生活をよりよくしようとする生徒を育てる問題解決的な学習の進め方を提案します!

   
   
 2 研究の実際
(1)理論研究
 A協同学習について
 ○ 協同学習とその基本的構成要素
 
 杉江氏によると、協同学習は、ジョンソン,D.W.らによって開発された小集団を活用した教育方法で、生徒が共に課題に取り組むことによって、自分の学びと互いの学びを最大限に高めようとするものです。
  集団内の促進的な相互依存関係を基に、協同的な学びをうまく機能させるためには、次の5つの基本的構成要素を満たす必要があると述べています。
 ア  促進的相互依存関係
   集団のメンバーは自分の働きが仲間のためになっており、仲間の働きが自分のためになっていることを理解している必要がある。そのためには協力して取り組める課題を準備しなくてはならない。成績評価でも、仲間同士の貢献が加算されるような仕組みを入れることが効果的である。
 イ  対面的な相互作用
   協同的な相互作用が理解や習得を促進し、多様な同時学習を可能にする。したがって、豊かな相互作用を交わすことのできる学習場面を設定する必要がある。小集団の編成は能力等の特性で異質であること、サイズも顔を突き合わせて話合いのできる4〜6人程度であることが望ましい。
 ウ  個人の責任
   学習を他人に任せて済むような場面づくりをしてはいけない。協同学習は「強い個人」をつくることが目的であり、その過程では、先にふれた、個々の成員にかかる2つの責任が重視される。
 エ  対人技能や小集団の運営技能
   互いに知り合い、信頼し合い、正確なコミュニケーションを交わし、受容し合い、支え合い、対立をも建設的に解決する技能を成員が持てるような経験が必要である。
 オ  集団改善手続き
   集団の活動を振り返り、よりよいあり方をさらに追求すべく、集団ごとに活動後にメンバーが互いに評価を行うことを言う。協同の意義を再発見する機会ともなり、協同への積極的態度を育てる機会となる。
   
                           『協同学習入門 基本の理解と51の工夫』 杉江修治 p.37
 
 ○ グループのタイプと相対的な成果
 
 ジョンソン,D.Wらの考えをまとめると、以下のようになります。
 協同学習においては、グループを組ませれば、それが協同グループになるわけではありません。学習グループやプロジェクト・グループ、実験グループなど、様々なグループがありますが、それらは必ずしも協同的なものではなく、グループの組み方次第で、グループでの成果が変わってくるということです。図は、グループの違いによって成果が違ってくるということを示した成果曲線です。成果曲線には、4つのタイプの学習グループが描かれています。図は、個別のメンバーからスタートして、見せかけのグループ、伝統的な教室グループ、協同学習グループ、高い成果を生む協同学習グループの4つのタイプにおける、生徒の相対的な成果を表したものです。
 図 グループの成果曲線


                『【改訂新版】学習の輪−学び合いの協同教育入門−』 ジョンソン,D.W.他 p.104
 
ア 見せかけのグループ
   
 一緒に作業するためにメンバーは割り当てられていますが、生徒は共に活動することに何らの関心ももち合わせていないケースです。学習で得たものをメンバー間で共有するような相互交渉が行われないため、グループの成果は個人レベルよりも低いものになります。その結果、個々のメンバーの潜在力の合計よりも、全体の方が劣ることになります。メンバー同士が互いに興味をもち、グループの将来に関与することがないため、成熟したグループにはなりません。
 
イ 旧来のグループ
   
 メンバーが一緒に活動してはいても、相互依存性が低いため、その活動から何らの恩恵も得ることができないケースです。メンバーは他の仲間の学習に責任を感じることもないし、情報を共有したり、課題の達成方法を明確化するための相互交渉をもとうともせず、それぞれが自分自身で作業を進めます。
 
ウ 協同学習グループ
   
 メンバーが互いの学習を最大限にするという共通の目的を追求しているグループです。それは、部分を合計した以上のものを皆で築くということを意味しています。
 
エ 高い成果を生む協同学習グループ
   

協同学習の5つの基本的構成要素を満たすとともに、メンバーに与えられた応分の期待を上回る成果が得られるグループです。優れた成果は、メンバー同士やグループの目標追求に対する高い関与度が反映された結果です。

 
  ○  グループ活動の効果を阻むもの
 
   グループによる活動が効果的な場合もあれば、効果が出ない場合もあります。ジョンソン,D.W.らによると、グループの効果を阻む潜在的な障壁としては、次のような要因があるといっています。
 ア  グループが未成熟であること
   グループが効果的に機能するように成長するためには、メンバーが協力し合って活動する時間と経験が必要である。その場限りのグループでは、十分な効果の発揮は期待できない。
 イ  批判精神に欠ける反応
   高次の推論や深い理解を妨げている主だった障壁は、学習課題に対する他のメンバーの有力な意見に異議を唱えないことである。必要なのは、あらゆる可能性を考慮したさまざまな意見を皆で出し合い、その中から最良の解答を選ぶことである。
 ウ  無為な行動(群れの中に紛れること)
   グループで集約的な(個々のメンバーの努力を合算することによってグループの成果が決まる)課題に取り組むような場合、他のメンバーに隠れて、自分だけが手を抜くことができてしまうので、あまり一生懸命取り組まなくなる人が出てくる。こうした無為な行動は、綱引き、喝采を送る、拍手をする、といった力を合わせて行う活動でよく見られる。
 エ  ただ乗り(何もしないで何かを得ようとすること)
   メンバーの誰かが成し遂げたらその恩恵を全員が受けられるような、個別に取り組む課題の場合、ただ乗りの可能性が生まれる。自分が努力しなくても済む(自分が努力したかどうかは、グループの成功や失敗にほとんど影響しない)ということがわかったり、労力が高くつくような時には、グループのために尽力しない傾向がある。
 オ 不公平を知ってモチベーションをなくす(“ご機嫌取り”にならない)
   ただ乗りをするメンバーがいると、他のメンバーは先生の“ご機嫌取り”と見られることを避けるために、あまり努力しようとしなくなる傾向がある。
 カ  集団浅慮
   グループが自分たちの能力を過信したり、メンバー間に不一致の起こることを避けて同調するために、反駁(はんばく) したり挑戦したりすることをためらうようになると、グループとしての誤った判断が起こりやすくなる。
 キ  異種混成が不十分であること
   メンバーの同質性が高ければ高いほど、個々のメンバーがグループの持っている学習資源につけ加えることのできる情報は少なくなる。グループは、活動に必要なタスクワークやチームワークのスキルを正しく組み合わせるようにするべきである。異種混成によって、グループが活動する際に手に入れることができる幅広い学習資源が保証されるのである。
 ク  チームワーク技能の不足
   スモール・グループの技能や対人関係の技能が不足するメンバーを抱えるグループでは、成績の良い生徒が実力を発揮できないことが多くなる。
 ケ  不適切なグループサイズ
   グループが大きくなればなるほど、活動に参加できるメンバーの数は少なくなり、自らの貢献を実感することが少なくなり、より多くのチームワーク技能が必要とされるようになり、グループの組織はより複雑なものとなる。
           『【改訂新版】学習の輪−学び合いの協同教育入門−』 ジョンソン,D.W.他 p.107、108
 

  これらの要因の特徴を理解し、改善する必要がありますが、協同学習の基本的構成要素によって解消することができるとしています。
   
 
 ここで述べてきた協同学習の理論研究を基に、家庭科分野の授業での話合い活動において、グループの大きさや編成方法、教室の座席配置を考慮したり、グループの成長を図ったりして、学習効果を上げられるように工夫することとしました。
   
   
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