○ 学習指導案     中学校第2学年 「 道徳 」 


1 主題名 『いのちのつながり』 【内容項目 3−() 生命尊重】
                                    (平成20年9月実施)
2 資料名 『牛たちと出会って(『「いのちの教育」指導資料』より)       

授業実践者:多久島 一仁

3 主題設定の理由

ねらいとする価値について
 物や食べ物があふれ,商品として店に並べられている状態しか目につきにくい今の世の中,生徒たちはそのありがたみを感じることが少なく,食べ物になる前は「いのち」が宿っていたということを実感する機会も少ない。しかし,私たちは「いのち」あるものをいただくことで自分たちは生きていけるのである。また,食材となるものを作り,あるいはそれを加工してくれる人がいて,私たちの「いのち」は支えられているのである。そうした,食べ物にあった「いのち」と自分の「いのち」,そしてそれを支えてくれる人とのつながりについて考えさせたい。
生徒の実態について
 本クラスは比較的まじめでおとなしい生徒が多いが,道徳や学級活動の中で,グループ活動を積極的に取り入れた結果,グループでの話し合いなどでは,自然に意見交換ができるようになってきた。多くの生徒が落ち着いた生活ができている一方,会話や態度の中に,いじめにつながるような命令口調や暴力的な言葉なども見られ,道徳の授業を通して一人一人のちがいを認め合い,「いのち」を大切にすることをきちんと伝えていく必要を痛感している。そこで,「いのち」あるものをいただき,自分の「いのち」が生かされているということについて考えさせたい。
資料の活用について
 本資料は,中学生が職場体験学習で牧場へ行ったことを振り返り,そのことについて書いたものである。意欲をもって臨んだ職場体験であったが,牛舎の掃除やえさやりなど予想以上の重労働であった。「僕」は仕事をしながら,ふんや尿にまみれて汚いはずのおがくずがあまりにおわないことに気付く。そのことを質問し,山口さんの言葉を聞いて,山口さんの牛に対する愛情を知る。また,えさのやり方を失敗して牛を死なせてしまった経験を聞き,生き物を育てることの大変さを知る。毎日の労働の繰り返しが牛の「いのち」を育むことに気付く。夜は山口さんが育てた牛の肉を食べ,考えを巡らす。生徒は職場体験学習を夏休みに行っているため,労働については想像することが可能であると思われる。「僕」や山口さんの立場に立ちながら「いのち」のつながりについて考えるのに適した資料であると考える。 
   ○ 指導の重点
 まず導入において,生きていると感じる時について想起させ,自分の「いのち」がどうやって生かされているかを考えることで,「いのち」のつながりを考えさせる布石とする。
 展開においては,範読後に文章の内容で分かりづらい牛舎の掃除とえさやりの場面について,ビデオを見せることで理解の助けとする。一つ目の発問では,この仕事を毎日続けられる理由を考えさせることにより,重労働をする山口さん夫婦のことに思いを巡らせる。二つ目の発問では,かわいがってきた牛を出荷前に死なせたり,出荷する時の山口さんの気持ちを考えさせることで,牛の「いのち」を食として生かしたいという「いのち」への思いに目を向けさせたい。三つ目の発問では,牛の体を触る時の「僕」の気持ちを考えさせる。それによって,生き物の「いのち」とそれを支える人たちによって私たちの「いのち」が生かされていることに気付かせ,「いのち」のつながりについて考えさせたい。 
終末においては,山口さんが,牛の牧草を食べる姿をじっと見ながら,体調を気遣う話をする。食べることと「いのち」のつながりが牛においても見られ,そうやって「いのち」はつながっているということを話し,授業を閉じる。 

4 ねらい

   生き物の「いのち」と,それを支える人たちによって私たちの「いのち」が生かされていることに気付
   かせ,「いのち」のつながりについて考えさせる。  

5 キャリアの視点

  自他の理解能力(人間関係形成能力)

