○ 学習指導案    中学校第2学年 「 国語科 」


1 単元名 「意見を書こう」 (平成20年10月実施,35名)
        

授業実践者:中村 なるみ

2 単元とその指導について

本学級の生徒は、1年次に「根拠を示して書こう」という単元において「自分の意見を相手に受け入れてもらえるように、明確な根拠を挙げて文章を書く」学習をしている。2年生になってからは、非連続テキストを見て気付いたことや考えたことを200字程度の意見文にまとめる学習も行っている。

事前のアンケートでは、高校入試で課題作文が出題されることもあり、ほとんどの生徒が「書くこと」の力を身に付けたいと考えており、学習の必要性も感じている。具体的には、「書くことにおいてどのような力を付けたいか」という問いに、「相手に気持ちや考えが伝わるように書く力」や「構成を工夫して分かりやすく書く力」を付けたいと考えている生徒が多い。実際に授業で書いたものを見ても、指示された内容について自分の意見を自由に記述することはできるが、相手や目的に応じて条件をふまえて書くことについては苦手としている生徒が多い傾向が見られる。また、「書くこと」の学習に関しておよそ2/3の生徒が、「読むこと」の学習などに比べると学習意欲が低いという結果であった。その理由として、「何を」「どのように」書いてよいのか分からないということを挙げる生徒が多く、細やかな手立てを取りながら苦手意識を取り除き、「書こう」という意欲を持たせることが大切だと考える。

今回の単元「意見を書こう」では、他人の意見に対して、根拠を示して反論する文章を書くことが主たる活動であるが、取り扱いにおいては、相手の意見の根拠を十分検討することに重点を置いた指導を行うことで、「何を」書けばよいのかという課題の解決につなげたい。また、相手の意見の根拠を検討することが、自分の意見文の構成の工夫へとつなげ、「どのように」書けばよいのかという課題にも応えることができるような指導過程をとりたい。

1年次の「根拠を示して書こう」は、自分の意見を相手に受け入れてもらえるように明確な根拠を挙げることが目標であった。本単元は、その発展として、自分が賛成できない他者の意見に対し、その根拠を検証して反論する方法を身に付けることがねらいである。「反論」という言葉は、ややもすれば否定的にとらえられることが多い。しかし、そもそも思考は、他者の異なる思考と衝突し、対立する中で深められ、より高次の思考へと発展していくものである。ただ、感情的に反発するだけの反論ではなく、自分がなぜ相手の意見に反対であるかの論理的説明を伴った反論の方法を身に付けさせることは、議論能力、論理的思考力を育てる上で必要であると考える。

そこで、本単元では教科書の例文をモデルとして活用したい。「Aさんの意見文」は、「読書量の減少は問題がない」という意見を「メディアの多様化により、活字以外の他のメディアから情報を得ているから」というただ一つの根拠から述べており、論の飛躍がある。「Aさんの意見文」の根拠を吟味しながら意見文を正確に理解させることを通して、「根拠の検証の仕方」を学ばせたい。また、「Aさんの意見への反論文」では、「反論文の構成の仕方や引用の際の注意点」について気付かせ、反論文を書く際の参考にさせたい。

「書くこと」の学習としては一つの「作品」を完成させることはもちろん大切なことだが、今回は「何を」「どのように」書けばよいのかという課題の解決に向け、反論文を書くにあたって次のことを指導の重点としたい。

@ 意見文を図式化して理解させる

分かりやすい意見文・反論文の構成要素として、「主張」、「根拠」、「理由付け」が挙げられる。「主張」が成立するには何らかの「根拠」が必要だが、その「根拠」を単独で提示しても意見文・反論文としては不十分である。「主張」と「根拠」を結合させる場合には、「理由付け」を明示することで意見文・反論文は分かりやすいものになると考える。しかし、「主張」とその「根拠」の確認で終わることが多い。相手の意見に反論するということは、相手の論の不備をついて意見が成り立たないことを示すことなので、その「根拠」がどうして「主張」につながっていくのか、その「理由付け」を検討することが「論を吟味する」ポイントとなる。授業に際しては「主張」、「根拠」、「理由付け」を図式化する場面を設定し、意見文を正確に理解する手立てとしたい。また、この考え方は、意見文・反論文を書く場合の手立てにもなると考える。図式化に際しては、トゥールミンの議論モデルを修正して用いる。(下図)

