小学校英語活動の理論



キーワードその1
「英会話の技能習得にあらず」
キーワードその2
「3つのねらい!」
キーワードその3
「4つのC」
 
キーワードその1
 「小学校英語活動は英会話の技能の習得のみを目的としない !」


小学校学習指導要領を見てみましょう!

 小学校段階での英語の指導は「国際理解に関する学習の一環」であり、「児童が外国語に触れたり,外国の生活や文化に慣れ親しんだりする」ような「体験的な学習」であるということが『小学校学習指導要領解説 総則編』から分かります。すなわち,英会話の技能の取得のみを目的とするわけではないということです。

 また,国際理解教育は,あくまでも総合的な学習の時間に取り扱う領域に例示されたもののひとつであり,すべての学校で取り扱いなさいと示されたものでもありません。学校や地域の実態に応じて取り扱ってもいいという位置付けになっています。

 それでは,学習指導要領の記述を見てみましょう。



【小学校学習指導要領 第1章 「総則」】

第3 総合的な学習の時間の取扱い

(略)

総合的な学習の時間においては,次のようなねらいをもって指導を行うものとする。
(1) 自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育てること。
(2) 学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにすること。
各学校においては,2に示すねらいを踏まえ,例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,地域や学校の特色に応じた課題などについて,学校の実態に応じた学習活動を行うものとする。
(略)
総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(1) (略)
(2) (略)
(3) 国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは,各学校の実態等に応じ,児童が外国語に触れたり,外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすること。






キーワードその2
「国際理解教育の一環としての小学校英語活動」

小学校英語活動実践の手引」に見る英語活動の理念

 学習指導要領における以上のような取扱いを受けて,小学校英語活動の具体的な指導に関して,文部科学省から平成13年4月に『小学校英語活動実践の手引』(以下,「手引書」と記す)が出版されました。現在のところ,公立小学校で取り扱われる英語は,この手引書にある指導目標,指導方法,指導内容に準拠して行われる必要があります。以下,それぞれのことについて具体的に見てみましょう。

(1) 国際理解のねらい

 国際化の進展に伴い,国際社会の中で日本人としての自覚を持ち,主体的に生きていく上で必要な資質や能力を養うことが求められている。さらに国際化は,国家間の関係のみならず個人と個人の相互交流へと深まりつつある。

 第15期中央教育審議会の答申(平成8年7月)では,国際化に対応する教育を進める上での留意点として,次の3点を挙げている。

 
@  広い視野を持ち,異文化を理解するとともに,これを尊重する態度や異なる文化を持った人々と共に生きていく資質や能力の育成を図ること。
A  国際理解のためにも,日本人として,また,個人としての自己の確立を図ること。
B  国際社会において,相手の立場を尊重しつつ,自分の考えや意思を表現できる基礎的な力を育成する観点から,外国語能力の基礎や表現力等のコミュニケーション能力の育成を図ること。
(手引書から)


 上の3つのねらいはそれぞれに独立したものではなく,お互いに密接な関係があります。つまり,@のねらいを達成するためには,Aのアイデンティティの確立は不可欠なものであり,同時に自分のこと,自国のことを表現するだけのコミュニケーション能力がなければ日本人としての自己の確立を図ることができたとは言えないからです。したがって,小学校の英語活動も,Bの外国語能力の育成を図ることだけが目標ではなく,異文化・自国文化に関する理解と尊重の態度を養うこと,あるいは自己表現をするだけの自我の確立をすることなど,全人教育的な視点に立ったものにならなければなりません。

 現在行われている実践の中には,英会話だけに重点が置かれ,単語の練習,文型の練習だけに終始しているものも見られますが,小学校ならではの体験的な活動,異文化・自国文化に触れる活動なども組み入れる必要があります。また,それらの活動で,どのような力を育てたいのかということを担任がしっかり考える必要があると言えます。


(2) 国際理解の構成


 国際理解を進める具体的な活動として,「外国語会話」,「国際交流活動」及び「調べ学習」などがある。これらの活動は,いずれも国際理解を進める上で有効な方法であり,相互に有機的な関連を図りながら取り上げていくことが望まれる。

(手引書から)


