平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査Web報告書

Web報告書もくじⅢ 各教科の調査結果の分析>小学校理科

Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

  ※中学1年生の調査については、小学6年生の学習内容としているため、小学校の項で分析している。

小学校理科

  学習の目的をもたせ、観察・実験を構想し、考えを表現させる授業を

 

評価の観点別正答率では、小学5年生の「自然事象についての知識・理解」と小学6年生の「科学的な思考・表現」、中学1年生の「科学的な思考・表現」「自然事象についての知識・理解」においては「おおむね達成」の基準を上回ったが、その他は下回る結果となった。今後は、児童に学習の目的を明確にもたせ、それを解決させるためにはどのような観察・実験を行うのか考えさせる必要がある。その上で観察・実験の予想や計画、考察の場などで自分の考えをもち、友達と交流するような言語活動や学習した内容と身の回りの自然事象との関連を図るような学習活動が必要である。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○自然事象への関心・意欲・態度

 ○科学的な思考・表現

 ○観察・実験の技能

 ○自然事象についての知識・理解

本調査では設定なし

「思考・表現」

「技能」

「知識・理解」

 

 

結果の概要

   
 

(ア)
教科及び設問毎正答率
 

 

 

教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「知識」・「活用」問題正答率

設問ごと正答率

 

 

教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 
(イ)

評価の観点別正答率

①小学5年生

図1 H25年度(小学5年生理科)評価の観点別正答率

「知識・理解」は13.3ポイント「おおむね達成」の基準を上回った。「技能」は0.3ポイント、「思考・表現」は6.3ポイントそれぞれ「おおむね達成」の基準を下回った。学習したことを基に事象の説明をしたり、学んだことと事象を関係付けて説明したりすることに課題が見られた。

小学6年生

図2 H25年度(小学6年理科)評価の観点別正答率

「思考・表現」は0.6ポイント「おおむね達成」の基準を上回った。「知識・理解」は1.8ポイント、「技能」は3.1ポイントそれぞれ「おおむね達成」の基準を下回った。へその緒の名称や実験の計画、顕微鏡のピント調整など基本的な知識や観察・実験の技能に課題が見られた。

③中学1年生

図3 H25年度(中学1年生理科)評価の観点別正答率

「思考・表現」は7.6ポイント、「知識・理解」は0.6ポイントそれぞれ「おおむね達成」の基準を上回った。「技能」は3.6ポイント「おおむね達成」の基準を下回った。条件を制御して行う実験や、水溶液の特定をする実験について課題が見られた。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

①小学5年生

図4 H25年度(小学5年生理科)内容・領域別正答率

「生命・地球」は8.3ポイント、「物質とエネルギー」は1.5ポイントそれぞれの「おおむね達成」の基準を上回った。「物質・エネルギー」では、金属、水、空気と温度による体積変化や熱の伝わり方に課題が見られた。

②小学6年生

図5 H25年度(小学6年生理科)評価の内容・領域別正答率

「物質・エネルギー」は、6.8ポイント「おおむね達成」の基準を下回っている。「生命・地球」は、1.4ポイント「おおむね達成」の基準を上回っている。「物質・エネルギー」は電磁石の性質、もののとけ方、「生命・地球」では、生命のつながりについて課題が見られた。

③中学1年生

図6 H25年度(中学1年生理科)評価の内容・領域別正答率

「物質とエネルギー」「生命・地球」は共に「おおむね達成」の基準を上回っている。「生命・地球」では、月と太陽や土地のつくりと変化に課題が見られた。

 


   

経年比較 

   
 

評価の観点別に見ていくと、「技能」はどの学年においても「おおむね達成」の基準を下回った。そこで、平成24年度の小学5年生と平成25年度の小学6年生を取り上げ、「観察・実験の技能」に関する経年比較を行い分析することとする。また、平成24年度の問題から、同一問題を出題している観察・実験の技能を問う問題について分析する。

学習指導要領では、理科学習において科学的な見方や考え方の育成に重点をおいていることから「思考・表現」と「活用」に関する問題の経年比較を行う。

   
(ア)

