平成25年度佐賀県小・中学校学習状況調査及び全国学力・学習状況調査を活用した調査Web報告書

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Ⅲ 各教科の調査結果の分析   

中学校英語

   言語材料の理解や練習と、言語を使用する活動のバランスを考えた授業づくり

 

全ての評価の観点において、「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、複数の情報を組み合わせたり図表と結び付けたりした上で判断し、答えを導き出す力に課題が見られた。また、「書くこと」においては、テーマに合わせたまとまりのある英語の文章は書けるようになってきたものの、基本的な文の構造の理解が不十分で、文を正しく書くことに課題が見られた。今後は、多様な談話形式の音声を聞かせたり文章を読ませたりすることと、文の構造に気付かせる言語活動に繰り返し取り組ませる指導などが必要となる。

この後、評価の観点については、以下のように記す。

 ○コミュニケーションへの関心・意欲・態度

 ○表現の能力

 ○理解の能力

 ○言語や文化についての知識・理解

本調査では設定なし

「表現」

「理解」

「言語・文化」

 

 

結果の概要
 
(ア)
教科及び設問ごと正答率
 
教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 
 
教科正答率 各種グラフ

正答率ごとの分布

観点別達成状況 

内容・領域別達成状況 

基礎と発展の比較

「活用」に関する問題

設問ごと正答率

 
(イ)

評価の観点別正答率

①中学2年生

図1 H25年度(中学2年生英語)評価の観点別正答率

全ての観点で「おおむね達成」の基準を上回った。特に、「理解」については「十分達成」の基準を上回っており、会話を聞いたり説明文を読んだりして概要をつかむことはできていると考えられる。しかし、聞いて得た情報 (例えば中学2年生大問4(1)の会話での情報と時間割を関連付けて今日は何曜日か考える問題など)と図表を関連付けて理解し、判断する力 は、十分には身に付いていないと考えられる。

中学3年生

図2 H25年度(中学3年生英語)評価の観点別正答率

全ての観点で「おおむね達成」の基準を上回った。しかし、聞いて得た情報(例えば中学3年生大問4の、会話での情報と上映スケジュールを結び付けてどれを見るか考える問題や、大問6での説明文の情報とグラフを関連付けて答えを導き出す問題など)と図表を関連付けて理解し、判断する力は、十分には身に付いていないと考えられる。

 
(ウ)

内容・領域別正答率

①中学2年生

図3 H25年度(中学2年生英語)内容・領域別正答率

「聞くこと」及び「読むこと」については、「十分達成」の基準を、それぞれ6.4ポイント、3.5ポイント上回り、良好だった。ただし、どちらの領域においても、概要をつかんでいるものの、複数の情報を関連付けて理解し、判断する力には課題がある。また、「書くこと」においては、目的やテーマに応じてまとまりのある英語の文章を書く力は身に付いているが、一般動詞を含む文を疑問文に書き換えるといった基本的な文の構造の理解が十分でないと考えられる。

②中学3年生

4 H25年度(中学3年生英語)内容・領域別正答率

「聞くこと」については、「十分達成」の基準を、6.3ポイント上回り、良好だった。ただし、概要をつかんでいるものの、複数の情報を関連付けて理解し、判断する力には課題がある。このことは「読むこと」の領域においても同様のことが言える。また、「書くこと」においては、目的やテーマに応じてまとまりのある英語の文章を書く力は身に付いているが、一般動詞を含む文を疑問文に書き換えるといった基本的な文の構造の理解が十分でないと考えられる。

   
   

経年比較 

   
 

定着に差が出やすい「書くこと」の領域について、同一学年の経年比較(平成24年度中学3年生と平成25年度中学3年生)及び同一生徒の経年比較(平成24年度中学2年生と平成25年度中学3年生)を行い、到達度分布の変容を分析した。さらに、具体的な問題で変容を分析するために、まとまった英語の文章を書く力を見る問題、読んだ文章に簡単な英語で質問する問題及び指示に従って簡単な英文を書く問題で経年比較を行った。

   
(ア)

「書くこと」の領域での経年比較
①同一学年経年比較

図5 H25年度(中学3年生)、H24年度(中学3年生)の「書くこと」の内容・領域別の

    到達度分布の経年比較

「要努力」の割合に注目すると、平成25年度の「要努力」の割合は平成25年度よりも16.1ポイント増加している。平成25年度と平成24年度のまとまりのある英語の文章を書くことについて見てみると、無解答率に大きな差はない。このことから、書きたいことはあるものの、それを表現するための文の構造の理解が十分でないために、正しい文を書けないのではないかと考えられる。

