○ 学習指導案     小学校第3学年 「 道徳 」 


1 主題名 『みんな生きている』 【内容項目 3−() 生命尊重】
                                    (平成20年10月実施)
2 資料名 『ヒキガエルとロバ

  (出典 小学校読み物資料とその利用 文部省(現文科省)刊)       

授業実践者:野中 皇児

3 主題設定の理由

ねらいとする価値について
 人間は、同じように生命ある動植物との共生を図りながら生きている。しかし一方では、自然界や動植物からの恩恵を享受しながらも自然破壊を引き起こしたり動物を絶滅させてしまうなど、解決すべき課題が山積している。家族の在り方や社会変化に伴う、生命の重みを身近に感じられる機会の減少などにより、生命を軽く見たり軽く扱ったりする事件等が数多く起こっている。そこで、共生を考えるとき、すべての生命が、自分と同じように一つの生命であることを再認識させ、かけがえのない生命を尊重し、大切にしていこうとする心を育てることは不可欠なことであると考える。
児童について
 本学級の児童は、動植物が好きである。育てたり観察したりすることに興味を持って取り組み始める。しかし、段々と世話がおろそかになり、ホウセンカを枯らしたり、自分たちで飼おうと決めたカブトムシやクワガタもほったらかしになったりしたことがあった。嫌い(苦手)な動物がいるかどうかの事前調査を行ったところ、34人が「いる」と答え、3人が「いない」と答えた。34人の理由のほとんどが「気持ち悪い」「汚い」等であった。「同じ生き物」として考えている児童は1人であった。子どもたちに、嫌い(苦手)な生き物に出会ったら、どういう行動をするかを問いかけ本時のめあてへとつなげたい。
資料について
 本資料には、アドルフたち3人の男の子が登場する。学校の帰りにヒキガエルを見つけ、石を当てようと投げていたところへ、荷車を引いたロバがやって来る。ロバは足下にいる傷ついたヒキガエルに気が付く。農夫からムチで叩かれながらも、荷車でヒキガエルをひき殺さないように足をふんばり、ヒキガエルのいるくぼみをよけて、通り過ぎる。その一部始終を見ていたアドルフたちは、ロバの行動に心を揺り動かされるという話である。場面構成が分かりやすく、登場人物の心の動きもとらえやすい資料である。また、この3人の行動の基となっている、嫌なものを排除しようとする心は、多かれ少なかれ、誰もがもっているものであると言える。このことに気付かせその上で、本時のねらいに迫っていきたい。
   ○ 指導について
 まず、導入において、ヒキガエルの写真を提示する。そして、「嫌い」「気持ち悪い」などの反応が出たところで、「嫌い(苦手)な生き物にはどう対応しているか」を尋ね、本時のめあてにつなげる。展開では、まず、アドルフたち3人が石を投げている場面において、子どもたちの経験を引き出しながら、ヒキガエルに対する感情に共感させる。次に、ロバがヒキガエルをよけた場面において、苦しくてもよけて通ったロバの行動を支えている心の中を考えさせる。そして、そういうロバの行動の一部始終を見ていたアドルフたち3人の心の中を再度考えさせる。そこで、「同じ生命」や「一つしかない生命」といったねらいとする価値にかかわるキーワードとしてまとめられるように、子どもの発言を整理して板書したい。終末では、みんなで「手のひらを太陽に」の歌を歌うことで、歌詞に込められたやなせたかしさんからのメッセージを感じ取らせながら、本時の学習を印象付けたい。 

4 本時のねらい

  自分が嫌いな生き物であっても、自分と同じように生きているということにあらためて気付かせ、
 好き嫌いに関係なく命あるものを大切に考えようとする気持ちを育てる

5 展開

学習活動 主な発問と予想される反応 指導上の留意点

 ヒキガエルの写真を見て、嫌
 い(苦手)な生き物のことに
 ついて考える。

T「この生き物が何か知っていますか?」
C「ぼくは触ることができる」
C「カエル、気持ち悪い」
・ヒキガエルの写真を黒板に貼る。
・事前にとった「嫌い(苦手)な生き物」に関する
 アンケート調査の結果を知らせる。

