○ 学習指導案     中学校第2学年「音楽科」


1 単元名 「合唱の楽しみ」 (平成19年10月11日実施,37名)
        〜子どもとともに考える表現の工夫〜

授業実践者:副島 和久 

2 単元とその指導について

 本題材「合唱の楽しみ」は,学級で混声合唱に取り組む中で,合唱表現の豊かさや美しさを感じ取らせ,合唱の楽しさを味わわせることをねらいとしている。また,第1学年の音楽学習における合唱活動を基盤として,さらに確かな表現の技能を身に付けさせ,豊かな音楽表現ができるようにすることを意図している。本題材で取り組んだ教材は10月末に行われる文化発表会での学年合唱曲,さらには3学期に行われる学年合唱コンクールの課題曲として歌うことを予定しており,本題材の学習成果の発表の場として位置付けている。教科の学習の成果が学校行事の中で生かされるという点において,生徒の学習意欲も喚起されるものと考えられる。
 主教材「心の中にきらめいて」は,岡山県中学校吹奏楽連盟創立40周年記念委嘱作品であり,その親しみやすい歌詞と平易でわかりやすい音楽により,中学生の心に響く一曲として,全国で広く歌われている混声三部(部分四部)合唱曲である。中間部にはベートーヴェンの有名なピアノソナタの旋律が用いられていることもこの曲の魅力の一つである。

 本学級は,全体的に素直で落ち着いた雰囲気があり,女子を中心に,音楽科の学習に対して意欲的に取り組むことができている生徒も多い。1年時の合唱活動に対しても比較的好意的な受け止めをしており,今年度の文化発表会や合唱コンクールに向けても意欲的に取り組みたいとの思いをもっている生徒が多い。事前アンケート(32名回答)の中で「合唱活動は好きか嫌いか」という質問に対し,「好き」「どちらかといえば好き」と回答した生徒が22名,「嫌い」「どちらかといえば嫌い」と回答した生徒が10名であり,後者の10名中9名は男子である。好きな理由としては,「歌うことが好き」「きれいなハーモニーができたときに嬉しい」など音楽の本質的なよさにふれた回答や「学級がまとまり合うことができる」「団結力が高まる」など,学級の団結やまとまりを期待した回答が多く見られた。反面,きらいな理由としては,「うまく声が出せない」「大きな声を出すのが苦手」など歌唱に対する自信のなさからの回答が目立った。この結果からも,表現することが苦手な生徒やその楽しさを感じ取ることができていない生徒に対して,パート活動や全体での合唱において,自分の声に自信をもたせ,意欲を喚起するような言葉かけを重ねていくなどの手だてが必要であろうと考える。

 合唱活動はその特性から,全員参加による音楽活動の中で,生徒自身が音楽を創りあげていくという体験を実感させやすい活動である。しかしながら,ややもすると教師主導の教え込みによる音楽づくりや一部の生徒の考えで活動が進められ,多くの生徒にとって受け身的な授業になりやすいのも事実である。中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会で取り上げられた音楽科の課題の一つに「感性を高め,思考・判断し,表現する一連のプロセスを働かせる力,生涯にわたって音楽に親しみ,芸術文化のよさを味わったり,生活や社会に生かしたり豊かにしたりする態度の育成が求められている。」という記述がある。ここに記されている「感性を高め,思考・判断し,表現する一連のプロセス」とは,表現領域の指導で考えたときに,@知覚し,感じ取ったことをもとに A自分なりの思いや意図をもって表現を工夫し B歌を歌う,楽器を演奏する,音楽を創作するための技能を高めて C音楽で表す という一連の流れが考えられる。このAの段階において,生徒の思考・判断力が育成されるのである。本題材においても,前述したような流れを学習活動の中に位置付け,生徒自身が,自らが感じたことをもとにして,主体的に考え,音楽づくりをしていくような活動を仕組みたい。具体的には,題材全体を見通し,生徒一人一人が自らの学習課題を意識して,自己評価できるような「振り返りシート」の導入,生徒のアイディアを生かした音楽的な工夫ができるような配慮,自分たちの合唱を客観的に評価し,よりよい表現につなげていくような場の設定と手だての工夫などをその手だてとして,取り組んでいきたい。

3 題材の指導目標




 学級で協力し合いながら,合唱を創りあげていく喜びを味わわせる。
 和声的な響きを生かした美しさを感じ取らせ,その美しさを生かした表現の工夫ができるようにする
 響きのある声を意識しながら,のびのびと歌うことができるようにする。

4 題材の計画 (全7時間)