   

















 

同一生徒経年比較

図6 H25年度(中学3年生)、H24年度(中学2年生)の「書くこと」の内容・領域別の

    到達度分布の経年比較

平成25年度の「要努力」の割合は前年度よりも2.6ポイント、「十分達成」は6.9ポイント増加している。ここでは、基礎的・基本的な知識・技能が定着しているかどうかがポイントになっていると考えられる。中学2年生で書く活動の指導が充実して、ある程度の量の英作文には慣れてきたものの、文の構造の理解が不十分なままの生徒と、書く活動を通して文の構造が定着している生徒の二極化の傾向がうかがえる。

 

図7 H23年度(中学3年生)、H22年度(中学2年生)「書くこと」の内容・領域別の

    到達度分布の経年比較

平成23年度の中学2年生の「要努力」が50.4%で、平成22年度の「要努力」の中学3年生は53.6%だった。図6と図7の比較を通して「書くこと」を苦手とする生徒の割合の増減はあるものの、学年が上がるにつれて得意とする生徒が増えているということが分かる。

中学3年生の同一学年経年比較と同一生徒経年比較を通して、学年が上がるにつれて「書くこと」に慣れてきている、つまり、「書くこと」に対する継続的な指導が行われていることがうかがえる。同時に、学年が上がるにつれて二極化するという傾向が、平成25年度で再び見られ始めたとも言える。

   
(イ)

設問ごとの経年比較

まとまった内容の文章を書く力を見る問題


   図8 H25年度(中学2年生の問14)、H24年度(中学2年生の問11)正答率の経年比較 

平成24・25年度の正答率がそれぞれ60.1、66.5、また、無解答率がそれぞれ10.7、9.6という結果から、まとまりのある英語の文章を書く力は身に付いてきており、書く意欲も上がってきたと考えられる。

質問を読んで、自分のことを簡単な英語で書く問題


   図9 H25年度(中学2年生の問12(1))、H23年度(中学2年生の問9(2))正答率の経年比較

正答率が3.1ポイント減り、無解答率が1.4ポイント増えている。さらに、H25年度は、「おおむね達成」の基準を下回っている。この設問で用いる過去形は、1年生最後から2年生最初にかけて学習する内容である。依然として、過去形の定着が十分ではないのが分かる。

 


       図10 H25年度(中学3年生の問10(1))、H24年度(中学3年生の問9(1))正答率の経年比較

平成24・25年度ともに「十分達成」の基準を上回っている。無解答率も10.0を下回っており、他の記述式問題よりも低い。簡単な質問に簡単な答えを書く力は付いていると考えられる。

③英語の質問に簡単な英語で答える問題

      図11 H25年度(中学2年生の問12(2))、H24年度(中学2年生の問10(3))正答率の経年比較

平成24・25年度ともに「おおむね達成」の基準を下回っている。しかし、平成24年度と比較して無解答率は減少している。書く意欲は上がってきているが、疑問詞を含む質問に対する答え方には依然として課題が残ると言える。

④指示に従って英文を書き換える問題

      図12 H25年度(中学2年生の問11(1)(2))、H25年度(中学3年生の問11(1)(2))正答率の比較

中学2年生、中学3年生とも、(1)be動詞を含む文を疑問文に書き換える問題、(2)一般動詞を含む文を疑問文に書き換える問題であり、中学2年生は現在形、中学3年生は過去形についての問題である。中学2年生、中学3年生ともにbe動詞を含む疑問文の書き換えは「おおむね達成」を上回っているが、一般動詞については、中学2年生、中学3年生共に、「おおむね達成」を下回っている。特に、3年生については正答率が29.6であり、無解答率が大問12、13のまとまりのある英語で文章を書く問題より高いという結果が出た。