 上記の三者の有機的な関連というのは次のように考えることができます。
 例えば「外国語会話」だけを独立して指導するのではなく,例えば外国人ゲストとの「国際交流活動」をひとつの動機付けとして,話したいこと,聞きたいことを英語活動に生かしたり,その交流活動で気付いたこと,不思議に思ったことを学習課題のレベルまで高め,主体的な「調べ学習」へとつなげたりというような関連付けなどをするということです。いずれの場合も,子どもの体験的な学習,問題解決的な学習としての性格を重視する必要があると言えます。


(3) 小学校英語の呼称


 「外国語会話」とは,諸外国の様々な言葉を使った意思の疎通を図るための会話である。現在,世界の多くの場面で使用されている言語であることや子どもが学習する際の負担等を考慮して,この手引では,英語を取り上げることとした。小学校においては,子どもの発達段階に応じて,歌,ゲーム,クイズ,ごっこ遊びなどを通して,身近な,そして,簡単な英語を聞いたり話したりする体験的な活動を中心に授業が構成されることからこの手引では,「総合的な学習の時間」で取扱う英会話を「英語活動」と呼ぶことにした。

(手引書から)


(4) 授業の形態


@
学級担任 ALTのティーム・ティーチング

A 学級担任 英語教師 ALTのティーム・ティーチング

B 学級担任 英語教師のティーム・ティーチング

C 学級担任 学級担任のティーム・ティーチング

D 学級担任による単独授業

E 地域ボランティアの活用

(手引書から)

 英語活動の形態は,上記のように,担任(HRT)のみの指導,あるいは担任と外国語指導助手(ALT=Assistant Language Teacher),日本人英語教師(JTE=Japanese Teacher of English),外部講師(GT=Guest Teacher)などとのTeamTeaching(TT)という形態が考えられます。

 その中でも特に,小学校教師にとってはALTとのTTという形態が最も実施しやすい形態ですが,これにはいくつかの問題点があります。
 まず,ALTの絶対数が不足しているという点です。現在のところ,すべての小学校,すべての学級に週に1回程度の頻度で訪問できるような数はいません。
 また,ALTとのTTでよく聞かれるのが,授業計画や授業の展開等をALTに任せてしまい,担任はほとんどかかわらないケースがあるということです。授業のイニシアティブをとるのは児童の家庭環境や性格などを含めて,実態をよく知っている担任であり,ALTはあくまでもAssistantとして協力してもらうという認識をもつ必要があります。

 ALTとTTを行う場合には,まず手引書を熟読してもらい,小学校英語活動の基本的な理念を理解してもらうことも重要です。手引書の後半部分は,ALTや外国人講師が読めるようにすべて英文で書いてあります。小学校英語のコンセプトを理解しないままTTを行い,単語の発音練習を繰り返し行ったり,アルファベットを教え込んだりというように中学校英語の指導法を小学校に持ちこむ先生も少なくないからです。

 いずれの場合も打合せを入念に行い,行き当たりばったりの指導にならないように留意することが大事ですが,その打合せの時間がなかなか確保できないというのが現場の課題でもあります。

 さらに,最近問題になっているのが,外部講師として英会話教室や私塾の先生に協力を求める際に,年間計画や単元計画までお任せにしてしまうというケースです。いわゆる私塾としての英会話塾と,公教育としての英語活動では,ねらい・方法などの点で大きく異なる場合があります。町の英会話教室のカリキュラムを教室にそのまま持ち込んでしまうのはどうでしょうか。活動のアイディアなどを共有する分には構いませんが,何でもかんでもお任せでは担任としての義務を放棄していると言わざるを得ません。

 担任のみで授業を行うときは,発音の上手下手,英語の得意不得意を気にせずに,担任の先生が自信をもって授業に臨むことが必要です。また,インプットする英語の量を確保するために,CD,CD-ROM,ビデオなどの視聴覚教材を効果的に利用する工夫もしなければなりません。NHK学校放送番組「えいごリアン」「スーパーえいごリアン」なども参考にしてください。


