「意思決定を取り入れた討論型の学習」に取り組んでみませんか!

              
実践事例6
小学校第6学年 「新しい日本、平和な日本へ」
 
単元について
 学習指導要領の内容(1)ケ「日華事変、我が国にかかわる第二次世界大戦、日本国憲法の制定、オリンピックの開催などについて調べ、戦後我が国は民主的な国家として出発し、国民生活が向上し国際社会の中で重要な役割を果たしてきたことが分かること」を受けて設定している。
 

戦後、日本は民主主義国家を目指し、軍隊の解散、財閥解体、新憲法の制定をはじめとする多くの改革を行った。また、サンフランシスコ平和条約を結ぶことで国としての主権を回復し、国際連合加盟を果たし、再び国際社会に復帰することができた。国際社会に復帰した日本は産業を急速に発展させる。そのことで、国民生活は向上し、「三種の神器(白黒テレビ・電気冷蔵庫・電気洗濯機)」と呼ばれる家電製品が家庭に広まっていった。このような復興を遂げたのは、政府や国民の不断の努力があったからである。
 また、東京オリンピックや大阪万博の開催により、国内外に日本が戦後復興を成し遂げたことをアピールすることとなった。しかし、このような高度経済成長の陰で、様々な問題が発生した。第一に、「四大公害」をはじめとする環境問題。第二に、人口移動による都市部での過密化や農村部での過疎化である。このような、戦後復興の負の部分にも気付かせ、「これからの日本」を考えさせ、獲得した知識を基に今後の日本の在り方を探っていく学習は、社会的な思考力・判断力・表現力を育成していくことに適したものと考える。

   児童は、これまでの学習において、歴史的資料から問いを設定し、問いを追究していくという学習形態を多く経験してきている。その中で、歴史的人物の行った政策に焦点を当て、その政策が当時の社会の中でどのような役割を果たしてきたのか意味付けを行ってきた。しかし、歴史的事象を関連付けて政策の意図を読み取ることは、多くの児童が苦手としているところである。また、歴史学習が好きであると答えた児童は約6割程度にとどまっており、用語や人物名を理解したり、複数の資料から読み取ったことを関連付けたりすることに抵抗を感じている児童は少なくない。
   指導に当たっては、まず、学徒出陣と東京オリンピックの開会式の写真を比較させることで、日本が短期間で復興したことに気付かせ、これをきっかけとして「どのようにして日本は戦後から立ち直っていったのだろう」という学習課題を設定する。次に、民主主義国家を目指し、日本国憲法の制定やサンフランシスコ平和条約の締結などを行ったことを調べさせる。
 さらに、戦後復興を後押しした東京オリンピックに目を向けさせ、その功罪について考えさせる。よかった点(よい点)としては、日本経済の発展などに寄与したことを考えさせたい。一方、問題点(よくない点)としては、交通事故や大気汚染といった諸問題が起きたことを考えさせたい。それを踏まえ、「戦後19年目に東京オリンピックを開催したことは日本にとってよかったのか」という論題を設定させ、社会事象に対する多面的な見方を養わせていきたい。その後、「2020年東京オリンピックはどんなオリンピックにするべきか」という学習問題をもたせ、今後のオリンピックをどう開催すればいいのか考えさせたい。そうすることで、現代日本が抱える現代の諸課題について触れさせ、諸外国と協力して解決していかなければならないことが山積していることを実感させていきたい。
単元の目標
 戦後の諸改革、国際社会への復帰、高度経済成長がもたらしたものについて、歴史的事象を意味付ける活動を通して歴史概念を獲得するとともに、当時の人々立場に立ってオリンピック開催の是非について議論を行い、様々な立場や視点から多面的に今後の日本の在り方を考えるようにする。
単元の評価規準
社会的事象への
関心・意欲・態度
社会的な
思考・判断・表現
観察・資料活用の
技能
社会的事象についての
知識・理解
戦後の歩みに関心をもち、進んで調べている。
○平和で民主的な国家の一員として、これからの日本の課題の解決やよりよい発展について考えようとしている。
○戦後、国民の不断の努力によって国民生活が向上し、国際社会の中で重要な役割を果たしてきたことや、現代が抱える諸問題について思考・判断したことを、言語などで適切に表現している。 ○日本国憲法の制定、オリンピックの開催など、我が国の戦後の歩みについて、地図や年表、資料集、その他の資料を活用して必要な情報を集めて読み取ったりまとめたりしている。 ○戦後、我が国が民主的な国家として出発し、国民の不断の努力によって国民生活が向上し、国際社会の中で重要な役割を果たしてきたことを理解している。
単元の指導計画(全10時間)
過程
主な学習活動
教師の指導・支援
時配







