○学習指導案  中学校第2学年 「 道徳(情報モラルをはぐくむ) 」


1  主題名 「信頼し合える関係」2−(3) 信頼・友情 (平成19年9月実施,38名)
   資料名 「メールの友情」(ブラックジャック Karte18)

授業実践者:足立 成美

2 主題とその指導について

 ねらいとする価値について
 人とのかかわりの中で生きていく人間にとって、互いに心を許しあえる友達をもつことは必要かつ尊いことである。しかし、真の友情とは互いを認め合い高め合える関係であり、相互の厚い信頼関係によって結ばれていなければならない。とかく己を中心に物事をとらえがちな人間にとって、互いを信頼し合う関係を築いていくことはたやすいことではない。だが、自分のすべてを受け入れ、共に高め合おうとしてくれる他者の存在があれば、人はどんな困難にも立ち向かう強い心をもつことができるのである。
 情報化社会の進展によって、友達関係の在り方も多様化してきた。面識がない相手と友情を結ぶこともできれば、それゆえに思いもかけず人を傷付け大きな事件に発展することもある。社会が大きく様変わりする中、真の友情を結ぶことの尊さやそのために必要な心について考えることは意義深いことと考える。

生徒の実態について
中学生のこの時期の生徒たちは、親や教師などの頼っていた存在から精神的に独立し、自分を理解し受け入れてくれる友達の存在を求めるようになる。本学級の生徒もそれぞれの交友関係の中で、心から自分のことを打ち明け合い、互いを認め合える友達を求めようとしている。
 メールに関するアンケートの結果を見ると、学級の半数の生徒が友達とメールのやりとりをしており、メールをコミュニケーションをとる手段として使っていることが分かる。また、4割の生徒は、相手がメールで伝えていることは信用できないという考えをもっており、危険性についても知識をもっている。しかし、情報ツールもモラルを守り、豊かに使っていくことができればコミュニケーション手段として素晴らしいものである。真の友情を求めるこの時期にこそ、友情のすばらしさを感じさせ、情報ツールを豊かに活用し、より一層深い友情の絆を結んでいこうとする心情をはぐくみたい。

  資料の活用について 
本時の資料「メールの友情」は、手塚プロダクション製作「ブラックジャックKarte:18メールの友情」を、発売元の許可を得て教材として活用する。
 野球の試合でホームランを打ち、勝利に貢献したジュンは、その活躍をメル友のトムに伝える。一方、ニュージーランドで大牧場を経営しているトムも、そこで見た美しい光景をジュンにチャットで伝えるのだった。しかし、互いが伝えていたのは作り話で、ジュンは運動が出来ない体なのである。後ろめたさを感じながらもチャットを続けるジュンにトム来日の知らせが入る。嘘を隠すために手術を頼もうとブラックジャックを訪ねるが、1億円要求されるのだった。
 本資料の中学生の心のありさまに沿った感動的なストーリー展開は、原作が32年前のものであるにも関わらず、今でも友情について考えさせる力がある。主人公の気持ちに十分共感させながら、友情について考えさせていきたい。
  情報モラル教育の視点 (指導について)
携帯電話も普及し、気軽にメールができる環境にある現在、メールでつながっている友達いわゆる「メル友」という存在が浮かび上がってくる。「秘密性」というメールの特殊な性質の中でつながっていく人間関係は、危険性も併せもっている。人とつながりたい目的でメールの世界にのめり込んでいく現代人だが、どんなにありさまが変わっても関係を築く上で忘れてはならない敬愛の念がある。また敬愛の念をもつことで、場合がどうであっても尊い友情関係を結ぶことができるはずなのである。情報ツールを通してはぐくむことができた真の友情の尊さに触れ、敬愛の念の存在を感じさせることで適切な判断力をはぐくみたい。

3 ねらい

面識のない友達との間に生まれた友情の尊さを理解することで、厚い信頼関係で結ばれた真の友情をはぐくんでいこうとする心をもたせる。

4 展開

過程 学習活動 主な発問 指導上の留意点






























































1 メル友について考える。





2 「メールの友情」について話し合う。
   
 










 


























