で見てみよう」 川島 隆太
◎ |
文章の展開に即して内容をとらえさせる。 |
◎ |
事実と意見を読み分けさせる。 |
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言語活動に関連して |
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カード操作 |
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「脳のはたらきを目で見てみよう」 |
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「小さな労働者」 |
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写真を利用したカードを使って,本文の該当する箇所との関連をとらえさせる。 |
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図式化 |
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「ハチドリの不思議」 |
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文や段落の関係を構成図やフローチャートにさせる。 |
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サブタイトルを付ける |
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「小さな労働者」 |
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写真に文章を添えたフォトストーリーにタイトルを付けさせる。 |
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小学校教材等を使用し,文章全体を表すようなサブタイトルを一文で付けさせる。 |
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単元 構成をとらえよう
「ハチドリの不思議」 日 敏隆
◎ |
事実と筆者の考えとを読み分けさせる。 |
◎ |
文章の展開を確かめながら,主題を考えさせる。 |
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単元 筆者の書き方を評価しよう
「考えるイルカ」 村山 司
◎ |
文章の展開,構成を確かめながら,筆者の主張を読み取らせる。 |
◎ |
筆者の書き方の工夫を評価させる。 |
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単元 情報を見極めよう
「メディアを学ぶ」 菅谷 明子
「テレビ映像の本質」 松田 士朗
◎ |
文章の構成や展開,説明や描写などの表現の仕方や,文体など文章の特徴に注意して読ませる。
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◎ |
文章の論理の展開の仕方をとらえ,内容の理解や自分の表現に役立てさせる。 |
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授業を終えて |
“実験の様子が分からない”“なぜこんな実験をしたのか分からない”という感想が初読の段階では多かったのですが,カード操作や図式化などの学習活動を通して,それらの課題を解決させることができました。学習後の生徒の感想には,課題を解決できたという満足感を述べているものが多く見られました。
本単元の学習目標である「筆者の文章の書き方を評価する」は,生徒にとって初めての視点でした。「難しい」「分からない」と感じた課題を解決しつつ,解決するために図式化したものを使うなどして,「なぜ難しいと感じるのか」「なぜ分かりにくいのか」というところへ踏み込んでいくことができ,評価の視点をもたせることができました。
評価する力を高めていくためには,評価の視点をもつ読み方を度々行わせていくことが大切であると感じました。また,内容を理解させるだけではなく,表現に目を向けた学習をさせる時間を十分に取っていく必要性も,改めて考えさせられました。
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