6 展開

学習活動 主な発問 指導上の留意点・期待される生徒の変化(教師の願い)

これまでを振り返り,「いのち」 につ
いて関心をもつ。

○ あなたが生きていると感じる時はどんな時で
  すか。
「いのち」について実感できることを想起させ,その「いの
 ち」がどのようにして生かされているかを考えさせる。

「牛たちと出会って」を読んで話し合う。
(1) 山口さん夫婦の牛への愛情につい
  て考える。

○ 山口さん夫婦は,おがくずをまめに換え,90
  頭の牛に1日に500kgのえさを運ぶ仕事を毎
  日続けていますが,この夫婦をあなたたちは
  どう思いますか。
生徒にとってなじみがない掃除やえさやりの部分はビデオ
 を見せることで理解を助ける。
おがくずを換える回数が増える分,お金がかかり,仕事の
 量も増えることを押さえる。
山口さん夫婦がこの仕事を続けられるのはなぜかということ
 について考えさせ,牛への愛情の深さに気づかせる。

  山口さんの利害関係を超えた深い愛情に気付くことが  できる。(自他の理解能力)

 (2) 山口さんの複雑な思いについて
  考える。 

○ 山口さん夫婦は,こんなにかわいがってきた
  牛たちを出荷するときや,出荷前に死なせた
  とき,どんな気持ちになると思いますか。
愛情を込めて育てた牛が,肉として食されることなく死を迎
 えたことに対する残念な気持ちに気付かせる。

  家族同然に育ててきた牛だからこそ, その「いのち」を   食として生かしたい という「いのち」への思いに気付くこ   とができる。(自他の理解能力)
 (3) 牛の体を触る僕の気持ちについ
   て考える。
○ 僕は牛の体を触りながらどのようなことを考え
  たでしょう。
この発問を通して,「いのち」のつながりについて考えたこと
 をまとめさせる。

  生き物の「いのち」と,それを支える 人たちによって私た  ちの「いのち」が 生かされていることに気付き,「いのち」  のつながりについて考えることが できる。(自他の理解   能力)
 教師の説話を聞く。 ○ 今から山口さんの話をします。 山口さんが,牛の牧草を食べる姿をじっと見ながら,体調
 を気遣う話をする。食べることと命のつながりが牛において
 も見られ,そうやって命はつながっているということを話し,
 連綿とつながる命の不思議さを感じ取らせる。

7 生徒の反応


  

・牛の体を触って,「僕」はありがとうと思ったと思う。自分たちの命のために牛の命をもらって,そのお
 かげで自分たちは生きているんだと思えたんじゃないかと思います。「僕」はこの職場体験に行って,自
 分が何気なく食べている牛肉が農家の人たちが毎日休むことなくお世話をしてくれて,2年間もの間,き
 ついこともあるけど,それでも次につなぐ命のためにみんなが支えてくれているということを知って,
 「僕」は感謝の気持ちでいっぱいになったと思う。

・牛も自分と同じように生きていて,血が流れている。牛はこのいのちをなくしてまで私たちに牛肉をくれ
 ているので,もっと考えて食べなくてはいけないと思った。絶対に粗末にしてはだめだと思った。いのち
 をもらった分,せいいっぱい生きたいと思います。


8 授業を終えて

 ・中心発問に対するワークシートの文章の中で、「いのちのつながりについて書かれたもの」「牛のいのちに対
  する感謝の気持ちが書かれたもの」「いのちを支える人たちに対する感謝の気持ちが書かれたもの」といっ
  た、ねらいに沿った内容を書いた生徒がそれぞれ8人、20人、4人とほとんどを占めた。

 ・資料は職場体験学習を行った生徒作文を用いたが、大和中の2年1組の生徒も夏休みに職場体験
  学習に行っているため,時期的にも体験活動を生かしたものとしてふさわしく、「山口さん」の労働に対
  して共感やいたわりをもった生徒が多かった。

 ・
板書でねらいとすることを図示したことで、教師の意図を伝えることができた。