学習内容及び学習活動 時間 教師の指導・支援








既習教材を歌い,基本的な発声フォームについて確認する。


前学年での活動を振り返る。 


これから取り組む教材「心の中にきらめいて」の概要を知る。
・姿勢や口の形など基本的な発声のフォームを確認する。

・できるだけ無伴奏で歌わせる。

・昨年度の合唱の取り組みについて質問して,生徒の印象を確かめる。

・「心の中にきらめいて」の歌詞の音読と主旋律(1番のみ)の歌唱により曲の概要を把握させる。






















本題材における学習の見通しと目標について知る。

パートリーダーを選出する。



自分のパートを正しい音程とリズムで歌えるようになる。


歌詞の内容を理解し,歌詞に込められた思いを考える。

曲想を生かした表現の工夫をする。


本時



・題材の振り返りシートを使い,学習の見通しと個人の目標について確認する。

・パート活動の意義について話し,全体のことを考えてリーダー選出に取り組むようにさせる。


・一斉指導とパート活動を効果的に組み合わせて,一人一人が正しい音程とリズムで歌うことができるようにする。

・自分の日常の学校生活とかかわらせ,歌詞に込められた思いについて考えさせる。

・歌詞の内容や曲の構成等から感じ取ることができる曲想について考えさせる。

・学習形態を工夫し,一人一人の思いが表現の工夫に反映できるようにする。 

・振り返りシートを利用して,個々の生徒の学習状況について把握する。










本題材の学習成果を録音により鑑賞し,自己評価をする。

自己評価を参考にして,本題材における仕上げの合唱をする。

文化発表会での学年合唱や合唱コンクールでの発表をイメージし,学級での練習の見通しをもつ。

・評価する際の観点を明確に示して,自分たちの演奏を評価させる。

・生徒から出された改善点が具体化されるように配慮しながら,全体で部分練習をする。


・学級で活動するということを意識させ,指揮者・伴奏者・パートリーダーの意欲を喚起して,学級での協力を促す。


5 題材の評価計画(全7時間)

音楽に対する関心・意欲・態度

音楽的な感受や表現の工夫

表現の技能 鑑賞の能力
題材の評価規準 個人やパート・全体での活動に意欲的に取り組んでいる。 歌詞や旋律から曲想を感じ取り,表現を工夫している。 声の響きを意識しながら,表情豊かに合唱に取り組んでいる。 互いの声を聴きあって,響きのよさや表現の工夫を感じ取っている。
学習活動における具体の評価規準
(表記はB基準)
【評価方法】[評価場面]

@自分自身の課題が達成できているかという意識をもって,パート練習などに取り組んでいる。【行動観察・振り返りシート】[2〜7/7
Aパートリーダーや指揮者への意識をもって,歌い合わせようとしている。【行動観察】[2~7/7


Bパートや全体での話し合い活動に関心をもって参加している。【行動観察・発言内容】[2〜7/7

@歌詞の内容を理解し,歌詞が訴えているメッセージを自分なりに理解している。【発言内容・学習プリント】[1〜3/7

A「心の中にきらめいて」の3つの部分の曲想を感じ取っている。【発言内容・楽譜・学習シート】[3〜4/7

B「心の中にきらめいて」の3つの部分について,主に強弱や速度にかかわっての表現の工夫を考えている。【発言内容・楽譜・学習シート】[3〜5/7

@自分のパートを正しい音程のリズムで歌うことができる。【行動観察・振り返りシートの記述】1〜3/7


A基本的な発声フォームを意識して歌っている。【行動観察】[1〜5/7


B響きのある歌声を意識して歌っている。【行動観察】[1~5/7

@お互いのパートに対してそのよさに気づいたり,アドバイスしたりしている。【発言内容・学習プリント】[6/7


A範唱CDや自分たちの学級の演奏を聴いて,そのよさや表現の工夫をあげている。【発言内容・学習プリント】[6〜7/7] 

B自分たちの学級の演奏を聴いて,さらによくなるためのアドバイスをしている。【行動観察・発言内容・学習プリント】6〜7/7

A基準へのキーワード @高い意識・積極的・他者への働きかけ
A呼吸をあわせて
B積極的な発言
@自己の体験とかかわらせて・想像豊かに
A豊かに・全ての部分について
B感じ取った曲想を生かして
@一人で・無伴奏で
A発声フォームの確実な定着・表情豊かに・いきいきと
Bいきいきと・響きのある歌声で
@根拠をもって・具体的に
A根拠をもって・具体的に
B根拠をもって・具体的に
B基準に達していない生徒への配慮 ・個別の声かけによる意欲付け・指導

・振り返りシートへのアドバイス
・個別指導

・級友の発言に対する意識付け

・音楽の要素をもとにした視点の確認
・個別指導

・基本的な発声フォームの再確認

・振り返りシートへのアドバイス
・音楽の諸要素を意識した聴取方法のアドバイス

・級友の発言に対する意識付け

6 本時の学習指導 (5/7)  場所:音楽室 時間:2校時

 (1) 指導目標

○ 「心の中にきらめいて」の中間部(Cの部分)の曲想を工夫して歌唱表現できるようにする。

  (2) 具体の評価規準
   ア 音楽への関心・意欲・態度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ @・A・B
   イ 音楽的な感受や表現の工夫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ B
   ウ 表現の技能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ A・B

  (3) 展 開
児童・生徒の学習活動
教師の指導・支援(※評価規準と方法)
頭声発声を意識するための発声練習を行う。


前時までの学習を想起させ,響きのある声に対するイメージがもてるようにする。
基本的な発声フォームと響きのある声を意識しながら歌っている。[規準ウAB]
 【行動観察】
声の響きを意識しながら「心の中にきらめいて」を歌う。 基本的な発声フォームについて確認し,フォームを意識しながら歌うように声かけをする。
本時の目標を知り,個人の課題を設定する。