3 自己を見つめる。





4 教師の説話を聞く。
○ メールをすることだけでつながっている友達についてどのようなことを感じますか。
 ・あまり自分のことを話せない感じ。
 ・本当の友達にはなれないだろう。


☆ 本当は運動が出来ないのに 「今日も野球で大活躍さ。」 と嘘のメールを送るジュンをどう思いますか。
          【情報モラルにかかわる発問】

 
・嘘をつくなんてよくないな。
 ・実際会ったこともないから本当の友達じゃないのだろう。
 ・メールだからわざと嘘をついているのかもしれない。

○ ジュンは嘘のメールを送っているときどんな気持ちでいると思いますか。
 ・嘘をついている事がいつかばれるのではないか。
 ・本当に野球ができればこんな嘘をつかなくてもいいのに。



○ ジュンはどうして心臓の手術をブラックジャックに頼みに行ったのでしょうか。
 ・トムに嘘をついていたことを知られたくない。
 ・もし嘘をついていたとトムが知ったら絶交されてしまう。








◎ ジュンがトムに絶交すると言ったときどんな気持ちだったと思いますか。 
 ・トムの自慢話にうんざりした。
 ・自分が嘘つきになるくらいなら、絶交した方がましだ。
 ・本当は絶交なんかしたくないのに。






○ 絶交を言い渡されたトムは ジュンにどのようなことをしたでしょう。映像を見てみましょう。


○ 今日の学習を通して考えたことを書きましょう。


○ 事前にとったアンケートを生徒に提示し、友情について考えるきっかけにする。




○ メールのもつ特性を踏まえた上で の率直な考えを出させたい。互いに 相手が見えていない状況であることを伝えることで、揺さぶりたい。






○ ジュンの置かれている状況や嘘のメールを送ったあとの表情に注目させ、友達に嘘をつく辛い気持ちを考えさせる。

たった一人の友達に嘘をついている辛い気持ちを感じることができる。

 

○ 母親は本人が野球をしたいためだと思っているが、ジュンは友達に自分の嘘を知られたくないために手術を受けたがっていることに気付かせたい。そのことからジュンがこの友情を壊したくないと思っている事を考えさせる。
野球をしたいからではなく、トムとの友情のために手術を受けたがっていることに気付き、この友情をどれほど大事にしているか感じることができる。

 


○ トムが自分の自慢話をしたことが 絶交をしたきっかけになっているものの、絶交はジュンの本心ではないことに気付かせる。
 
ジュンの複雑な気持ちを理解し共感した上で、本当は絶交したくない気持ちに気付くことができる。
  ジュンの複雑な気持ちを適切に理解させるため、場合によってはグループ協議をし、深めさせたい。

○ 最後のシーンは見せないでおき、 嘘も許し合えるような深い友情で結ばれていたことに感動させることで、 その尊さを感じさせたい。

○ 自分自身の体験を踏まえながら尊い友情の価値をとらえさせたい。
情報モラルにかかわる考えも出ることを期待したい。


○ 余韻を残して終わる。
※ 資料等
指導案【一太郎】
指導案【PDF】

6 児童・生徒の反応

  • ○ メールだけでつながっている友達とは、真の友情は築けないと思っていた生徒のほとんどが、終末で「メールで知り合った相手とでも真の友情が築けることが分かった。メールもいいものだな。」という考えをもつようになっていた。相手と友情をはぐくみ合う手段として情報ツールを活用しようとする前向きな態度を養う機会となった。
  • ○ 信頼し合える関係を結ぶことの素晴らしさや、真の友情を築き合うことの尊さを理解し、そんな関係の友達をもちたいと思えるようになった。

7 授業を終えて

  • ○ あくまで道徳としてのねらいを追っていきながら、いかに情報モラルをはぐくんでいくか、という課題をもっていた授業であった。しかし、生徒は資料の魅力もあってか、真の友情について考えつつ、情報ツールを豊かに前向きに活用していこうという態度を身に付けることが出来ていた。
  • ○ 本授業は、H17,18年度プロジェクト研究「道徳を通して培う情報モラル」の研究の一環として取り組んだものである。この研究についての詳細は、センターホームページをご覧いただきたい。