これらの結果から、「書くこと」については、まとまりのある英語の文章や、簡単な英問英答をする力は身に付いてきたと考えられるが、一般動詞を含む文を疑問文にしたり、疑問詞で始まる質問に応答したりという基礎的・基本的な知識・技能に課題が残ると言える。定着が難しいと考えられる過去形については少し詳しく考察してみる。文法事項には習得順序があり、中でも、3人称単数現在の(s)や規則動詞過去形は習得が遅いとされている。教科書の文法事項の配列を見ると、これらは1年生後半で取り扱われる。加えて、3年間で学習する疑問詞のほとんどが、この時期に取り扱われる。この時期に生徒に掛かる負担が、英語学習に影響を及ぼしているのではないかと考えられる興味深い報告がベネッセの調査によってなされている。それによると、2年生終わり頃に英語が苦手だと感じている生徒の実に8割が、この中学1年後半から中学1年の終わりまでに苦手と感じるようになったと回答している。以上のことから、経年比較の結果において課題となった文法事項については、1年生の学習内容であっても定着が困難なものがあることを踏まえておきたい。そのため、この時期の生徒の状況をよく観察して、繰り返し使わせたり、安心して学習が進めていけるような声掛けをしたりするなどして、自信をもたせたい。定着が困難であるからこそ1年生での取扱いだけで終わることなく、3年間で繰り返し指導し、定着を図る必要がある。

設問ごとに見た傾向と指導改善の手立て
   
 

平成25年度の調査で、「聞いて得た情報と図表から読み取った情報を関連付けながら正しく理解している」、「説明文を読んで、大切な部分を正確に理解し、適切な語を書く」及び「説明文を読んで、大切な部分を正確に理解している」ことについて分析を行った。

   
傾向1
聞いて得た複数の情報と図表から読み取った情報を関連付けながら正しく理解する力に課題がある。

[中学2年生 大問4]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率45.0に対して県正答率18.8で26.2ポイント下回っている。対話文の最後の"We have it on Friday, too."の全体を理解して今日は火曜日と判断しなければならないが、"Friday"を捉えて金曜日と答えたのではないかと考えられる。    

○ 指導改善の手立て

リスニングのプロセスは、音声を①音として把握する知覚、②英語形式(語句・節・文など)として把握する認知、③英語形式を基に話し手が伝えようとした内容を把握する理解の3段階で構成されると言われる。ここで正答を得るには③の段階に至る必要がある。前述した誤答例であれば②の段階での部分的な把握であると考えられる。生徒の誤答例を確認して、どの段階に課題があるのかを分析した上で、実態に応じて段階を追った手立てを打つ必要がある。その段階とは、聞いて分かる語彙を増やす段階、多様な談話形式の英文を聞かせる段階及び目的意識をもって聞かせる段階などである。

以下が、「聞くこと」の段階的な指導の具体例である。

まずは、聞いて分かる語を増やすために、単語の発音指導を文字→音声ではなく、音声→文字の順番で行う方法がある。また、チャンツなどを取り入れて、基本的な強勢や語と語の連結による音変化を意識させる方法もある。このように、普段から音声と文字の関係を示すことで、区切りのない音の連続が英語形式として把握できるようにさせたい。

次の段階としては、駅のアナウンス、インタビュー、対話など多様なジャンルの英語を聞かせることが必要である。それぞれの場面における談話形式、使われる特有の表現などがあるからである。

さらに、必要とする情報を目的意識をもって聞き取る活動も必要となる。例えば、駅や空港のアナウンスでは、目的地と時間とプラットフォームやゲートの番号を聞き取れるようにするといった聞き取りのポイントを示すことが大切である。

以上のように、区切りのない音の連続の中から英語形式としてイメージできるものを増やすこと、談話形式に応じた特有の表現に慣れさせること、さらに、場面に応じて聞き取りのポイントを示すことなどの指導を段階的に行っていきたい。

[中学3年生 大問4]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して県正答率36.2で3.8ポイント下回っている。時間と場所の情報を同時に処理しながら聞き取っていかなければならないこと、さらに図表から読み取れる情報を組み合わせて判断しなければならないことで、正答率が上がらなかったのではないかと考えられる。

○ 指導改善の手立て

まとまった量の英文を聞いて話し手が伝えたいことを理解するためには、メモを取りながら聞く必要が出てくる。これは、「書くこと」の指導事項にも挙げられており、日常生活においてもよく行われていることである。前述した談話形式で考えれば、映画館の前での対話であるので、時間を聞き取ることが必要になってくる。授業の中では、多様な談話形式の英語を聞かせるとともに、それに応じた聞き取りのポイントを示す必要がある。同時にメモの取り方の指導も行いたい。

