○ 学習指導案    小学校第6学年 「 国語科 」


1 単元名 「春日北小方言辞典を作ろう」 (平成20年10月実施,38名)

授業実践者:吉永 淳一

2 単元とその指導について

児童観

本学級の児童は,1学期の説明的文章の単元「イースター島にはなぜ森林がないのか(東書6年上)」において,文章の要旨をまとめ,筆者の言いたいことに対する自分の考えを書くという作文作りを学習している。また,言語活動として教材文の書きぶりを参考にした意見文作りも経験しており,内容の把握とともに,段落構成や筆者の書きぶりに目を向けて読むことや,自分の考えを持ち表現することも力をつけてきている。「ニュース番組を作ろう(東書6年上)」ではゲストティーチャーを招き,番組作りの基本や話し方のコツなどを学び,番組作りへの意欲を高めながら学習を行っている。


   日常の辞典の活用度はそう高くなく,本単元の活動をきっかけにして辞典への興味,利用度を高めたいと考える。

教材観

本教材は,NHK「プロジェクトX 挑戦者たち」の中の1話を教科書教材用に書き下ろしたものであり,「広辞苑」という辞典ができあがるまでの困難と,その編集に携わった新村親子の辞典作りに向ける情熱や苦労について説明した文章である。筆者は,様々な困難を乗り越えて辞典作りを全うした親子の生き方を通して,夢を持ち続ける人間の強さを伝えるとともに,身近にある言葉を見つめ,自己の言語生活について目を向けさせている。


   この文章は,序論・本論・結論の3つの大きなまとまりで構成され,本論は「広辞苑」の前身となる「辞苑」の改訂作業から「広辞苑」が出版されるまでの長い年月を要した苦労の数々を紹介している。その紹介に際しては,出来事(問題)と対策を基本に述べている。また,序論にある「言葉のガイドブック」「国語辞典は並たいていのことではない。」ことを,本論において時間の経過や見出し語の数,逆接の接続詞などを使って辞典作りへの情熱や様々な困難として強調させて表現している。さらに,文中に出てくる見出し語の例に日常使用している言葉を用いるなどして,読み手の言語生活に目を向けさせる工夫をしている。


   このことから,文章の構成や要旨,表現の効果を踏まえて筆者の意図を読み取っていき,さらに,自己の言語生活に目を向けて言葉に関心をつなげていく教材であるといえる。



指導観

本単元の指導においては,以下の3点をねらいとした手立てを行い,課題を解決しながら読み進め,意欲的に活動することに重点を置く。


@ 主体的に取り組む
◎ 単元初めに,新聞の切り抜きや広辞苑(第6版),言葉についてのクイズを行い,「春日北方言辞典」作

りに興味を持たせ,その内容について必要になってくる知識等について教材文を読み取っていくことを知

らせる。(第1時)
◎ 説明的文章を読み取るにあたって,これまでの学習で学んだ基礎的な知識や基本的な技能について

ワークシートを使って確認をし,個々の学習課題を書き表すようにする。(第1時)
◎ 題名から問いを考える作業を行い,本文を通読する際の視点としたり,内容を読み取っていくための課

題にしたりする。(第2時)
◎ 教材文の読み取った年数や辞書作りの手順から「春日北方言辞典」作りの計画書(ワークシート)を作成

し,活動内容を考え期日設定を行うことで活動の見通しと目標を持つ。(第7時)
◎ 第1時での学習課題と照らし合わせながら単元の振り返りを行い,本単元で学んだこと,既有の知識・

技能が生かせたことなどを明らかにさせる。(第12時)


A 文章の構成や表現に注意して読む
◎ 段落相互の関係や時間的な流れに気付かせるために,段落ごとに切り分け,バラバラにした教材文

を正しく並び変える作業を行う。(第2時)
◎ 筆者がこの文章で伝えたかったことを考えさせるために,題名に副題を考えさせる活動を通して,

様々な視点で教材文を読ませる。(第4,5,6時)

≪視点≫
   ・本論のまとまりを見つけさせるために,形式段落の主語に着目させる。(第4時)
   ・本論に書いてあることを大まかにつかませるために,キーワードに着目させる。(第4時)
   ・本論の書き進め方をとらえるために,年数や見出し語・頁数に着目させる。(第5時)
   ・問題発生の部分に気付かせるために,接続語(逆接)に着目させる。(第5時)
   ・問題発生を乗り越える作業の苦労及び「春日北方言辞典」を作るための辞典作りの過程をとらえるた

めに,問題発生の部分以降の行動に着目させる。(第6時)
   ・副題を考えさせるために,教材文の言葉に含まれる言葉の使い方に着目させる。(第6時)

