○ 学習指導案     小学校第6学年「道徳」 


1  主題名 『思いやりの心の尊さ』 【内容項目 2−()思いやり・親切】
                               (平成19年10月実施,児童数27名)
2  資料名 『優先席/優先座席』(YUSUKE HOMEPAGE)
『席を譲らなかった若者』一部改作(Seesaaブログ らくだのひとりごと)
       

授業実践者:野中 皇児

3 主題設定の理由

ねらいとする価値について
 人は,多くの人々に,直接的あるいは間接的に支えられて生きている。そのことを理解し,そのことに感謝し,それに応えようとする(自分がすべきことを自覚し,できることをしようとする)ことが人間として生きていく上でとても大切なことである。しかし,徳目的なことは,頭ではわかっていてもそう簡単に実践できないのも,また人間である。なぜかというと,現実には,人々の諸事情や様々な考えが複雑に絡み合っているからである。そこで,相手の気持ちや立場を思いやって行動することの素晴らしさを感じとらせることで,これからは,もっと積極的に,自分にできることをしていこうとする気持ちを育むことにつながると考える。
児童について
 本学級の子どもたちは,だれに対しても思いやりの気持ちをもって接することが大切だと分かっている。様々な行事や活動の中で,6年生として,下級生に対しては優しさを持って接することができている。しかし,友達同士になると恥ずかしさや遠慮が見られ,行動に表せないことがある。また,照れを隠すためか,わざと思いやりのない態度をとるような子どももいる。日々の生活の中で「自分さえよければいい」というような言動が見られることもある。こういう子どもたちに,だれにでも思いやりの心を持って接したり,人のために自分ができることはしたりしていこうという気持ちを育てていくことはとても大切なことだと考える。
資料について
 展開で用いる資料『席を譲らなかった若者』は,当時,ブログランキングで1位(1日約1万件)になったほど関心を集めた実話である。男性1人,女性2人のハイキング帰りらしい高齢者が電車に乗り込み,席が空いてなかったので立っていた。その目の前の座席に若者2人が座っていた。仲間の女性2人を座らせたいと思い,高齢者の男性が「最近の若い者は年寄りを立たせても平気なんだから」と言った。それを聞いた若者は,「山は歩けるのに電車では立てないの?こっちは,やっと席を見つけて座ったんだよ。」と答える。子どもたちは,この資料をもとに,双方の立場を考えていろいろな意見を出すであろう。自分と友だちとの考えの違いを比べながら,思いやりの気持ちや,自分の生き方,考え方を見つめるのに適した資料であると言える。
   ○ 指導について
まず導入において,インターネット上にアップされているいろいろな優先席のマークをパソコン画面で見せて前時を思い起こさせる。さらに,このことについて数人に意見を言わせ,本時のねらいとする道徳的価値への方向づけをする。展開においては,「席を譲らなかった若者」のブログを実際にパソコン画面で見せたあと,大きな話題になったことなどを簡単に紹介し,一部改作した資料を提示する。はじめに,高齢者と若者の両方の気持ちを理解させるため動作化を仕組む。次に,役割演技をさせることで,思いやりの心の大切さについて考えさせる。その後,思いやりについての自分のこれまでの経験を道徳カードに書かせる。最後に,3段階の基準で自己評価させることで,今後,自分ができることはしっかり実践していこうとする意欲が高まったかどうかを評価したい。終末では,お年寄りに実際に席を譲った人の話(新聞の投稿記事)を紹介し,「思いやりの心」「自分にできることを進んで実行すること」について,記事の内容をもとに子どもたちの考えを揺さぶりたい。

4 学習計画 (1時間)

   本時の学習の前に,公共の乗り物に「優先席」が必要だと思うか,それぞれの考えを述 べ合う学習を仕組む。このことで,「優先席」,及び「思いやり」という道徳的価値に対 する一人一人の価値観を把握しておき,本時へとつなげたい。

5 本時のねらい

・席を「譲る」「譲らない」の話し合いを通して思いやりについて考えさせ,そのことについて の自分の経験を書くことができる。
・互いに思いやりの気持ちで接していくことの大切さを感じとり,実践への意欲をもつことがで きる。