 

 A 分かりやすい反論文の構成の指導

反論文の論理構成が完成した段階で、分かりやすさを追求させる指導が必要となる。これは意見文であれ、反論文であれ、相手に自らの主張を分かりやすく伝えることを目的とした文章表現であることからも、指導する上で重要であると考える。例えば、何らかの意見を相手に伝える場合に、「主張−根拠−理由付け」の順で表現するのと、「根拠−理由付け−主張」の順で表現するのとでは、どちらがうまく伝えられるかという問題が存在する。また、「主張」「根拠」「理由付け」をどのような接続語を用いて文章全体を作り上げていくのか、ということも分かりやすい文章を書かせる指導において、無視できない問題であろう。

今回は、色違いの4枚の付箋を用いて、それぞれに「(相手の主張の)根拠」(緑)、「(相手の主張の)理由付け」(青)、「根拠への反論」(黄)、「理由付けへの反論」(桃)を記入し、並べ替えながら構成を検討させたい。その際、目的・相手意識についても当然触れる機会があるものと考える。


3 単元の目標

○ 相手の意見を正確に理解し、構成を工夫して自分の意見(反論文)を書くことができる。

 

4 単元の評価規準

国語への関心・意欲・態度
ア 
相手意識をもって、根拠の明確な分かりやす意見文を書こうとしている。 
書く能力
自分の立場を明確にするとともに、自分の意見の基となる根拠を明らかにしている。
文章の内容が相手に効果的に伝わるように論理の展開を工夫している。
言語についての知識・理解・技能
相手や目的の応じて、文章の形態や展開の違いがあることについて考えを深めている。

5 単元の計画 (全4時間)

段階 主な学習活動 教師の指導・支援 評価とその方法
(1) 意見文を読む際の、自分の立場を意識する。         □ 日ごろの受動的な立場を振り返らせるために、新聞などから投稿記事を準備する。    
(2) 意見文とはどのようなものかを考える。 □ 感想文と意見文とを比較させ、その違いから意見文の特徴を捉えさせる。 エ 目的に応じて、文章の形態や展開の違いがあることについて理解している。【観察】
(3) 「Aさんの意見文」と「Aさんの意見への反論文」を読み、反論文の構成を確認する。   □ 反論の際の議論の柱、構成についての気付きを挙げさせ、反論文の書き方として黒板にまとめる。(「反論文の構成の仕方や引用の際の注意点」に気付く)
(1) 「Aさんの意見文」の内容を図式化する。 □ 図式化にはトゥールミンの議論モデルを修正したものを用いる。(「根拠の検証の仕方」を学ぶ) イ 意見文を図式化している。【ワークシート@】
(2) 図式化したものから、反論のポイントを探る。 □ 図式化したものと反論文を比べ、理由付けと根拠のそれぞれに反論していることを押さえる。
(3) 他の意見文についても図式化してみる。 □ 他の意見文を用いて、図式化する練習を行い定着を図る。
(1) 自分が反論文を書く意見文について図式化し、相手の意見の論理構成を理解する。 □ 前時の学習を振り返り、それを参考にするよう指示する。 イ 書き手の「主張」「根拠」「理由付け」を理解している。【ワークシートB】
(2) 図式化したものを、グループ内で発表する。 □ 個人で取り組ませた後、グループ内で発表し合い、間違いがないか確認させる。
(3) 反論文の構成を考える。 □ 4色の付箋に反論の柱を記入させ、付箋を操作しながら分かりやすい構成を工夫させる。 ウ 相手に分かりやすい構成を考えている。 【ワークシートC】
□ 第1次にまとめた反論文の書き方の手引きを振り返らせる。
(1) 反論文を書く。 □ 字数は400字程度とする。 ア 根拠の明確な、分かりやすい反論文を書こうとしている。【観察】
(2) 書き上げた反論文を、グループ内でスピーチする。 □ スピーチに対して、互いに感想を述べるようにさせる。

