小学校での実践 (3回目,グループコラージュ)
                                           制作者(4年生男子8人・女子5人,担任) 平成16年11月
<児童の実態>
○ 本校は全校児童90名程度の小規模校である。児童は全体的に明るく,大変のびのびとしている。学校全体として家族的な雰囲気があり,一人一人が活躍の場をもち,友達の価値を認め合う雰囲気もできている。また子ども達は素直で,周りからの指導やアドバイスを受けとめ,さらに向上しようとする力がある。 しかしその中にも,自己表現が苦手な子どもや友達との関係をうまくとりにくいなど,気になる子どももいる。しかし,学校全体の温かい雰囲気がそのような子どもを支えているように思われる。
○ コラージュは,1年生のとき学級全体で個人コラージュを体験している。研究者との実践の1回目は,個人コラージュをしてやり方を思い出し,今の自分の内面を表現することをねらった。(平成16年7月)
○ 10月から,担任が半年間の研修で学校を離れることになり,担任が変わった。少しずつ新担任との相互理解も深まっている。
○ 研究者との2回目の実践は,友達や新しい担任との心の交流をはかるためにグループコラージュを行った。(平成16年10月)

<ねらい>
4年生は,ギャングエイジと呼ばれる時期で子ども同士の仲間意識が強くなり,身体的にも第2次性徴が出現する。身体的には大人に近づくが,精神的にはまだ幼さが残る。こういう時期に,自己表現する機会を持つことで,心を安定させ,自己を見つめることは意義があると思われる。
  またお互いの作品を鑑賞したり,話し合い(シェアリング)をしたりすることにより,友達のよさを認め,お互いの違いとその価値を認めながら関係を深めることが,もう一つの大きなねらいである。
 研究者との実践の2回目は,友達や新しい担任との心の交流をはかるために,2人組でのグループコラージュを行った。
  前回は偶然男子同士・女子同士の2人組ができたが,今回は男女混合の2人組を作り,男女を交えた心の交流をはかりたい。また担任にとっても,さらに子ども理解を深め,非言語的なコミュニケーションの促進もねらいたい。
事前 のり(スティックのりがよい),はさみ(けが防止のため先の丸いものがよい),切り抜 いてもよい雑誌などを持ってくるように連絡
当日 ・場所・・・教室 
・準備・・・画用紙(四つ切り,白や数種類の色画用紙),予備のはさみ,のり,雑誌・カタログ・広告など(忘れた子どものため)
・授業者・・T1:研究者,T2:担任
<実際の展開>
     
     制作過程           
内           容  時間       備考及び留意点
@制作場所を作る。
「どこで作ろうか。」
  
1.導入
(T1) 「今日は2回目のグループコラージュをしましょう。前回もグループコラージュでしたが,偶然男子同士・女子同士の2人組ができましたね。男女を交えた2人組でコラージュをするとどんな感じがするでしょう。前回と作る時の感じが違うでしょうか。」
 
ではやり方を言います。
@(場所作り) 「まず2人組をつくります。今日は,先生がくじを準備していますので,袋の中からくじを1つ取ってください。同じアルファベットを選んだ友達と2人組を作ります。」
A(2人組ができる。) 「2人組ができたら話し合って,教室の中の好きな所にコラージュを作る場所作りをしましょう。机を2つ合わせてもよいし,床に新聞紙を敷いてもよいです。」(子ども達はグループ毎に場所を設定する。)
 【子ども達の様子】
○机を2つ向かい合わせたグループ…2つ(T2と女子,男子と女子)
○床に2人並んで座ったグループ…3つ(男子と女子,男子同士が2グループ)
○床に,画用紙をはさんで2人向かい合ったグループ…2つ(男子と女子が2グループ)
(T1) 「作り方は前回と同じです。約束が3つありましたので確認します。」

 「作る時間は60分間です。何か質問はありませんか。」
 
 「大きい,白の画用紙と数色の色画用紙を用意しています。
  のりやはさみを持ってきていない人はここにあるのを使っていいです。雑誌もいくらか用意してますので,自分の持ってきた物意外にも見たいと思う人は自由に見てください。では,始めましょう。」

2.制作・・・グループコラージュ
 <制作風景>

 7分
 




































 60分

*あまり長く話さず,制作の時間を十分に取りたい。

*用具類は前に置いておく。人数の関係上,T2も子どもと一緒に制作をする。









 
 
 






3つの約束
@制作中はしゃべらない。
A台紙(色画用紙)を破らない。B裏に貼らない。






*制作に入ったら基本的に声はかけない。できるだけじゃまにならないように観察する。見て回るのも1〜2回。
*時間内に作り終わらなかった場合は,シェアリングの後作ってもよい。
A雑誌を見る。
「何を切り抜こうかな?」
B切り抜く。
「これが気になるなあ。」
C台紙(色画用紙)に再構成して貼る。
「ここに貼ったらどうかな?」
D完成
「2人の作品ができました。」
休憩は適宜とる。   *制作を続けたければ続ける。
Eふり返り
個人のふり返り(シート記入)
3.ふり返り・シェアリング  20分  

 
(1)ふり返りシート記入
(T1) 「はい,ではそろそろ時間です。ふり返りシートの1番から3番を記入してください。」
  *ふり返りシート配布
*ふり返りシート記入(題名付け・個人のふり返り)
           