   
傾向2

説明文を読んで、大切な部分を正確に理解し、適切な語を書く力に課題がある。

[中学2年生 大問8(1)]  
○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率45.0に対して県正答率40.6で4.4ポイント下回っている。無解答率が18.6である。説明文の一部を読んで、その内容を表す語を書く問題で、内容が理解できずに書けなかったのか、内容は理解できたが"FAMILY"を正しく書けなかったのか、二通りの状況が考えられる。ここでは無解答率の状況から、前者の状況の生徒が多かったのではないかと考えられる。

○ 指導改善の手立て

ここでは、前述した生徒の解答時の状況から、「読むこと」と「書くこと」の指導を分けて考えてみる。

1.「読むこと」の指導の具体例

 まずは、語彙指導レベルの活動として英英辞書による単語の説明を利用する方法がある。具体的には、英英辞書の説明を平易な英語 に書き直して提示し、それを読んだ上で単語を選ばせる。電子黒板を用いてゲーム形式で行ったり、ワークシートを用いて個別に取り組 ませたり、生徒の状況に応じて提示を工夫したい。 

 次に、文章の要約レベルの指導がある。初見の文章にタイトルを付ける活動である。まとまった文章にタイトルを付けるためには書かれ た内容の中心となる事柄を的確に読み取る必要がある。普段の授業の中では、次のような手順で行う活動例がある。

  ① 生徒は英文を読み、「キーワード」を探す。

  ② クラス全体で「キーワード」を確認する。

  ③ 「キーワード」を基に、「タイトルを作成」する。

  ④ 作成したタイトルをクラスで発表し、最もふさわしいものを選ぶ。

   以上のような手順で、生徒の習熟状況に応じて、ペアやグループでの確認を取り入れるなどして取り組ませたい。

2.「書くこと」の指導の具体例 

 "FAMILY"を正しく書けなかった生徒への手立てとしては、フォニックスを取り入れたい。

  ① ある程度の語彙を学習した段階で、既習語を分類して、フォニックス・ルールを導入する。

  ② 新出単語導入時に、フォニックス・ルールを基に発音をさせてみる(文字→音声)。

  ③ 新出単語導入時に、音声を聞いてフォニックス・ルールを基に綴りを起こさせる(音声→文字)。

  ④ 未習語を教師が発音し、生徒に単語を綴らせ、ペアで確認をさせて辞書を引かせる。

 以上のような活動を段階的に取り入れ、1回で終わることなく継続した指導を行っていきたい。1年生には丁寧な指導を心掛け、学年が

  上がるにつれて自力で②や③及び辞書活用ができていけるように指導をしていきたい。そのため、1回の指導に時間を掛け過ぎること なく、少しずつ、3年間通して何度も繰り返すことで定着を図りたい。

 なお、この問題の解答において、大文字と小文字が混在していた場合は、正しく書き分けることができていない状況なので、そのための 手立てを打つ必要がある。

   
傾向3

説明文を読んで、大切な部分を正確に理解し、適切な語を書く力に課題がある。

[中学3年 大問6(1)] 

○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して県正答率は10.1で29.1ポイント下回っている。読み取った内容とグラフの情報を結び付けて、その上で簡単な計算をする必要があり、思考力を要する。生徒がどの段階でつまずいたのかを分析する必要がある。 

○ 指導改善の手立て

読解においては、挿絵や写真などの視覚的な情報を活用することで学習者の背景知識が活性化され、より深い理解が促される。このことから、次のような指導が考えられる。

 ・説明文を読む指導をする際に、グラフを含む視覚的な情報を組み合わせる。

 ・グラフから読み取れることを考えさせ、関連した文がどこに書かれているかを探し出す。

このように複数の情報を結び付けて内容理解を深めていく言語活動を普段から行っていくことが大切であると考えられる。

[中学3年 大問6(2)] 

○ 問題の概要

○ 解答状況

「おおむね達成」の期待正答率40.0に対して県正答率は24.7で15.3ポイント下回っている。書き手の意見の直後にある具体例を2つ書かなければならない。正答にならなかった要因にはいくつかの状況が考えられる。具体例となっている英文が探し出せない、英文が探し出せても日本語で説明できない、あるいは下線部の英文そのものを日本語にしているものなどである。