本時の学習目標
「心の中にきらめいて」の中間部(Cの部分)の歌い方をみんなで工夫しよう
本時の目標を確認し,関連があると思われる個人の課題を紹介する。
中間部(Cの部分)の旋律の原曲について知る。





ベートーヴェンについて簡単に紹介し,ピアノソナタ第8番ハ短調「悲愴」の第2楽章(一部)を鑑賞する。
強弱と速度に気を付けて聴くようにあらかじめ指示をする。
鑑賞しての気づきをたずねる。
中間部(Cの部分)の表現の工夫について考える。




教師による歌唱に生徒がアドバイスをする形式で,中間部(Cの部分)の表現の工夫について学級全体で考える。
中間部(Cの部分)の表現の工夫について考えている。[規準イB]
 【発言内容・学習シート】
考えた表現の工夫を生かして歌うことができるようにパート練習に取り組む。






パート練習に入る前に,今日のパート練習で達成するべきことについて再度確認する。
男声パートを中心に,各パートをまわり,パート練習における目標の達成状況を把握する。
自分自身の課題を意識しながら,リーダーに集中してパート練習に取り組んでいる。[規準ア@AB]
【行動観察・振り返りシート】
パート練習の成果を踏まえて,全体で合唱をする。




パート練習の成果についてパートリーダーにたずね,気になる点があれば全体指導の中で解決する。
教師の指揮により,生徒が考えた表現の工夫が具体化できるようにする。
本時のまとめとして「心の中にきらめいて」を通して歌う。

生徒による伴奏で歌わせ,教師が指揮をする。
基本的な発声フォームと響きのある声を意識しながら歌っている。[規準ウAB]
 【行動観察】

次時の学習の見通しを知る。 次時は,自分たちの合唱を自己評価し,よりよい表現の工夫ができるようにすることを伝える。
10
振り返りシートを記入する。

振り返りシートの記入の仕方について,適宜アドバイスをする。
※ 資料等 学習指導案【PDF】 事前アンケート【PDF】        
振り返りシート【WORD】 発声フォーム記入シート【PDF】 パート活動の進め方【PDF】  
歌詞カード【PDF】 表現の工夫シート【PDF】 本時の学習シート【PDF】
旋律の関わり確認カード【PDF】 題材 活動の振り返り【WORD】

7 児童・生徒の反応 (本時の「振り返りシート」の記入から)









(Cの部分は)歌詞はないけど、けっこう重要なんだなあと思いました。強弱をもっとはっきりさせて歌いたいです。(女子ソプラノ)
今日は少し緊張していました。全員のパートを聞きとれた。気持ちを込めて歌えました。強弱をつけてみました。(女子ソプラノ)
ラーラーの部分(Cの部分)をパート練習したときは上手くできました。でもソプラノの人が隣にくるとつられてしまいました。あとはきちんとできたと思います。(女子アルト)
まわりの音を聴いて他のパートにつられないようにしようと思った。(男子テナー)
今日は少し女子のパートが聞こえた。次は響きのある声で歌いたい。(男子バス)

8 授業を終えて (指導者の考察)


















「感性を高め、思考・判断し、表現する一連のプロセス」ということを日常的に行われている合唱の授業の中で具現化したいという思い出の授業でしたが,限られた授業時間の中で十分な具現化というところまでは至りませんでした。具体的には,個人またはグループによる主体的な活動を位置付け,その場面において,上記のプロセスの具現化を図りたいという見通しをもっていました。しかしながら,実際に指導を進めていく中で,現段階の生徒の実態を考えた場合に,一斉指導の中で上記のプロセスを踏まえた方がよいと考え,本時のような展開としました。
全体的に生徒はまじめな学習態度であり,表現の工夫に対しても意欲が感じられました。パートごとに活動をすることも今年度は本題材が初めてということでしたが,パートリーダーを中心に活動を進めることができていました。今までの学習において, 「表現の工夫をする」ということについての体験があまりなかったこともあり,個人やグループレベルでの活動は見合わせましたが,学級全体で考える際も,音楽の要素に着目しながら,その特徴を感受し,表現の工夫に生かすことができる生徒も見受けらました。今後はこれらの生徒を中心として,グループでの活動を充実させることができればよいと思いました。
表現の工夫については,速度と強弱ということに着目しながら,教師が歌う歌にアドバイスをするという形で進めました。この方法は,生徒にとってはわかりやすかったのではないかと思います。時間の制約もありましたが,もっと多様な意見を引き出すことができればよかったと思いました。
「振り返りシート」は,生徒が@題材全体の見通しをもち,Aこの題材の中でどのようなことができるようになればよいのかということを知り,B毎時間の活動において個人目標を設定し,その自己評価を行うことができるという点で有効でした。教師が生徒の学習状況を把握し,次時の指導に生かすという点においても有効な手だてであると思いました。