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Communication |
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英語という言語を取り扱うのだから,当然そこにはCommunication Tool(コミュニケーシ
ョンの道具)としての英語というものを意識して指導しなければなりません。それでは,どのような点がポイントになるのでしょうか。 |
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分からないから聞く |
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会話がCommunicationとして成立するためには,“Information Gap”が存在することが大切です。“Information
Gap”とは,二人の間に情報の差があること,すなわち「一方は知っているが,もう一方は知らない」という状況にあることです。したがって,ゲームやクイズでも,「分からないから聞く」というsituationをつくる必要があります。
例えば,ペンを見せて,“What’s this?”と尋ねるような活動も初めのころは必要ですが,それだけでは飽きてきます。そんなときは,教材提示装置などを使いペンを真上から見せたり,ピントをぼかして見せたりして「何だろう」という気持ちをかきたてて“What’s
this?”と尋ねるような工夫をしてください。また,箱の中に入れたものを手触りで当てるような“Black
Box Game”のようなものも,“What’s this?”というセンテンスが生きてきます。
同じように,「あいさつ」という題材を扱う時に,お互いによく知っている友達同士で,“What’s
your name?”とか“Where do you live?”などと尋ねあったりしている活動も見られますが,こんなときも有名なスポーツ選手や,テレビアニメの主人公になったつもりであいさつをさせると,相手の名前を知りたいとか,住んでいるところを知りたいという気持ちが高まってきます。
従来の英語の指導でよく見られたPattern Practiceのようなドリルを多用するのではなく,Communication
Activitiesを中心とした活動であることが重要となります。 |
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A |
音声中心の指導 |
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小学校の英語活動では,「聞く」「話す」など音声を中心とした指導になります。言い換えると,アルファベットなどの文字は原則として取り扱わないということです。母国語の習得過程を見ても,「聞く」→「話す」→「読む」→「書く」という順で身に付けています。中学校の英語がスタートした時点でアルファベットが出てくることからも,あるいは,児童の負担を増やさないということからも,小学校段階では英語特有の音声にたっぷりと浸らせることが重要です。
さらに,「聞く」「話す」という言語活動を比べた場合に,やはり「聞く」ということが重視されるべきでしょう。ある研究結果では,言語習得過程には“Silent
Period”(沈黙の期間)と呼ばれるただ聞くだけの段階があるということが明らかになっています。
英語の指導で,“Repeat after me.”といって,指導者の後に繰り返して発音練習させたり,児童の発話を求めた練習をさせたりする光景がよく見られますが,指導者がoutputを求めるあまりに,子どもがだんだん声を出さなくなるということもよく見られます。指導者の言った英語を繰り返すという行為は英語でOral
Imitation(口まね)と言われているとおり,あくまでもまねでしかありません。本当の意味でのoutputは,“Comprehensive
Output”(理解のあるアウトプット)と呼ばれており,場面に応じて,学習者が適切で意味のある単語や文を選択し,発話することです。Pattern
Practiceのようなドリル的な練習も場面によっては必要ですが,繰り返して発話することが最終的な目的にならないように気を付けたいものです。
間違っても,発話させることを目的として,英語をカタカナで表したりしてはいけません。 |
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B |
自然な音のつながりを重視して |
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音声が中心の指導という点から,英語のリズムを重視した指導が必要になってきます。例えば,“Nice
to meet you.”というあいさつ文を指導するときに,教師は単語が頭に浮かぶので,それぞれの単語の発音を練習させてからセンテンスへという指導をしがちです。しかし,上に述べたように,子どもたちには単語という概念がありませんので,この程度の文章なら,“Nicetomeetyou.”と単語で切らずにインプットした方が,英語の音としては自然なつながりになってきます。無理に単語レベルで練習させることなく,音のつながりを重視した指導をしたいものです。 |
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C |
構造から機能へ |
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英語活動では,英文を構造的に見るのではなく,それがどんな働きをするのかという機能の面で見る必要があります。例を挙げてみましょう。 |
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@“Do you have a dog?”という文とA“Do you have a pen?”という文は,いずれも同じ構造です。すなわち,目的語を入れ替えただけで,どちらも“Yes,