○ 指導改善の手立て

読むことにおいては、大まかな流れをつかみながら読み取ったり、特に中心となる事柄など大切な部分を捉えて的確に読み取ったりする必要がある。指導に当たっては、文章全体の構成や、パラグラフごとの関連性及び手がかりとなる語句や表現などに着目させるような発問やワークシートの工夫などが必要となる。

   
   
これからの指導に向けて
   
 

今回の結果を教師意識調査も踏まえた上で、成果と課題について考察してみることとする。

まずは、成果について考えてみる。

教師意識調査から見えてくる佐賀県の英語教師像は次のような姿である。教科部会で協力して指導法について話し合ったり、毎時間、毎週の課題を課して評価・返却に努めたりするなど、生徒の学力向上のため日々奮闘している様子が浮かんでくる。とりわけ、その努力の成果が如実に表れたのが「書くこと」の領域の「活用」に関する問題である。自分の伝えたいことをまとまりのある英語で書く力は、平成23年度までずっと課題とされてきた。ここに改善が見られるということは「書くこと」の指導が充実してきた証拠である。関連して教師意識調査を見てみると、(15)「レポートや作文など書いて表現する活動」は、「多くの単元で行っている」「半分程度の単元で行っている」「3分の1程度の単元で行っている」と回答した中学校英語教師の割合は66.5%、「少しは行っている」と回答した教師まで含めると98.5%の割合で実践が行われている。以上のことから、「書くこと」の領域における課題への取組が全県下で行われたことが成果として表れていると考えられる。

次に、課題について考えてみる。

今回の結果は、「聞くこと」、「読むこと」については「活用」に関する問題に、「書くこと」については「基礎的・基本的な知識・技能」に関する問題に課題が見られた。このことを踏まえて、具体的には次の点に留意して指導を行いたい。

言語材料の理解や練習と、言語を使用する活動はバランスよく取り入れ、フィードバックを適切に行う

(ア)3年間→1年間→1学期間→1単元→1時間という逆向き設計による授業計画を立てる。   

   3年間を通して英語の目標を達成するためには、各学年ごとの目標を適切に設定する必要がある。さらに、各学期の目標、各単元

   の目標、1時間の授業の目標というように、逆算して目標を設定していく。各学期の目標として、スピーチやインタビューなどのプロジ

   ェクト活動を取り入れて理解、練習した言語材料を使用する場面を与えたい。目標の設定においては、生徒にある程度の負荷を与

   えることが大切である。また、成功体験につなげるためには、十分な練習量を確保したい。こうした言語材料の理解、練習と使用の

   バランスは、学年や習熟状況に応じて考えていくことが大切である。   

(イ)Teacher Talkを充実させる。

   普段の授業においては、Teacher Talkを充実させたい。聞くことの技能の向上につながること、既習事項を意図的に使用することで  

   言語材料の定着につながることなどが期待できるからである。新出単語の導入や生徒とのやり取りを英語で行えば聞く必然性が生

   まれ、教科書本文についての発問を英語で行えば複数の情報を結び付けて理解し、判断する必然性が生まれる。これらの活動を繰

   り返す過程を通して、英語を頭から理解していく力が付いていく。また、既習事項に何度も触れることで定着が促されると考えらえる。

   英語を英語として理解していくためには普段から適切な速さで話される英語に慣れておく必要がある。高校での英語の授業につなげ

   ていくためにも段階を追って教師の英語の使用量を増やしていきたい。ここでも学年や習熟状況に合わせて、日本語と英語のバラン

   スを考えていきたい。

(ウ)思考を深める場面を増やす。

   教師意識調査(10)「ICT機器を授業のどのような場面で活用していますか。」によると、中学校英語科においてICT機器が授業の中で

   活用されるのは、「生徒の興味・関心を高めたり、課題を明確につかませたりする場面」がもっとも多く80.0%、次いで「授業の効率化

   を図る場面」や「生徒の知識の定着を図る場面」が45.0%、42.0%となっている。一方、「生徒がそれぞれの考えや意見を伝え合って

   理解や思考を深める場面」での活用は、6.5%である。このことから、基本文を提示したり効率よく練習量を確保する目的で活用され

   ていることが考えられる。しかし、本文内容の理解を深めるために、背景知識を活性化する資料を提示したり、それらの資料から言

   えることを考えさせたりする目的で活用される場面が比較的少ないのではないかと考えられる。今回課題とされているのは、聞いた

   り読んだりした情報と図表から読み取った複数の情報とを結び付けて理解することである。そのため、本文読解においてICT機器を

   活用して、グラフ、挿絵及び写真などを組み合わせて提示して、英語で説明したり発問したりすることは、前述した課題への手立ての

   1つとなり得るのではないかと考えられる。

 