6 本時の学習指導 (3/4) 場所:教室 時間:2校時

 (1) 目標

○  意見文を図式化して相手の意見を正確に理解させ、反論文の構成を考えさせる。

 (2) 展開

児童・生徒の学習活動
教師の指導・支援(※評価)
前時の学習を振り返るとともに、学習課題、学習計画を確認し、本時の見通しをもつ。
図式化を用いた意見文の分析の仕方を確認し、本時は反論文の構成まで考えることを知らせる。
    イ 前時のワークシート(ワークシートA)を見直している。【観察】
 
学習のめあて
相手の意見を理解し、反論文の構成を工夫しよう。
   
自分が反論文を書く意見文について、書き手の「主張」「根拠」「理由付け」に図式化し、相手の意見を正確に理解する。
反論文を書くための意見文は、新聞記事などから反論できそうな意見文を事前に準備しておく(ワークシートB)。意見文は2種準備し、反論したいと思う方を選ばせるようにする。
  ・「主張」は個人でワークシートに記入する。 イ 適切に図式化している。【ワークシート】
     
  ・グループを作り、「根拠」「理由付け」については、適宜話をしながら付箋に書き込んでいく。
2色の付箋に「根拠」(緑)、「理由付け」(青)を記入させる。
図式化について間違いがないか、グループの中で確認しあう。
根拠が適切であるか、論に飛躍がないか、(理由付けが明示されているか)などに注目させる。
反論についての議論の柱を付箋に書き、その順番を変え、わかりやすい反論文にするために構成の工夫をする。
2色の付箋を配布し、それぞれに 「根拠への反論」(黄)、「理由付けへの反論」(桃)を記入させる。
     
 

〈反論のヒント〉

・根拠について、言い切ることができるか。

・理由付けについて、本質的に同じだと言 い切ってよいか。

グループに適宜入り、反論のヒントを与える。
  ・「Aさんの意見に対する反論文」を振り返り、構成の参考にし、より説得力が増すような構成を考える。
ワークシートCを配布し、第1次にまとめた反論文の書き方を振り返らせながら、説得力のある文章になるよう、付箋を操作しながら構成を工夫させる。
  ・グループの中で、構成を発表する。 ウ 付箋を操作している。【付箋、ワークシート】
     
本時の学習を振り返る。
本時の授業で身に付いた力を確認し、どのような場面で使えるか想定させる。
  ・意見文はもちろん、説明文、論理的な文章を読む際にも活かせそうだ。    
次時の見通しを持つ。
構成を基に、400字程度の反論文を書くことを知らせる。
※ 資料等
指導案【PDF】           
ワークシートB【PDF】 ワークシートC【PDF】     

7 児童・生徒の反応

  • ○図式化することが、相手の意見がどのような構成になっているのかを理解する手助けになったようである。
  • ○根拠は何か、その根拠を支える理由付けについて考えながら意見を読むことが、相手の主張を読み取ることになるということが理解できたようである。
  • ○自分の文章を書くとき、読み返すときにも主張、根拠、理由付けを考えながら、進めることができたようである。

8 授業を終えて

  • ○トゥールミンの議論モデルに接することが初めての生徒にとっては、本時に入る前に短い文章で練習をする必要がある。
  • ○これまで、根拠と理由付けをあいまいにとらえさせ、反論文を書かせてきたが、図式化して生徒がそれぞれを意識した上で反論をさせることで、強固な反論文になることを実感させることができた。
  • ○「理由付け」という言葉の難しさにつまずく生徒もいたため、言葉を吟味する必要がある。