I do.”,“No, I don’t.”という答えができます。ところが,これをどのような場面で使われるかという機能面で見てみると,@の文は,「相手が犬を飼っているかどうかが知りたい」というときに発せられる文で,例えば“Yes,
I do.”なら,このあとには「どんな犬か」「いつから飼っているか」などその犬についての話が続くことになります。しかし,Aの文は機能的には「ペンを持っているかどうか」という情報がほしいのではなく,「持っていたら貸してほしい」という依頼の意味を持っています。つまり,単なるYes/Noで答えるのではなく,例えば
“Yes. Here you are.”,“No. I’m sorry. / Sorry. I don’t”などの返答が必要になってきます。このように,実際の場面でどのような使われ方をするかという視点が重要になってきます。
この例で言うと,例えば教師が,たくさんの色鉛筆を持っておき,子どもたちは塗り絵をしながら,使いたい色鉛筆を教師のところに借りに来るというような活動を計画することができます。意味のある場面設定の中で,“Do
you have a red pencil?”−“Yes, here you are.”というようなやりとりをさせると,英語表現の機能を重視した指導ができるでしょう。 |
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Culture |
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Cultureとは文化です。小学校での英語活動は国際理解教育の一環としての取り扱いですから,異文化を伝える,自国文化を再認識するという視点なくしては指導できません。Cultureでは次のような点がポイントとなります。 |
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「ALT=異文化を伝える人」と見る |
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小学校にALTが訪問し,担任教師とTTをする機会も増えてきました。その時に,ALTを単に英単語を練習させてくれる人,子どもたちと英会話をしてくれる人として見るだけではなく,その国の文化を伝えてくれる人として生かしたいものです。つまり,単なるネイティブスピーカー(英語の母語話者)としてではなく,例えばカナダの文化を伝えてくれるパトリックさん,ニュージーランドの文化を伝えてくれるステファニーさんというように,個人として尊重しなければなりません。英語だけでなく,その国の文化を伝えてもらったり,いろいろな生活習慣を紹介してもらったりしてみましょう。そこから,調べ学習へ発展させることも可能となってきます。
また,ALTに日本文化を紹介するという活動も計画しましょう。折り紙やたこあげなどを紹介するためには,子どもたち自身がそれらのことについて精通しなければなりません。そのような機会を通して,日本や地域の伝統・文化というものに目を向けるきっかけともなります。 |
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A |
異文化の中の異質なものだけではなく同質なものにも気付かせる |
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異文化を紹介してもらうと,どうしても日本と違ったところにばかり目が向きがちです。しかし,注意してみていると,異文化の中に日本とよく似た文化があることに気付くことも多くあります。例えば,英語活動でお正月の遊びを取り上げたときに,日本のすごろくによく似た遊びがカナダにもあるということを紹介してもらいました。文化が違うというだけでなく,同じような文化があるということを通して,「結局は同じ人間なんだね」ということを子どもたちは感じることができるでしょう。 |
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B |
生活文化にも目を向けさせる |
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文化について調べるときには,その国の伝統文化,日本で言うと歌舞伎や能,三味線,相撲のようなものだけに目が向きがちになります。そのような文化を調べることもある意味で重要ですが,例えば,アメリカの友達はだいたい何時に起きて,学校で何時間授業があって,放課後はどんなことをしているというような生活文化に目を向けさせることも必要です。特に,交流活動を行う場合には,そのような生活レベルの違いに目を向けさせ,情報交換をする,比べるといった活動をした方が子どもたちは生き生きとなってきます。
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C |
ハロウィン,クリスマス,イースター… |
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英語活動をするとよく見られるのが,このような行事を実際に体験する事例です。しかし,外国の人は全員同じようにクリスマスを祝うのか,ハロウィンでは仮装をするのかというと,そうではありません。宗教の問題も絡んできます。このような活動をして異文化に触れさせたような気になるのはちょっと危険です。例えば,学校にやってきたALTや外国人ゲストがどのようなクリスマスを過ごすのか紹介してもらい,その先生の文化として子どもたちと楽しむようにしたいものです。もしかして,その先生はクリスマスには特に何もお祝いしないと言われるかもしれません。様々な文化,価値観があるということを子どもたちには伝えたいものです。外国の人はみんなクリスマスの夜に教会に行く,七面鳥を食べるというようなステレオタイプの文化観は子どもたちに植え付けないようにするべきでしょう。 |
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Context |
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Contextとは「文脈」という意味です。つまり前後のつながりから判断するということになります。ここで注意することをいくつか挙げてみます。 |
