○ 学習指導案  中学校第2学年 「 選択技術・家庭科(家庭分野) 」


1  単元名 「私たちの地域の食文化」 (平成16年9月実施,14名)
        〜灰汁作りからのこんにゃく作り〜                                     

授業実践者:吉冨 和子授業実践者へのメールはこちらから

2 題材について

平成14年度からの実施の新学習指導要領では,中学校では,「小学校教育の基礎の上に,社会生活に必要な基礎的・基本的な内容を確実に習得させるとともに,選択学習の幅を拡大し,個性を伸長」と記されている。選択教科としての「技術・家庭」においては生徒の特性等に応じ多様な学習活動が展開できるよう,「A生活の自立と衣食住」「B家族と家庭生活」の内容,その他の内容で,「課題学習」,「基礎的・基本的な知識と技術の定着を図るための補充的な学習」,「地域の実態に即したり各分野の内容を統合したりする発展的な学習」などの学習活動を各学校において工夫してとり扱わなければならない。今,食生活をめぐる新しい動きとして,日本をはじめ世界中で「スローフード」の運動が広まっている。「スローフード」とは,もともとは,北イタリアの小さな町で始まった運動で地域の食文化を大切にし,食事だけでなく会話も楽しめる生活を大切にしようというものです。佐賀はまさしく「スローフード」の宝庫であり,県全体で「地産地消」に取り組み始めている。

学校の実情により,選択の授業の内容は様々である。学習指導要領の改訂により,3年生の授業時間が35時間となり,必修の時間の中では,基礎・基本の定着が大半を占め,発展的な学習まで深める余裕がないのが現状である。大和中の生徒は,地域の豊かな農産物や地域に伝わる伝統料理に触れる機会が乏しくなっている。そのため,地域の食についての知識も経験も少ない。大和町も大型商業施設ができたことなどにより,豊かさや便利さの陰になり,先人が築いた食文化が中学生に伝わる機会が少なくなってきている。食に関する伝統文化は,長い年月をかけて味や保存などの面からいろいろな工夫が積み重ねられ,栄養面でも優れた点がある。

そこで,指導にあたっては,必修内容(2)「食品の選択と日常食の調理の基礎」との関連を図り,食生活に関する学習の発展的な学習として,自分の故郷・大和町の地域の食材を知り,地域に伝わる伝統的な食文化に触れ,その中に込められている昔の人の知恵や技能,環境への配慮,食べ物に込められた心などをつかんでいく学習としたい。限られた時間での学習のため,ここでは,「こんにゃく」と言う地域の農産物を通し学習をすすめていく。日頃食べているこんにゃくの原材料の実物に触れさせる。また,そのこんにゃく芋からこんにゃくに加工する体験学習を仕組み,その加工過程の中で,市販の食品添加物を用いた方法と,灰汁という自然の中から考え出されれた天然の凝固剤を用いた方法を体験することにより,生徒たちは,食品添加物,安全な食物,地域の農産物,また,手作りのおいしさ・温もりなどそれぞれに学びとるものがあると思う。指導に当たっては実験・実習を中心とした指導を行い,この学習で得た知識・技能を用い,これからの生活が充実したものになるようにさせたい。また,中学生の時期にこのような,学習を仕組むことによって,地域の食に関する学習から,人や地域との触れ合い,生涯にわたり学習を深めていくきっかけになるようになるのではないかと考えた。

3 題材の指導目標

(1)

地域の食材の学習を通し、地域に伝わる伝統的な食文化にふれさせる。

(2)

天然のアルカリ性の凝固物の灰汁やこんにゃくを作ることを通し食文化の中で昔の人の知恵の尊さを学ばせる。

 4 題材の評価規準

5 題材の指導計画 (全6時間)

6 本時の学習指導 (9/30) 場所:調理室 時間:1校時

  小題材名 「植物から灰汁を作ってみよう」

 (1) 目標

 天然の凝固剤の灰汁をつくることができる。(技能)

 (2) 準備した道具及び教材
  ・ こんにゃく芋
  ・ 水酸化カルシウム(Calcium Hydroxide)食品添加物
  ・ ごま殻
  ・ ワラの穂先
  ・ ph試験紙
  ・ ペーパーフィルター

 (3) 展開 (4/6時間目)

生徒の活動 教師の指導と支援(※評価)