(エ)フィードバックを適切に行う。

  ・「話すこと」や「書くこと」の活動を通して、生徒のつまずきを知る。

   話したり書いたりするといった言語を使用する場面を与えることで、定着が十分でない言語材料が見えてくる。生徒がどこでつ

      まずいているかを分析し、発音と綴りとを関連付けて指導したり、関連のある文法事項などはまとまりをもって整理したりするな

   ど、状況に合わせてフィードバックを適切に行いたい。文法事項によっては定着が困難なものがある。単なる説明では言語の

   習得を図ることはできない。1回の指導で終わることなく、既習事項と未習事項を関連付けながらスパイラルに何度も繰り返し

   指導することが大切である。特に、課題となっている過去形については、時制として整理することで理解を深めさせたい。

  ・優れた英文はモデル文として紹介する。

   表現活動を行う過程で、秀逸な英文が生まれてくる。スキルとしてのすばらしさや、自分の考えや気持ちを何とか表現しようとし

   ている姿勢のすばらしさに出会う場面がある。それらは、タイミングを逃すことなく学年全体で共有したい。称賛することで個人

     の意欲が向上し、モデル文が示されることで全体の利益にもつながる。さらに、次の学年のために残すことで、全体の表現力が

   一層豊かになっていくことが期待される。

最後に、児童生徒意識調査から見えてくる生徒の英語の授業に対する捉え方について述べる。

(20)「英語の授業で学習したことは、将来、社会に出たときに役に立つ。」と考えている中学2年生は、「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」と回答した生徒の割合を合わせると87.1%である。今日のグローバル社会において、将来英語を使用する場面を想定している生徒は9割近くに上ることが分かる。つまり、将来英語が必要になってくると考えているのは、英語が得意な生徒だけではないということが言える。教室には、英語が得意な生徒、どちらでもない生徒、苦手な生徒がいる。その習熟状況に応じて、打つべき手立てが違ってくる。それぞれの生徒がどこでつまずいているのかを分析して、全体で指導できることと個別に指導すべきことを考えていきたい。

生徒のつまずきを知る手がかりとして、問題構成表を参照されたい。ここには出題のねらいと学習指導要領の内容及び問題分類が示されている。その上で何が課題であるかを洗い出し、指導改善につなげたい。今回「書くこと」の領域で再び二極化の傾向が見られ始めた。特に苦手な生徒においては、「書くこと」のみならず、全ての領域においてどの段階でつまずいているのかを分析し、基礎的・基本的な知識・技能の定着に力を入れたい。また、得意な生徒については、その時間の目標が達成できたら次の段階の活動に取り組めるように準備をしておきたい。より難易度の高いことに取り組むことで、生徒は自信をもち、更なる学習意欲につながっていく。以上のように、教室の中でそれぞれの習熟の状況にある生徒への手立てを考えた授業づくりをしていくことが大切である。

3年間を通して教室で身に付けたコミュニケーション能力の基礎が、生徒の将来において、様々な分野や場面で生かされることを思い描きながら授業づくりを行っていきたい。

《引用文献》

  1) 文部科学省         『中学校学習指導要領解説 外国語編』 平成20年9月 p.20 開隆堂 

《参考文献》 

 ・ 伊東 治己          『コミュニケーションのための効果的な4技能の指導』 2013年6・7月号 日本英語検定協会

 ・ 北原 延晃          『英語授業の幹を作る本 上巻』 2010年3月 株式会社ベネッセコーポレーション

 ・ 卯城 祐司          『英語リーディングの科学』 2009年 研究社

 ・ 斎藤 栄二          『英語授業レベルアップの基礎』 1996年 大修館

 ・ Benesse教育総合研究所 http://benesse.jp/berd/center/open/report/chu_eigo/seito_soku/soku_07.html#zu2_4

   
授業実践に参考となるリンク
   
 
   
 
 

最終更新日:2013-10-21