Fシェアリング
「話し合って,題を○○にしました。気に入っているところは,…です。」
(2)全体でのシェアリング
(T1) 「ではみんなで作品を鑑賞し合いましょう。グループ毎に自分達の作品について説明してください。」




(7グループの発表が終わってから)  
 T1 「ふり返りシートの4番を書いてください。」
  *全体でのシェアリング
@グループ毎に自分達の作品について述べる (2人で付けた題名や気に入ったところ,友達と一緒にやってみて感じたこと)
Aほかのメンバーは感想などを述べる。(その際批判的なことは言わない。)
*ふり返りシート4番(シェアリング後の感想)記入
Gシェアリング後のふり返り
「他のグループのもよかったね。」
4.まとめ

(T1) 「男女混じってのグループコラージュをやってみて,どうでしたか?」
(S) 「前と違っていた。」
    「私がF君を引っ張った感じがした。」等の声
(T1)「男女を交えて,みんなが楽しかったと思ってくれたらうれしいです。また一緒にやりましょう。」
  3分 *道具の後片づけ,作品とふり返りシート回収
【2回の実践を終えての考察】
  前回は男子同士・女子同士の制作だったので,今回は男女を交えた心の交流を図ることをねらった。4年生ぐらいでは,性差を意識してとかく男女別の行動を取ることがある。2人組で自由に活動の場を設定させると,前回とは少し違う場の作り方や座る位置・姿勢などが見られた。活動の始めは,男女が離れた場所に座っていたが,活動が進むうちに並んで相談し合う姿が見られた。切り取ったものを画用紙の上に並べる時は,性差を意識した感じはなかった。しかし時間がたつと,「女子が活動をリードし,男子は活動が進まなくなったグループ」や「活動の始めからずっと離れて切り抜きをし,画用紙に貼る時だけ,相手とかかわる様子が見られた男女のグループ」もあった。グループにより活動の様子に差はあるが,コラージュ制作を通して非言語的にも,男女を交えた心の交流を行っていたことがうかがえる。

 子どもの振り返りシートには,次のようなことが書かれていた。
@友達と一緒にやってみて感じたこと
○女の子同士でやった時好みは少し似ていたけど,男の子とやるとちょっと好みが違っていました。だけど,うまくできてよかったです。
○今回は男子とやったので,男っぽいものと女っぽいものが混ざりました。ちょっと貼ったのが少なかったけど,できてよかったです。
○いろいろな種類の切り抜きがあって楽しかったし,おもしろかったです。C君の切り抜きには,おもしろいものがありました。
○女子ともいいけど,今度するときは男子とがいいです。(男子)
○作っている時は,「どんな感じにしようかな」とか「E君はどんなことを思っているのかな」「どんなふうにしたらきれいかな」とか考えながらしていました。
○F君を私が引っ張ったかもしれない。
○先生としてとても楽しかった。

A他のグループの作品を見たり話し合いをしたりして感じたこと
○私と同じで,ペアの人と好みが合わなかった人もいるんだなと思いました。みんなとってもよい作品でした。
○前,女子同士でした時とちょっと違っていました。でも,よくできていてよかったです。
○コラージュをするとこんなに人のことが分かると感じた。また,男子と女子とではちょっとかわった工夫が分かる。
○みんな上手にできていた。ぼくは男同士だったけど,男女でしても楽しかったんだなと思いました。
○Gちゃんのグループは動物をテーマにしていることが分かりました。
○前は先生とやったけど,今回は男子としてちがうなあと思いました。どの作品もそのペアで,好きなものが分かりそうでおもしろかったです。食べ物ばかりを貼ったグループは,話し合いの時に「おなかがへっているから」と言っていた。やっぱり気持ちが伝わるなあと,思いました。

 担任の振り返りシートには,次のようなことが書かれていた。

@子どもと一緒にやってみて感じたこと
○相手が替わると,随分違いますね。自分が△△以外のものを貼ったら,Hちゃんはどうするのかなと思って,違うものを貼りました。でも,Hちゃんの様子は変わりませんでした。

A他のグループの作品を見たり話し合いをしたりして感じたこと
○男女が交じったグループは,切るときから既に相手の切るものを意識して制作していました。

 男女が交じったグループコラージュだったが,子ども達は同性と作ったときとは少し違う感じを受けていた。選ぶものの好みが違うので,切る時から相手を意識し,画用紙に貼った時のことまで考えて活動していた。1枚の画用紙の上で何をどこに貼るかを相談しながら決めたり,切った物・貼り方などで相手の理解が深まったりしたようだ。ただ,相手を意識した制作になるので,だんだん制作するエネルギーが下がったり,貼る時になってはじめて相手とかかわったりしたグループもあった。グループコラージュをする時は,相手を意識した制作なので,子ども達は個人コラージュをする以上にエネルギーを使うことを考えて実施する必要がある。担任にとっても,男女が交じった場面での交流の一場面を見ることができたようだ。また,担任は「コラージュを通して,心の交流を図る活動はとても考えさせられました。自分の専攻していた美術からつながっていくことがあるのだと知り,勉強になりました。」と感想を述べている。