学習のめあてをつかむ。

《学習課題》

     ごま殻から灰汁を作ろう

灰汁の作り方を確認する。
   完成を確認する昔の人の知恵とは



灰汁作りを実習する。

 
生徒の実習の様子





まとめをする。

生徒の感想
教師の話



後かたづけをする。

これまでの学習を想起させ,見通しをもって実習させる。




ビデオで地域の方(大和町:笠原絢子さん)の実際の作り方を見せる。
  灰汁作りの手順
ごま殻を焼き,灰を作る。
水の入った鍋に灰を入れる。
火にかけ3分位煮る。
紙で漉す。
漉した灰汁の出来を、ワラの穂先で確認する。
 (すくい上げて,膜ができれば完成)
PHを計る。(PH11位)
実習はグループ活動で行うが、「ごま殻を焼く」
「ワラの穂先で濃度の確認」「phを計る」などは個人の体験を多くさせるように、個人実習をする。



自然の素材から、凝固剤の灰汁作りから、学んだことをまとめさせる。
活動チェック・ワークシート【規準ウ】



本時で作った灰汁を用い、次時はこんにゃくを作ることを知らせ、実習への意欲を喚起する。

本時の学習指導 (12/7) 場所:調理室 時間:6校時

 本時の小題材名「地域に伝わる昔ながらの方法でこんにゃくを作ろう」

(1) 目標

こんにゃく芋からこんにゃくを作ることができる。(技能)

(2) 準備した道具及び教材
  ・ こんにゃく芋
  ・ 水(こんにゃく芋の重量の3倍)
  ・ 灰汁(こんにゃく芋の重量の2/5)
  ・ ミキサー
  ・ ゴム手袋(芋に含まれるシュウ酸の成分で手がかゆくなることがあるため)
  * こんにゃくはほとんどが水分なので、こんにゃく芋40gでひとかたまりのこんにゃくができる。

(3) 展開 (5/6時間目)

生徒の活動 教師の指導と支援(※評価)

学習のめあてをつかむ。

《学習課題》

     昔ながらの方法でこんにゃくを作ろう

こんにゃくの作り方を知る。

こんにゃく作りを実習する。
生徒の実習の様子

試食をする。

後かたづけをする。

まとめをする。

これまでの実習を想起させ,見通しをもって実習させる。
  こんにゃく作りの手順
芋の計量をする。
芋を8o位に薄く切る。
芋を柔らかくなるまでゆがき、冷ます。
(温かいと、柔らかすぎるこんにゃくになる)
ミキサーに芋と芋の重量の3倍の水を入れ攪拌する。最初はサラサラとした液体で、しばらく置いておくと膨潤してどろどろと変化していく。時間があれば、1時間ほど置いていた方がよい。
4の液をボールに入れ、灰汁を少しずつ加えてよく混ぜる。この混ぜ方が足りないとおいしいこんにゃくは出来ない。
手に水を付け、手の平くらいの大きさに丸める。
たっぷりの湯で20分ゆでる。
さしみこんにゃくとして、試食する。


自然の素材からこんにゃく作りをしてみてのまとめをする。
活動チェック・ワークシート【規準エ】
※ 資料等 指導案
学習プリント

7 生徒の反応

○食文化を学習する中で,様々な体験学習を組み込んだ。一つ一つの体験をする時,生徒の目は輝いていた。目と手を使い体験し,頭で「どうして」「この後,どうなるんだろう」などと,疑問や見通しを抱きながら学習していた。

○実習の過程で失敗した生徒がいた。教師が指示したわけではないが,限られた時間で一生懸命にやり直し自分の納得がいくまで行う姿が見られた。それは,生徒の興味・関心が高まりが感じられた。

○時間と手間をかけこんにゃくが出来上がった時の顔は成就観にあふれていた。試食後は手作りのこんにゃくを家族に食べさせるために大切に持ち帰る姿が見られた。

8 授業を終えて

○授業に外部講師を呼ばずに,外部講師がもつ技をビデオファイルに収め,授業ではパソコンとプロジェクターを用いて授業で活用した。時間や内容を編集して提示できるので生徒に分かりやすい手段だったようだ。

○この教材は自主編成教材である。地域に足を運び指導者自ら学びながら教材を作成していった。教材に対する教師の思い入れが生徒まで通じたようだ。指導書に依存するだけでなく生徒や地域の実態に合った教材を作り出していくことが生徒の学びを大切にするための有効な手段であるとが分かった。