 6 展開

学習活動 主な発問と予想される反応 教師の指導・支援(※評価)

優先席にもいろいろなマークがあることと,優先してほしい対象がお年寄りだけではないことを知る。

○この中で初めて見たマークはどれですか。
 「赤ちゃんがいるお母さんのマーク」
 「おなかが大きい人」

・インターネット上にアップされているいろいろな優先席のマークをパソコン画面で見せて前時(どんな人を対象に優先席が設けられていると思うか,優先席はいるかいらないかの話し合い)を思い起こさせる。さらに,このことについて数人に意見を言わせ,本時のねらいとする道徳的価値への方向づけをする。

『席を譲らなかった若者』の資料を見て,それぞれの立場の気持ちを考える。

高齢者の男性は,なぜ若者に「立たせても平
 気なんだから」と言ったのでしょう。

  「席をゆずらないから」

○若者はなぜ席をゆずろうとしなかったのでし
 ょう。

  「やっと席に座ったから」

・実際にパソコン上の画面で見せたあと,大きな話題になったことなどを簡単に紹介し,一部改作した資料を与える。
・「高齢者には席をゆずらなければいけない」という一面的な見方,考え方ではなく,それぞれの事情や気持ちが考えられるようにする。

両方の立場になって,動作化をする。

○実際にその立場になってどう思いましたか。
  「若い人は,ゆずらなくていいと思った」 
  「言い方が悪いと思った」

・リボン等で立場を明確にさせ,それぞれの立場になりきる動作化をさせる。その後,動作化してみての感想を発表させる。その場が凍り付いたような雰囲気になった原因がお互いに思いやりの心が足りなかったことに気付かせる。

役割演技をして,その感想を話し合う。

○先ほどと比べてどうでしたか。
  「思いやりの心をもって,言い方に気をつけ
 ることが大切だと思った」

  「おじいさんにお願いしますと言われたら譲
 ろうという気持ちになった」

・資料のセリフに続いて,少なくとも一言ずつは即興でやりとりをするように指示する。
・代表ロールプレイをさせる。

・役割演技を通して,自分がしてみて思ったことや,友だちの言動から思ったことなど,感想を話し合わせる。
・思いやりのある言い方や態度が,席を譲る行為にも大きな影響を及ぼすことに気付かせる。

自分の経験を想起し,お互いの経験を認め合う。

○思いやりの心で何かしようと思ったことや,
 実際にできた経験はありますか。

  「できなかったけど,困っている人を見て助
  けてあげたいなと思ったことがある」

・道徳カードに,思いやりに関する自分の経験(心の経験も含む)を書かせる。その後,隣同士でお互いにカードを交換させ,その経験について認め合わせる活動を仕組む。
 自己評価する。   ・「思いやりの心で自分にできることはしていきたいと思ったか」と問い,3段階で自己評価をさせ,実践意欲の高まりを自覚させる。
 教師の話を聞く。   ・補助資料として,席を譲った人のことが載った新聞記事を提示し,「思いやりの心」について,子どもの心を揺さぶる。
・今日の道徳の時間について,「心に響いたか」と問い,5段階で授業評価をさせる。

7 児童の反応




・下級生のことを考えて,分かりやすい説明をしたりした。 ・ドアを開いて,他の人を優先してから自分も行った。
・忘れ物をした人に,教科書を課してあげた。 ・友達が物を落としたときに拾ってあげた。
・友達が給食の食器を持っていて,重そうに持っていたから,一緒に持ってあげた。
・先にいいですよと言ってゆずった。

8 授業を終えて

  『コンピュータを活用した道徳の授業づくり』というテーマでの講座授業であった。授業を構想するにあたって,以下の2点に留意した。
@コンピュータを活用した良さが授業に現れるようにしたい。活用しなかった授業に比べて,何らかのプラ   ス面が分かる授業にしたい。
Aコンピュータ操作の得意不得意や知識理解に関係なく,誰でもが「やってみよう」「これだったら自分にも  できそうだ」と思えるような,内容を提案したい。
 そこで,ネット上のブログを資料として用いることにした。また,終末に用いた新聞記事を,プレゼンテーションソフトをつかって作成することにより,子どもたちの心に残る終末にすることができたと考える。