◎ 上の視点について本論を通して読ませるために,本論部分を1枚の紙に印刷する。また,上の視点を

見やすくするために本論のプリントは1文ずつ改行しておく。


B 言語活動において学習したことを生かす
◎ 教材文を見直し,辞典作りに必要な記述を参考にして計画書を作る。(教材文の利用)
◎ わかりやすく短い文にまとめて書く。(要約)
◎ 身近な言葉に目を向け,方言と共通語の違いや使い方に興味を持つ。



3 単元の目標

国語への関心・意欲・態度

ア 言葉や辞典に興味を持ち,辞典作りを行おうとしている。

話すこと・聞くことの能力

イ 辞典作りを行う上で,辞典作りの意図やねらいを考えながら計画的に話し合っ

ている。

 (A話すこと・聞くこと(1)ウ)

書くことの能力

ウ 辞典作りの観点に沿って言葉の説明や用例を書いている。

(B書くこと(1)ア)

読むことの能力

エ 読みの視点に沿って文章の構成や表現に注意して読み,書かれている内容を

的確に 押さえて要旨をとらえている。

(C読むこと(1)イ)

言語についての知識・理解・技能

オ 文や文章にはいろいろな構成があることについて理解している。

(言語に関する事項 オ(ア))

4 単元の計画 (全12時間)

主な学習活動

教師の指導・支援

評価とその方法
 1

「春日北方言辞典」を作る単元の活動を見通し,学習課題を持つ。

題名から連想することや疑問を考えさせる。また,辞典作りについてもどんなことを知る必要があるか確認させる。

 (ア)教材の内容や,辞典作りに興味を持ち,学習計画を立てている。【観察・ワーク】
 2

段落の内容や接続詞,数字(年等)をもとにして本文の構成を考え,文章構成図を作り,教材の全体を大まかにつかむ。

段落を切り離し,バラバラにしたものを再構成することで,段落のつながりを見つけさせるとともに,序論・本論・結論の3部構成になっていることを確認する。【様子1】【様子2】

(オ)書かれていることを基にして 文章の構成をつかむことができる。【作業・発言】
 3

1〜5段落を読み,筆者の問題提起について確認する。

事実と作者の考えに気付かせ,本論で読み取るべき事柄について意識を持たせる。

【板書】

(エ)事実と筆者の考えの部分を抑え,本論を読むための課題を見つけることができる。【ワーク・発言】
 4 本 時 5

本論を読みの視点に沿って読み,構成や表現の工夫に着目しながら内容を読み取る。

3時目に作った問題文を基に読みの視点を持たせながら読み進めさせる。

サイドラインを引いたり,ワークシートに書きこませることで,文章構成や表現について筆者の意図を想像させる。

(エ)読みの視点に沿って言葉や文にアンダーラインを 引くことができる。【ワーク】      (エ)読み取ったことを根拠に筆者の意図を考えること ができる。【発言・ワーク】
 6

結論(23〜26段落)を読み,筆者が伝えたいことを考える。

題名との関わりをつかみ,題名につける副題を考える。

(エ)筆者の伝えたいことをつかみ,副題を考えることができる。【発言・ワーク】
 7 8 9 10

「春日北方言辞典」を作る。

教材文から,辞典作りに必要となる記述を確認し,辞書作りの計画を立てる。

辞書等を参考に記述する項目を確認する。

身の回りの方言を調べ,辞典作りをする。

(エ)辞典作りに計画を見通して取り組んでいる。【観察】    (イ)計画や活動内容を踏まえて話し合いをしている。【観察】  (ウ)調べたこと・話し合ったことを辞典に合わせた書き方で書いている。【作品】
 11

グループで作成した辞典について紹介・説明をする。

作成した辞典の内容について紹介し,語句の説明をする。

(ア)お互いの作品について興味を持って発表会に参加している。【観察】
 12

単元の振り返りをする。

本単元の学習で学んだ知識や技能について,到達状況を各自で振り返る。

(ア)自分の学習への振り返りをし,これからの学習への目標を持つことができる。【ワーク・発言】

5 本時の学習指導 (4/12) 場所:春日北小学校体育館 時間:2校時

 (1) 目標

○ 辞典作りを念頭において,辞典作りの手がかりになる点や辞典作りの大変さを読み取ることができる

 ようにする。

○ 読みの視点を焦点化して読み取ることで,文章構成や筆者の表現の工夫に着目しながら要旨をつか

 み,題名の副題を考えることができるようにする。

 (2) 展開

児童・生徒の学習活動
教師の指導・支援(※評価)
前時の学習を想起する。

○前時でまとめた読み取る課題を確認する。
・「広辞苑」はどのようにして作られたか。
・見出し語の数が多いのはなぜか。
・「並たいていのことではない」とはどんなことか。
* 前時の学習の課題を踏まえて学習に取り組もう