 「技能」の経年比較
①平成24年度小学5年生と平成25年度小学6年生(同一児童)

図7 H24・H25年度(小学校理科)「技能」正答率の経年比較

平成24年度の小学5年生では、「おおむね達成」の到達基準60.0に対して、正答率は43.7で16.3ポイント下回る結果であった。平成25年度の小学6年生は「おおむね達成」の到達基準61.3に対して、正答率は58.1ポイントで3.2ポイント下回った。これを到達度分布で比べてみると図8のようになる。

8 H24年度小学5年生とH25年度小学6年生「技能」の到達度分布

平成24年度に比べて平成25年度は「十分達成」の割合は5.1ポイント、「おおむね達成」の割合は22.0ポイント増加している。平成25年度の小学6年生の「技能」の問題についてみてみると、種子の発芽を確かめるために条件制御をする実験、顕微鏡の使い方や電子天秤での質量の量り取り方などが出題されている。小学5年生で身に付けさせる力である、条件を制御する力が身に付きつつあると考えられる。高学年の観察・実験はグループ実験になりがちであるが、ペア実験や一人一実験を取り入れていただいていると思われる。しかし、「おおむね達成」の基準に届いていないことから、今後も継続的な取組が必要である。

②平成24年度中学1年生と平成25年度中学1年生(同一学年)

図9 H24・H25年度中学1年生(中学校理科)「技能」正答率の経年比較

平成24年度の中学1年生では、「おおむね達成」の到達基準61.1に対して、正答率は66.6で5.5ポイント上回る結果であった。平成25年度の小学6年生は「おおむね達成」の到達基準60.0に対し正答率は56.4で3.6ポイント下回った。これを、到達度分布で比べてみると図10のようになる。

図10  H24・H25年度の中学1年(同学年)の「技能」の到達度分布の経年比較

平成24年度に比べて平成25年度は「十分達成」の割合は2.4ポイントで増加しているが、「おおむね達成」の割合は20.2ポイント減少している。「要努力」の割合が17.7ポイント増加し、課題が見られる。平成24年度は、実験を行うための条件について問う問題に関して課題が見られたが、平成25年度も同様の傾向が見られた。平成25年度の問題では、「植物の葉に日光が当たるとでんぷんができることを調べるための前提条件」を問う問題や「水溶液を特定するための方法」である。「なぜそのようにするのか」「正しい結果を導き出すためにはどの条件を揃え、どの条件を違えるのか」ということを考えさせる時間が十分に確保できていないことが理由の1つとして挙げられる。

③ 平成24年度と平成25年度小学5年生の(同一問題)の経年比較

図11 H24・H25年度小学5年生(同学年)の「技能」(同一問題)の経年比較

「おおむね達成」の基準に平成24年度は、25.9ポイント下回る34.1、平成25年度は25.7ポイント下回る34.3であった。金属の棒の温まり方を見る問題では、平成25年度は平成24年度を0.2ポイント上回ったが、「おおむね達成」の到達基準に届いておらず課題が残る結果となった。金属の棒の上に「ろう」を乗せ、アルコールランプで熱し、金属の温まり方を調べる実験についての問題だった。金属の棒がアルコールランプで熱せられ温まっていく様子は視覚的には分かりにくい。それを見えるようにするのが「ろう」である。なぜ「ろう」を乗せるのか、温まり方が見えるようにするためにはどうすればよいのかなどと児童に考えさせることが大切である。

   
(イ)

「思考力・表現力」の経年比較

















①平成24年度と平成25年度小学5年生(同一学年)

図12 H24・H25年度(小学5年生理科)「思考・表現」の正答率の経年比較

平成24年度の小学5年生では、「おおむね達成」の到達基準54.1に対して、それを3.1ポイント上回る57.2であった。平成25年度の小学5年生は「おおむね達成」の到達基準54.1に対して6.3ポイント下回る47.8であった。これを到達度分布で比べてみると図13のようになる。