(5) 指導上の留意点


@ 逐一日本語に訳さない
 ALTとのTTでは,ALTの英語を逐一日本語で解説したり,訳したりすることは,不必要であり,むしろ避けるべきである。最初から全部分からなくても,大体何を言っているのか分かったという経験をさせることが大切である。理解を助けるために,ALTにはできるだけ分かりやすい英語を使い,同時に実物を見せる,絵で示す,ジェスチャーをするなどの工夫をしてもらう必要がある。日本人の教師も,授業をすべて英語で進める必要はないが,この時間は英語で活動する時間だという気持ちで,自ら英語を楽しみ,次第に日本語を減らしていくことが望ましい。


A 英語の発音をカタカナに置き換えない
 英語をカタカナで表記することの問題点は,英語の音をそのまま表せないということである。カタカナ表記をすると,耳で聞いた音とは違って,各音節の後に必ず母音がはいる,アクセントの位置が日本語と同じになるなど,誤った音が記憶に残る。せっかく,ALTの発音に触れた後で,教師がカタカナで英語の音声を書き表すことは,行うべきではない。
 小学校における英語活動では,音声を中心に行うことが原則であり,英文を読む活動はほとんど行わない。したがって,子どもの方から英語をカタカナに置き換えるようなことは起こらないであろう。子どもがカタカナで英語を表記しようとする場合は,習ったことを忘れないように記憶の助けにしようとするためであろう。そのような時には,忘れても少しも構わない,何度か使っているうちに自然に身に付くから無理に覚えることはないと,子どもに安心させることが大切である。


B 無理に覚えさせない
 一つの英語表現を使おうとすれば,ある程度の繰り返し練習が必要である。しかし,単調な繰り返し練習や定型的なドリルを強いると,子どもは英語を楽しいとは思えなくなる。日常的なあいさつややりとりの言葉は,活動の中で何回か使っているうちに,次第に覚えていく。その時間内に是非とも覚えさせなければならないと考える必要はない。


C 誤りは細かく訂正しない
 学習に誤りはつきものである。間違いを恐れず,実際に何回も使ってみなければ上達はありえない。間違ったり,うまく言えなくても,笑われたりばかにされたりしないような教室の雰囲気をつくる必要がある。子どもが間違ったことを言った場合も,いちいち間違いだと指摘して言い直しをさせると,英語を話すことに臆病になってしまう。何を言いたかったのか分かる程度の誤りなら,教師が言い直して,正しい英語を聞かせるだけで十分であろう。できるだけ子どもが自分で気付いて次から正しく言えるように指導する。
 また,英語に自信がない子どもに無理やり発話を強いることは避け,やさしく楽しい活動を工夫して,少しずつ参加させ表現させるようにする。発言できなくても,よく聞いて行動できたとか,一つでも良いところを認めて評価することが大切である。


D 一斉授業だけでなく,いろいろな学習形態を工夫する
 小学校では英語を知識として学ばせるのではなく,様々な活動を通して英語を体験させることが大切である。したがって活動をするための空間の工夫や,学習形態の工夫が必要になる。教室で机を前にして座って受ける授業だけでなく,机を片付けた教室や特別教室,体育館,時には運動場で伸び伸び体を動かして授業を行うことが考えられるだろう。また,全員が同じことをする一斉授業だけでなく,学年に応じて,個人で,ペアで,グループでなど学習形態も変化させて活動に幅を持たせることが適切である。

手引書より


キーワードその3
小学校英語活動に大切な4つのC


 Sharpeという学者が,「小学校における英語の指導には4つのCが大切である」と言っています。 この4つのC,それぞれを紹介しながら,小学校英語活動における留意点を説明してみましょう。