○学徒出陣と東京オリンピック、終戦直後と高度経済成長期の新宿の写真を見比べ、戦争が終わった後の社会の変化に関心をもち、学習問題を設定する。

○写真を比較させる際、人々の雰囲気や表情、服装、周りの情景に着目させることで、東京オリンピックまでに日本はどんな努力を重ねて開催までたどり着いたのかという問題意識をもたせる。
 どのようにして日本は敗戦状態から立ち直っていったのだろう。 《学習問題T》
調

○戦後に行われた改革や日本国憲法について調べる ○日本国憲法については、「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を柱として制定されたことを捉えさせるために、象徴的な写真を提示し、戦後の国づくりについてのイメージを膨らませる。
○日本が国際社会の復帰を果たす前後の世界の動きや日本の様子について調べる。 ○国際連合加盟に至るまでの世界や日本の動きを年表等で調べさせ、国際社会復帰の契機となる、サンフランシスコ平和条約や朝鮮戦争による特需などについて捉えさせる。
○高度経済成長期の社会や国民生活の変化について調べる。 ○「電化製品普及のグラフ」、「三種の神器の写真」を手掛かりとして、国民の生活が大きく向上していったことを読み取らせる。
○若者による都市部への集団就職や政府主導のインフラ投資や企業の設備投資、所得倍増計画などの政策について調べさせ、高度経済成長について捉えさせる。
○1930年代の国民生活をイメージさせるために映画資料を用いる。
○東京オリンピックは社会や国民生活にどのような影響を与えたのか調べる。 ○教科書や資料集、オリンピックに関わる映像から日本が多くのメダルを獲得し、日本国民を勇気付けることとなったことを押さえる。
1






○東京オリンピックが日本にもたらした影響について考える。 ○「なぜ、戦後間もない東京でオリンピックを開催したのか」という視点で、国民生活の変化を捉えさせる。また、オリンピックを成功させるために準備してきたことを整理させることにより、東京オリンピック開催が果たした影響について整理させる。
○東京オリンピックを開催することで生じた負の面にも気付かせることで、本当に評価できるのかというジレンマを生じさせる。

論題 戦後19年に東京オリンピックを開催することは日本にとってよかったのか

○東京オリンピックを開催したことは評価できるかどうか考える。 ○「よかった」「早すぎた」という立場で自分の意見を決めさせ、その根拠となる理由を東京オリンピックが当時の日本に与えた影響から考えさせる。
○立場を決めさせる際、当時の日本国民の立場で意思決定をさせる。
 2020東京オリンピックはどんなオリンピックにするべきか? 《学習問題U》
○2020年の東京オリンピックはどんなオリンピックにするべきかという学習問題をもち、現代の日本が抱える問題について調べる。 ○2020年に東京オリンピックが開催させることを想起させ、どんなオリンピックにするべきか考えるという意識をもたせる。
○オリンピック像を描かせるために現代の日本が抱える問題に気付かせる。
○2020年東京オリンピックはどんなオリンピックにするべきか考え、交流する ○どんなオリンピックを開催するべきか、「国際協調」「経済発展」「環境保全」「復興」「もてなし」などの視点をもたせながら考えさせる。
○1964年の東京オリンピックがもたらしたものを振り返り、自分が描いたオリンピック像が抱えている問題点にも配慮するよう促す。
 
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