図13 H24・H25年度小学5年生(同学年)の「思考・表現」の到達度分布

平成24年度に比べて平成25年度は「十分達成」の割合は5.6ポイント減少し、「おおむね達成」の割合は10.2ポイント減少している。平成24年度は自然の事象と学んだ知識を関係付けて説明することに課題が見られたが、平成25年度は、観察・実験の結果について学んだ知識を使って説明することに課題が見られた。平成25年度の小学5年生の「思考・表現」の問題について見てみると、「空気と水を一緒に閉じ込め、圧し縮めた時のそれぞれの体積変化についての説明」、「水は温められると上方に移動することをもとに試験管の水は1番上の温度が高くなることを説明すること」などがあった。前者は空気と水を圧し縮めた時の体積変化については理解しているが、それを組み合わせて考えたときに、「水も少しぐらい縮むのではないか」と思考したのではないかと考えられる。後者の実験はサーモテープを使って行われることが多い。サーモテープの色の変化により、水の温度変化を知ることができるが、サーモテープの色が変わったこと(実験結果)と、水は温まると上の方に上がり、上の方にあった冷たい水が下の方に下がることを繰り返して温まっていくこと(結論)がつながっていないためではないかと思われる。

   
(ウ)

「活用」に関する問題の経年比較

①平成24年度小学5年生と平成25年度小学6年生(同一児童)

図14  H24年度小学5年生とH25年度小学6年生(同一児童)「活用」に関する問題の正答率の経年比較

平成24年度の小学5年生では、「おおむね達成」の到達基準50.0に対して、正答率は40.6で9.4ポイント下回った。平成25年度の小学6年生は「おおむね達成」の到達基準52.5に対して正答率は44.8で7.7ポイント下回った。共に「おおむね達成」の基準には届いていない。平成24年度、平成25年度共に身近な自然の事象について、学んだ知識を使って説明することに課題が見られた。平成25年度の小学6年生の「活用」の問題について見てみると、「アサガオの結実の条件を確かめる実験を分析すること」、「海水から塩を取り出すためにろ過した海水を熱する理由」などがあった。前者はアサガオは受粉すると結実することを確かめる実験で、結実するしないはずのものが結実した理由を述べるものだった。意図的に受粉させなくても、昆虫を介して受粉することまで思考できなかったと思われる。後者は、海水から塩を取り出すためにろ過し、水分を蒸発させることで、塩を取り出すことができる。授業ではホウ酸やカリウムミョウバンを使って実験を行う。授業で学んだことを問題の設定場面に適用できなかったと考えられる。

 

 

   
設問ごとに見た傾向と指導改善の手立て
   

 

 

平成25年度調査結果を受け、観察・実験の「技能」の定着の面から「技能」について分析する。また、自らの考えを表現する点や学習指導要領にて重点の1つとなっている実社会・実生活との関連を重視する内容を充実させる点から「思考・表現」、「知識・技能の活用」について分析する

   
傾向1

学習問題に沿う観察・実験の計画をしたり、実験方法について考えたりすることに課題がある。

[小学5年生 大問5(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率60.0に対して、正答率は34.3であり26.7ポイント下回った。無解答率は5.9であった。金属が温まっていく様子は直接目で見ることができない。金属の温まり方を目に見えるようにすることを児童が意識できているかがポイントである。実際に実験をして、現象は理解するが、どうしてその実験をするのか、どうしてその素材を使うのかということを理解して観察・実験をしていないことが正答率の低さにつながったと思われる。

○ 指導改善の手立て

普段の観察・実験の中で実験方法を教師側から提示してしまってはいないだろうか。金属棒の温まり方を調べるのであれば、児童に「フライパンを上から見ていてどこからどのように温まっていくか見えないよね。金属棒の温まり方も目に見えないね。では、金属棒が温まっていく様子を目に見えるようにするにはどうすればよいだろう。」と児童と一緒に実験計画を立てていくことが大切であると考える。実験の方法を考えることによって、興味や関心が更に高まり、最後まで追究する姿につながると思われる。また、実験中に「どうしてろうを使うのかな」などの実験計画を振り返るような声掛けをすれば、ろうが溶ける様子を見ることが、金属の棒の温まり方を見ることにつながるということに気付くのではないかと思われる。