Communication Culture Context Confidence
コミュニケーション 文化 文脈・状況 自信






Communication
 英語という言語を取り扱うのだから,当然そこにはCommunication Tool(コミュニケーシ ョンの道具)としての英語というものを意識して指導しなければなりません。それでは,どのような点がポイントになるのでしょうか。
@ 分からないから聞く
 会話がCommunicationとして成立するためには,“Information Gap”が存在することが大切です。“Information Gap”とは,二人の間に情報の差があること,すなわち「一方は知っているが,もう一方は知らない」という状況にあることです。したがって,ゲームやクイズでも,「分からないから聞く」というsituationをつくる必要があります。
 例えば,ペンを見せて,“What’s this?”と尋ねるような活動も初めのころは必要ですが,それだけでは飽きてきます。そんなときは,教材提示装置などを使いペンを真上から見せたり,ピントをぼかして見せたりして「何だろう」という気持ちをかきたてて“What’s this?”と尋ねるような工夫をしてください。また,箱の中に入れたものを手触りで当てるような“Black Box Game”のようなものも,“What’s this?”というセンテンスが生きてきます。
 同じように,「あいさつ」という題材を扱う時に,お互いによく知っている友達同士で,“What’s your name?”とか“Where do you live?”などと尋ねあったりしている活動も見られますが,こんなときも有名なスポーツ選手や,テレビアニメの主人公になったつもりであいさつをさせると,相手の名前を知りたいとか,住んでいるところを知りたいという気持ちが高まってきます。
 従来の英語の指導でよく見られたPattern Practiceのようなドリルを多用するのではなく,Communication Activitiesを中心とした活動であることが重要となります。


A 音声中心の指導
 小学校の英語活動では,「聞く」「話す」など音声を中心とした指導になります。言い換えると,アルファベットなどの文字は原則として取り扱わないということです。母国語の習得過程を見ても,「聞く」→「話す」→「読む」→「書く」という順で身に付けています。中学校の英語がスタートした時点でアルファベットが出てくることからも,あるいは,児童の負担を増やさないということからも,小学校段階では英語特有の音声にたっぷりと浸らせることが重要です。
 さらに,「聞く」「話す」という言語活動を比べた場合に,やはり「聞く」ということが重視されるべきでしょう。ある研究結果では,言語習得過程には“Silent Period”(沈黙の期間)と呼ばれるただ聞くだけの段階があるということが明らかになっています。
 英語の指導で,“Repeat after me.”といって,指導者の後に繰り返して発音練習させたり,児童の発話を求めた練習をさせたりする光景がよく見られますが,指導者がoutputを求めるあまりに,子どもがだんだん声を出さなくなるということもよく見られます。指導者の言った英語を繰り返すという行為は英語でOral Imitation(口まね)と言われているとおり,あくまでもまねでしかありません。本当の意味でのoutputは,“Comprehensive Output”(理解のあるアウトプット)と呼ばれており,場面に応じて,学習者が適切で意味のある単語や文を選択し,発話することです。Pattern Practiceのようなドリル的な練習も場面によっては必要ですが,繰り返して発話することが最終的な目的にならないように気を付けたいものです。
 間違っても,発話させることを目的として,英語をカタカナで表したりしてはいけません。


B 自然な音のつながりを重視して
 音声が中心の指導という点から,英語のリズムを重視した指導が必要になってきます。例えば,“Nice to meet you.”というあいさつ文を指導するときに,教師は単語が頭に浮かぶので,それぞれの単語の発音を練習させてからセンテンスへという指導をしがちです。しかし,上に述べたように,子どもたちには単語という概念がありませんので,この程度の文章なら,“Nicetomeetyou.”と単語で切らずにインプットした方が,英語の音としては自然なつながりになってきます。無理に単語レベルで練習させることなく,音のつながりを重視した指導をしたいものです。


C 構造から機能へ
 英語活動では,英文を構造的に見るのではなく,それがどんな働きをするのかという機能の面で見る必要があります。例を挙げてみましょう。
 @“Do you have a dog?”という文とA“Do you have a pen?”という文は,いずれも同じ構造です。すなわち,目的語を入れ替えただけで,どちらも“Yes, I do.”,“No, I don’t.”という答えができます。ところが,これをどのような場面で使われるかという機能面で見てみると,@の文は,「相手が犬を飼っているかどうかが知りたい」というときに発せられる文で,例えば“Yes, I do.”なら,このあとには「どんな犬か」「いつから飼っているか」などその犬についての話が続くことになります。しかし,Aの文は機能的には「ペンを持っているかどうか」という情報がほしいのではなく,「持っていたら貸してほしい」という依頼の意味を持っています。つまり,単なるYes/Noで答えるのではなく,例えば “Yes. Here you are.”,“No. I’m sorry. / Sorry. I don’t”などの返答が必要になってきます。このように,実際の場面でどのような使われ方をするかという視点が重要になってきます。
 この例で言うと,例えば教師が,たくさんの色鉛筆を持っておき,子どもたちは塗り絵をしながら,使いたい色鉛筆を教師のところに借りに来るというような活動を計画することができます。意味のある場面設定の中で,“Do you have a red pencil?”−“Yes, here you are.”というようなやりとりをさせると,英語表現の機能を重視した指導ができるでしょう。