  ※以下、「嫌な生き物」と統一する。

 めあてを知る。

T「嫌な生き物が現れたらどうしています
  か?」

C「家の人に言う」
C「逃げる」
C「殺す」
・嫌な生き物などに出会ったとき、どうしているか
 を尋ね、本時のめあてにつなげる。

・「嫌な生き物に出会ったとき、どういう気持ちを
 もつことができればよいのかを考えよう」とめあ
 てを板書する。

 資料「ヒキガエルとロバ」を読んで
話し合う。

T「アドルフたち3人は、どんな気持ちで
  石をぶつけていたのだろう?」

C「あっちに行け〜」
C「ぶつけてやる〜」
C「いじわるしてやろう」

T「くぼみにいるカエルをよけたとき、
  ロバはどんなことを考えていたのだろ
  う?」

C「かわいそう」
C「つぶしてはいけない」
C「同じように苦しんでいるんだな」

T「遠くに去っていくロバの姿を見ていて
  アドルフたちはどんなことを考えただ
  ろう?」

C「いじわるしてはいけない」 
C「みんな同じ命だから大切にしないとい
  けない」
・嫌いな生き物を排除しようとする気持ち、残酷な
 気持ち、面白半分の気持ちなどを出させ、過去の
 経験と比べさせながら、誰でも似たような気持ち
 を持っていることに気付かせる。



・切り返して発問したり、1人の考えを全員に広げ
 たりしながら、ロバがカエルを見てどう感じたの
 か、どんなことを考えたのかを発表させる。自分
 が苦しいにもかかわらず、くぼみをよけたロバと
 アドルフたちとの違いを引き出していきたい。



・ロバの行動から、自分たちの行動をふり返るアド
 ルフたちの考えに共感させたい。

・生きているものには、みんな1つの命があること
 に気付かせたい。

 めあてに対する自分の考えを書く。

T「嫌な生き物と出会ったとき、どういう
  気持ちをもてばよいのか、今日の学習
  で考えたことを学習カードに書こう。」
・「同じ命」「みんな生きている」といったキーワ
 ードを記述している子どもに、意図的指名で発表
 させる。

・キーワードを板書する。
  本時の道徳の時間の評価をする。 T「今日考えたことをこれからも心にもち続け
  ていきたいと思ったか、どれくらい心に響
  いたか、カードに書いてください。」
・実践意欲の自己評価と、今日の道徳が心に響いた
 かどうかを、3段階で評価させる。

・時間がある場合は評価の理由まで簡単に書かせる。
 「手のひらを太陽に」を歌う。 T「アンパンマンの作者の、やなせたかし
  さんが作詞をされたって知ってました
  か?」

C「知ってる」
C「知らなかった」 
歌詞プリントを配り、やなせたかしさんや歌詞の
 意味を解説した後で、歌を歌わせる。
・歌を知らない子どもに、無理に歌わせることはせずに、
 歌詞を見ながら音楽を聴かせる。
       

6 児童の反応


  

・何もせずにそっとしておこうと思いました。
・「この生きものも生きているんだ」という気もちできらいな生きものを見る。
・気もちわるいけど、1つ1つにいのちがあるという気もちをもつことがわかった。
・生きものにやさしい気もちをもつようにしたい。

7 授業を終えて

 普段の道徳の時間をいかに底上げするかをテーマに内容を考え、副読本にあるような読み物資料を用いた。「本時のねらい」(前半部分を【気付かせたい考え方や感じ方】、後半部分を【教師が願う終末での子どもたちの心の有り様】のように表記すると授業展開の見通しがもちやすい)、「評価の在り方(【ねらいと評価の一体化】、【すべての子どもにできる評価】)」、「導入と終末の工夫」の3点をテーマとし、提案授業を行った。