[小学6年生 大問2(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率60.0に対して、正答率は45.9であり14.1ポイント下回った。無解答率は2.7であった。植物の発芽について実験を行う場合は、変化させる要因と変化させない要因といった条件を制御して観察・実験を計画的に進めさせることが大切である。水や空気を要因とする実験計画は児童にとって分かりやすいものである。それに対して温度を要因として考えていく場合、異なる条件は温度だけであり、そろえる条件はそのほか全てである。児童は温度を下げるために冷蔵庫に入れることは理解することができるだろうが、冷蔵庫を閉めてしまうと中は暗いことまでは思いつかないのではないだろうか。光という要因をそろえるために箱に入れることは理解できていないと考えられる。

○ 指導改善の手立て

小学5年生で育てる問題解決の能力として自然の事物・現象の変化や働きをそれらに関わる条件に目を向けながら調べることが学習指導要領に挙げられている。植物の発芽の単元は年間でも最初に位置する。そのため、児童に条件を制御する力は育っていないことが予想される。条件制御については変化させる要因と変化させない要因について児童と教師が一つ一つ丁寧に確認しながら考えていかねばならない。また制御した条件をいつでも見ることができるように掲示をしたり、種子の近くに条件を張り出したりすることで常に確認ができるようにすることが大切であると考える。その後の単元でも繰り返し条件制御を意識した授業を仕組んでいけば、児童に条件を制御する力が身に付くと考える。

   
傾向2

自然の事象・現象の解釈し、学んだ知識を活用して考えを述べることに課題がある。

[小学5年生 大問9]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は38.0であり12.0ポイント下回った。無解答率は8.2であった。夏に冷たい飲み物を飲んでいると、コップやペットボトルなどの外側がくもったり、水滴が付いたりすることはほとんどの児童が目にしていることである。小学4年生の「すがたを変える水」の単元で、コップの中に冷たい水を入れ、コップの表面に結露してできる水を観察している。しかし、児童は水が目に見えない水蒸気となり、空気中にある状態がイメージできていないのではないだろうか。さらに、空気中に浮かぶ水蒸気が露点に達したために水に戻ったこともイメージできていないのではないかと考えられる。

○ 指導改善の手立て
児童にとって冷たい水を入れたコップの表面に水滴が付くことは、目に見えることなので理解しやすい。しかし、空気中に水蒸気があることやそれが冷やされて水になっていく様子は目に見えない。そこで、教師は水が水面や地表から蒸発している様子や空気中の水蒸気が冷やされて水になる様子をモデル図で描かせたい。モデル図に描き、それを説明することで空気中の水蒸気について具体的なイメージをもつことができるだろう。また、それぞれのモデル図をもち寄り交流することで、友達の考えに疑問を抱いたり、なるほどと感じたりするだろう。そのような活動を通して、児童が科学的な思考力・表現力を身に付けることができると考える。

[小学6年生 大問3(4)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率55.0に対して、正答率は37.9であり17.1ポイント下回った。無解答率も10.8であった。インゲンマメを使って植物の成長について学習をしていく。植物の成長に必要な要因一つ一つについては理解できていると思われる。しかし、実際の自然では、そのうちのいくつもの要因が重なって成立している。問題文にある、観察池(他から栄養分が流れてこないこと)、梅雨が明ける(雨が少なくなり日射量が増えること)が読み取れず、学習したことと関係付けて考えることができなかったと思われる。
○ 指導改善の手立て

インゲンマメで植物の成長に必要な条件について学習を進めていくが、単元が終わる頃に「インゲンマメが成長するために必要な条件」から「植物が成長するために必要な条件」と一般化ができているだろうか。一般化というと難しい感じがするが、教科書には野菜を育てるための工夫として、ポリエチレンの覆いをして光を当てないことで雑草の成長を阻害することや畝をつくることで野菜には光が当たり、雑草には光が当たりにくいために育ちにくいことが掲載されている。杉の高木が立ち並ぶ林では、光が届かないために次の世代の木が育ちにくいなどの自然事象を例に出して理由を考えさせるなど学んだことを身の回りの自然に戻して考えさせることが大切だと考える。