としているか。【観察】


学習のめあてを確認する。
筆者の言いたいことを探るために,本論の秘密を見つけよう。パート1
○秘密を見つけるために,本時では本論を大まかに読み取っていくことを確認する。

 

主語に着目しながら読み,本論の構成をとらえる。

・大きく2つに分かれることに気付く。


○各段落の最初の文にある主語にサイドラインを引かせる。
    ・主語が見つからない子には述語に目を向けて

から  主語を探すように声かけをする。

 
    ・主語のない部分については詳しく取り上げず,

大まかな構成が読み取れればよい。


○サイドラインを引いた部分をワークシートに書かせ,数人に発表させる。


*主語にサイドラインを引くことができ,大まかな構成に気付くことができたか。【教材文,ワーク,発言】


各段落のキーワードを見つけ,本論に書かれていることのまとまりをとらえる。

・「辞苑」について,書かれている部分と辞典作りについて書かれている部分,さらに,辞典作りの中で言葉に関わる部分と説明に関わる部分があることに気付く


○同じ言葉や同じ意味の言葉に着目してサイドラインを引かせる。


  ・一人で見つけさせる時間を確保し,その後,数

人で線を引いた部分を確認させる。
  段落6:広辞苑の作者
  段落7〜11:辞苑,改訂
  段落12〜22:

辞典作り,再開,問題,課題,現代仮名遣い,見出し語, 新しい言葉,言葉探し,集められた言葉,説明,吟味


○ワークシートにキーワードで分けたまとまりを書き込ませ,数人に発表させる。


*キーワードを見つけることができたか。【教材文】


*キーワードから本論に書かれていることのまとまりをつかむことができたか。【ワーク・発言】


主語やキーワード,大まかな構成から,筆者が本論で述べていることを確認する。 ○まとまりごとに述べられていることを確認し,筆者が一番言いたいことが見つけられるかどうか考えさせる。

 

次時の活動について確かめる。 ○本時の学習方法を確認し,次時でも同じような学習方法で筆者の伝いたいことを見つけていくことを確認する。

 

参考資料
指導案【PDF】
ワークシート(4〜5時)【PDF】
説明文自己診断表【PDF】  
ワークシート(3時)PDF
ワークシート(6時)【PDF】
説明文を読むための技【PDF】

6 児童・生徒の反応

○ 本単元を始める前に説明文自己診断表に自分の力を確認したことで,文章を読む取るための技能を

意識しながら授業に取り組めた。

○ バラバラにした段落を再構成する時間は,文章量が多く時間がかかった。真剣に取り組んではいた

が,量的なもの,質的なものを子どもの実態に合わせる必要がある。

○ 本時での主語・キーワードを見つける場面では,悩む子も数多くいたが,自分なりにいくつか探し出

すことができ,みんなで言葉を出し合うことで,「あんなことばもキーワードなんだ」と気付くことができた。

○ 題名の副題をつける段階では,自分たちなりに根拠を挙げ,楽しく意見交換ができた。また,副題を

考えることで,言葉にこだわり,大切なことを短くまとめていくことができた。

○ 方言辞典作りは,たくさんの方言を考えるうちに自分たちの使っている言葉のほとんどが方言だと気

づき,たくさんの見出し語の候補が出された。

7 授業を終えて

○ この講座の「読解力の向上を図る」というねらいから,「基礎的技能の定着」と「活用」に焦点を当て

て授業に取り組んだ。また,学習指導要領改訂により指導事項に新しく加わった「目的に応じて本や文

章を比べて読むなど効果的な読み方を工夫すること」の中にある「概観しながら摘読する」という活動を

本時では心がけた。

○ 基礎的技能(主語見つけ,キーワード見つけ,段落の要点まとめなど)については,事後の協議の中

でも話題に挙がった。「自分の学級の子どもたちはキーワードの見つけ方を知っているのか」「要点をま

とめさせる指導をきちんと行っているのか」などであったが,教師自身が意識して指導し,活用させる場を

設けることが必要であると感じた。

○言語活動を単元の柱に持ってくることで,子どもたちの意欲や教科書教材の利用価値が高まってくる

ことを実感した。教科書教材を読むことが目的ではなく,目的に向かって教科書教材を利用するという意

識も大事にしていきたい。そのためには,言語活動の目的や教材とのつながりをきちんと考えておく必

要があった。実際に本単元では,言語活動と教材との関わりが薄いように感じていた。その分,子どもた

ちの意欲も十分高まらなかったのではないだろうか。