個人面接による実践
 佐賀県教育センターでは,不登校等の相談に来所する児童生徒とコミュニケーションをとるために多様な方法を取り入れています。そのケースの中から,家庭訪問や学校の相談室などで,専門的な知識をもたない担任等が実施できるような,構えのない関係を築くためのアプローチ法を検討しました。
高校生 A子 女子
面接の経過    A子について
1回目(6月上旬) 四輪車に乗るなど体を動かす。
2回目(6月下旬) ゲームなど一緒にする。
3回目(7月中旬) 質問じゃんけん,ゲーム
4回目(9月中旬) 自己紹介カード,会話
5回目(10月上旬) スクイグルゲーム,二者択一
 大胆なところもあるが,他者へ細かい配慮をすることのあるA子に対し,6月から10月にかけて5回面接を行いました。主に,盤ゲームなど遊戯療法的かかわりを行いました。
 しかし,話しかけても非常に短い単語での返事しかなく,十分なコミュニケーションがとれない,今一歩踏み込めないという感じを受けていました。
 そこで,面接の中でA子のことを知りたい,言葉を使ってのコミュニケーションを図りたいという思いから,互いに少しでも近づくことができるように,下記のアプローチを試みました。
面接3回目 面接4回目 面接5回目 面接5回目

質問じゃんけん 自己紹介カード スクイグルゲーム 二者択一
ジャンケンで勝った方が質問し負けた方が答える。 自己紹介する内容をはじめにカードに記入し,その後書いたものを言い合う。
一方が描いた描線をもう一方が意味のある形に仕上げる。 「海と山,どちらが好き?」というような二者択一をする。
 選択理由 ・多くの人が初対面でも抵抗無く楽しく取り組める方法である。
・準備がいらず手軽に実施できる。
直接言葉でやり取りするよりも書いたものを言い合うので抵抗がより小さいと考えた。 自分のことを話す,書くということを好まない様子なので非言語的なアプローチが有効であると考えた。 本人についての直接的な話題ではないので話しやすいのではないかと考えた。

 ど
 も
 の
 様
 子
数回くらいしたところで,めんどくさそうに「これを続けるの?」と聞く。
「そうだけど,どうする?」と聞くと,「やめて遊びたい」と言う。
少し見たが,すぐにやめた。その後,自分から別の話題に変え話し始めた。
進んで取り組んだ。発想も良く一筆書きも相手のことを考えて描く,相手が困ると絵を描くヒントを与えるなどの相手を思いやる場面があった。 自ら進んで取り組んだ。熱心に理由まで書き込んだ







自己開示ができる状態ではないのではないか。(担当との関係,本人の調子,この方法との相性など)
改まって,直接自分のことを話す事が苦手だったり,めんどくさいと感じたりしているのではないか。
ストレートな自己紹介などは,苦手なのではないか。内面にふれられるのは,いやなのではないか。 漫画や,イラストを描くことが好き。 スクイグルや落書きをした後だったので,自己開示的になっていたのか。




関係
互いに話しにくい感じがする。話をしようとすると居心地が悪い感じがした。視線もなかなか合わない。その後で,ゲームを一緒にしているときには抵抗や違和感は感じない。 話しにくい感じがする。
プレイでパズルなどをした後は自ら話し出し,会話が進んだ。
視線が合うことが多くなった。安心してその場にいられると言う感じ。本人が気にしていることをそれとなく話し出す。構えがとれて互いの心が近づいた感じがする。 選択が同じであると喜び,その理由を言い合っては楽しむという関係になれた。笑顔になり,互いに本音を言っている感じがした。


本人との関係について
  面接回数が増えるほどに少しずつ話せる内容が増え,一緒にいることの居心地の悪さは少しずつ無くなってきている感じがしていました。スクイグルゲーム後に,本人がその時一番問題にしていたことを話し出しました。このことから,スクイグルゲームは互いの構えをなくし,結果として本人の考えていることの中心に迫っていくきっかけとなったと考えました。
その後,視線もよく合うようになり,リラックスした雰囲気で話ができるようになったので,互いに相手に対する構えや一緒にいることの違和感(苦しさ)がなくなったと感じました。

方法の選択について
 
 面接では個別の対応になるので,下の3点をまず考えました。
     @1対1で実施しやすく,学校や家庭訪問時でも利用できるように準備の簡単なもの。
     A時間的な融通のきくもの。
     B本人についての情報を負担をかけずに本人から引き出せるもの。

 また,構成的グループエンカウンターのエクササイズは,一般的には,ゲーム性の高いものから取り入れていくと,実施する側も取り組みやすく,される側も受け入れやすいとされていることも考慮しました。

 そこで,これらの条件と本人の状態を見て方法を選び実施しました。
その結果,本人に受け入れられるものとそうでないものとがありました。これらの方法は実施することで大きなストレスになるものではありません。しかも,今回の事例からわかるように,こちらが無理強いせず相手に選ぶ権利を与えていれば,本人がしたくないものはしません。その事をよしとする気持ちさえ持っていれば,恐れずに知っている方法は使っていいのではないだろうかと考えます。