[中学1年生 大問8(3)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率50.0に対して、正答率は33.2であり16.8ポイント下回った。無解答率は1.4であった。月と太陽の学習では、月と太陽の位置関係により地球から見える月の形が変わることを学ぶ。和歌の訳には、東の野に太陽が見え始めたときに西の方に沈みかけた月が見えたとある。つまり、東に太陽が見え西に月が見える状態であるから、太陽と月は180度の位置関係にある。和歌からこのような状況が想像できなかったと考えられる。
○ 指導改善の手立て

「生命・地球」領域の学習は、生物・地学分野の諸現象について観察やモデルなどを通して探究することに重点を置き、進めて行く。太陽と月の学習は、月の形は太陽と月の位置関係によって変わることを学習する。上弦の月や下弦の月など昼間に見えている月であれば実際に観察し、記録をすることができる。月の出る時刻が遅くなると観察することが困難となる。そこで、太陽と月の位置関係と月の形の関係を探るべくモデル実験となる。ライトを太陽、ボールを月に見立てたモデル実験がよく行われているが、モデル実験をし、結果から結論を導き出すだけになっていないだろうか。モデル実験の結果を考察し、結論付けていくことはもちろん大切なことであるが、モデル実験の結果と実際に観察した月の形と関係付けた考察をさせたい。モデル実験と自然事象をつなげることで児童の思考も深まり、理解も進むと考える。

   
傾向3

科学的用語の定着に課題がある。

[小学6年生 大問5 (1)②]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率60.0に対して、正答率は23.5であり36.5ポイント下回った。無解答率は1.1であった。「へその緒」という言葉は、児童にとってみれば難しい言葉ではない。しかし、学習する以前に「へそのう」と誤認識していて、その誤認識を直すことができなかったと考えられる。また、「へその緒」の役割として正しくないものを選ぶという答え方が正答率を下げた原因とも考えられる。

○ 指導改善の手立て

児童は小学4年生までの日常生活の中でもへそのおという言葉を耳にする機会があったと思われる。しかし、話言葉として出てくることがほとんどであり、理科の授業で文字言語としてはっきり認識すると思われる。そこで、児童にへそのおは「へその緒」と表記することを伝える。「へその緒」の「緒」は①糸や紐など細長いもの②魂をつなぐものという意味があることを伝える。つまり「へその緒」は母体と胎児をつなぐ大切なもの「緒」であることを印象付けるのである。加えて、へそのおという言葉を何度も書き表させたい。

[小学5年生]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

平成25年度の「おおむね達成」の期待正答率60.0に対して、正答率は72.6であり、12.6ポイント上回った。しかし、無解答率は10.3であった。百葉箱はどの学校にも設置されているが、授業で取り扱う時間が限られているので使うことができる言葉としては身に付いていないと思われる。

○ 指導改善の手立て

小学4年生の学習では、一年間を通して季節と生き物の学習をしていく。それぞれの季節で動物の活動や植物の成長を観察していく。動物や植物の観察を記録するシートに日付、天気、気温、調べる対象等を記録していく。その際に必ず百葉箱を利用するようにしたい。動物や植物が実際に生きている条件と同じ外の気温を測ることも動物の活動や植物の成長と気温が関係していることにつながってくるだろう。年間を通して百葉箱を使って気温を測ることで自ずと用語も定着すると思われる。そのためには百葉箱を使える状態にしておくことも大切である。

   
   
これからの指導に向けて
   
 

今回の調査によって、「技能」はどの学年においても「おおむね達成」の基準を下回り、課題が見られた。これは、学習問題に沿う観察・実験の計画を立てることができなかったり、観察・実験を行う意味を理解できていなかったりすることに起因していると思われる。また、「思考・表現」においても平成24年度と比較すると、どの学年においても下回る結果が出ている。特に、自然の事物・現象を解釈し、学んだ知識を活用して自分の考えを述べることに課題があることが分かった。これらの課題を解決していくために次の4つを意識してこれからの指導に取り組むことが大切である。