Culture
 Cultureとは文化です。小学校での英語活動は国際理解教育の一環としての取り扱いですから,異文化を伝える,自国文化を再認識するという視点なくしては指導できません。Cultureでは次のような点がポイントとなります。


@ 「ALT=異文化を伝える人」と見る
 小学校にALTが訪問し,担任教師とTTをする機会も増えてきました。その時に,ALTを単に英単語を練習させてくれる人,子どもたちと英会話をしてくれる人として見るだけではなく,その国の文化を伝えてくれる人として生かしたいものです。つまり,単なるネイティブスピーカー(英語の母語話者)としてではなく,例えばカナダの文化を伝えてくれるパトリックさん,ニュージーランドの文化を伝えてくれるステファニーさんというように,個人として尊重しなければなりません。英語だけでなく,その国の文化を伝えてもらったり,いろいろな生活習慣を紹介してもらったりしてみましょう。そこから,調べ学習へ発展させることも可能となってきます。
 また,ALTに日本文化を紹介するという活動も計画しましょう。折り紙やたこあげなどを紹介するためには,子どもたち自身がそれらのことについて精通しなければなりません。そのような機会を通して,日本や地域の伝統・文化というものに目を向けるきっかけともなります。


A 異文化の中の異質なものだけではなく同質なものにも気付かせる
 異文化を紹介してもらうと,どうしても日本と違ったところにばかり目が向きがちです。しかし,注意してみていると,異文化の中に日本とよく似た文化があることに気付くことも多くあります。例えば,英語活動でお正月の遊びを取り上げたときに,日本のすごろくによく似た遊びがカナダにもあるということを紹介してもらいました。文化が違うというだけでなく,同じような文化があるということを通して,「結局は同じ人間なんだね」ということを子どもたちは感じることができるでしょう。


B 生活文化にも目を向けさせる
 文化について調べるときには,その国の伝統文化,日本で言うと歌舞伎や能,三味線,相撲のようなものだけに目が向きがちになります。そのような文化を調べることもある意味で重要ですが,例えば,アメリカの友達はだいたい何時に起きて,学校で何時間授業があって,放課後はどんなことをしているというような生活文化に目を向けさせることも必要です。特に,交流活動を行う場合には,そのような生活レベルの違いに目を向けさせ,情報交換をする,比べるといった活動をした方が子どもたちは生き生きとなってきます。


C ハロウィン,クリスマス,イースター…
 英語活動をするとよく見られるのが,このような行事を実際に体験する事例です。しかし,外国の人は全員同じようにクリスマスを祝うのか,ハロウィンでは仮装をするのかというと,そうではありません。宗教の問題も絡んできます。このような活動をして異文化に触れさせたような気になるのはちょっと危険です。例えば,学校にやってきたALTや外国人ゲストがどのようなクリスマスを過ごすのか紹介してもらい,その先生の文化として子どもたちと楽しむようにしたいものです。もしかして,その先生はクリスマスには特に何もお祝いしないと言われるかもしれません。様々な文化,価値観があるということを子どもたちには伝えたいものです。外国の人はみんなクリスマスの夜に教会に行く,七面鳥を食べるというようなステレオタイプの文化観は子どもたちに植え付けないようにするべきでしょう。