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日本語訳はなるべくしない |
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子どもたちにはALTが言っていることをなるべくそのまま聞かせます。教師が日本語で説明しすぎると,子どもたちは「どうせ先生が説明してくれるから」と英語を聞かないようになってきます。「今,何て言ったんだろう」と考え,「こんなことを言ったのかな」と推測し,「じゃあこのように言ってみよう」と反応を返せるようになることが,英語活動における問題解決能力の育成とも言えます。
しかし,オールイングリッシュの授業でなければならないというわけでもありません。「先生が英語でペラペラしゃべっているけど,言っていることがちっともわからない」という状態が続けば,英語だけでなく,コミュニケーションに対する意欲さえなくしてしまうこともあるようです。要は,全部を日本語訳はしないまでも,日本語による適切な説明を加え,意欲を失わせないようにすることが必要なのです。 |
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A |
小道具やジェスチャーで |
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日本語訳をほとんどしないとなると,子どもたちと意思の疎通をするためには他の手段が必要になってきます。それが絵カード,写真カードなどの小道具と,先生の表情やジェスチャーです。ALTには表情豊かに話せる先生がたくさんいらっしゃるし,大げさなジェスチャーも見せてくれます。それに絵カードなどを組み合わせれば,子どもたちは「何となく」分かることができるでしょう。細部にとらわれることなく,「何となく」「大まかに」というのが小学校英語活動では重要なところです。
また,担任の先生と役割分担をして,スキット風に会話をすることもできます。例えば,ALTが “How many cards do you have?”と尋ね,担任の先生が大げさな動作をつけて,“One, two, three, four. I have four cards!”と答えれば,カードの枚数を尋ねたんだなということは何となく伝わるものです。 |
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Confidence |
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4つ目のCはConfidence(自信)です。これは子どもの自信,小学校教師の自信という2つの側面があります。 |
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間違いを細かく指摘しない |
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子どもたちが英語活動をする場合に,文法的な間違いは多々見られます。文法的な説明はほとんどしないわけであるから,例えば,複数形のsだとか,be動詞と一般動詞は区別するなどということはできなくて当然です。それを逐一指摘していたら,子どもは英語活動の楽しさが半減し,しまいには英語嫌いになってしまうことでしょう。文法的な正確さというのはあとからついてくればいいというくらいの気持ちで,意志が伝わることを第一の目的として英語活動を楽しませましょう。まずは伝わった,分かってくれたという自信をもたせることが重要です。同じように発音についても,中学校での指導のような正確さを求める必要はないと思われます。
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A |
先生は子どもたちのよいモデル |
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子どもの自信と同時に先生の自信も重要です。 |
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小学校の先生方が英語活動を尻込みする理由の一つに,「英語の成績もそれほどよくなかったのに,子どもたちに英語を教えるなんて」という気持ちがあるのではないでしょうか。しかし,中学校,高校で培ってこられた英語の力で,ALTとのコミュニケーションも何とか図れるものです。例えば,ドイツ語かフランス語で身の回りのものを言ってみてくださいと言われても,ほとんど単語は出てきませんが,英語でとなると相当数の単語が出てくるはずです。 |
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また,小学校の先生は子どもたちの前で完璧な姿を見せなければならないという気持ちも強くあります。しかし,こと英語活動に関しては専門でもないし,完璧でなければならないと力む必要もありません。身振り手振りを交えた片言の英語でもコミュニケーションがとれている姿を見せるべきです。単語レベルの会話でもコミュニケーションがとれるという姿は,子どもたちに自信を与えるとともに,コミュニケーションのモデルを示すことにもなります。 |
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最近,“World Englishes”という言葉が聞かれるようになりました。もともと1985年頃に,インド人のアクセントのある英語を認めようと運動が起きたときに使われた言葉で,世界中にはいろいろなアクセントのある英語が存在し,それがコミュニケーションの道具として使える以上は特に問題がないということなのです。
上智大学の吉田研作先生は,それを“acceptability”という言葉で表現されています。つまり,アメリカ人やイギリス人のような発音であることよりも,相手に受け入れられる(accpet)ことが可能(ability)であることが重要だということなのです。 |
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