(ア)観察・実験の計画を立てたり、実験で使う素材について考えたりすること

理科の授業では、「事象提示」「学習問題」「予想」「観察・実験」「結果の整理」「考察」「結論」と授業が流れていく。学習過程で、実験の計画についてはどのように行われているだろうか。教師側から「今日の実験は○○です。△△を使って実験します」と一方的に提示していないだろうか。例えば、小学4年生の金属の温まり方の実験であれば「金属が温まっていく様子は目に見えないからどうすればよいかな」と児童に問い掛ける。すると、児童は熱が加わると目に見える形で変化するものを考えるだろう。おそらく児童の考えとしては、バターやマーガリン、氷、ろう、ラードなどが出てくるだろう。教師は、児童の計画を生かした実験をさせてもよいし、「その中で、理科室にありそうなものは」などと児童とのやりとりで自ずと実験計画を立てることもできる。また、同じ授業でも教科書の実験を教師側から提案しても「どうしてろうを金属の上に置くのか」と児童に問いかけることで、金属の熱伝導の様子が目に見えるようにするためであることに気付かせることができる。ろうは温めると溶けるということを知らない児童も多いかもしれない。単元に入る前に、ロウソクに火を灯して、ろうが溶けるようすを観察させるなど、実験前にレディネス調整をすることも考えられる。平成24年度の全国学力・学習状況調査に「知識・技能」を活用する問題の視点として「構想」が挙げられている。構想とは、身に付けた知識・技能を用いて、他の場面や他の文脈において、問題点を把握し解決の方法を構想したり、問題の解決を想定したりすることができることとあり、観察・実験の計画を立てることを日頃から行っておけば、新たな問題場面で知識・技能を活用した構想をすることができると考える。

 「物質・エネルギー」での実験や「生命・地球」の観察などの学習では、対象や目的に応じて観察器具の適切な操作方法を身に付けさせる授業の工夫が必要である。自然の事象について、観察・実験などを通して、対象や目的に応じて意図的に技能を習得させるようにすることが大切である。

(イ)日常生活と関連を図った問題解決に取り組ませること

学習と日常生活と関連を図るためには、児童が生活の事象から問題を見いだし、それを解決していこうとする態度をもたせることが大切である。例えば、6年生の「てこのはたらき」では、重いものをてこを使い支点から力点までの距離が変わると手応えが変わることから学習に入る。その後、支点、力点、作用点の関係を学ぶ。最後に実験用てこを使い、どのような条件になったときに釣り合うのかと学習が進んでいく。私たちの周りには、てこを利用したものがたくさんある。釘抜き(バール)、はさみ、栓抜きなどがそれに当たる。てこの規則性について学習した後、身の回りのてこを使った道具について説明させたり、児童に見付けさせたりする。また、身の回りのてこを使った道具を準備し、実際に体験し、体験したことを基にてこを利用した道具を説明させる。このようにすれば、学びと日常生活や自然事象が関係付けられ実感を伴った理解になると考える。このように、常に教師は日常生活と学習との関連を意識した学習指導を行うことが大切である。理科で学習した内容を日常生活の様々な場面で生かし、理科を学ぶ意義や有用性を感じることができる授業を行いたい。

(ウ)思考と表現を結ぶ言語活動の充実を図ること

言語活動の充実の観点から表現活動は大切である。言語は知的活動(論理や思考)だけでなく、コミュニケーションや感性・情緒の基盤でもある。つまり、理科の学習で観察・実験とともに言語活動は外せないものである。授業場面で考えると、児童が事象に対してどのように考えるのか、どのように解決しようとしているのか、なぜそう思うのかなどの考えを表現させる場が必要である。児童に考えを表現させる場は、①事象提示、②学習問題の作成、③観察・実験の記録、④考察、⑤学んだことを使って自然事象を説明するなどが考えられる。児童は自分では分かっているつもりでも、実際に書いたり友達に説明したり、説明を聞いたりすることで、「自分の分かっている点」「曖昧な点」「間違っていた点」などを整理する。それらを自覚し、再思考することで探究的な学習活動がより充実したものになると考えられる。また、比較や分類、関係付けといった考えるための技法、帰納的な考え方や演繹的な考え方などを活用して説明させたい。観察・実験の結果を整理し、考察したり科学概念を使用して考えたり説明したりしたことを言語化したり、図や絵などを用いて表現したりして自分の考えを顕在化させる授業の工夫が必要である。