Context
 Contextとは「文脈」という意味です。つまり前後のつながりから判断するということになります。ここで注意することをいくつか挙げてみます。


@ 日本語訳はなるべくしない
 子どもたちにはALTが言っていることをなるべくそのまま聞かせます。教師が日本語で説明しすぎると,子どもたちは「どうせ先生が説明してくれるから」と英語を聞かないようになってきます。「今,何て言ったんだろう」と考え,「こんなことを言ったのかな」と推測し,「じゃあこのように言ってみよう」と反応を返せるようになることが,英語活動における問題解決能力の育成とも言えます。
 しかし,オールイングリッシュの授業でなければならないというわけでもありません。「先生が英語でペラペラしゃべっているけど,言っていることがちっともわからない」という状態が続けば,英語だけでなく,コミュニケーションに対する意欲さえなくしてしまうこともあるようです。要は,全部を日本語訳はしないまでも,日本語による適切な説明を加え,意欲を失わせないようにすることが必要なのです。


A 小道具やジェスチャーで
 日本語訳をほとんどしないとなると,子どもたちと意思の疎通をするためには他の手段が必要になってきます。それが絵カード,写真カードなどの小道具と,先生の表情やジェスチャーです。ALTには表情豊かに話せる先生がたくさんいらっしゃるし,大げさなジェスチャーも見せてくれます。それに絵カードなどを組み合わせれば,子どもたちは「何となく」分かることができるでしょう。細部にとらわれることなく,「何となく」「大まかに」というのが小学校英語活動では重要なところです。

 また,担任の先生と役割分担をして,スキット風に会話をすることもできます。例えば,ALTが “How many cards do you have?”と尋ね,担任の先生が大げさな動作をつけて,“One, two, three, four. I have four cards!”と答えれば,カードの枚数を尋ねたんだなということは何となく伝わるものです。


Confidence
 4つ目のCはConfidence(自信)です。これは子どもの自信,小学校教師の自信という2つの側面があります。


@ 間違いを細かく指摘しない
 子どもたちが英語活動をする場合に,文法的な間違いは多々見られます。文法的な説明はほとんどしないわけであるから,例えば,複数形のsだとか,be動詞と一般動詞は区別するなどということはできなくて当然です。それを逐一指摘していたら,子どもは英語活動の楽しさが半減し,しまいには英語嫌いになってしまうことでしょう。文法的な正確さというのはあとからついてくればいいというくらいの気持ちで,意志が伝わることを第一の目的として英語活動を楽しませましょう。まずは伝わった,分かってくれたという自信をもたせることが重要です。同じように発音についても,中学校での指導のような正確さを求める必要はないと思われます。


A 先生は子どもたちのよいモデル
 子どもの自信と同時に先生の自信も重要です。
 小学校の先生方が英語活動を尻込みする理由の一つに,「英語の成績もそれほどよくなかったのに,子どもたちに英語を教えるなんて」という気持ちがあるのではないでしょうか。しかし,中学校,高校で培ってこられた英語の力で,ALTとのコミュニケーションも何とか図れるものです。例えば,ドイツ語かフランス語で身の回りのものを言ってみてくださいと言われても,ほとんど単語は出てきませんが,英語でとなると相当数の単語が出てくるはずです。
 また,小学校の先生は子どもたちの前で完璧な姿を見せなければならないという気持ちも強くあります。しかし,こと英語活動に関しては専門でもないし,完璧でなければならないと力む必要もありません。身振り手振りを交えた片言の英語でもコミュニケーションがとれている姿を見せるべきです。単語レベルの会話でもコミュニケーションがとれるという姿は,子どもたちに自信を与えるとともに,コミュニケーションのモデルを示すことにもなります。
 最近,“World Englishes”という言葉が聞かれるようになりました。もともと1985年頃に,インド人のアクセントのある英語を認めようと運動が起きたときに使われた言葉で,世界中にはいろいろなアクセントのある英語が存在し,それがコミュニケーションの道具として使える以上は特に問題がないということなのです。
 上智大学の吉田研作先生は,それを“acceptability”という言葉で表現されています。つまり,アメリカ人やイギリス人のような発音であることよりも,相手に受け入れられる(accpet)ことが可能(ability)であることが重要だということなのです。




山内 豊・中川 祥子・宗  誠 共著「子どもたちと楽しく!はじめての英語活動」(2003,教育同人社)
第2章「小学校英語活動はどうあるべきか」(宗  誠 著)より一部抜粋・加筆引用