   

 

(エ)全国学力・学習状況調査 「知識・技能」の活用に関する4つの視点を参考にした授業づくりをすること

平成24年度に全国学力・学習状況調査が行われた。全国学力・学習状況調査や国立教育政策研究所の解説資料は今後の理科学習を進めていく上での大きな示唆だと考えられる。

全国学力・学習状況調査は、主として「知識」に関する問題と主として「活用」に関する問題で構成されている。主として「活用」に関する問題では、理科の学習で学んだ知識・技能が実際の自然の中で成り立っていることを捉えたり、日常生活の中で役立てられていることを確かめたりすることができることを問うてある。学習で学んだ知識・技能を活用して考えることの大切さが示されていると言える。

学習で身につけた知識・技能を活用する問題の視点として次の4つが挙げられている。

「適用」…理科で学んだ自然の事物・現象の性質や働き、規則性などに関する知識・技能を、実際の自然や日常生活などに当てはめて用いること。平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査では、「空気中の水が冷たいペットボトルの表面で冷やされて水滴が付くこと」や「インゲンマメの成長する条件から、浮き草が増える条件を考える」が当たる。

「分析」…自然の事物・現象に関する様々な情報及び観察・実験の結果などについて、その要因や根拠を考察し説明することができること。平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査では、「アサガオの結実の条件を考え、確かめる実験を分析し、Bのアサガオに実ができた理由を説明する」が当たる。

「構想」…身に付けた知識・技能を用いて、他の場面や他の文脈において問題点を把握し、解決の方法を構想したり問題の解決を想定したりすることができること。平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査では小学6年生の「発芽したインゲンマメが、条件の違いによってどのように成長していくかを考えることができる」が当たる。

「改善」…身に付けた知識・技能を用いて、自分の考えを証拠や理由に立脚しながら主張したり、他者の考えを認識し、多様な観点からその妥当性や信頼性を吟味したりすることなどにより、批判的に捉え自分の考えを改善できること。平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査では、問題としては該当がないが、「食塩を溶かす前と溶かした後の全体の重さ」について話し合いをしている場面がそれに当たる。

理科の授業は、「知識・理解」、「技能」の習得だけで修めるのではなく、学んだ「知識・技能」を活用する力が大切である。「知識・技能」を活用するために、4つの視点をもった授業づくりをしていくことが必要だと考えられる。

佐賀県教育センターでは、平成25年度も理科授業改善サポートチームによる公開授業研究会を計画している。「知識・技能」の活用や科学的な思考力・表現力を高める言語活動を中心に据えた授業づくりを学ぶことができる。平成24年度の実践例や平成25年度の公開授業研究会を参考にされたい。今年度からは、観察・実験講習会も計画しているので、活用してほしい。

○ 教師意識調査結果より

教師意識調査(31)の「理科で、実験結果やまとめの発表において、児童がお互いにいろいろな考えを出し合い、検討するような授業を行っていますか。」という質問に対して、「多くの単元で行っている」と回答した教師の割合は、43.0%である。実験の結果を発表させ、結果から分かることを自分の力で思考し、それを説明し伝え合い自分の考えを修正し、科学の決まりに迫っていくことが大切である。上記は結果の考察に当たるが、友達との話合いの中で自分の考え方を批判的に捉え自分の考えを改善していくことになる。また、その時間に学んだことを使っている自然事象を見付けたり説明したりすることで知識を活用するようになるだろうし、実感を伴った理解につながっていくだろう。

   
   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 

最終更新日:2013-10-21